「ベレト」とベレス先生   作:俺田マコト

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8ヶ月もの間、お待たせしてしまい申し訳ないです。この通り超遅筆ではありますが、完結まで書ききるつもりではありますので、どうか長い目で見守っていただけると幸いです。


翠雨の節1 秘密任務

「おっ、あれが盗賊団の根城じゃねえか? こんなところに砦があるなんてな。」

「......なんだか、不気味な感じがするんだが……俺の気のせいか?」

「確かに、人の気配はないわね。篝火も灯っていないし……」

「中に隠れているのかもしれない。もっと近くまで寄ってみよう。」

ヒューベルトが指定したのは、帝国と王国の境界近くにある砦だった。今のところその気配はないが、ここが盗賊の住処となっているらしい。ヒューベルトの言い回しから察するに、砦の中に何かが隠されている様子だ。

ベレトと共に来たのは、ガープやベリアルをはじめとしたジェラルト傭兵団の少数精鋭。ヒューベルトとの約束を守り、彼らには詳細を伝えず、ただ盗賊退治の依頼だと話してある。

「門を破って中に入る。準備はいいだろうか。」

「おう、いつでもいいぜ!」

塀の内側では、何人かの賊たちが休んでいるところだった。

「し、侵入者だと!? 何が目的だ……!」

「とにかく建物の門を守れ! 中に入れさせるな!」

あっという間に混乱が広がり、戦闘が始まった。数はこちらのほうが少ないが、ジェラルト傭兵団の精鋭たちは数の差など気にも留めずに突撃してゆく。門番らしき賊を倒し、一気に建物の内部まで侵入した。

「予想より広いな。何か隠しているかもしれない。隅々まで調べよう。」

「まずは賊の制圧からね。手早くやるわよ!」

それなりに大規模な盗賊団のようだ。しかし、練度はそこまででもない。剣を振るえば簡単に道が開く。堅牢な城塞に守られて、戦闘をすることは多くなかったのかもしれない。あっという間に、目に見える範囲の賊たちを一掃することに成功した。

「制圧完了ね! あとは、こいつらが隠してる盗品を見つけ出さないと。」

「まだ残党がいるかもしれないからな。注意して探せよ。」

「おい、階段があるぞ! 地下に続いてるぜ。」

「よし、地下を調べよう。」

ガープが発見した地下を奥に進むにつれ、賊の数が減っていく。そして最奥部で地下牢に行き当たった。

「あれは……誰かが捕まってるぞ! 士官学校の制服か?」

ベリアルが一番奥の牢を指さす。赤い髪の少女が、鎖に繋がれてぐったりとした様子で壁にもたれかかっている。―――間違いない、モニカだ。

「ただの盗賊と思って来てみりゃ、人攫いとはね……! 思ってたより性質の悪い奴らだったみたいだな。」

「ぜやっ! よし、鍵は壊せたぜ。ベリアル、鎖を外すのを手伝えよ!」

ベレトが何か言うまでもなく、何人かの団員がモニカを助けようと動いている。

「死人みたいな顔色してやがるな……いや、本当に生きてるのか?」

「脈はあるわね。危ない状況なのは間違いないと思うけど。」

「簡易拠点まで連れ帰ろう。応急処置くらいならできる。」

「よし、かつげベリアル。お前が一番力はあるだろ。」

ベリアルにモニカをかつがせ、皆で階段の方へ足を向ける。しかしその時、謎の兵たちが転移魔法で次々に現れて、地上に続く通路を塞いでしまった。

「そいつを逃がすな! クロニエ様に八つ裂きにされるぞ!」

クロニエ。やはりここは、彼女の隠れ家だったようだ。

「あいつら、この女生徒を狙ってるのか?」

「先程までの賊とは明らかに違うな。手練れのようだ。」

「でも、こんなところで負ける私たちじゃないでしょ。ジェラルト傭兵団の実力、思い知らせてやるわ!」

アスモデの言葉に鼓舞され、傭兵たちはそれぞれに武器を構えなおした。次々に現れる増援の魔道士たちを薙ぎ払って、地上への道を切り拓いていく。

「おいベリアル、あんまり揺らすんじゃねえぞ。お前の背中には瀕死の乙女が乗ってるんだぞ?」

「無茶言うなよ、兄貴ぃ……! 敵を倒すので精一杯だって!」

情けない声とは裏腹に、ベリアルは持ち前の巨体と剛腕で、モニカを背負いながらでも魔道士たちと対等に渡り合っている。その目の前では、ガープが冗談を飛ばしつつも完璧に弟の進撃を援護している。この兄弟の連携はいつも見事だ。

「ジェッツ、出口は右よ! まったく、さっき入ってきた道も覚えてないわけ?」

「でもよ、こっちにも敵が多そうじゃねえか? こいつらを倒したら、報酬も……」

「馬鹿なの? 今は女の子の救出、脱出が最優先でしょ!」

先頭の方からは、アスモデが稼ぎ頭のジェッツを叱りつけているのが聞こえた。アスモデは仲間のことをよく見ている。暴れがちな団員たちを止めたり、逆に奮起させたり、そういう役目を果たしていた。

教師になる前の頃から、ジェラルト傭兵団はずっと変わっていない。やはり、ベレトにとって居心地が良い。一番、のびのびと戦える。

「迷いを晴らす!」

どこか懐かしいような気持ちで、ベレトは剣を振るった。

「よし、外だ! ここまで来りゃ……」

「何よこれ、信じらんない! あたしの根城をメチャクチャにして!」

聞き覚えのある、甲高い声がした。クロニエが戻っていた。

「この大事な時に侵入されて中を荒らされただなんて、タレス様に知られたら! ……あんたたち、絶対に許さないわよ! ……アレを出しなさい! あんたたちなんて、何人いようとオシマイよ!」

クロニエの言った「アレ」は、耳をつんざく咆哮と共に現れた。血に飢えたはぐれ魔獣が、ジェラルト傭兵団をぎろりとねめつけた。

「あたしの名はクロニエ。あんたの命を奪う者よ!」

魔獣とクロニエが同時に襲いかかってきた。魔獣が毒の塊を口から吐き出してきたので、左右に避けた傭兵たちは二手に分断されてしまった。クロニエは、モニカを背負ったベリアルを狙っている。

「モニカ……あんただけは逃がさないよ! あたしが完璧な計画に使ってやるんだからね……!」

「やっぱり狙いはこの子か。俺とベリアルとでこいつを引き受ける、お前らは魔獣をなんとかしろ!」

ガープが叫んで、ベリアルとクロニエの間に割り込み、クロニエの剣を弾く。援護に向かおうにも、魔獣が邪魔になって動けない。まずはガープの言うとおり、この魔獣を倒さなければ。

まずは障壁を破らなければいけない。魔獣の右前脚のあたりを斬り続けると、何もないように見える空間に手ごたえを感じた。戦技『魔物斬り』の構えで、力を込めて武器を叩きつける。魔獣がひるんだ―――今だ!

「その身で学べ!」

破れた障壁の隙間から、素早く何度も剣を突き刺す。これで魔獣の体力は半分ほど削れたはずだ。すぐさま他の部分の障壁に追撃をかけるべく、毒の吐息を躱して再び魔獣の懐に潜り込んだ。しかし―――

「ベレト、危ない!」

アスモデが叫んだおかげで、間一髪でベレトは闇の魔法弾を回避した。砦の中から、魔道士たちの残党が現われていた。

「ほら、向こうの奴らも倒しとくべきだって言っただろ?」

「結果論じゃないの!」

ジェッツとアスモデが口論しつつも、すぐに魔道士たちへ反撃を始める。後ろは二人に任せることにして、ベレトは再び魔獣に向き直った。

「もう一度……これで決める!」

先ほどと同じ、確かな手ごたえ。金色の光の欠片が散る。魔獣の障壁は完全に砕け散り、その身に刃が届いた。

「グギャアアアアアア!」

倒れてくる魔獣の尾を飛び越えて、クロニエのほうへ直進する。ガープとベレトがクロニエを挟撃する形になった。

「うそ、もう魔獣を倒しちゃったわけ!?」

「どうだ、これがジェラルト傭兵団の実力ってやつよ。」

「タレス様に何て言えば……。……あんたたち! 絶対に許さないわよ!」

孤立して後がないことを悟ったのか、悔しそうに捨て台詞を吐いて、クロニエは転移して逃げてしまった。これから何をしでかすかわからない以上、ここで捕えておきたかったが……仕方ない。

「何だったんだ、あいつ……? っと、気になることは多いけど、まずはこの子をどうにかしないと。」

「ええ。ここじゃ出来ることも少ないし、大修道院に連れ帰ってあげるのが最優先ね。」

「急いで帰還の準備をしよう。」

急行軍の経験も豊富なジェラルト傭兵団だからこそと言うべきか、撤収は迅速に行われた。かくしてモニカはガルグ=マクの医務室へ運び込まれたのだった。

 

「あたくしの見立てでは、極度の栄養失調状態ね。かなり衰弱しているけれど、快復の見込みはあると思うわ。ただ、未知の毒物という可能性も否定はできないわね。」

マヌエラの処置を受け、モニカは今、医務室のベッドで穏やかな寝息をたてていた。オックス領への使者も既に出発したらしい。モニカ救出の報せが届けば、男爵もガルグ=マクに来るだろう。男爵との約束が虚言にならずに済んで、よかった。

「長い間監禁されていたわけだし、精神的にも不安定になっているところはあるでしょうね。しばらく……少なくとも、ご両親がお見えになるまでは他の人と会わせるのはよろしくないと思うわ。」

これは好都合だ。なにしろ、この大修道院にはソロンが入り込んでいる。もしソロンがトマシュとして彼女に接近しようとすれば、危険だ。情報が洩れる前に、彼女を消そうとするだろう。

「そうだな。ここはマヌエラに任せよう。モニカの元担任でもあるわけだし、彼女にとっても、他の者より信頼できるだろう。私たちは、席を外すこととしようか。」

セテスに促され、共に医務室を出る。セテスは、大司教へ対応について報告すると言って去っていった。さて……自分も、成果を報告すべき相手がいる。

「見事に成功されたようですな。」

その相手―――ヒューベルトは、探すまでもなく向こうからやって来た。

「期待通りの成果と言えましょう。ただ、期待以上の成果ではないとも言っておきましょうか。……ともかく、貴殿がある程度以上は信用に足る、という結論に至りました。」

ヒューベルトは淡々と告げた。

「今はモニカ殿の救出を喜ぶに留めましょう。次の行動を起こすのは、もう少し先になる予定ですので。それまで貴殿も、腕を磨いておいてください。……さて、都合が良いので、モニカ殿の無事をエーデルガルト様へと伝える役割、引き受けてくださいますかな。エーデルガルト様は地下におられますので。」

「地下に?」

「ええ、地下ですよ。貴殿も、幾度か出入りしているとお聞きしましたが。」

なぜそのことをヒューベルトが知っているのか、そもそもなぜエーデルガルトがアビスに居るのかはまったくわからないが、嘘をつくような場面でもない。ここはヒューベルトを信じて、地下へ行ってみることにした。

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