ただのかませ犬じゃなくて、結構強いんですよ。
ユウキ先輩とのバトルから、数日。部活を終えた私は、考え事をしながら玄関を出た。
フラッグの改良案は、武装をビーム兵器にすることと、機体の推進力を上げること。前者はすでに終えたが、後者は難しい。ただバーニアを取り付けてもそれは装飾でしかなく、キチンとシステムに認識されるように改造しなければならない。無闇に多く取り付ければ、今度は機体が耐えられずに明後日の方向へ飛んでいくか、燃料を多く使ってスタミナが切れるだけだ。出来ればバトルシステムを使って調整しながら改造をできる模型店がいいのだが。学校のシステムを使うのは、許可が費用だし場所を取るので面倒だ。
「先輩、考え事ですか?」
「む、シグレか」
校門を出たところで、シグレに話しかけられた。歩みを進めるのと同時にそのポニーテールが左右に揺れる。
「歩きながらだと、転んで怪我しますよ。ただでさえ冴えない顔を、もっと悪くしたいんですか」
「ふむ、忠告ありがとう。気をつけることにしよう」
言葉遣いは相変わらずだが、注意してくれているのは事実だ。ここは先輩として、広い心で受け止めよう。
「・・・・・・つまらないですね」
「? 何がだ?」
また拗ねた様子のシグレに、私は疑問符を浮かべるばかりだ。乙女座の私にも、乙女の感情はよくわからない。
「そうだ、シグレ。どこかいい模型店を知らないか? できればバトルシステムがある場所がいいのだが・・・・・・」
「突然ですね。何でまたそんな」
かくかくしかじかと事情を話すと、なるほどと彼女は頷いた。
「それなら、いい店を知っています」
そう言われて彼女に案内されたのは、『イオリ模型店』という店だった。
「こんな場所に、模型店があったとは・・・・・・」
私の家は商店街にあり、そこから近い電気屋内の模型店によく行っているのだが、まさかこんな何もないところに模型店があるだなんて。
「本当ですよね。立地条件という言葉を知らないんでしょうか」
「しかし、なんという僥倖! 生き恥を晒した甲斐があった!」
私に案内させたことが生き恥ですか、とジト目を向けてくるシグレに、言葉の綾だと弁明していると、店のドアが開いた。
「あの~、お客さんですか?」
青髪の少年だ。エプロンを付けてモップを片手に持っているのを見るに、店員だろうか。
「はい、お客さんです。この先輩が、バトル用のガンプラの調整を行いたいのだとか」
簡潔に私の要件を伝えてくれるシグレ。ありがたい、私はこの口調もあって余り口が上手い方ではない。
「なるほど、わかりました。じゃあ、バトルシステムの準備をするので、少し待っていてください」
店の奥に戻っていった少年に従い、私は店に入って展示されているガンプラを眺めて時間を潰すことにした。
「おぉ、ガンダム! 素晴らしい、素晴らしい完成度だ!
この美しい作品達に、私は心を奪われた! この気持ち・・・・・・まさしく愛だ!」
何より、このエクシア! ただ組み立てるだけでなく、パーツの合わせ目を消し、全身が塗装されている! GNソードは磨かれ、まるで鏡のような反射だ。つや消しもパーツごとに行われているのか。
今すぐにでも戦いたいほど、完成度が高い。
「あ、愛って・・・・・・」
「気にしないでください。先輩がキモいのはいつものことなので」
この作品を前にすれば、彼らの会話なんて耳に入らない。それほどまでに、このガンプラの完成度は高い。今の私では到底及ばないレベルだ。というか、もう準備が終わったのか。
これほどのビルダー、ならば世界大会に出場していてもおかしくないレベルだ。と、視界の隅で何かが反射した。立ち上がって棚を見てみると、ガンダムの上半身を持ったトロフィーが。そして、そこに刻まれているのは、『第二回ガンプラバトル選手権 世界大会準優勝 イオリ・タケシ』という内容。
「少年、君はイオリ・タケシの・・・・・・?」
「いやぁ、それ、僕の父さんなんです」
「へぇー。先輩、その人、そんなに凄い人なんですか?」
「ああ、ここに記されているだろう」
身長がやや足りないためか、背伸びしながらトロフィーをのぞき込むシグレ。ひとしきり関心した後、なら、と言葉を続ける。
「なら、その息子さんも強いんですか? ガンプラバトル」
「ギクッ」
・・・・・・その台詞を口に出す人物が、まだいたとは。少年は昭和の人間か?
「ガンプラの性能の差が、勝敗を分かつ絶対条件ではないさ」
「前も言ってましたよね、それ」
口癖ですか? という問いにそんなものだ、と曖昧に返しておく。彼女は模型部でガンプラも作るが、そこまでガンダムに詳しいわけではない。珍しい女性部員ということもあって、彼女の入部初日にガンダムトークをしようとした部員が撃沈したのだ。
「その通り! 確かにイオリ・セイ君の作るガンプラは高性能、だからといって、ガンプラバトルに勝てるわけではなぁい!」
声の方向に振り返ると、そこには茶髪をおかっぱのように切りそろえた少年がいた。
「誰です、あの人。子供の不審者ですか?」
「サザキ・ススム。この辺じゃ名うてのファイターだ」
手で口元を隠しながらも明らかに本人に聞こえる音量の問いに、フォローも含めて説明する。私も本人に会うのは初めてだ。
「そ、そっちの金髪は知っているみたいだね。そう、僕がそのサザキさ」
「うわー、自信満々に自己紹介とか結構痛々しいですねー」
またも煽るようなことを言うシグレに、前髪をはらってキメたサザキ少年のこめかみがピクピクと痙攣している。
「いいだろう、そこまで言うなら相手してあげようじゃないか! この僕のギャンが!」
堪忍袋の緒が切れたのか、腰のケースからガンプラ──ギャンを取り出しシグレを睨み付けるサザキ少年。シグレは「自慢げに出す機体がギャンとか・・・・・・」と言っていたので、途中で口を塞いだ。
「待ちたまえ。彼女はファイターではない」
「なら君が戦えばいいだろう。ガンプラは持っているようだしね」
サザキ少年が指さしたのは、私の持っている鞄。なるほど、
「ちょっと、サザキ! お客さんに迷惑かけないでよ!」
「いいだろう」
「って、えぇ!?」
もとより、バトルのための調整に来ていたのだ、それが実戦に変わっても問題ない。
「その勝負、私とこのフラッグが受ける!」
先ほどの彼を真似て、鞄からフラッグを取り出し突き出した。
バトルルームに移り、筐体にGPベースをセットする。
《Biginning Plavsky Particle Dispersal》
筐体から粒子が放出され、戦いの場となるステージが形成される。
《Field1 Space》
此度の戦場となったのはコロニーの残骸が漂う宇宙。作品を特定することまではできないが、宇宙世紀関連のステージだろう。
《Please Set Your GUNPLA》
装備を整え、スラスターを追加したフラッグ──名付けるならばフラッグ改を筐体に置く。さて、上手く動いてくれるかどうか。
《Battle Start》
「エイカ・コウスケ。フラッグ、出る!」
宣言と共に操縦桿を押し込み、出撃。別に言う必要はないが、まあお約束というヤツだ。
デブリの漂う中を飛行形態で進んでいくと、コロニーの残骸に立つ影が見えた。
「そこか!」
当たるとは思っていないが、威力を見るためにもビームライフルを撃つ。ジャンプで躱されたが、コロニーの表面を傷つけることはできた。
「もっと威力が必要か・・・・・・」
呟きながら、目でギャンを追う。どうやらデブリに隠れながら戦うつもりらしい。
しかし、機動性の上がったフラッグの前では無意味、のはずだ。
スロットを回し、追加スラスターの起動を選択。同時に機体が加速を始める。
「ッ、これは!」
予想よりも速い。追加したのは脚部と腰、両肩で六カ所だったが、それでは多いようだ。もしガンプラではなく現実の戦いだったなら、私には相当なGがかかっているだろう。
「だが、この程度!」
世界大会レベルの速度には、遠く及ばない。ユウキ先輩のザクアメイジングにも。
デブリを回避しながらコロニーの反対側へ移動する。そこには案の定ギャンが待ち伏せていたが、ライフルより放たれた弾は一つも当たらなかった。
『なるほど、中々の速さだ!』
しかし、あまりの速度に向きを変えることもままならず、こちらから攻撃することもできない。それがわかっているのか、サザキ少年は動こうとせず機会を伺っているように見えた。
「これならどうだ!」
スラスターの出力を抑え、強引に宙返りを打つことで、ギャンに突撃する。グルグルと回る視界に酔いそうになるが、まだ耐えられる。
『なにぃ!?』
ビームライフルを連射するが、全てギャンの盾に防がれる。
「何という強度! まるでガンダリウム合金ッ!」
『僕の盾は、伊達じゃない!』
ならば、グラハムスペシャルの出番だ。ビームサーベルを構えるギャンを見据えながら、操縦桿を操作する。
「ここだ!」
ギャンとの距離がわずかとなった瞬間、変形。ギャンが放った突きを回避し、勢いのまま盾を蹴りつける。
『甘い! 甘すぎる!』
だが盾を壊すことも退かすことも適わず。
盾から、ミサイルが放たれた。
「しまった!?」
その機構を失念していた。
この距離では回避はかなわず、ディフェンスロッドも使えない。
「ぐぅ!」
直撃。フラッグの装甲が弾け、とっさに盾にした右腕が吹き飛ぶ。余波でライフルが壊れた。
これほどのミサイルならサザキ少年側にもダメージがあって欲しいものだが、盾でほとんど防御されている。
『これで、終わりにしてあげるよ!』
動きを止めたフラッグに、トドメを刺そうとギャンがサーベルを持つ手を振り上げる。
「いいや、まだだ!」
私はフラッグの左腕を動かし、ビームサーベルを抜く。
『それが、どうしたっていうのさぁ!』
振り下ろされたサーベル。私は追加したスラスターを再び起動させ、腕を動かさずに鍔迫り合いして見せた。
「うおぉぉぉお!」
腕が悲鳴を上げている。だが、スラスターの推進力が全開になれば、押し切れるはずッ!
『くっ、だったらぁ!』
と、ギャンが身を引き、横に移動した。競り合っていたものがなくなり、フラッグは宙へ飛ぶ。
「なっ、しまった!」
今更勢いは止まらず、そのまま宇宙空間を流れ星のように尾を残しながら、場外へ。
《Battle Ended》
そして、私の敗北でバトルが終わった。
「ふん、少しはやるみたいだけど、口ほどにもなかったね」
そう言って、サザキ少年はバトルルームを出て行った。
床に落ちたフラッグを拾うと、シグレが隣にいた。
「やはり調整が必要だったな。ここに来て正解だった」
「・・・・・・先輩」
落ち込んだ顔のシグレに、どんな言葉をかけるべきか判断がつかないまま、私は独り言のように続ける。
「今日はもう遅いし、帰ることとしよう。少年、バトルの代金を支払おう」
「あ、はい!」
慌ててレジへ向かうイオリ少年に続いて、バトルルームを出た。シグレも付いてきている。
その後、会計を済ませて、イオリ模型店を後にした。
夕焼けに染まった帰り道を歩きながら、私はうつむいたままのシグレに声をかけられずにいた。
「・・・・・・先輩」
立ち止まった彼女の声に、私も歩みを止める。
「今日は、すみませんでした・・・・・・私が煽ったせいで、先輩のガンプラが・・・・・・」
「それはファイターへの侮辱だぞ、シグレ」
え、と顔を上げたシグレと目を合わせ、私はない頭を絞って言葉を紡ぐ。
「バトルを受けたのは私で、負けたのも私だ。私の実力不足が原因だ。
それを自分のせいにするなど、戦った者への侮辱に他ならない」
ようは、この勝負は私の勝負だから、勝手に取るなということだ。いや、まだわかりにくいか。ええい、だから国語の評価が低いのだ、私は。
「その、つまりだな・・・・・・」
次の言葉が見つからず、しどろもどろになってしまう私に、彼女はクスリと笑った。
「そうですか。まあそうですよね、先輩が弱いから負けただけなのに、私まで落ち込むとか、馬鹿みたいでした」
スタスタと私を置いて進み始めた彼女の表情は、よく見えなかった。
「おい、シグレ?」
「私、道こっちなので」
呼び止めた声が聞こえなかったのか、そのまま横断歩道を渡って行ってしまう彼女に、私は何も言えなかった。
「・・・・・・私も道、そっちなのだが」
ようやく出た言葉は、なんとも情けないものだった。
シグレ・アサヒ
聖鳳学園一年。ポニーテールが特徴的な模型部員。
敬語だが毒舌。先輩だろうと毒を吐く。そのため模型部でもクラスでもあまり話しかけられることはない。
ガンプラは好きだがガンダム作品にそこまで興味はなく、気になった作品をいくつか視聴した程度。バトルもしない非ファイター。
作品の世界観に囚われないセンスは独特で、ポニーテールのガンダムナドレを現在制作中。
下に女子校通いの妹がいるらしい。
このオリキャラ、トライのとある人物の姉として作ったんですが、わかる人いるのやら。
サザキくん、旧キットのギャンを改良してあそこまで動かせるんだから流石ですよね。もしビルドストライクを手に入れていたら、世界大会出場くらいはできそうです(ユウキ会長という壁を除けば)。