さて、それでは本編、どうぞ!
もとジェラルト傭兵団の面々がセイロス騎士団として活動する準備をしているうちに、フォドラは竪琴の節を迎えていた。
11の日のお昼ごろ、訓練を終えた後に食堂を目指して歩いていると、教室から出てきたらしいクロードに声をかけられた。
「やあどうも。この前は助かりましたよ。改めてお礼を…」
「いや、困っている人の助けになることは当然のことだから、構わない」
「ははあ、器が広いですね、ジェラルト傭兵団ってのは。おっと、まだ名乗ってませんでしたね。俺はクロード=フォン=リーガン」
「ああ、ベレス先生から聞いて知っている。金鹿の学級の級長だったな」
ベレスは、教師生活が始まってすぐに、傭兵仲間たちに助けを求めてきた。ベレスよりは社交的な傭兵たちの力も借りて、なんとか教師としてやっていくことができているようだ。その時に、金鹿の学級の生徒たちについても話してくれたので、ベレスから聞いたというのは嘘ではない。
「そう、級長です。では、早速本題といきましょうか。」
そう言ってベレトを見たクロードの目は、クロードらしい腹の中の読めない目だ。
「ベレス先生について、知ってることをできるだけ話してほしいんですよ。級長として、担任のことはよーく知っておきたいんでね」
こう言ってはいるが、目的はベレスの弱みを握ることだろう。クロードなら間違いなく、弱みを握れない相手を近くに置きたくはないだろう。
今、この世界でベレスについて一番よく知っているのは、おそらくベレス本人を除けば異界の同一人物であるベレトだ。しかし今のベレトは、ベレスに初めて会ったのはたった1節前という設定で、ガルグ=マクに居る。あまりよく知っていては不自然だ。
「すまない、俺はつい最近ジェラルト傭兵団に入ったばかりで、ベレス先生に初めて出会ってからの期間も、君たちと同じくらいだろう。ベレス先生のことは、まだあまり知らないんだ。」
「へえ、そうだったんですね。てっきり、かなりの古参かと。若いわりに剣術が完成されていて、傭兵歴も長いような感じがしまして」
さすがはクロードだ。ただの新人傭兵でないことは既に見透かされている。
「ああ、ジェラルト傭兵団に入る前から、傭兵はやっていた。観察眼には自信があるのか?」
「人を見る目に限れば、まあそうですかね。じゃあ、自分はこの辺で失礼します」
クロードは教室に引っ込んでしまった。
自分の正体に関してのことは明かさなかったつもりだが、クロードには間違いなく何かしらを隠していることを読まれてしまっただろう。いつかは正体を明かし、戦争を止めるために協力してもらうつもりではあるが、今はまだその時ではない。
もとの世界でもクロードは担任のベレトについて探っていたのか、ということは考えないことにした。
食堂に着くと、ベレスとアロイスが居た。何やら話をしている。ベレトが近づくと、こちらに気づいたようだ。
「おおっ、貴殿は確か…。先日、私が団長の息子と勘違いした方だったな! ジェラルト傭兵団の一番新しい団員になったのであったな。となると、先生の課題にも同行するのであろう?」
「ええ、そうですね。よろしくお願いします、ベレス先生」
「ええと、堅苦しいのは苦手だから、普通に接してくれていいよ。傭兵団ではわたしが先輩だけど、歳も近いみたいだし」
「それじゃあ改めて、よろしく、ベレス」
「こちらこそよろしく、ベレト」
「はっはっは! やはり、団長の元に集う者は皆、仲良くなるのだなあ」
これからのために、ベレスとは良好な関係を築いておきたい。その第一歩は踏み出せたようだ。
と、そのとき、ベレスのおなかが鳴った。
「…それじゃあ、もっと仲良くなるのも兼ねて、食事でもどうかな。アロイスさんやベレトのことを、よく知っておきたいから」
「おおっ、このアロイス、団長のご子息と共に食事ができるなど、まさに幸運というものですぞ!」
アロイスの笑顔が、もっと笑顔になった。
今日のメニューは、アロイスの好物である豪快漁師飯。特に好き嫌いのないベレトとベレスは、腹を満たせるならたいていのものが嬉しい。
「ルミール村で初めて会ったときから思っておるのだが、貴殿らはお互いによく似ておるなあ。まるで双子の兄妹のようだ! はっ、まさか本当に…?」
もちろんあたりまえのことだが、今はその理由を明かしてしまうわけにはいかない。
「いや、俺の両親はもう主の御許へ逝ってしまいましたからね。ありえないと思いますよ。ジェラルト団長が実は幽霊だった、とかではない限りは」
「ま、まさか。見たところ、まだ団長には足がありましたぞ。…騎士として情けないことではあるが、私はどうもこの手の話が苦手でなあ」
ちょっとした冗談のつもりが、怖がらせてしまったようだ。思い返してみれば、怪談は苦手だと言っていた気がする。相手を間違えてしまったようだ。黙々と魚を食べ進めるベレスの表情からは、どう思っているのかは読み取れない。洒落がうけなかったときのアロイスの気持ちがわかったような気がした。
話題を変え、ベレスに話を振ってみる。
「今節の課題の準備はどうだ?」
「生徒たちにとっては初めての実戦だから、その前にもう少し戦闘の訓練をさせたいかな」
「うむ、各学級セイロス騎士団との実戦演習を行う予定であるな。たしか来週の週末だったはずだが」
緑の多い高地での演習だった。ベレトも、前週にジェラルトに配備してもらった騎士団の三部隊を率い、本格的に兵法を覚え始めた頃だった。
「騎士団の指揮は問題なさそうか?」
「ジェラルトが兵法の本を貸してくれた」
「うむ、それならば問題無かろう。騎士団長の部屋の本棚には、指揮でもなんでも、戦いに必要なことは全部敷き詰まっておるからな。指揮だけに。はっはっは!」
「うん、役にたつことがたくさん載っているよ」
アロイスの洒落を完全に受け流し、ベレスは話を進めるのだった。
それから程なくして、三人は漁師飯を食べ終わった。
「いやあ、やはり三人以上での食事は格別であるなあ。楽しい食事であったぞ! では、私はこの後任務があるので失礼する!」
「頑張って」
「この程度の任務、ちょちょいのちょい、よ! すぐに片づけて帰ってこよう!」
アロイスは玄関ホールのほうへ去っていった。食堂にはベレトとベレスが残された。
「俺たちも、来週の演習を共に頑張ろう」
「うん、そうだね」
もう一度お互いに声を掛けあい、食堂を後にした。
- - -
18の日。今日は騎士団との実戦演習だ。前節の模擬戦よりも多くの生徒が、出撃準備をしている。ジェラルト傭兵団、セイロス教団兵、セイロス傭兵団も装備を整えている。ベレスは、クロードから騎士団の運用を教わっている。
そんな中、ひとりの生徒がベレトの目に留まった。青獅子の学級の生徒のはずの、シルヴァンが居る。何故金鹿の学級の出撃に来ているのだろうか、と思ったが、すぐに納得のいく結論が出た。今の金鹿の学級の担任は男のベレトではなく、女のベレス。女好きのシルヴァンなら、十中八九ベレスの授業を受けるためだろう。…ベレトが教師だったときは、マヌエラが担任の学級には移動していなかったはずだが。
そうこうしているうちに、模擬戦の開始時刻になった。ベレトたちジェラルト傭兵団は、ベレスの後ろで配置につく。
「…それでは、開始!」
兵士の声が響きわたる。開戦だ。
「クロードたちの部隊は、北側に進んで。こっちの部隊は、わたしと一緒にこっちの森に入ろう。視界が悪いから、敵の攻撃を一旦避けてから反撃する。森の向こうで合流しよう」
ベレスがてきぱきと指示を出し始める。生徒たちも、それに従って行動を開始した。
「よしラファエル、攻撃を受けれるか?」
「おう、任しとけえ!」
北に進んだラファエルに、兵士たちが先制攻撃を仕掛けてきた。ラファエルは少し怯んだものの、耐えて反撃を繰り出し、勢いをつけてもう一度攻撃して、先頭の兵士を撃破した。だが、その後ろからふたりの兵士が迫っている。
「はっはは、やるねぇ。俺たちも、この武勇にあやかろうか。リシテア!」
「はいっ!」
クロードの矢と、リシテアのドーラΔがそれぞれ兵士を捉える。ローレンツが連携し、片方の兵士を撃破した。
「ヒルダさん、貴女も早く追撃してくれたまえ!」
「ええー、あたしは後方支援ですってー」
「その斧は何のために持っているんですか」
「ああもう、仕方ないなー」
こんなやり取りをしている間も律儀に待っていてくれた兵士にヒルダが一撃を入れ、撃破する。
「次は実戦だからな、ヒルダもこんなこと言ってられなくなるだろ」
「ちょっとー、怖いこと言わないでよクロードくん」
「ヒルダ、クロード、次の敵に備えますよ」
リシテアの注意で、戦闘に意識を戻し、敵の位置を探る。
「よし、あっちの森を回り込んで、先生たちと合流しよう」
クロードの部隊は、東へ進み始めた。
その頃、ベレスの部隊は森の中で東の部隊を迎撃していた。
木の陰から繰り出された兵士の槍を躱し、反撃の二連撃を叩き込む。次の兵士の攻撃も躱して反撃したが、追撃は避けられてしまった。まだ撃破判定にはなっていない。
「レオニー!」
「あいよ、先生!」
レオニーが後ろから飛び出し、確実に槍を当てる。これで森の中に居る敵はあとひとりだ。
「イグナーツ、当てにくいかもしれないけど、あの兵士を狙ってみて。シルヴァン、イグナーツと連携して攻撃を仕掛けて」
「おうさ!」
「やってみます!」
まず、シルヴァンが攻撃を仕掛ける。見えにくいところから不意をついたが、こちらも反撃を受けてしまった。が、兵士が次の手を繰り出す前に、イグナーツの放った矢がしっかりと兵士を捉えた。
「やったあ、やりましたよ!」
ベレスは喜ぶイグナーツに「冴えているね」と声をかけて、周囲の状況を確認している。
「北の2つの部隊を、クロードたちと挟撃しよう。森を抜けて、攻撃の準備をするよ。マリアンヌ、みんなを回復してあげて」
「は、はいっ」
「くっ、挟まれたか…。迎撃隊形で迎え撃つぞ!」
兵士たちの部隊は、合流して陣形を組み始めた。
「敵が固まっているから、あの手を使ってみよう。ジェラルト傭兵団、突撃用意!」
ベレスの指示で、ベレトたちも計略の準備を整える。兵士たちの頭の向こうには、クロードたちが見える。そちらでも計略の準備が整ったようだ。
「逃がさない! 突撃っ!」
ガープを先頭にして、ジェラルト傭兵団が一斉に突撃する。ベレトも、かけ声とともに走り抜け、剣を兵士に当てる。
「援護しよう、今だ!」
「こういうときは、みんな、頑張って行ってきてねー!」
敵陣の向こうからクロードとヒルダの声が聞こえた。
ジェラルト傭兵団が駆け抜けたころ、セイロス教団兵とセイロス傭兵団も、計略で兵士たちの陣に押し寄せた。その猛攻で陣形は崩れ、兵士たちは動揺している。
「続きます!」
「手伝うぜ」
ほかの生徒たちも、続々と追い打ちをかける。兵士たちはつぎつぎと撃破されていく。
「ぶっ飛べえ! うおりゃああ!」
最後に残った敵将も、ラファエルの強烈な一撃を受けて撃破された。金鹿の学級の勝利だ。
「よし、やったねみんな。節末の課題出撃は、もう大丈夫かな?」
「ああ、俺たちならやれるさ。な、みんなそうだろ?」
「そうだな、僕も貴族としての債務を果たすことができそうだよ」
生徒たちは、わいわいと話し始めた。この調子なら、課題出撃は大丈夫だろう。少なくとも今節の終わりまでは、心配することはなさそうだ。
そうこうしているうちに、敵役の兵士たちも装備を整えたようだ。
「みんな、大修道院に戻ろうか」
勝利に浸る金鹿たちが、ガルグ=マクへと列を成して戻っていった。
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25の日。金鹿の教室では、ハンネマンが弓術と理学についての講習を行っている。ベレトはその前を通り過ぎ、訓練場へ向かった。
だが、訓練場に入る前に、奇妙な人影を発見した。生徒寮と浴室への階段の間、薄暗い場所に何者かがいる。念のため腰の剣に手をかけ、近づく。
「おい、ここで何をしている?」
その男はびくっとして、警戒した目でベレトを見つめる。
「あんたは…。騎士さんですか。失礼しました、私は地下に戻りますよ」
「地下…? ガルグ=マクに、地下があるのか?」
思わず疑問が口をついて出る。去りかけていた男が、振り返って答えた。
「…ガルグ=マクの地下をご存じない? あそこは、地上にいられぬ者の楽園ですぞ。ここで手に入らない品でも、地下では手に入れられるかもしれませんな」
次回、アビス編です。次の更新までに、ぜひともサイドストーリー 煤闇の章をプレイしてみてください。春休みを活用してもう少し進めたいです。