筐体へ辿り着くと、すでに彼がいた。思わず口元を緩めずにはいられない。
《Please Set Your GPBase》
端末を置くのももどかしく、焦れったい。私が我慢弱く、落ち着きのない男だからだろうか。
《Beginning Plavsky Particle Dispersal》
いや、きっと違う。尊敬する彼の言葉を借りるなら、そう―――
ステージは市街地。ゴンダとイオリ少年達のファイトの時とは違い、コロニーではなく『第08MS小隊』でEz8とグフカスタムが戦った場所だ。ガンダム並みの高さのビル群が乱立しており、身を隠しながら戦うのが一般的なフィールド。
その上の広大な空を、狙撃してくれと言わんばかりに無防備に飛ぶ。
嗚呼、やはり空はいい。ガンプラ越しに伝わる風を切る感覚、どこまでも続く青。しかしそんな感傷は、発砲音に打ち砕かれる。
「ッ! そこか!」
狙撃を回避し、音と弾丸が飛来した方向から敵の居場所を探る。白いビルの合間からザクアメイジングの
「なるほど、誘っているのか?」
肩部とライフルが少し見えただけだというのに、私の頬は上気し、胸が高鳴る。ザク相手にコレでは、彼がガンダムを使った時はどうなってしまうのだろうか。
それた思考を軌道修正し、ビルの合間に降り立つ。隊長との訓練により、市街地での戦いも想定済みだ。カーソルをホバーモードに合わせ、音なくそれでいて走るよりも速く動けるようにする。
「こちらの位置は把握されている。あの狙撃ポイントから考えるに、私を襲うとすれば・・・・・・そこだ!」
計算と直感と愛の力でザクが出現するであろう方向を予測し左手のビームサーベルを投擲すると、ちょうどそこへザクが現れた。
『何ッ!?』
撃とうとしていたハンドガンの片方に命中し、破壊。まさかここまで上手くいくと思っていなかったぞ私も。
サーベルを回収するために胸部バルカンからスモーク弾を放つ。閃光弾という選択肢もあるが、こちらは失明の危険などから大会運営が威力に制限を設けているので至近距離でないと意味がない。
サーベルを引き戻しながら後退、ついでにザクがいるであろう箇所にリニアライフルを放つ。大きなダメージはないだろうが、牽制程度にはなるだろう。そのままビルの間へフラッグを隠す。
「理想を言えば、こうして少しずつ武器を破壊していきたいが・・・・・・」
大会のバトルには時間制限があるうえ、相手はユウキ先輩だ。同じ手が二度も通用するとは思えない。こちらはほぼ無傷、あちらは武器を一つ失った程度。ならばどうするか。
「・・・・・・考えるまでもない」
こちらから打って出る! ない頭を捻るよりか、実際に動いた方がいいに決まっている。
フラッグを建物の影から出し、周囲を警戒。動きがないことを確認し、突き進む。
以前の機体だったなら狙撃されて終わりだが、今のGNフラッグならば、発砲音を聞いてからでも避けられる、はずだ。
と、突然右腕に被弾した。ディフェンスロッドが破壊され、衝撃で各関節にもダメージが走る。
「! 音がしなかった、だと!?」
大きく距離を取りながら見えたのは、
最初の攻撃で使わなかったのは、こちらを油断させるため・・・・・・それと、スナイパーライフルほど狙撃性能が高くないため、ダメージが小さいという判断か。
しかし、マズい。私はかなり耳がいいが、流石にサプレッサーの音は聞き取れない。右腕はほぼ動かなくなってしまい、一気に形勢が傾いた。
再びビルの合間にフラッグを隠す。幸いリニアライフルは生きている。左腕はサーベルを持っているため、撃つことはできないが、使いようはある。
ライフルに細工し終わったところで、ホバー音が耳に響く。索敵能力はあちらが上、恐らく見つかっているだろう。
『見つけたぞ!』
「ッ、上!」
かなり高いビルの上に、ハンドガンとヒートナタを持ったザクアメイジングがいた。ホバーではなく機体が上昇する音だったのか。
銃弾が放たれ、こちらを逃すまいとミサイルも発射される。
「チィ!」
細工を施したライフルで銃撃を受けると、ライフルが起爆。残っていた弾とミサイルもろとも爆発する。
奥の手の一つとして用意しておいた自爆装置をライフルに取り付け、爆弾にしたのだ。爆風で攻撃を防ぐが、機体にダメージがない訳ではない。直撃よりマシだ、と割り切る。
「捉えた!」
傷を受けながら爆風を抜け、ザクに斬りかかる。ヒートナタで受け止められるが、それは想定済み。操縦桿を回し、スロットを選択してビームの出力を上げる。
『なっ、刃が!』
出力の上がったサーベルは、ヒートナタの刃をも切り裂いた。鍔迫り合いに有利になれるよう改造したのだ。
『楽しませてくれる!』
ザクが跳ね、ハンドガンを連射。こちらはビームサーベルをVガンダムのもののようにハリセン型に広げ、受け止める。GN粒子を利用したもので、GNフィールドの生成と似た使い方。ビームを薄くする代わりに範囲を広げているのだ。
「そこ!」
そのままケーブルを切り離しサーベルを投擲。左肩に突き刺さる。
落下しながら紫煙と爆発を確認し、着地。右腕からサーベルを取り出しケーブルを再接続。邪魔になった右腕を肩部スラスターを残して切断する。パーツをパージする機構はギミックを増やしたせいで作れなかったのだ。自分の未熟さを痛感する。
フラッグの損傷は激しく、ザクは未だ五体満足。ダメージは与えているが、致命傷にはなっていない。状況を把握するのは大事だよ、という隊長の言葉に従って現状確認したが、やはり劣勢だな。
同じ場所に留まるのも危険なので、左右の重量比に気をつけながら移動する。
策を考じている時間はなく、そんな思いつき程度で勝てる相手ではない。何より、あのサプレッサー付きロングライフルは健在だ。先ほどは持っていなかったが、壊れたかどこかに置いてきたのか。ユウキ先輩がそんな中途半端なものを作るとは思えない。十中八九後者だ。
「・・・・・・あれは」
運良く、市街地を移動するザクの後ろ姿を発見。国道のように広い道なので視認できた。あちらは隠れるつもりはないということか。
なら、私だけ隠れているのはなしだ。父に教えられた『ブシドー』にも反する。・・・・・・まあ、普通の武士道ではないことから察して欲しいが、色々間違っているのでそこまで重要に思ってない。
ともかく。
「どこを見ている、私はここだ!」
突撃しながら声を張る。こちらに気付いたザクが片方だけになったミサイルポッドを使うが、全て回避する。ビームハリセンではビームが薄くなってしまうため受け止めきれないと判断した。
一発が直撃コースだったがサーベルで斬り捨てる。そのまま返す刀でザクに振るうが、避けられる。反撃に振るわれるヒートナタに、スラスターの推進力を回して強引に機体を捻ってサーベルを間に合わせる。出力を上げようとするも、その前にホバーで逃げられる。タイムラグを悟られたか。
ビームの出力を調整できるようにしたのはいいが、その分粒子を消費することになってしまうので一々切り替える必要があるのだ。でないと、機体の軽量化やスラスター周りに使っている粒子が足らなくなり、フラッグの性能がガタ落ちしてしまう。そういう意味では、トランザムに近いかもしれない。
『実にいいガンプラだ。様々な創意工夫がなされているッ!』
「褒めていただき光栄!」
ホバリングしながら放たれるハンドガンを、ビームハリセンで防ぐ。ビルが邪魔で避けにくい上、そろそろ粒子残量が危うい。
『オォ!』
サーベルの出力切り替えのタイムラグを狙って、ヒートナタが振るわれる。
「ここだ!」
ギリギリで躱し、胸部バルカンから閃光弾を発射。サーベルでハンドガンを持つ腕を肘のあたりで切断する。
『くっ、目くらましとは!』
ブシドー云々はもうどうでもいい! 私には私の戦い方がある!
機体の位置が入れ替わる。斬ったザクの腕が落ちるのと同時に、再び突進。サーベルの出力を最大にする。
「うおおおおおお!」
『オオォォォォオ!』
ザクのヒートナタを切断。勢いのまま回転しもう一度サーベルを振るう。
が、ナタを手放したザクの拳が、フラッグの腕を殴り砕いた。
「・・・・・・機体が保たなかった、か」
腕を失ったフラッグはそのままバランスと制御を失い、ザクにぶつかって地面に倒れる。粒子が底をついたのだ。疑似太陽炉からも煙が上がっている。
《Battle Ended》
消えていく粒子と共に力が抜け、一つ息を吐く。悔しさはあるが、それ以上に充実感が
「いいバトルだったよ、エイカ君」
こちらに歩み寄ってきたユウキ先輩が右手を差し出す。それを握り返しながら私は苦笑した。
「私の完敗だ。持てる力の全てを使って負けたのだ、それ以外に言葉はない」
敬語を使う余裕がないのは許して欲しい。文字通り全力でのバトルだったのだ、精も根も果ててしまった。
「以前とはまるで見違えたよ。君も、君のガンプラも」
「とある人が稽古してくださったのです。今の私があるのは、彼のおかげだ」
私の言葉にいい師を持ったようだね、と先輩。手を離し、ガンプラを回収する。
「では先輩、月並みですが、私の分まで勝ち上がってください」
「後輩にそう言われては、先輩として下手な試合をするわけにはいかないな。
もちろん、全力を尽くすさ」
そうして、お互い筐体を後にする。私の選手権はここまで、だ。改めて言葉にすると、なんとも寂しく感じる。
「お疲れ様です、先輩」
会場の扉の近くに、シグレがいた。ユウキ先輩のバトルだから見に来ていたのか。
「ありがとう、シグレ。見ていてくれたのか」
そう言って、隊長のいる観戦席へ向かおうとする。と、シグレが私を引き留めた。
「あの、先輩!」
なんだ、と振り返る。彼女は何か言い足そうに口を開き、ためらう。何か言いにくいことでもあるのだろうか。社会の窓は閉まっている筈だが。
「その・・・・・・格好良かった、です」
「・・・・・・?」
いまいち理解ができなかった。それはシグレからそんな言葉が聞けるとは想定していなかったからで、単語と意味が結びつかなかった。
「ですから、悪くなかったと言ってあげているんです。素人目に見ても、ユウキ先輩相手に善戦していたと思いますよ」
「ああ・・・・・・ありがとう」
後輩から慰められるとは、やはり研鑽が足りないな。少しは成長できたと思っていたが、自惚れだったようだ。
「その・・・・・・少し、バトルに興味が湧くくらいには、いいバトルでした。・・・・・・先輩、よかったら、私にバトルを教える権利をあげないこともないです」
目を反らし、赤面しながらシグレが言う。恐らく、ユウキ先輩は選手権があるため私に頼んでいるのだろう。ゴンダは・・・・・・彼女とは相性が悪い、とだけ。
「ではその名誉、謹んで受けさせていただこう」
「・・・・・・格好良いと思ったら、すぐこれですか。なんというか、変わりませんね、先輩」
回りくどい言い方と態度から恥ずかしがっているように見えたので、場を和ますジョークをと思ったのだが・・・・・・お気に召さなかったらしい。
「夏休み、どうせ暇ですよね?」
その期間にバトルを教えて欲しい、ということだろう。
ガンプラバトル選手権の世界大会は夏休み中に行われるが、私は先ほど敗退したので関係ない。直接観戦に行くほどの金もない。
私は特に抵抗なく頷いた。
この主人公、なんでこんなに鋼メンタルなの? という話ですが、これにはちゃんと設定があります。アメリカ人とのクォーターの彼ですが、五歳までアメリカに住んでいました。なので、暴言は基本気にしない、我が道を征くという性格。まあフラッグ貶されたら怒りますが。なので国語(日本語)が苦手という訳です。
そして日本語勉強の一環で00を見たからこんなことに・・・・・・。
つみれ@インド産さん、7ゲンムさん、評価ありがとうございます!