久しぶりに会った友人は変わり果てていた。
それは歴史の流れなのか、または人が持つ大きな欲望のせいなのか・・・。
下で沖田総司が他の
「御門・・・なのか」
「そうだ。久しぶりだな慧」
彼の手はポケットに入っているものの、彼から感じるモノは何か違う。殺意・・・とでも言うべきか。
ともかく目の前の親友は俺の知っている親友から遥かに変わっていた。まるで欲望の塊・・・そんな感じの人間になっていた。
御門が近寄ってくる。俺は恐れを抱き、少しずつ少しずつ、身体を後退させていく。が、御門はその近づく歩みを止めない。
「・・・御門」
「慧。話があるんだ」
ゆっくりと、それでも懐かしさを感じる声。しかし、その声すら俺には不信感の塊でしかない。あの日、学園で出会ったコイツの目は壊れていた。人のものでは無い。まるで欲望に囚われていた人間の目だ。
「なんだよ」
「俺と手を組まないか?」
コイツは何を言っているんだ?俺には御門の言っていることが理解できなかった。
「何を言ってる」
「そのままの意味だよ。俺とお前は
「正気なのか」
「正気じゃ無ければこんなこと言わねぇよ」
目の前にいるのは御門。しかし、あまりの変わりよう、そして言葉の冷たさに俺は唖然、そして悲しみを覚えていた。俺の心は壊れそうだったが、目の前の親友を信じて辛うじて保っている。
「・・・そう考えるな。お前の
「何・・・」
「沖田総司の事を知ってるか?」
知ってるさ。幕末の天才剣士、新撰組の一番隊隊長、剣豪に数えられる程の人物だ。それがどうかしたのか。
しかし、ここでふと風が変わる。そう言えば先程から聞こえていたはずの金属音が聞こえない。武器と武器とがぶつかる金属音・・・それが全く聞こえないのだ。
さらには御門の言った「忠告」の言葉。もしかしたらと思ってしまうが、考えは現実になる。
沖田総司は天才だ。しかし、それ故に彼女の弱いところがある。それは彼女が「病弱」という点だ。
「沖田さん!」
「もう遅い」
急いで沖田さんが居たであろう方に視線を向ける。しかし、そこには血を吐き、服に赤の血が流れる沖田総司と朱の槍をその首に押し立てた黒衣の狩人が立っていた。
やはり俺の予想は当たっていた。
「しまった!」
「さぁ、選べ慧」
「・・・嫌だと言えば?」
「ここで
要するに殺すって事じゃないか。遠回しとはいえ、面と向かって言われるのはなんか嫌だな。
しかし、心の中で悪態を着いたところで状況は変わらない。黒衣の槍使いの槍は沖田さんの首元にあるし、俺が戦ったところで御門を出し抜く程の力がある訳では無い。それに出し抜いたところで先程の速度・・・黒衣の槍使いの速度を見たあとでは逃げれる気がしない。
だが、御門が言うからにはどうやらマスターは
・・・ゆっくり、力強く唇を噛む。この状況を打破する方法がない。最悪令呪を使い、沖田さんを置き去りにすれば俺は生き残るだろうがその場合彼女は助からない。そして時間も経たず、
死を分かつ決断が目の前に迫る。俺の思考は止まりかけている。どうする・・・どうする。としか考えなくなってきている。最早最善策などないと分かっていてもだ。
その時、目の前を閃光が裂く、誰だ。とは考えなく、ただ閃光が放たれた方を見る。そこには俺の見知った、懐かしい人が立っていた。
赤いコートに身を通し、スカートを風になびかせるその姿・・・間違いない。あの人は・・・。
「久しぶりね。慧」
「凛・・・姉・・・さん?」
俺の義姉、遠坂凛がその手に宝石を持ちながら見たことも無い笑顔で俺たちを見下ろしていた。
しかし、凛姉さんが乗っているのは屋根とか、そういうものでは無い。魔術・・・によって召喚した鳥のような生物に乗っていた。
「なんだ・・・慧の知り合いか」
「あら、ランサーのマスター。悪いけどその可愛い〜弟に手を出さないでもらえるかしら」
「一般人が何を。目障りだ」
御門が腕を振り下ろそうとするが、その手は何かに弾かれたように後ろへ飛ばされる。姉さんの手には宝石の跡があった。子供の時に何度か見た「宝石魔術」だ。それも御門の倍速い速度で放たれる。
その後、呆気に取られている御門だったが、次の瞬間、姉さんが御門の前に現れる。早すぎて見えない・・・恐らく「瞬間強化」の類いだが、早くて見えなかった。
その後、御門の身体が押し返される。気がつけば凛姉さんが昇竜拳なるものを御門の腹に当てていた。スカサハは「やれやれ」と言わんばかりに槍による拘束を解く。
「・・・ぐっ・・・」
「話は終わりかしら。なら・・・」
「まぁ待て、マスターは話があってきたのだ。そこの小僧にな」
スカサハが介抱するように御門の前に立つ、御門は腹を抑えながらフラフラと立つ、どうやら痛かった上に魔力が乗った打撃らしく、予想より御門の顔が引きつっている。
「話とは何かしら。弟をいじめるなら・・・分かるわよね」
「安心しろよ。別に取って食う訳じゃねえ」
ともかくここら辺から身を引こう、その提案に俺は頷くことしか出来なかった。
――――――――――――
「・・・同盟を持ち込みたい?」
御門から持ち込まれた話は以下の内容だった。
まずは俺たちでタッグを組むこと、利点は二つ、一つ目は沖田総司の体質である「病弱」をカバーできること。戦闘中に魔力による補給を行うことで、体質によるデメリットをカバーできる。二つ目は戦闘が楽になること、「神殺し」の
もう一つの利点はお互いの生活カバーの事だ。いがみ合っていればお互いの生活に支障が出る。特に俺と御門は家を知っている。もし敵に遭遇してそんなことを言いふらされては困るからだ。それに、友人の俺たちしか同盟は組めないだろうからな。これも見越してなのだろう。
最後の決め手になったのは・・・
「・・・言い分は分かったわ。それで?タダでって訳じゃないでしょ?」
「あぁ、お互いの監視だ、どうせあんたが来たのもそのためだろう?魔術協会からのお達しでな」
「そうなのか姉さん」
「・・・そうよ。言いたくもないけど、言峰って奴にに頼まれたのよ」
その後、姉さんから協会側の話を聞く、協会の管理者、コトミネ シロウはどうやらこの聖杯戦争の監視者として姉さんを使うことを決めたみたいだ。ある条件を残して。
「・・・その条件は言えない?」
「ごめんね慧。これは私たちの問題なのよ」
姉さんが初めて怒った感じで返してくる。姉さんたちの問題か・・・俺が迷惑を掛けたなら今すぐにでも謝りたいが、それも出来ない。
しばらくの沈黙、打ち破ったのは意外にもスカサハだった。
「もう良いだろう?ならこの
「信じていいの?」
「私は仮にも一国・・・その女王だ。それに、弟子はじゃじゃ馬だしな、調教するのは得意だ」
「クー・フーリンね。なら大丈夫だわ」
姉さんの口からその名が出たのに俺は驚愕した。本来なら普通の人は知るはずのない言葉・・・だが、俺の疑問は晴れることなく話し合いは終わった。
――――――――――――
「もしもし?今着いたわよ」
慧の部屋の前、壁にもたれながら凛は電話を耳にかけていた。部屋の中では慧が頭を抱えて魔導書をじっくり読んでいるのが見える。
「分かってるわよ・・・しばらくここに居るわ。慧がまさかアレを持ち出すなんて考えてなかったもの」
『・・・姉さん』
「襲いやしないわよ。こんな子供に・・・『あったりまえでしょ!』・・・冗談が通じない子ね」
いきなりの怒号に少し下がってしまうがこれが彼女たち姉妹の在り方、あるべき戦いを終え、勝ち取った平和なのだ。しかし、その平和は今、再び崩れていた、あるべき戦いによって・・・。
『先輩はどこか言っちゃうし・・・はぁ』
「まぁまぁ。定期的に慧からも電話かけさせるから、貴女は慧が帰る場所を守ってて」
『うん。姉さん』
「それじゃあね。桜」
――――――――――――
「姉さんはここに残るの?」
「そーよ。しばらくこっちに残るわ。向こうに戻ってもあんまりやることないしね」
「ふーん」
姉さんがソファで寝転んでるのを見てご飯の支度を進める。沖田さんは現在俺の部屋で寝ている。病弱の異常持ちは隠していたらしく。初めて召喚した時も恐らく魔力でカバーしていたのだろう。それも今限界がきている。
急いで来た姉さんは沖田さんの顔を見てびっくりしていたがなんだろう。先程の戦いといい、姉さんは妙に手馴れている。
「・・・姉さん」
「何かしら」
・・・今聞かなければ、今後聞く機会は無いかもしれない。後悔する心を抑え、恐怖に負けず、俺は姉さんに掛けたい言葉をかけようとするが、それは声にはならなかった。
聞いたら怒られるかもしれない。聞いたら姉さん達に嫌われるかもしれない。だけど・・・聞かないと・・・。
「大丈夫よ慧。誰もアンタのことなんか嫌いにならないわよ」
「え・・・」
「恐らくあの子を呼んだのも偶然でしょ?そのくらい手馴れていないのを見ればわかるわ」
「じゃあ・・・」
「そうよ、私、遠坂凛は聖杯戦争の経験者よ」
・・・やはりそうだったか。妙に手馴れていると思ったらそう言う事だったのか。
姉さんの日記のある程度は見たが、それは俺が恐らく引き取られた後の話だけ、その前の話が書いてある日記は姉さんの部屋からは見つからなかった。桜姉さんの分も探したがそれもなかった。隠したい事があるとは思っていたが・・・。
「・・・聞かせてくれ姉さん。その戦いで何があったのか」
「いいの?長くなるわよ」
「・・・構わない。そのためにこの話をしてるんだから」
姉さんの話は明日の朝まで続いた。悲しい話を、姉さん達が知る戦争の最後を・・・。