灰信ダークソウル・ 黒魔ギアレコード   作:とけるキャラメル

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{ 2 } こんなことは初めての経験だ…

姉妹の肖像

 

仲睦まじい姉妹の肖像

だが妹の姿は失われている

 

写真と呼ばれる細密な肖像は、絵とは似て非なるものだ

精巧な機械を用い、光によって景色や人の姿を写し取るそれは

失われた古い黄金の魔術に通じるものがある

 

写真の中の姉は変わらぬまなざしで

そこにいたはずの妹をいまも見守っている

 

                                            

 

 

 

 

   環家・姉妹の部屋   

 

 

 

 

 朝、環いろはは目を覚ますと、部屋の中を見回した。

 半分が欠けた部屋は、姉妹のものだったはずの部屋だ。

 

 ふと、写真に目がいく。

 妹と共に写っていたはずの写真だった。

 

 写真の中で、虚空に慈しみの視線を向ける自分を見ると、消えてしまった妹を想う。

 不自然なまでの欠落に気付いて以来、いろはの心は穴が開いたようだった。

 

 いろははベッドから起き上がると伸びをして、頭と目を覚まさせつつ己を鼓舞する。

 必ず妹の手がかりをつかみ、そして見つけ出すのだと。

 そうして覚醒した五感は、最近部屋に起きた別の変化を捉えたのだった。

 

 薪の焼けるにおいと、はじける音。

 その源は、篝火だった。

 部屋のちょうど中心に鎮座する篝火は、どこか姉妹に遠慮しているように思えた。

 

 そして、篝火に頭を向けて寝転がる娘。

 彼女もまた律儀に、部屋のどちら側にも寄らず静かに寝息を立てていた。

 姉妹の領分を侵す気はないのだと、無言のうちに誓っているかのようだった。

 そんな愚直さと、どこか滑稽さの入り混じった寝姿を見ていろはは苦笑する。

 

 この奇妙な居候は──少なくとも彼女の主張するところによれば──どうやら自分が呼んだらしい。

 あるいは自分の妹・ういが消失する前に呼んだのかもしれない、とも。

 

 いろはは娘の顔を見た。

 娘はいろはより、少し年上に見えた。

 けれどいろはは同時に、その面差しにどこか幼さを感じた。

 

 いろはは視線を移し、篝火をじっと見つめた。

 篝火の薪はただの薪ではない。

 燃えているのは、遺骨だった。

 だが、不思議と遺骨への忌避感はなかった。

 

 娘は、眠ったままだった。

 別世界の眠りは、篝火がもたらす安息とは異なるそれだ。

 安息を謳歌することは、人の大きな幸いのひとつだろう。

 ならば不死とて、たまには真似事もよいものだ。

 

 娘を起こさぬよう、いろははそっと部屋を後にした。

 そして、その日も一人で朝餉をとり、出かける支度を済ませた。

 

「……行ってきます」

 

 見送る者もなく、家を出ようとしたその時。

 

「気をつけてな、貴公……」

 

 娘はいつの間にか起きて、玄関まで来ていた。

 

 返事が来るとは思っていなかった。

 だから、呆けてしまった。

 

 それが喜びからくるものだと気付かないうちに、いろはは微笑んだ。

 

「うんっ……!」

 

 娘に見送られ、いろはは学校へ向かった。

 

「ふふっ……」

 

 思わず、いろはは笑った。

 そして、娘が幼く見えた理由に思い至った。

 娘は、どこか妹に似ているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

   ロスリック城   

 

 

 

 

 しばし時を遡ろう。

 

 ロスリック。

 そこは火を継いだ、薪の王たちの故郷が流れ着く地。

 彼らを連れ戻す旅も終わりは近く、残すはあと一人。

 ロスリック城の深部、最後の薪の王が待つ大書庫に挑むべく、“灰”は準備を重ねていた。

 

 待ち受ける英雄、怪物と渡り合うための準備は、いくら重ねてもやりすぎということはない。

 己を高めるべく、ソウルを求めて亡者を斬り歩いていた灰は、奇妙な協力要請サインを見つけ足を止めた。

 

 協力を申し出るのではなく、求めるためのサインは珍しい。

 だが、それ自体は別段奇妙というほどのものではない。

 

 奇妙なのは、そのサインに起きた変化だ。

 

 灰はサインに触れ、それが示す要請者の名を口にした。

 

「た、ま、き……う、い……。この響き、東国の者だろうか……」

 

 ロスリックの識字率は高い。

 それは巡礼の地ロードラン、あるいはずっと以前から続く伝統である。

 

 火の無い灰のみならず、不死にとって読み書きは必須と言っていい技能だ。

 読み書きができなければ、メッセージから情報を得ることも、サインを書き助力を求めることもできない。

 己を助けることのできない者はまた、他者に手を差し伸べることもかなわない。

 それは火継ぎの旅路をより困難にするか否かというだけでなく、きっと多くの不死にとって看過すべきではない不名誉だろう。

 

 正気や誇りすら捨て去った不死と言えど、捨てられぬものはある。

 それを捨てなかったからこそ、灰は多くの尊いものを得てきたのだ。

 

 助力を求められたなら、それに応えるのもやぶさかではない。

 灰は「たまきうい」を助ける気があったればこそ、いったん篝火で休息し準備を整えることにした。

 

 HP、FP、エストと灰の両瓶を満たし、武器は一等の物に持ち替えた。

 そして、いざ召喚されるべしとサイン前に戻ってきた時である。

 

 サインの輝きはそのままに、それを記した者の名「たまきうい」が忽然と消えてしまったのだ。

 すわ世界が断絶(セツゾクニモンダイガハッセイ)したかと訝しむも、今度はサインそのものが消えてしまう。

 しばし考えるも結局どうこうできず、サインを破棄したものと思い先へ進んだ。

 

 だが後日、新たなサインを見つけ灰はその考えを改めることになる。

 

「たまき、いろは……」

 

 先日のサインの主、「たまきうい」。

 その縁者と思しき名前を見て、灰は何か運命めいたものを感じた。

 そして、今度はすぐさま要請に応じ、「たまきいろは」の世界へ旅立つのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆協力要請サインに触れる◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆「環 いろは」の協力要請に応え◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆霊体として召喚されますか? ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

◆◆◆◆◆◆◆◆YES◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆NO◆◆◆◆◆◆◆◆

 

     ◆◆◆◆◆◆◆◆YES◆◆◆◆◆◆◆◆

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆霊体として、別世界に召喚されます◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆霊体として、別世界に召喚されます◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆霊体として、別世界に召喚されます◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 里見メディカルセンター 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆「環 いろは」の世界に召喚されました◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆「環 いろは」の世界に召喚されました◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆「環 いろは」の世界に召喚されました◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 晴天の下、庭園と思しき場所に灰は転移していた。

 そして自らの体──霊体──が常のそれとは異なるものだと気付く。

 

「生身で召喚された……!?」

 

 本来協力者は、白い輝きを伴う霊体として、別世界に召喚されるはずである。

 だが灰の体は、限りなく生身に近いものだった。

 

「いや、これは古竜の頂で見た霊体か……?」

 

 思い浮かぶのは、いつか見た特異な霊体。

 古竜に至るを目指す戦士たち、彼らが目指す地で戦った霊体は、なぜか生身に近かった。

 

 考察もほどほどに、灰はすぐに周囲を見回す。

 そしておおよその敵の有無を確認すると、探索を始めることにした。

 

 敷き詰められた石畳を踏みしめ歩く。

 辺りには草木が植え込まれ、所々椅子が設置されている。

 どうやらここは憩いの場のようだ。

 

 少し歩を進めると、すぐに篝火が見えた。

 不死の旅は、常に篝火と共にある。

 なにはともあれ、まずは篝火を灯さない事には始まらない。

 すっかり体に染みついた、様式美すら感じられる動きで灰は手を伸ばした。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆BONFIRE LIT◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 通常、他人の世界の篝火は灯せない。

 そのはずの篝火を灯し、灰はひとりごちた

 

「……やはり、いつもとは勝手が違うらしいな」

 

 篝火は、最初の火から飛び散ったその火の粉である。

 その中心には螺旋の剣が突き立てられており、不死の遺骨を薪に神秘の火は燃え続ける。

 

 篝火は不死と共にあるが、その炎は永遠ではない。

 それは命にも似ている。

 不死でさえ、いつか終わりは訪れる。

 だからこそ生命は、火の輝きと温かさに惹かれるのだろう。

 

 灰は火を灯すと前方に目をやった。

 柵の手前に、白い輝きが見える。

 それはアイテムの存在を示すものだが、無警戒に拾おうとする灰ではない。

 宝の前には卑劣な罠と伏兵が付き物だ。

 

 灰は臆病なまでに周囲を見回し、柵の向こう側に亡者や奴隷がしがみついていないか、入念に確認してからアイテムを拾った。

 臆病は不死の美徳であり、拾い物を失敬することは倣いなのだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆淡い瞳のオーブ         1◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 灰が拾ったのは、別世界に侵入するための神秘のオーブ。

 その亜種だった。

 オーブは、かつて闇に滅んだ小国の業だが、こうした亜種は死者の異物である。

 何者かの手にかかり魂を奪われた者は、その死体に特別なオーブを遺すことがある。

 

 ソウルと肉体は密接な関係にあり、こと強大なソウルの持ち主は死亡すると骸を遺さないものだ。

 だが、ここに死体はない。

 オーブがある以上、死体もまたあるべきなのだ。

 

 ならば死体はどこに消えたのか? 

 

 灰はただならぬものを感じた。

 間違いなく、この世界に呼ばれた理由に関わりのあることだ。

 

 灰は柵に手をかけ、遠くの街並みを見渡した。

 晴天の下、人の営みがある、栄えた街並みだった。

 火は陰り、亡者の跋扈する自分の世界とはまるで異なっていた。

 

 灰にとって繁栄とは、過去にしかありえないものだ。

 火の陰りは時の歪みに通じる。

 ただ歩いて移動しただけでも、時間軸の異なる場所にたどり着くことはままある。

 ならばここは過去の何処(いずこ)かなのだろうか。

 灰は、ここを未来だとは思わなかった。

 自分が火を継いでも、こんな輝かしい未来が訪れるとは思えなかったから。

 

 現在位置を把握すべく、灰は振り向いた。

 硝子張りの塔がそびえている。

 どうやら無数の塔からなる建築物、そのひとつの屋上に自分はいるらしい。

 

 灰の寄り道は、また途方もないものになりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 未知の場所にたどり着いた際、いつもそうしているように庭園を走り回る。

 やっと探し当てた階段を降りる灰を出迎えたのは、今まで以上の未知だった。

 

 精巧で壮大だが、どこか飾りっ気というか、風情のない建築に灰は驚いた。

 だがそれ以上に一人も亡者が見当たらないことに、灰は静かに驚愕していた。

 

 そして、そんな灰を人々は怪訝な目で見送っていた。

 

 灰の旅は奇行に彩られており、それを訝しむ視線は慣れっこだった。

 だが、今回のそれは今までとは毛色が違うようだ。

 

 灰は人々の視線に、自らの服装を咎めるような意を感じ取っていた。

 擦り切れ、汚れた服。

 ロスリックでは珍しくもなんともないが、清潔に過ぎるこの地には似つかわしくないようだ。

 武器すら携えた灰の姿は、客観的に見るまでもなく不審で物騒極まりない。

 

 警邏と思しき二人組がこちらを見て話し合っている様子を見て、灰はようやく己の失態を自覚した。

 とりあえず幻視の指輪を身に着け、遠い距離から自らの姿を隠す。

 警邏からすれば目を離した一瞬で、突如不審者が消えうせたように見えたことだろう。

 ひとまず灰は人気のない場所まで移動した。

 

「こんなことは初めての経験だ……。まずは着替えなければ……」

 

 移動する間に見えた東国らしき文字や、行き来する人々の口ぶりから察するに、ここはどうやら修道院のない病院らしいとわかった。

 信仰の関わらない医療は、灰に今日何度目かの衝撃を与えた。

 灰の知る癒しとは奇跡であり、奇跡とは神への信仰からもたらされるからだ。

 どうやら人の技のみで成り立っているらしい癒しは、灰の知的好奇心を大いに刺激した。

 

 灰ははやる気持ちをひとまず抑え、この地にふさわしい装いを見極めるべく人々を遠巻きに観察する。

 医療者と思しき者は、みな白衣に身を包んでいる。

 先ほどの警邏らしき者は、紺色の上下に揃いの帽子。

 それ以外は、おそらく市民。彼らは各人思い思いの、色とりどりの服を身に着けていた。

 

 人々は装いを楽しみ、あるいは職務に応じた格好をする。

 豊かさと、平和の証だった。

 

 灰は己と、己の世界を少しみじめに思った。

 そして平穏の価値を知らず、それを謳歌する者たちを微笑ましく見守った。

 せめてこの地の人々には、自分たちのような思いをしてほしくないものだ。

 

 灰は思索に戻り、ふさわしい服を吟味する。

 襤褸や汚れがなく、鎧や戦闘服でなく、かつ、この地の服に様式が似た服。

 灰は記憶をめぐらせた。

 

 だが、ろくな服がない。

 まず服の大半が鎧であり、厳密には服ですらない。

 わずかな服の中から襤褸と汚れたものを除外すると、もはや数えるほどしか残らない。

 さらに先ほどの市民の服と似ていないものを除く。

 すると、ろくな服がない。

 

 繰り返し考えるが、同じ結論にたどり着く。

 それは火継ぎにも似た、悲しき繰り返しだった。

 

 もう、多少目立つことは割り切って、少しでも仕立ての良い服に着替えよう。

 堂々としていれば存外様になるものだ。

 灰はそう考え、条件に合致する服に着替えた。

 

 古めかしい平服。

 古い黄金の魔術の国の平服だったそれは、その名の通り古めかしいものの要求に応えていた。

 下は適当なズボンを穿けば、それなりに様になるだろう。

 そう考えた灰だったが、自らの胸元を見て、それが浅はかだったと思い知る。

 胸元が、大胆なまでに開いていたからだ。

 開放的な服装の者はまばらに見受けられるが、それにしてもこの服ほどではなかった。

 古めかしい平服はしかし、その名に反して新しすぎるきらいがあった。

 灰は平服を脱いだ。

 

 では、ロンドールの黒のドレスはどうだろうか。

 仮面や籠手を身につけなければ、少々仰々しいものの着飾っただけと言い張れるだろう。

 一度はそう思ったが、ここは病院である。

 喪服に似た亡者のドレスは、傷病者を癒し、快方を祈る場所に適しているとは言い難い。

 灰はドレスを脱いだ。

 

 もはや全裸の方がましなのではないか。

 絶望的な考えが灰の脳裏を支配しかけたその時。

 強敵を前にして心折れ掛け、だが黄金のサインを見つけたように、天啓めいた考えが閃いた。

 

「修道服だ!」

 

 修道服ならば市井で目立ちはしても、おかしいということはないだろう。

 どうかこの地にもロスリックと似た信仰体系があってくれ。

 灰は一縷の望みをかけて修道服に着替えた。

 

 ちなみに、その修道服は一般的なそれではあるが、元ロンドールの者が忌みものに乞われて身に纏ったという、なかなかにろくでもない由来を持つ。

 

 灰は修道女に扮すると、幻肢の指輪を外した。

 表面上は堂々と、しかし内心は恐る恐る歩いてみる。

 

 果たして灰の選択は正解であり、目下の課題は一応の解決を見た。

 灰は静かにため息をつくと、次なる行動に移った。

 

「たまきうい……。貴公は、何者なのだ? なぜ私を呼んだ? そして、たまきいろは……」

 

 灰を呼び、しかしその助けに応じられなかった者。

 そして、おそらくその縁者であろう者を探すべく、彼女は探索を始めるのだった。

 

 

 

                                            

 

淡い瞳のオーブ

 

里見メディカルセンターに残っていた神秘のオーブ

おそらくは環ういに関わるもの

 

彼女が消えた原因のある世界に侵入し

その秘密を解き明かせば、あるいは彼女に見えるだろう

 

瞳が見つめるものは多く、しかしそのいずれにも

穏やかなまなざしを向ける

きっと多くに愛され、そして愛していたのだろう

 


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