戦姫絶唱シンフォギア IB   作:ドナルド・カーネル

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どうも作者です。
現在アンケートを実施しています。締め切りについては、次回投稿日とさせて頂きます。
また番外編の内容についてのリクエストに関しては、完走欄にて受け付けています。
さあ今回もまた未来さんが一位になるのか・・・。
それでは第37話どうぞ。


第37話 シンフォギア

9

人間が耐えられるものには限界がある。痛みや音や匂い、そして感情。

それらが限界を迎えると、人間はただただ頭が真っ白になり、そして・・・。

 

「―――ぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!??」

 

ただ、叫ぶしかなかった。泣くわけでも、怒るわけでもなく、喉から血が流れるかもしれないほど叫ぶだけだった。

 

上条は自分を責める。結局何も出来なかった。あの日から何も変わってはいない。親友と呼べる少女を守ったところで、右手に変な力が宿ったところで、一人ぼっちの女の子を助けたところで、何も、変わってはいない。

何か出来るのではないのかと思っておいたがそれはただの思い上がりで、結局自分は何処にでもいる平凡な高校生だったのだ。

それを実感し出すと、切れないように必死に張っていた糸が途切れた感覚に陥った。

影縫いで拘束されていた体は自由に動くことが出来るのに、そこから動くことは出来なかった。

 

頭の中はグチャグチャになり、何をすべきだったのかも忘れ、ただ終わりが来るまでここにいるしかないと思うだけだった。

そして、絶望で心が折れそうになった時、声が聞えた。

 

「・・・とうま。大丈夫?」

 

声のする方を見ると、シンフォギアではなく学生服を着ていた立花がそこにいた。

ただ、自分と同じくらい憔悴した表情と目をしており、目元には涙を流した後が見えていた。

 

「立花・・・」

 

「・・・・・私、何も出来なかった。クリスちゃんが宙に上がったときも、翼さんが塔を斬ろうとしたときも、見てることしか出来なかった。それどころか当麻や了子さんをこの手で、人と人をつなぎ止めようとしたこの手で・・・っ!」

 

「・・・大丈夫だよ。俺も櫻井さんも生きてる、お前は誰も殺してなんかいない」

 

「でも私、学校にいる人達を守れなかった・・・」

 

「小日向や風鳴さん、安藤達もみんな生きてる。顔見なきゃ安心できないってんなら、今からみんなのところに行こう」

 

そう言って立花の腕を自信の肩にかけ、上条は動き出す。

正直なところ岩盤に叩きつけられた痛みがまだ残っているし、頭の中もグチャグチャしたままである。でも、自分よりも辛そうな顔をした人がいる。なら、こんな痛みは耐えられるし、頭の中も少しだけ整理することは出来る。

フィーネは間違いなく生きているが、今の立花を戦わせるわけにはいかない。いざというときは自分が前に出るつもりでと考えていると。

少年の体が宙を舞った

 

「ガァッ!!?」

 

「当麻ッ!?」

 

ガレキの上を転がりながら新しい傷と流血箇所が増えていく。

上条の額から流れてくる血は朧気な景色しか見せず、誰の仕業かを確認する前に体が宙に浮きだした。

そして上条の目にようやく犯人の顔が見えた。

 

「良くも、良くも良くも良くも良くもォッ!!邪魔をしてくれたなァァァああああああああああああああああああッ!!!!」

 

「櫻井、さん・・・っ!」

 

「止めて、ください。了子さん・・・!」

 

頭の血管が切れそうな程の怒りを見せる櫻井了子(フィーネ)は上条の首を掴みながら、立花の腹をサッカーボールのように蹴り上げた。

 

「ガッ!?ゴホゴホ・・・ッ!」

 

「立「誰が話すことを許可したぁッ!!」がぁああッッ!!?」

 

首を掴んでいる手に力を入れ無理矢理黙らせ、地面に叩きつける。

 

「今度こそお前の右手の力を封じた後に、その絞りかすであるお前を殺す。お前を殺しておかないと、その右手は元に戻ろうとするからな」

 

「ぁ。がぁ・・・」

 

手足には力が入らず、本格的に意識が朦朧とし始めた。悪態や命乞いのような言葉も話すことは出来ず、ただただ女を見ることしか出来なかった。

何か口ずさむと、女の手には剣が現れていた。人を斬る以外の要素を全て差し引いた無駄のない道具、翼のアームドギアのような玩具の見た目とは違う冷たいものであった。

麻酔なんてものをかけるはずもなく、フィーネはそのまま剣を振りかぶろうとした。その手前で、

 

「どうして、こんなことを・・・」

 

上条の口からそんな言葉が漏れた。その言葉を聞いてフィーネの手が止まる。

 

「どうしてあんたは、月を壊そうとするんだ・・・」

 

少し考える素振りを見せ、哀れみの表情を浮かべた。

 

「良いだろう。何も知らずに死ぬというのもあれだからな、お前にも教えてやろう」

 

フィーネは剣を地面に刺し、言葉を紡いだ。

 

「・・・・・遙か昔、人々は同じ言葉を用いて神とも語り合う事が出来た。私はそこで巫女として生き、ある御方に恋をした。そして何時の日か、あの御方と同じ場所に立つことを望み、私たちはそこに至るための塔を建てることにした」

 

「・・・でもそんな塔は見当たらねえぞ」

 

「ああ、そうだ。実際私たちは塔を建てることは出来なかった。塔を建てる前に私たちから言葉が奪われたのだ!」

 

「・・・・・、」

 

昔、本で読んだことがある。神に近づこうとした人を罰するために、神は一つの言葉ではなく、多くの言葉を作り出して隣の人と話せなくさせたのだ。

上条はそれを伝説の物語だと思っていた。

しかし、目の前の女はそれが本当にあったことだと言っていた。

 

「信じられないといった顔だが、これは事実だ。そして私はあの御方との会話の術を失い、『愛している』という言葉さえも二度と伝えることは出来なかった」

 

月を見上げる表情が、どこか物憂げに見える。

 

「私はもう一度統一言語を取り戻すために何度も蘇った。だけど成功したことは一度もなかった。最初の内は自分で一から統一言語を作りなおそうとしたこともあったが、分かれた言葉はあまりも多く、そして一つ作り上げる度に十数の言葉が生まれ、いつしか作ることも諦めた」

 

「まさか、お前が使っていた言葉って・・・」

 

「お前の想像通り、あれこそが私の作った出来損ないの統一言語。それに少し改良を加えたものだ」

 

小日向はフィーネの言葉を英語や聞いたことのない言語だと言っていた。上条自身も日本語や違う言葉に聞えていた。

それは間違いではなく、一つの言葉を複数の言語に聞えるようにしたものだというのなら、話が見えてくる。

『一にして全』ではなく、『全にして一』を為すために作り上げられた言語。

だが失敗の烙印を押されたそれは、女がたった一人だけに使う言葉として本来の形を失った。

 

「そしていつの日か、方法を変えることにしたのだ。新たに作り直すのではなく、その元凶である『バラルの呪詛』を刻まれた月を破壊するとッ!」

 

「・・・本気で言ってんのかテメェ。そんなことをすればどれだけの被害が出るのか分かってんのか!?それにそんな事して、お前が言ってた『あの御方』が、喜んでまた言葉を交わしてくれんのかッ!!?」

 

「・・・貴様が、貴様がそれを言うのかッ!?」

 

ゾクッ!!フィーネから放てた怒気をまともに受けたとき、立花響がデュランダルを持った時以上の悪寒が背中を駆け巡る。

恐怖で震えそうになる前に、転がっている上条の腹を蹴り跳ばし、近くのガレキにぶつける。

 

「が、ぁ!?ァァァあああああああああああッッッ!!!???」

 

「言葉が通じなくなったあの日に!最後の最後のその時まで、あの御方と一緒に付きにいた貴様が言うッ!!?」

 

言葉をかえそうにも首をつかまれ、今生きるために呼吸するのが精一杯だ。

 

「あの御方は自身が使っていた武器だけを地球に戻して帰ってこなかった!なのに貴様は、どう言う訳か自身の力のみを誰にでも与えてはそのもの達に私の計画を壊すように働きかけるッ!!何故貴様は何時も私の邪魔をするのだ!!?」

 

上条は怖い。

月をも破壊するレーザーを作った執念でも、ほんの少し力を加えるだけで少年を肉塊に変えるちからでもない。

ただただ生身の感情をぶつけてくる『ヒト』が怖い。

 

「答えろッ!何の理由を持って我が思いを阻むッ!!私はあの御方との話したいだけだというのにッ!!?」

 

「ッ!?・・・・・」

 

答えることなんて出来ない。だって自分は右手から何も聞かされてはいない。ただいつの間にか宿っていて、使い方すら話さないままそこにただ存在するだけだ。

フィーネの方も答えが帰ってくるとは思ってはいないようで、上条を放り投げ地面にさしたままの剣を引き抜く。

 

「やはり時間の無駄だったな。ではさらばだ、恨むのなら幻想殺し(イマジンブレイカー)に選ばれたお前の運のなさを恨め」

 

そう言って剣を振り下ろそうとする。

邪魔な右手を斬り落とすために。

自身の望みを叶える確率を上げるために。

振り下ろされる剣を見ながら、上条は女の言葉を聞いて少し考える。

もし自分が同じ立場いたら。

大切な人が何も言わずにこの世界の理を変えるようなことをしたのならどうするだろう。

悲しみに暮れて立ち直ることすらできないかもしれない。

女と同じように世界を世界を敵に回してでも己の願いをかなえようとするかもしれない。

その答えはすぐには出てこない。

ああ、だけど。

 

「ふざけんじゃ、ねェぞ・・・ッ!!」

 

パキンッ!タイミングを見計らって右手を剣にぶつける。

そして、その右手を使って女の腹をぶち抜くような勢いで撃ち込み吹き飛ばす。

 

「くっ・・・!?」

 

「テメェの言い分は分かったよ。俺が思ってる以上に、長い間一人で頑張ってきたんだろうな。けどな、テメェは俺の大切な人の命を奪った!それどころかまだ俺から大切な人や場所を奪おうとしやがるッ!そんなふざけた考えを認める訳ねぇだろうがッ!!」

 

脳裏によぎるのは雪のような白い肌を持つ銀髪の少女と青く長い髪を持つ歌姫、そして太陽のように明るい少女と陽だまりとして彼女の帰りを待つ少女。それだけじゃない、新しい学校で出来た友達や彼女たちの事を気にかけてくれた大人達、そして自分をこの世に産み落としてくれた両親。

そんな人達の未来と尊厳に傷を付けさせてたまるか。

 

「いつか訪れる死が今日だっただけだ!愚かな人間共の行く末など、私の知ったことじゃないッ!!?」

 

「テメェだって元は同じ神様って奴に憧れた人間だろうが。だったらどうして、その思いを貫こうとしなかった!なんで人と人を繋ぐ言葉を作り上げるのを諦めたんだッ!!」

 

「ッ!?」

 

「楽な方向に逃げて、大量殺人者の烙印を押されてまで為すことなのかよ。フィーネッ!!」

 

恐れるな。勇気を奮い起こせ。

立って拳を握れ。

もうこれ以上の悲劇を作り上げるな。

もう誰一人として奪わせてたまるか。

ゆっくりと立ち上がり、敵の顔を見る

 

「何のためにお前は立ち上がる。その力に選ばれた者の責務とでも言うのかッ!?」

 

「そんなんじゃねえよ。ただこれ以上、テメェの好き勝手にはさせてたまるかってだけだッ!」

 

右手に力が宿ったの理由は今も分からない。でもなんとなく理解した。

これの最初の宿主は、きっと彼女にこれ以上罪を着させたくはない。

だから時間を超えて、何度も彼女の元に現れたのだろう。

 

「だが、貴様一人で何が出来る!こちらには『ソロモンの杖』があり、その気になれば物量差で貴様を殺すことも出来るッ!!」

 

「ッ!?」

 

「さあどうする、幻想殺し(イマジンブレイカー)ッ!!?」

 

 

 

(・・・立たないと。当麻を一人にさせたままはダメだ)

 

そう思ってはいるのに足に力が入らない。

まだ人をこの手にかけようとして事実が怖い。

それだけじゃない。今もまだ親友の安否が確認できないこともあるのだろう。

 

(・・・私はやっぱり弱いままなのかな)

 

追いつきたいと、一緒に戦うたいと思っていたのに。また彼の背中を見ているだけだ。

体も心も痛くてたまらなくなってきた時。

 

倒れていたスピーカーから音が流れ始めた。

 

「なんだ、この歌は?」

 

フィーネも上条もその歌を知らない。

だけど立花はその歌を知っている。

 

(リディアンの校歌だ・・・)

 

入学式や音楽の時間に歌っていた校歌。まだ耳新しさを感じるが、それでも好きな歌。

そしてその歌っている人物が誰なのかも分かった。

 

(・・・未来の声だ。未来の声が聞えた!)

 

いつも自分の隣にいてくれた親友。連絡が来たとき、すぐに切れてしまい心配だったが、やっと声が聞けた。

もう一人の親友が言っていたことが事実で本当に良かった。

そう思うと、体に力がわいてきた。

まだ失ってはいない。

これ以上失いたくはない。

自分よりも先に逝った少女達のためにも体に力を込めろ。

自分の胸の思いを伝える為に、体に光を纏いながら彼女は立ち上がる。

 

「まだ戦えるだとッ!?」

 

彼女の様子を見てフィーネは驚く。

 

「何を支えに立ち上がる?何を握って力と変える?流れ渡る歌の仕業か。その、お前が纏っている物は何だ」

 

(いくら融合症例とはいえ、心は普通の人間。少なくとも幻想殺し(イマジンブレイカー)に選ばれるだけの素質はなかったはずなのに・・・ッ!?)

 

「それは私が作った物か?お前が纏っているそれは、一体何なのだッ!?」

 

女の疑問に少女は迷わず答える。

迷う理由もない、命をかけて守ってくれた人がくれたプレゼントの名を、少女は叫ぶ!!

 

「シンフォギアァァァああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!」

 

それに呼応するように赤と青、そして黄色の光が地上から放たれる。

それは月を破壊するようなものではない。人を包み暖める奇跡の光。

赤と青の光は黄色の元に集まり空高く飛び上がった。

そこにいたのは、

 

「翼さん!雪音!」

 

「何故貴様らが生きている!?」

 

白色をベースとして各自のパーソナルカラーを纏い、背中から戦乙女(ヴァルキリー)のような翼を持つ戦姫達だった

散ったと思われた少女達の生存に上条もフィーネも驚きの色を出していた。

だがそれでも、悠久の時を生きる巫女は折れはしない。

 

「どれだけ集まろうが関係ないッ!私の願いはだれにも邪魔されたたまるかァァァあああああああああああッッッ!!!!??」

 

その言葉に対して、地上に立つ男は言った。

 

「いいぜ。テメェが誰かを傷つけてでも、自分の願いを叶えようってんなら・・・ッ!!」

 

右の拳を握り自身の覚悟を告げる。ここから先は、世界の命運をかけた決戦でもあり、そして・・・。

 

「まずは、その幻想をぶち殺すッッ!!!!」

 

人の願いを守りぬく戦いでもあるのだ。

 

第37話シンフォギア=Despair Breakers




誤字、脱字、感想等ご報告お願いいたします。

上条×IF装者 見たいのは?(ビッキーは『翳裂閃光』があるので今回はなしで)

  • 風鳴翼
  • 雪音クリス
  • 月読調
  • 暁切歌
  • マリア・カデンツァヴナ・イヴ
  • セレナ・カデンツァヴナ・イヴ
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