戦姫絶唱シンフォギア IB   作:ドナルド・カーネル

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どうも作者です。
なんとかとあるのスペシャル番組前に投稿することが出来ました。
それでは第28話どうぞ。


第28話 鉄橋にて終わりと始まりを告げる/Snow drop tear

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ハッキリ言って上条の体は万全な状態ではない。頭の傷は取り敢えず包帯を巻き無理矢理止血させたが痛みは収まっておらず、血が足りていないために顔色も最悪。ここまで走ってきたのか、肩で息をしながら雪音の方を見ていた。

そんな彼を見て思わず言葉が零れる。

 

「どうして、ここに居んだよ・・・・・」

 

「居場所に関してはお前に黙って取り付けた発信器と、『イチイバル』の反応を二課の人たちに無理言って探してもらって割り出した」

 

上条当麻に特別な右手があろうと、彼の頭脳事態は普通かそれより少し悪いものだ。そんな彼が、彼女に無断でつけた発信器の位置を割り出すことは出来ない。だから、上条は二課の大人達に頼み込んだ、自分よりもその手の力に優れていて、雪音クリスのことを気にかけている彼らに力を借りたのだ。

その言葉を聞きながら、ポケットの中をさぐり発信器を見つける。発信器を脚で壊し、上条の顔を睨み付ける。誰にも見せたくない表情から、相手に敵意を示す表情に変わっていく。相手に心配なんてさせないように、隙を見せないように、悪態をつく。

 

「・・・特機部(とっきぶつ)の奴らが、か。てか、何勝手に発信器なんてもんつけやがったんだよお前。気持ち悪い」

 

「勝手にそんな事をしたことは謝る。あとで好きなだけ殴るなり、イチイバル(そいつ)で撃ちぬいたって構わねえよ。でも俺みたいな子供(ガキ)が、住所不定な奴の居場所を突き止めるの方法なんて、これ以外思い浮かばなかったんだよ」

 

「そうかよ。それで、お前らはあたしを探して何をしようってんだ。まさか、おてて繋いで一緒に平和のために戦いましょう、なんて甘ったるいこと言うつもりじゃないよな」

 

相手を馬鹿にするような笑みを雪音は浮かべながら、

 

「・・・勘違いしてんじゃねえぞ。あたしは確かにフィーネの元を離れたけどな、お前らの味方になったつもりはねえ。あたしは自分の後始末をつけただけで、それがたまたまテメエらの目的かぶってただけ。一回共闘した程度で日和るほどお前らのことを信頼しちゃいねえんだよ」

 

もう話すことはないとでも言いたげな表情のまま、上条から目を離す。

 

「分かったならさっさと失せろ。テメエらが何遍頭下げようとあたしの考えはかわんねえからな」

 

話はここで終わりといわんばかりに彼女何処かへ行こうとした。だけど帰る場所なんてなく、今すぐここから離れたかっただけだった。

だけどそんな彼女の動きを遮るように、

 

「・・・何勝手に話し終わらせんだよ、お前」

 

押しつぶすような低い声に、雪音の体の動きが止まる。そんな彼女を無視して、

 

「俺の要件はまだ言ってねえぞ、雪音」

 

イライラをぶつけるように上条に向かって叫び散らす。

 

「・・・じゃあなんだよ。なんでテメエはこんとこまで来たんだよッ!?」

 

「お前を助ける為に決まってんだろッ!!?」

 

「ッ!?」

 

その言葉は、自分が一番欲していた言葉だ。一人ぼっちが怖くて、寂しくて、だから誰かに助けてほしくて。

でもその言葉を発したのはよりにもよって、敵対していて、自分のせいで怪我をした少年だとは思わなかった。

そして、ようやく思い浮かべた言葉を口に出す。

 

「・・・お前何言ってんだ」

 

「あの時とは言ってる言葉が違うって言われるかもしんねえけど、それでも俺は、いや()()はお前を助けに来たんだよ」

 

「・・・何で、だよ」

 

「お前のこと、風鳴さんが知ってる範囲で聞かせてもらったよ。お前の親父さん達事や、行方不明になっていた事とかな。それと親友に『クリスを助けてあげて』って頼まれたんでな」

 

まあそう言われなくても、助けたいって思っちまったんだけどな、と言葉を付け加えた。

 

それを聞いた雪音は黙り込むしかなかった。凍り付いたように表情は固まってしまい何も言い返せなかった。

分からない、どれだけ考えても自分を助けようとする理由も利点もないのに、ただ自分の事をほんの少し知っただけで戦うことをやめて、助けるなんて思考に切り替わるなんて思いもしなかった。

そして今度は何故か謝り始めた。

 

「・・・ごめんな雪音、お前の親のこと悪く言って。優しそうで『歌で世界を平和にしよう』なんて凄いこと考えて、お前と同じ願いを持っていたんだな」

 

「・・・お前、今なんつった」

 

その言葉を聞いた瞬間、彼女の怒りがふれでる炭酸飲料のように爆発的に湧き上がってきた。

 

「優しい人?凄いことを考えていた?一緒の願いを持っていた、だと・・・・・。ふざけたこと言ってんじゃねえぞッ!!!!??」

 

「・・・・・、」

 

上条は雪音の怒りに怯えず、視線を逸らそうとはしない。それどころか近づいていく。

 

「何が一緒だ!?全然違ぇよッ!あたしの現実的な考えと、あんな夢みたいな考え一緒な訳ねえだろッ!!」

 

「・・・一緒の思いだよ」

 

「何処が一緒なんだよッ!!?」

 

「どっちの願いも、根本にあるのは争いを終わらせたいっていう優しい思いだろうが!?」

 

「ッ!?」

 

そんな風に考えたことなんて一度もなかった。片や暴力を用いて痛みと恐怖で相手を従わせ、二度と戦う気を起こさせないようにするやり方。片や音楽を用いて言葉は伝わらなくとも、音色によって相手の心を静めいやしていくやり方。

方向も使う物もそれによって相手がどう思うかも全く違う方法。でも、それらを行おうとした親子の根底にある願いは同じものなのだ。

だけども、娘はそれを否定する。

 

「違う、違う違う違う違うッ!優しい親なわけあるか!もしあたしのパパやママがお前が言う優しい人だって言うなら、なんであたしをあんな危険なところに連れ出したんだ、なんであたしを残したまま死んじまったんだよッ!!?」

 

「確かにお前をそんなところに(紛争地帯)に連れて行った理由は俺には分かんねえよ。だからこれは俺の憶測になっちまうけど、多分お前に何かを見せたかったんじゃねえのか。自分たちの願いを叶えようとしているところを見せて、何かを伝えたかったんじゃないのか」

 

「それが歌で争いのない世界を作る事だっていうのかよ・・・・・ッ!?」

 

「さあな。悪いけど俺には過去に戻る力や、死んだ人たちの声が聞こえる訳じゃねぇから聞き出すことは出来ねえよ。でも、近くに居たお前なら覚えてんじゃねえのか?」

 

「・・・分かんねえよ。何でパパとママはあたしを連れて行ったのか思い出せねえんだよ!」

 

どれだけ思い出そうにも辛い記憶が邪魔をする。痛みと恐怖が自分の思いを阻害する。どうやっても少女は自分の願いを叶えることは出来なかった。

雪音の側まで近づいた上条は一つ提案する。

 

「じゃあゆっくりと思い出せばいいだろ。時間かけてお前の親父さん達がお前に伝えてたかことをさ」

 

「・・・そんな事できる訳ねえだろ」

 

ポツリと呟く。悲しそうで、それでいて仕方がないような諦めの言葉が零れる。

 

「・・・あたしに、そんな事が許されるわけねえだろ。あたしが起動させた『ソロモンの杖』のせいで多くの人が犠牲になった。それだけじゃねえ。お前や、お前の仲間を殺そうとしたんだぞ。そんなあたしに安らぎや救いを求める資格なんてねえよ。仮に、誰もが笑って、誰もが望むそんな世界があったとしても、そこにあたしの居場所なんてねえんだよ!」

 

かつて、誰にも聞こえないように『たすけて』と呟いた少女がいた。

だけどそれは、絶対に言ってはならない言葉だと少女は理解していた。

自分にはそんなことを許してもらえるような人物ではない。

どれだけ辛くても、どれだけ苦しくても、絶対に自分は救いを求めてはいけない。

自分の居場所は、地獄の大底にしかないのだと少女は、諦めて、納得するしかなかったのだ。

 

でも。なのに。

 

「そんな事ねえよ」

 

優しい声で、自分の意思で意思で来た少年は少女の言葉を否定する。

 

「救いを求めちゃいけない人なんて居ねえよ。例えどんなに悪いことをしたとしても、ちゃんと謝って反省すればいい、そうすれば許してくれるよ。だから諦めて絶望してんじゃねえよ」

 

「そんな、こと」

 

「もしもそれでも許してもらえないって言うのなら、お前と一緒に俺も謝る。何回でも、何十回でもお前の禊ぎに付きあう。だから生きることを、自分を許してやれよ」

 

少女に向かって手を差し出す。『たすけて』の声に答える為に、彼女を助けてくれと言った人の願いを叶えるために、自分のやりたいことを行うために。絶対に少年は諦めることなく手を伸ばす

それでも少女は伸ばさない。

 

「無理、だよ。あたしには地獄の底以外に居て良い場所なんて・・・」

 

「お前の居場所が地獄の底しかないって言うのなら、無理矢理でも引きずり上げてやるよ」

 

少女が手を伸ばさないのなら無理にでも掴み取り、もう片方の手はそのまま抱きしめる。その手は自分の物より大きく温かい物だった。感じたことのない、いいや、まだパパとママが生きていた頃には当り前だったかもしれない温もりが少女に流れてきた。

 

「もう逃がさねえぞ雪音、何があっても俺達がお前を助ける。だからもう安心しろ」

 

「・・・いいの、かな。あたしは助けを求めても?」

 

「ああ、当り前だろ。もしそれを否定する奴がいるのならそんな奴は俺がぶっ飛ばしてやる。何があってもお前の味方として戦ってやる。だからもう、我慢しなくて良いんだよ」

 

「・・・・・あ、ああ」

 

その言葉を聞いた時、凍り付いた少女の涙腺から、溶け始めた雪のように涙が流れてきた。大きな声でもう何かに耐えることなく感情のままに泣き始めた。そこに居たのは、銃と鎧で身を覆った少女ではなく、泣きじゃくる一人のありふれた少女だった。

 

ある程度泣き止むと少女は黙り込んでしまい、

 

「・・・それでこれからあたしをどうすんだよ?」

 

「まあ、取り敢えず風鳴さんのとこにでも連れて行こうかなって思うけど「嫌だ」え・・・?」

 

「お前と一緒に居たい。お前の側から離れたくない。知らない人の所なんか行きたくない」

 

予想外な言葉に対して固まってしまう。だが少女はこちらを向くことなくそのまま話し続ける。

 

「助けてくれる、って言ったよな。まさか今更嘘だって言うんじゃ・・・っ!?」

 

「そんな訳ねえだろっ!?」

 

「じゃあ一緒に居てくれよ。あたしを助けてくれよ・・・」

 

「・・・ああ、もちろんだ」

 

「・・・良かった。あたしはもう、本当に一人でいるのは嫌だからな」

 

安心したような声が少女の口から漏れる。なのに、その声はとても温く、ジメッとしたもののように感じる。

そんな声を聞きたくないと思った上条は彼女から離れ、家に連れて行こうとする。

 

「それじゃあ、取り敢えず俺の家に行くか」

 

「ああ、分かった!」

 

先程の声とはうって変わって、明るくからっとした声で返してきた。それどころか自分から近づいて腕にひっついてきた。柔らかく大きな物腕の感覚を支配する。

にやけそうな顔をしっかりと固め彼女と共に上条は家に帰っていった。

 

だけど、少年は気がついてはいなかった。少女の目が重く歪んで物になっていたことを。彼女の心には『何か』が住み着き始めていたことに。

気がつかないまま、少女の絶望は終わり、『何か』が始まった。




誤字、脱字、感想お願いいたします。

上条×IF装者 見たいのは?(ビッキーは『翳裂閃光』があるので今回はなしで)

  • 風鳴翼
  • 雪音クリス
  • 月読調
  • 暁切歌
  • マリア・カデンツァヴナ・イヴ
  • セレナ・カデンツァヴナ・イヴ

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