それと、10評価が付いていて大変びっくりしました。
ギッシュさん、ありがとうございます。
隊長とのバトルから一日。私はほとんど聞いていなかった授業の道具を鞄に入れて教室を出た。向かう先は模型部の部室だ。
昨日はGNフラッグがバトルできる状態ではなかったためレンタルされていたガンプラを使ったが、やはり他人の作った機体というのは使いにくい。自分の機体より高性能であったとしても、間接の位置や四肢の長さ、武器のリーチなどを把握しきれていないため、自分の感覚とのズレが生じるのだ。
そんなことを考えていると、部室に辿り着いていた。
「失礼する!」
宣言と共に扉を開け、部屋に入りながら軽快に挨拶。
「諸君、昼の挨拶、すなわち『こんにちは』という言葉を、謹んで贈ろう」
私の入室に、ちょうど部室にいたユウキ先輩が苦笑する。
「エイカ君、もう少し声を抑えることはできないかな?」
「失礼だと言った」
しかし、ユウキ先輩がいたのは僥倖だ。いなければ生徒会室まで探しに行くつもりだったが、手間が省けた。
「ユウキ先輩、しばらく部活を休みたい」
私の発言に、彼は一度作業を止め顎に手を当てる。
「理由を訊いても?」
「ガンプラバトル選手権に出ることにした」
それ以上の言葉は必要ないだろう。私の意図を察したのか、彼は驚いた表情の後に逡巡すると、目を戦士のソレへと変貌させながら頷いた。
「いいだろう。選手権で君と戦えることを、楽しみにしている」
「望むところだと言わせてもらおう」
互いに不敵な笑みを浮かべ合う。ゴンダ含む周囲の生徒が首を傾げたりしているが、気にしない。
「それでは失礼する」
今度はゆっくりと扉を閉めて退室する。後輩たるもの、先輩の言葉は聞くべきなのだ。
「あれ、先輩。もう帰るんですか? 怠慢ですね」
ちょうどそのタイミングで、シグレが廊下を歩いてきた。今週は日直だとぼやいていたので、それで遅れていたのだろう。
「ああ。しばらく、部活を休むことにした」
私がそう言うと、シグレは目を大きく見開いて数歩後ずさる。手に持っていた荷物を落とした。
かと思えば、急に肩を掴んできた。
「ど、どうしてですか!? 私が、私がこんなだからですか!? 私がこんなだから、先輩は部活を辞めるんですか!?」
「お、落ち着けシグレ! 揺さぶるな!」
涙目で私の上半身を揺さぶるシグレに、私は困惑しながらもされるがままだ。
「落ち着けませんよ!! 先輩が辞めてしまったら、私、私は──」
「別に辞めるとは言っていないだろう! しばらく休むだけだ!」
私の悲鳴に近い声に、え、とシグレは正気に戻った。次いで、掴まれていた手が離れる。
「先日、ユウキ先輩に負けたのが悔しくてな、だからバトルの練習をして、選手権に出ることにしたのだ。しばらくそちらに専念するため、部活には出ることができない」
休むことにした経緯を詳しく説明すると、シグレは顔を赤く染めて俯いた。まあ、誤解して暴走したとわかれば恥ずかしがるのも仕方ない。
「・・・・・・それならそうと、ちゃんと言ってください」
いや、言ったつもりだったのだが。
「それでは先輩、そこを退いてください。邪魔です」
シグレの言葉で気付いたが、私は出入り口を塞いでしまっていた。すまない、と道を開ける。
ご機嫌斜めなシグレがガラリと扉を開けると、そこにはゴンダが固まった表情で立っていた。
「・・・・・・盗み聞きとは、いいご趣味ですね、ゴリラ先輩」
「き、聞いていないぞ! オレは、なにも! って、誰がゴリラだ!」
そんなやりとりを聞きながら、改めて私は学校を後にした。
それから家でGNフラッグの改修をして、『アフターファイブ』へ向かう。部活を休んだのは早計だったな、と道具の足りない家を出た。
昼とは違って人通りの少ない商店街を歩き、看板の横の階段を下りる。そして、銃撃音が聞こえてる扉を開いた。
「皆さん、夜の挨拶、即ち『こんばんは』という言葉を、謹んで贈らせていただきます」
店内にいる全員に聞こえるように、まずは挨拶。挨拶は大事だと父がよく言っていたものだ。礼儀挨拶は武士道の基本だと。
「やあ、コウスケ君。それとここでの挨拶は『ジーク・ジオン』だ」
昨日と同じく、ドレンによく似た顔をしている八百屋のおじさんが迎えてくれた。
「これは失礼。して、隊長殿はおられますか?」
「ああ、店の二階にいる。奥の階段だ」
感謝します、と言って他の人の邪魔にならないように向かった。階段を上がって見えた扉を空けると、その部屋は青白い光に満ちていた。
「いらっしゃい。早かったね」
「待ちきれませんでしたので」
その巨大なバトルシステムを見つめていた隊長が振り返る。そう、バトルシステムだ。
通常のものの二倍はあるそれは、普通一つしかないフィールドを組み合わせた地形、今であれば森林と水中、峡谷の三つがフィールドとなっている。
驚愕したままの私に、ああ、これかい? と隊長はその筐体へ視線を戻す。
「店長に頼んで設置してもらった、特殊なバトルシステムだよ。地球全部を再現することもできるけど、それには場所が足りなくてね」
「・・・・・・十分すさまじいです、隊長」
昨日行った修業は、貸し出し用の機体を使って店内の大人達とバトルすることだった。戦績は3勝11敗と負け越した。
そして、今日は、
「今日は、これらの地形で君の機体がどれだけ戦えるかを確かめる。バトルフィールドはランダムだから、どんな状況でも戦えるようにしておかないとね」
そう言って、システムに幾つものガンプラを設置していく。水中にザク・ダイバーやザク・マリンタイプ、峡谷にザクタンクやザクスナイパー、といった具合にガンプラが配置された。偏っているように感じなくはないが、野暮なことは言うまい。
「さて──」
再びこちらを向いた隊長の顔には、ニコリといつもの笑顔が浮かんでいる。だがそれが、私の背筋を冷たくした。
「君は、生き残ることができるか?」
狭い谷の間を、フラッグが飛翔する。だがそれは安心安全なフライトなどではなく、狙撃や爆撃を回避するためだ。
森林の上空を飛んでいたら砲撃の嵐に合い、ディフェンスロッドを失いながらも逃げてきたのだ。私の操縦技術では一度に十本も迫り来るビームや弾丸に突っ込むことなどできるはずがないだろう。あの赤髪の少年やユウキ先輩なら出来るだろうな、と思考がズレた瞬間、アラートが鳴る。咄嗟に身をひねれば、ビームによる狙撃が。
「何!? ここにも
ビームの方向へ機体を向けると、逆側から轟音。慌てて旋回すると、峡谷の色に溶け込んだザクタンクがいた。
「ならば先にスナイパーを──」
タンクの方が機動力はあるが、スナイパーの射程範囲の広さが厄介だと判断しサーベルを抜刀し接近。斬りかかると、そこに割って入るものがあった。
「なっ、デザートザク!? ペアで行動していたのか!」
そのザクのヒートホークが、フラッグのビームサーベルを阻んだのだ。チィ、と舌打ちをし、斧を斬り上げる。そのまま蹴りを食らわせ反撃されないようにして、サーベルを振るう。
と、右側から《CAUTION》の文字と警告音。反射的に後退すると、フラッグの装甲をビームが掠めていった。二体目のスナイパータイプか、と理解したのと、起き上がったデザートザクのタックルを受けるのが同時だった。
「ぐぅ!?」
衝撃を逃がそうと自ら後退したが、ここは峡谷。すぐに岩壁にぶつかってしまった。
「くっ、空ならばこんなことには・・・・・・」
言いながら、ビームサーベルを投擲、デザートザクの胸部を貫き、破壊。ケーブルを引いてサーベルを手元に戻す。
これは今日フラッグを改修する時に思いついた機構で、伸縮自在とまではいかないがある程度までならケーブルを伸ばせるようにしたのだ。
放たれるビームを避けながらその場から逃亡し、谷にあった窪みに身を隠す。
岩壁にぶつかったことによるダメージは少ない。スナイパーとタンクを見失ったが、どうするか。森林に戻ればまた砲撃の嵐、かといって迂闊に動けば狙撃される。射程距離よりも高く飛んでもこちらから攻撃できなくなるし、燃料が保たない。
「ええい、だから私はアホなのだ!」
こういう時にいい案が思いつかない自分が恨めしい。しかし隠れていても見つかるのは時間の問題だ。
「ならば、打って出る!」
渓谷内を低空飛行し、耳を澄ます。ザクタンクのキャタピラ音を拾おうとしたのだが、運良く別の音を拾った。
「捉えた!」
振り返りながらサーベルを投擲。射撃しようとしていたザクキャノンのモノアイを貫いた。キャノンの駆動音が聞こえたのだ。
再びサーベルを回収し、動きを止めたザクキャノンへ近づく。死体漁りのようで気は進まないが、武器がサーベルだけでは戦えない。何か武器はないかと機体を探るが、肩部のキャノンに腰部のライフルと機体側で操作する武器のみのようだ。
「外れか、だが仕方ない」
下手に触れて爆発させてはこちらが傷付く。私はその場を離れて倒したデザートザクの元へ向かう。ヒートホークとマシンガンがあったはずだ。
誘爆していなければいいが、と飛んだ私の視界に何度目かわからないアラート。回避が間に合わず、その攻撃を受けた。
「陸戦高機動型ザクⅡ!? こんなものまで!?」
そのタックルを受け、私のフラッグは岩壁に叩きつけられる。次いで放たれるマシンガンを上昇することで数発被弾しながらも躱すと、突如機体が制御を失った。ぶつかった際にエンジンを破損したようだ。
「ぬぅ、こんな時に!」
ヒートホークを掲げて迫ってくる陸戦高機動型。致命傷だけは避けねばとサーベルで受け止めるが、力負けし押し切られる。
そして峡谷のエリアを超え、隣接していた
「くっ、ここまでか」
操縦桿を動かすが、機体は反応せず。
私のフラッグは、為す術なく水中へダイブした。
その後のことは、言うまでもないだろう。
フラッグは元々空中専用。水中では戦えるはずもなく、あっさり水中戦用のザクにやられた。ズゴックやゴックを見かけなかった辺り、隊長のこだわりは強いらしい。
番外『だから先輩はアホなんです』
はあ、とため息をつきながら、帰り道を歩く。どうして私は素直になれないのだろうか。いや、あの場面で素直になったら色々とまずかったけど。
「ただいま帰りました」
「おかえりなさいませー!」
私が家の扉を開けると、妹が出迎えてくれた。彼女はどうやら自分の部屋へ向かう途中だったらしく、そのまま行ってしまった。後ろ姿が見えなくなってから、またため息。靴を脱いで上がる。
「お帰りなさい。どうでしたか、学校は」
「いつも通りです、お母様」
キッチンで料理している母に少し嘘をついてから、私は気怠い身体を引きずるように妹と同じ部屋へ。この家はあまり広くないので、姉妹で同じ部屋を使っている。
そのまま身を二段ベットの下の布団へ投げだし、脱力。今日は疲れた。このまま眠ってしまいたい。
「お姉様? 寝ては駄目、ですのよ。お夕飯がまだですもの」
「・・・・・・はい、わかっていますよ」
妹にたしなめられてしまっては仕方ない。そのままゴロンと仰向けになってから起き上がる。
「そんなに部活は大変ですの? 文化部だと聞いていましたけれど」
心配そうにこちらを見る妹。勉強しているらしく、机にノートを広げていた。
「ええ、そんなところです」
「確か、模型部、ですわよね? 何を作ってらっしゃるんですの?」
曖昧に濁した私に、妹はお嬢様学校らしい口調で訊いてくる。そのまま話を続けようとするのは、子供だからこその遠慮のなさだろうか。
先輩だったなら、察して話を変えて──くれないな。あの人、鈍感だから。
と、逸れた思考を打ち消し、鞄から今日完成したガンプラを取り出す。
「最近作ったのはこれですね」
妹に見せたのは『ガンダムナドレ』という機体。髪の毛が生えた珍しいガンダムだ。それを自分に寄せてポニーテールに改造してある。
「へえ・・・・・・こんな
それは子供故の無邪気な質問だとわかっていたが、流石にムッと来たは私は、思わず言い返す。
「ええ、とても。お子様には理解できないかもしれませんが」
外で話す時と同じように、嫌味を含んだ言葉。だが悪意の込められたそれに、妹は気付いていないようだった。
「ならお姉様、
瞳をキラキラと輝かせる妹に、私は毒気を抜かれて再びベットへ脱力してしまった。子供の言うことに怒った自分が馬鹿らしくなる。
それもこれも、あの金髪の先輩のせいだ。
『しばらく、部活を休むことにした』
その言われた時、私はとても衝撃を受けた。私はどうにも人見知りをしてしまって家の外では毒を吐いてしまうため、こういった人間関係のトラブルが多かったのだ。
だから私は早とちりをしてしまって、思わず先輩の肩を掴んでしまった。
『ど、どうしてですか!? 私が、私がこんなだからですか!? 私がこんなだから、先輩は部活を辞めるんですか!?』
毒舌が出る余裕もないくらいに動揺して、慌てた。先輩に部活を辞めて欲しくなかった。週に一回でも、月に一回でもいいから来て欲しかった。
『先輩が辞めてしまったら、私、私は──』
あのとき、私は何を言おうとしていたのだろうか。わからない。私が教えて欲しいくらいだ。
ふと浮かんできたのは、クラスの女子が話していた内容。誰が好き、誰々が付き合っただの、そういった、私とは無縁な話題。
まさか、私は先輩のことを──
「・・・・・・いや、ないです。無理です」
あんな格好付けたがりな変人のどこに惚れる要素があるのだろうか。黙っていればモテそうな外見だが、中身はあの
「・・・・・・でも」
あの先輩は、私のことを遠ざけない。こんな口の悪い私にも、他の人と同じように接してくれる。今まで、そんな人はいなかった。
だから、離れて欲しくない。きっとそんな、依存に近いナニカだろう。
「アサヒ、マヒル、ご飯が出来ましたよー」
お母様が私達を呼ぶ声が聞こえる。私と妹は返事をして、競うように部屋を出た。
シグレ・マヒル
聖オデッサ女子学園に通うアサヒの妹。お嬢様学校なので、独特な敬語っぽい口調。
クラメイトのサザキ・カオルコ、サノ・ケイコとは仲が良い。
お察しの通り、七年後のギャン子の取り巻きである。
ザク、色んな種類がありますよね。フラッグにもカスタムフラッグにオーバーフラッグ、刹那使用とか作業用とか陸戦重装甲型とかエアロフラッグとかありますし。バリエーションの多さが量産型の魅力の一つです。
大量のザクとのバトル、というと漫画ARのカルロス・カイザー戦っぽいですが、本作のは全てCPUです。隊長が操縦しているわけではありません。だとしたらもっと早くやられてますので・・・・・・