灰信ダークソウル・ 黒魔ギアレコード   作:とけるキャラメル

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{ 1 } 今宵、付き合ってくれた貴公らに感謝を

いろはのソウルジェム

 

魔法少女、環いろはのソウル

白い獣に奇跡を願うことで、それが形を成した宝石

 

生きたままソウルと肉体を分かつことで

魔法少女は仮初の不死と使命を与えられるが

魔力を使うたびにその内は穢れてゆく

 

ソウルを弄ぶがごとき業はどこか闇の魔術に通じるが

効率ばかりを求めたそれは人間性と無縁のものだ

                                            

 

 

 

 

   環家・姉妹の部屋   

 

 

 

 

 黒い衝立(ついたて)によって、半分ほどに仕切られた部屋の中である。

 残る三方にも同色の布が垂らされており、室内は薄暗い。

 部屋の中心に位置する篝火だけが、ただ煌々と燃えていた。

 

 パチパチと音を立て火の粉が舞い上がる中、ゆらめく炎に照らしだされ人影が立ち上がる。

 

 少女とも、女性ともいえる年頃である。

 ここでは娘とでも呼ぼうか。

 

 娘は、擦り切れた帽子をかぶっていた。

 とんがり帽子である

()()()とんがり帽子──と言うほかない帽子だった。

 

 そして娘の手には、不気味な木彫りの人面が掴まれていた。

 娘は何を思ったか、面を放り捨てる。

 人面はあっけないほどに砕け散り、そして声が響いた。

 

「Hello!」

 

「やあ、はじめまして。黒魔女配信・初回だ……」

 

 娘の正面にはパソコンとカメラがあった。

 つまるところ、娘は配信者だった。

 

 くすんだ金髪が篝火に照らされる。

 癖のある髪は、どこか炎のゆらめきに似ていた。

 

『なんか始まった』『外人? かわいい』『今の何』『初見』『なんだ今の』『なんか喋った!?』『これは期待』『後ろめっちゃ燃えてない?』

 

 画面の端に、まばらにコメントが表示されていく。

 それに確かな手ごたえを感じ、娘は悠々と準備を進める。

 娘の整った面立ちは、さしあたって上々の()()()となったようだ。

 

「初見か。初見とは恐ろしいものだ……。だが知らぬものをよく恐れ、注意深く観察すれば突破口が見えてくる。何事であってもな……」

 

『なんか語り出した』『電波乙』『服気合入ってるな』『かわいい』『めっちゃ燃えてる!』『期待の新人』『室内で焚き火するな』

 

「さて、まずはこの配信の趣旨について説明するとしよう。主な催しとして、演奏をしようと考えている」

 

 娘の手が伸びるとカメラが動かされ、安物の電子ピアノが映された。

 

『もっといいやつ買え』『安物すぎる』『火い消せ』『楽器と家電は妥協するな』『コンボで草』

 

 などとピアノの買い替えを進めるコメントが続く。

 

「あいにく金がなくてね。稼ぎとは大変なものだ」

 

 娘はひとごとのように、そっけなく答えた。

 

「さて、これから披露する曲は、もう、ずうっと昔に作られた曲……。それを私なりに復元してみたものだ。おそらく聞いたことのある者は誰一人としていな」

 

 急に言葉を区切り、娘は少しだけ顔をしかめる。

 

「……いや、存外いるのかもしれんな。仮にも学問の徒を気取る身。断定なぞ恥じるべきことだ」

 

『言い回しが古風だ』『なんか勉強してるの?』『もしかして留学生?』『超燃えてるけどいいんですか』『大学生かな』『後ろ燃えてるけどええんか』

 

「フフ……勉強か……。いや何、魔術を少々な。いまだ雛鳥のごとき未熟ではあるが」

 

『そういや魔女って言ってたな』『やっぱり電波だった』『魔女狩りの研究でもしてんのか』『民間伝承とか文化人類学だな(適当)』『後ろやばい』

 

「いかなる分野であれ、どれだけ学べども興味は尽きぬものだよ。魔術も然り、ただ漠然と頭に詰め込むのではなく、そこに思いを馳せてみれば、それにまつわる人々の考え方とか、それが求められた理由などが見えてくる。……まあ、あまり深入りするのは、決しておすすめできんがね。……話を戻そう。もし貴公らに(いとま)と興味がおありならば、しばし清聴願いたい。拙い演奏かもしれんが、曲そのものは逸品であると保証しよう」

 

『自信満々』『自信があるのは曲だろ』『そこまで言われると気になる』『(どっちが……?)』『演奏する前に後ろの焚き火消せ』『火の粉きれい……(現実逃避)』

 

「それでは聴いてくれたまえ。“Nameless Song”……」

 

 娘の指が、鍵盤の上を滑るように動いてゆく。

 

 

 

 

 

 

「……いかがだろうか? 貴公らの耳を楽しませるものであったなら幸いだが……」

 

『宣言通りいい曲だった』『同意』『アーアー言ってるだけなのに美声すぎる』『燃えてる!』『歌も上手いのな』『魔女ちゃん(仮)燃えてるよ後ろ!』

『いい曲だったけど時間余りまくってて草』

 

「だいぶん時間が余ってしまったが、初回ということで大目に見てくれるとありがたい……。さて、残りの時間ずっと喋っているというのも難だ。何ぞおもしろみのある事をしようと思う。……そうだな、こういうのはどうだろう」

 

 黒い布に囲まれた部屋の中、篝火を尻目に帽子のずれを直すと、娘は机の下に手を伸ばした。

 これまた黒い布がかけられた机である。

 娘はすぐに手を引き抜くと、両手に長いものを抱えそれを机の上に置いた。

 

「クロスボウの分解」

 

『なんで……?』『何故クロスボウ』『燃えてる! 燃えてるって!』『年季入ったクロスボウだな』『それより後ろの火を消せ!』『後ろヤバいって!』

 

 娘は調子を崩さぬまま、慣れた手つきで使い込まれたクロスボウを分解していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 娘は説明を交えながら、するするとクロスボウを分解していく。

 実用性はともかく興味深い説明に、視聴者らはコメントも忘れ聞き入っていた。

 

「ここはこういう構造になっているわけで」

 

「……ルカちゃーん? ごはん、できたよ~」

 

 唐突に、食事の支度が整ったことを告げる声が響く。

 

『誰!?』『名前出ちゃったけどいいのか』『まだ燃えてる……』『かわいい声』『火の粉きれいだね』『火を消せ』

 

「……残念だが今宵はここまでのようだ。ああ、名前ならあだ名だから問題ない。悪いが家主を待たせるのも忍びない故、ここで失礼させてもらう」

 

 そう言うと娘は、先ほどのものとは異なる人面を放り捨てた。

 それはやはり砕け、そして声を発した。

 

「I'm Sorry!」

 

『また出た!』『別のお面……お面?』『思いっきり砕けてる』『早く火を消せ』『焚き火危ないよ!』『火事になる前に消せ』

 

「今宵、付き合ってくれた貴公らに感謝を」

 

 そして一礼すると、また別の人面を放る。

 

「Thank You!」

 

『おつかれー』『乙』『何種類もあるのか……(困惑)』『それより火が危ない』『いい配信だった』『これは次回も期待』『あのお面っぽいのはなんなんだよ』『さすがに部屋出る時は消すよね……?』『語りもよかったな』『結局最後まで焚き火に一度も言及なくて草』

 

 配信を終えた娘は、パソコン一式の電源を切り立ち上がった。

 そして簡素な衣服に着替え、部屋から出ると、自らを呼ぶ者を目指し歩いていく。

 

 彼女を見送るようにして、篝火はただ静かに燃えていた。

 

 

                                            

 

アジウスのつらさ

 

びっしりと書き込まれた手書きのレシピ

栄養のバランスや注意点が細かく書かれている

 

装備することで「アジウスのつらさ」の誓約者となる

 

アジウスは、年寄りじみた料理を好む者であり

それを振舞われる者こそが、薄い味と

それがもたらすつらさを味わうのだろう

だがそのつらさの由来は、食す者を想う真摯な祈りでもある

これを装備していると、自動で手料理が薄味になる)

 

 

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