いよいよ無印編最終回です。
それではエピローグどうぞ。
病院から彼が目を覚ましたという連絡を弦十郎から受けた立花と小日向は、すぐに病院へと向かった。
息を切らせながら病院に着くと、連絡をくれた弦十郎、立場達と同じく額に汗をかいていてた翼と雪音達がそこにいた。
余裕のない表情で立花は弦十郎に詰め寄った。
「師匠っ!当麻が目を覚ましたって本当なんですかッ!!?」
「あの、もう会えるんですよね。だから私たちを呼んだんですよねッ!?」
「おじ様は彼に会っているのですよね。彼は無事だったのですかッ!?」
「もう何日もあいつに会ってないんだ。会わせてえんなら早くしろよッ!!」
「・・・ああ分かってる。だがここは病院なのだ。すこし落ち着け」
周りの様子などきにせず怒濤の勢いで詰め寄ってくる立花達に、たじろぐ様子もなく弦十郎は静止の声を唱える。
立花達が落ち着いたのを見計らい、弦十郎は事情を話し出した。
ただし、彼が目を覚ました事に喜んでいる顔をしながらではなく、どこか話すことを躊躇うような顔で話し始めたのだ。
「今、医者が彼の検査をしている。もう少しで終わるのだが・・・・・」
「じゃあ・・・ッ!」
「だが一つだけ、問題がある」
「問題・・・?」
少しだけ、落ち着いた声で尋ねる小日向に対し、意を決したように話し始めた。
「実はだな・・・・・」
話を聞いた全員は、病室の前に立っていた。
トントンと、全員を代表して立花が戸を叩く。
たったそれだけのことが病室の前に立っていた全員が、心臓が破裂しそうなほど高鳴っていた。
はい?と、何度も聞いた声が返ってきた。
喉の奥が干からびそうになる。ゴクリ、とつばを飲み込み立花は戸を開ける。
そこにいたのは、頭や腕を包帯によってぐるぐる巻きにされた少年だった。
整髪料を付けてないため、何時ものツンツン頭ではない、珍しいサラサラな髪型だった。
真っ白なベッドの上で上半身だけを起こしており、7月上旬ではあるが暑い部屋を涼しくするためか、それとも外の空気が吸いたかったのか窓が開いており、入ってきた風によって真っ白なカーテンと透明なレースカーテンがなびいていた。
部屋に入ってきた全員が同じ気持ちであった。
それだけの事実に、特に小日向未来は涙を流しそうになっていた。
ここ最近、いつも眠ってる彼しか見ていなかった彼女からすれば、心のにが降りて、こらえていたナニカが溢れてしまっていたのだろう。
彼の名を呼ぼうと、話したかった事を話そうと喉から口へ言葉を放とうとしたその時。
あの・・・、と少年が彼女たちの方を見ながら言った。
「
少年の言葉はあまりにも丁寧で、不振そうで、様子を探る声だった。
まるで、顔も見たことがない赤の他人に電話で話しかけるように。
――・・・医者が言うには、記憶喪失といったものではなく、記憶破壊という事だそうだ。
弦十郎から受けた説明が彼女たちの脳裏をよぎった。
――思い出を『忘れた』のではなく物理的に脳細胞ごと『破壊』されたとのことだ。頭蓋骨に穴を開けられ、直接スタンガンでも突っ込まれない限り起こりえない事象であり、詳しく検査をしないとハッキリとは言えないが、もう彼が俺達のことを思い出すことはないとのことだ。
「・・・そんな。笑えない冗談は止めてよ。当麻」
未だその事実を飲み込めなかった小日向は、嘘であることを願いながらそう言った。
だけど、事実は彼女の思うようにはいかなかった。
「・・・当麻って俺のことですか?」
「っ・・・・・私のこと、分からないの?小日向未来。君の友達だよ」
「・・・俺と君は、友達?」
少女の言葉に少年はオウム返しのように答えていく。それが、どれだけ彼女の心を傷つけているかも気づかずに。
突如、少女の目の前が歪んでいた。それは、目から溢れてきた涙のせいであった。
「上条。本当に君は・・・」
「貴方は、歌手の人?ですよね。ほら、この雑誌に載ってる」
「っ!」
そう言って彼は、今の情報を伝えるために医者が渡したであろう雑誌を見せてきた。
その写真はあの時の、復帰ライブで撮られたものであった。
今の顔とはまるで違う、笑顔で歌っていたあの日の写真。
「アレ。でもなんでこんな有名人がこんな所にいるんですか?」
「・・・・・ぁ」
顔を下に向け、翼はグッと歯を食いしばる。年長者である自分が、人一倍泣き虫だと言われてきた自分が泣いてはいけない。そう思えば思うほどに、周りの音が聞えなくなっていた。
「・・・いい加減にしろよカミジョー。そんなんであたし達が驚くとでも思ってんのかッ!?」
泣きそうな声を荒らげながら、雪音クリスは怒鳴り散らしていた。
「え、何ですか急に」
「もう良いんだよそんなサプライズは!もう十分驚いたから止めてくれよッ!!」
少年に近づきながら彼の胸元につかみかかろうとする。
ここまですれば、さすがにいつもの彼に戻ってくれると思って近づいていくが。
「止めて下さい!急に、怒鳴らないで下さい・・・・・」
「!?・・・・・ごめん、なさい」
少女の手をはたいて、少年は怯えていた。
その顔を見て、少女は何も言えなかった。
その顔は、一番自分が見たくなくて、させてはいけない顔だった。
だから小さく震えた声で謝りながら、その場に座り込んでしまった。
そして、いまだ一言も発していない立花響が、ついに沈黙を破った。
泣きそうな声と顔に力を入れた話し出した。
「・・・そっか。私たち、初めましてなんだね」
「・・・ええ、そうですが」
「じゃあ、自己紹介しなきゃ、だね!」
大きな声で笑いながら少年の方を見た。
「私の名前は立花響、15歳。君と同い年なんだよ」
「・・・そうなんですか」
「誕生日は9月13日で血液型はO型。身長は157cmで体重は、恥ずかしいから言えないかな」
「・・・はぁ」
「趣味は人助けで、好きな物は、ご飯、アンドごはん・・・」
「・・・素敵な趣味ですね」
少女の口が、少しずつ止まっていく。
「それでね・・・」
話さなきゃ。伝えなきゃ。そう思うのに口が動かなかった。
堪えていたはずの涙が流れて、笑い顔も作れなくなってきた。
それでも、少女は口に力を込める。
「・・・彼氏、いない歴、は、年齢と、同じで。それで・・・・・」
言いたい言葉が続かない。
目の前の少年は、聞く態勢を崩してはいない。彼女が次に話す言葉を待っている。
「・・・それで、何ですか?」
「・・・・・えっとね」
もう限界だった。顔で涙を拭かないとダメなほど顔は濡れていた。
少女はようやく飲み込むことが出来た。
目の前の少年は、
そしてその事実は、今ここにいる少女達全員が認識することが出来たのだ。
「・・・・・、」
だったらなおさら、このままで終わらせてはいけない。
少女は拭こうとはせず、少し息を吸って笑顔を作ろうとした。
もうこれ以上何かを言うことは出来ない。ならばせめて、あの少年が安心出来るように、完璧なんてものとはほど遠い、
「なんつってな、引ーーっかかった!あっははーのはーーーっ!」
はえ、と少年を除く全員の動きが止まった。
透明としか表現できなかった少年が色づいていく。
「いやぁ、詰め寄られたときはもうバラそうかなっておもったけど、あん時バラさなくて良かったーー!!」
目を擦ったり、顔を引っ張り、何度も瞬きしたりと、なんだかとんでもないものを見てしまった表情をする少女達。幻覚でもなく、何時もの彼が、いつも通りの反応でそこにいたのだ。
「あれ?え?当麻?あれ?脳細胞が吹っ飛んで全部忘れたんじゃ・・・」
「なーにとんでもないこと言ってんだよ
身体を動かすことが出来ない少年は笑いながら、
「まあ実際色々とヤバかったし、身体に直撃したときはもう終わったーー!!って思ってんだけどさ・・・」
「思ったんだけど・・・?」
「イヤぁ、ほんと。右手様々だなっ!!」
「え・・・。まさか・・・・・っ!?」
その状況を見ていない少女は、一つの可能性が思いついた。
普通な彼の、一つだけ普通では無い
「そ。あん時ギリギリで右手が間に合ってさ、ぶつかったと同時位に右手が頭に触れてたんだよ」
まあ打ち消せる力じゃなかったらアウトだったんだけどなぁ!と笑いながら話していた。
それを例えるなら、火の付いた導火線にだって、爆弾に火が届くまでに導火線を切れば爆破しないように、上条の身体を走る
デタラメすぎる。
デタラメすぎるが、神様が作った
呆然と、そこにいる少女達が床に座り込んでしまった。そして
「ぷっぷくぷー。それにしたってお前らの顔ったらねーよなー。普段さんざん
・・・・・。誰も、何も答えない。
「――――――って、あれ?・・・・・あのー」
さすがに不安になってきた上条は、声をかけてみる。
彼女たちの顔がゆっくりと俯き、表情を読み取ることが出来ない。
座り込んだまま、肩が小刻みに震えている。なんだか知らないけど全員の風景が蜃気楼のように歪んで見えてきた。
果てしなく嫌なトーンに、上条じゃ思わず探りを入れてみた。
「えっと、一つお尋ねしたいんですが、よろしいでございますか姫君達?」
なに?と全員を代表して立花が答える。
「あの、もしかして・・・・・本気で怒って、ます?」
ドガゴカバキグチャ!!と病院には相応しくない打撃音と少年の絶叫が病院に響き渡った。
その音を聞いた弦十郎と入れ違えるように、ぷんぷんという擬音が出てきそうな立花達が病室から出てきた。
「・・・あー大丈夫か?当麻君」
「死ぬ、これまじで死ぬ・・・・・」
うつろな目をしながら、包帯を巻かれた箇所から血が噴き出しいた上条みて、弦十郎は同情の視線を送ってしまう。
ドアを開き外に人がいないかを確認したのち、弦十郎は上条の方を見る。
「けど、あれで良かったのか?」
何がですか、と少年は答える。
「君、本当は何も覚えていなんだろ」
透明な少年は黙り込む。
彼女たちに聞かせた話ほど、神様の作った
あの日、少年の右手が間に合うことはなく、光は彼の頭へと直撃した。
そんな話を小日向未来から弦十郎は聞いて、彼に伝えた。
それ以外にも、弦十郎の知る範囲で、上条当麻という人間の話を伝えた。
そんなものは、他人の日記を読んでいるのと変わりない。
他人の日記の中で、顔と名前が一致しない女の子がどう活躍しようが知ったことではない。
今の話は、他人の日記を元に描いた単なる作り話に過ぎなかった。
この右手に神様の作った
信じられるはずがなかった。
「けど、あれで良かったんじゃいんですか」
透明な少年はそう言った。
他人の日記のくせに、それはとても楽しくて、とても辛かった。
失われた思い出は戻ってこないのに、
何故だか、それはとても哀しいことなんだと思うことが、できたから。
「俺。なんだか、あの子達にだけは泣いて欲しくないなって思ったんです。そう思えたんですよ。これがどういう感情か分からないし、きっともう思い出すことも出来ないだろうけど、確かにそう思うことが出来たんですよ」
透明な少年はそう言って、弦十郎に笑いかけた。
その笑顔を見て、弦十郎は、
「・・・すまない。君は我々大人が守らなくてはならない存在だ。それなのに、いつも守ることが出来なくて、本当に申し訳ないッ!!」
頭を下げて、謝った。
どうして、そんな風に謝ってるのか上条には分からなかった。
だから困った顔をしながら上条は笑った。
ただ、なんとなくではあるが、目の前の大人はとてもいい人なんだと。彼以外の年上の人間なんて、片手で数える程しか会ってはいないが、それでも優しくて責任感のある大人なんだと、そう思えた。
「・・・これからも、彼女たちには秘密にしておくのか」
「はい。迷惑をかけることになるかもしれないですけど、いいですか」
「ああ。君にはどれだけ謝っても足りないほどに迷惑をかけてしまったのだ。君の願い事の一つや二つ、出来る事なら叶えてみせるよ」
そう言って大人は笑った。
何で笑ってしまったのか分からない。笑みを浮かべている少年を見ると、まるで鏡のように自分も笑ってしまうのだった。
いや、一体どちらが『鏡』なのか。
それぐらい、少年の笑みには何もない。哀しい、と感じる事もできないぐらい、
少年は、透明だった。
「案外、俺はまだ覚えているのかもしれないですね」
大人は、少しびっくりしたような顔で少年を見た。
「医者が言うには、君の『思い出』は、脳細胞ごと『死んだ』とのことだ。なら一体どこに、思い出が残っているって言うんだい?」
沢山の
だけど、そう思いながら。今の彼なら、そんなつまんない理屈を吹き飛ばしてくれるかも、と思ったのだ。
「どこって、そりゃあ決まってますよ」
透明な少年は答える。
「――心に、じゃないですか?」
誤字、脱字、感想等ご報告お願いいたします。
そして以下はちょっとした作者の後書きです。
これは活動報告にも上げます。
改めまして、『戦姫絶唱シンフォギア IB』の作者、ドナルド・カーネルです。
去年の3月末から書き始めたこの物語もようやく、最初のエンディングを迎えました。
これまで沢山の方々に読んで貰い、感想や評価を頂き、誤字脱字の報告やアドバイスを貰いました。本当に皆さん、ありがとうございました!!
なんだかもう終わりの雰囲気を醸し出していますが、まだ終わりじゃないです。
本来登場予定がなかったコロ何とかさんの事や、ヤンデレルートに突入しちゃったクリスちゃんがツンデレルートに戻るのかや、まだとある本編でも明かされてない『神浄』やそもそも設定を書き換えなきゃだめな『幻想殺し』の件はどうするんだコラと、他にも色々な感想があると思います。
ですが、私事になるのですが、4月から就職することになり、更新ペースが酷く下がることになります。
もしそれでも、拙作の更新を待って頂けるのなら、何ヶ月と待たせてしまうかもしれませんが、お待ち下さいませ。
それではこの辺で筆を置かせて頂きます。
さぁて次作G編からは、ツンツン頭君の趣味にドストライクな女性の登場ですね。
上条×IF装者 見たいのは?(ビッキーは『翳裂閃光』があるので今回はなしで)
-
風鳴翼
-
雪音クリス
-
月読調
-
暁切歌
-
マリア・カデンツァヴナ・イヴ
-
セレナ・カデンツァヴナ・イヴ