KAMEN RIDER DELETE――仮面ライダーディリート   作:否下

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もうひとつの拙作「仮面ライダーAZ」が早くも行き詰まってきた……というわけで新作。
タイトルで匂わせてる通り、ディケイドみたいなもんです。でも全てのライダーの世界は描かないつもり(この話の序盤で出てきたライダーは基本出てこないと思ってください)。
では、事前に申し上げておきます。超・不定期連載です。


【???の世界】
第1話 少年とカードと渡る世界


 ――広く、広くどこまでも続く荒野。

 

 砂利に混じった小ぶりな石が転がる。まさしく「何もない」この地に生きる者は、群れて生えた雑草と、虫たち。そして、

 

 ……仮面ライダー。

 

 携帯電話型のデバイスを腰に装着した、黄色く幅広い複眼の戦士。

 

 スペードのマークが刻まれたバックルを身に着けた、大剣を振るう戦士。

 

 2つの細長いアイテムをベルトに挿した、半身は緑、もう半身は黒の戦士。

 

 彼らを筆頭に、数多の仮面ライダーが、たったひとりのライダーのもとに突撃していた。

 

 腕の橙色のモジュールで飛行するライダーが、脚部の砲口から無数の弾丸を放つ。

 

 全弾が「それ」の付近に着弾、砂塵を巻き上げた。が、その向こうから傷ひとつなく姿を現したのは、蛍光グリーンのマスク。黒色のプレートが、正面側から斜めに突き刺さっている。

 

 彼が手に持ったカードには、何も描かれていなかった。しかし、カードを瞬時に裏返すと、表面には絵柄と文字が浮かび上がる。

 

《ATTACK RIDE:EXPLODE(エクスプロード)!》

 

 空中で愕然とする白色のライダー――仮面ライダーフォーゼの背後に出現した巨大なカード型の実体。彼が気付くそのコンマ1秒前、爆発した。先刻、自身のガトリングから放たれた銃弾が、蛍光グリーンのライダーの周囲で炸裂したように。

 

 彼の上空の爆炎には目もくれず、彼は顔だけを後方に向けた。紅蓮のパーカーに身を包んだライダーが、剣を構えて迫っている。

 

 だが焦る素振りも見せずに、彼は再びカードを構える。顕現した絵柄は、鞭のようにしない、アメーバのように広がる腕。

 

《ATTACK RIDE:MUTATION(ミューテーション)!》

 

 彼の右腕が突然変形し、向かうライダーの片足を俊敏に払った。遠く跳ね飛ばされたライダーを放置し、次なる標的――仮面ライダービルド、仮面ライダーエグゼイドへと目を向ける。

 

《キメワザ! マイティクリティカルストライク!》《ボルテックフィニッシュ!》ふたりのライダーが跳び上がる。「はぁああああっ!」

 

 彼は無言で、黄色いラインの入ったカードを取り出した。急ぎもせずカードを裏返す。

 

《FINAL ATTACK RIDE:DE・DE・DE・DELETE(ディ・ディ・ディ・ディリート)!》

 

 必殺技をぶつけ合うライダーたちの間に現れた板状のホログラムは、瞬く間にディリートの眼前に集約される。ミューテーションの効果と合わせ、薙ぎ払うように腕をしなわせると、無防備な真横からの攻撃をもろに受け、2人のライダーは吹き飛んで墜落した。

 

 仮面ライダーディリートの持つカードに、たった今散ったライダーの姿と名が浮かんでは消えてゆく。彼の視線の先には、明確な憎悪をもって勇猛に進み来る、バイクやマシンに跨った仮面ライダーが無数に見えた――

 

 

 

 ――夢、なのだろうか。

 

 だとしたら、何故こんなにも鮮明に映るのか? 今、眼前に広がっているのは、荒れ野との接点などまるでない館の風景ではないか。

 

 それに、夢だとすれば、初めて見る夢ではない気がする。明らかに、自分の腕が変化する感覚を、爆発の轟音を、吹き上がる砂埃を憶えているのだ。

 

「大丈夫かね」

 

 誰だ? 俺の頭の中に語りかけてきているのか? ここはどこなんだ、俺は――

 

 俺は、誰なんだ?

 

「成る程……記憶喪失か、現虚 鳴渡(うつろ めいと)くん」

 

 鳴渡? それが俺の名前なのか?

 

「悲しいね、まさか本当に忘れてしまっているとは……その分なら、私の事など解らないだろう」

 

 まだ半分も受け入れられないが……。ここは? お前は……?

 

「思い出して欲しいものだが。私の名は(マンジ)、君の同志だ」

 

 同志……? 申し訳ないが、余計に脳みそがこんがらがった。

 

 記憶喪失、というと大抵信用できない。何故他の事を忘れても、言葉は覚えているのか。断片的な記憶が残っているとか、もはやフィクションの世界じゃないのか。昔はそう思っていた、ような。

 

 だが、自分が今そうなっているのだ。信じない訳にもいかない。その困惑の中で、処理しきれない量の情報に襲われて戸惑う俺の姿は、側から見れば――卍、と名乗る声の主から見れば、テレビのVTRに映る記憶喪失の人々と、きっと同じように映るだろう。

 

「鳴渡くん。忘れてしまったのならば、思い出して欲しい。君の使命を」

 

 使命。果たさなければならないこと。俺の使命、俺の使命は……。

 

 ……駄目だ。何も、何も思い出せない。記憶の欠片のどこを探っても、「使命」のキーワードからは何もヒットしないのだ。

 

「仕方あるまい。思い出せないならばまた教えるのみだ。君の使命、それは」

 

「世界の淘汰だ」

 

 何を言っているんだ? 世界の数を減らす……というか、そもそも世界はひとつではないのか?

 

「君の懐を探してみるといい。カードが数枚入っているはずだ。使い方は、解るかね?」

 

 ――あった、カードが5枚。その中の1枚を胸の前に掲げる。

 

 腰に、メタリックなバックルが出現した。見下ろせば、カードをスキャンできそうな隙間がある。

 

 ……何故、分からないのに、出来た?

 

「深層の記憶までは侵されていないようだな。幸運だった。そうだろう、鳴渡くん……いや、仮面ライダーディリート」

 

 ディリート。あの夢に出て来た、仮面ライダー。俺が、仮面ライダー、とかいう奴なのか。

 

 ……目の前に、化け物がいる。灰色の、馬? あとは人型のゴキブリが3体ほどだろうか。

 

 無意識に腕が動く。カードの裏に、長方形が組み合わさった紋章が現れた。この状況で、為すべきはただ一つ。バックルにカードをスキャンすること。

 

 変身。

 

《KAMEN RIDE:DELETE(ディリート)!》

 

 蛍光グリーンのプレートが、頭の周りを回る。地面に対して、僅かに傾いて。頭上から垂直に3枚、回る6枚は左右に3枚ずつ斜めに、頭に刺さった。

 

「流石だ、対処法が感覚に染み付いている。世界を再び巡るため、先ず彼らの相手をしてみることだ」

 

 馬面が飛び掛かってきた。単調で直線的な動き、かわすのは容易い。背後に回り込んで、一撃。続いてゴキブリ怪人たちが束になって襲ってくるが、跳び越えるだけで避けられた。余裕だ。この程度の怪人なら、こんなものだろう。何故そう思ったかは分からないが。

 

《FINAL ATTACK RIDE:DE・DE・DE・DELETE(ディ・ディ・ディ・ディリート)!》

 

 これで、終わらせる。

 

 20枚強のパネルが、奴らを俺の方へ引き寄せた。力が右拳に集まる。

 

 ライダーパンチ。

 

 この技を、誰かがそう呼んだような。直接放たれる拳と、突き抜ける衝撃波を食らい、怪人たちは断末魔と共に爆散した。

 

「フフフ、実に素晴らしい、この短時間で彼らを屠るとは。その力、再び世界を渡るに相応しい」

 

 何も知らないはずなのに、確かに戦えた。そして破ってしまった。自分でも不可思議だ。

 

 卍は「また」と言っていたが、以前、俺は旅をしていた? 世界を渡り歩いて、戦っていたとでも言うのか?

 

「左様。詳しくはまたの機会に話すとするがね。君は、無尽蔵に広がりを見せた仮面ライダーの歴史を間引き、世界の崩壊を防がねばならないのだ」

 

 物騒な言葉の連続だが、彼の話しぶりはどうにも俺を信用させる。夢で見た光景と彼の言葉が重なり、妙な信憑性を与えていた。

 

 世界を渡り、ライダーを倒して回る。

 

 それが俺の……使命だ。

 

「そう、その通りだ。早速、君を別の世界に送るとしよう」

 

 眼前に広がった、半透明のカーテン状の何か。

 

「そこを通過すれば、こことは違うどこかの世界だ。もっとも、君も自身の力で展開できるはずだがね。君の第六感が、向かった世界の仮面ライダーを察知する。そうしたら、そのライダーを消去すれば良い。君の持つライダーカードと、ディリードライバーで」

 

 未知の空間に、俺は足を踏み入れた。卍の声が遠ざかってゆく。

 

「鳴渡くん。君の強大なる力を、世界のために振るうのだ――」

 

 

 

《KAMEN RIDE:OOO(オーズ)!》

 

 光のカーテンを抜けたその瞬間、ディリートの姿は変化した。

 

 仮面ライダーオーズ・タトバコンボ。鳴渡の記憶には一切存在しないライダーだった。

 

「……ん? 何だ、このライダー」視線を落とすと、胸元には何かしらのイラストが描かれたサークル。赤、黄色、緑の3色に分かれている。手の甲には金色に輝く爪が逆さに伸び、展開される刻を待っていた。

 

 澄んだグリーンの複眼から見渡したその世界からは、生気をまるで感じない。恐らくはこの町で最も栄えた大通りなのだろうが、街路樹に僅か残された枯れ葉が、カサカサと乾いた風に鳴るだけ。曇り空の下に、誰も、ネズミ1匹でさえ姿を見せないのだ。

 

 鳴渡の感じた違和感はそれだけではない。「仮面ライダー」の気配が、全く感じ取れないのである。卍の言葉を疑ってみても、先の対話より過去の記憶が抜け落ちている以上、直感が鈍っているだけという可能性を捨て切れずにいた。今、鳴渡が信じられるものは、己の勘と卍の話のみなのだから。

 

「とりあえず、歩くか」ライダーが自身の近くにいないだけかもしれない。第六感のレーダーの、探知区域外にいるとすれば。まるで当てはないが、歩き回るだけでも何かヒントは得られるはず。通行人を見つけて、ライダーについて訊くことだって可能だ。訊き方はともあれ。

 

 しかし、歩けば歩く程おかしな町である。店々のシャッターは皆錆び付き、再び開かれる気配はほぼ感じられなかった。力なくなびく「檀商店街」の幟も色褪せ、長いこと風雨にさらされたと見える。そして何より、誰もいない。外出が自粛されている街でも、犬の散歩くらいしていても何らおかしくはないというのに、まさしく無人の街であった。

 

 街の異質な風景に、鳴渡は自分の記憶を重ね合わせる。かつては自分の脳内に、記憶の島が無数に存在したことだろう。さしずめ、この街が賑わっていたと思われるその頃のように。

 

 しかし、今この街は閑散としている。記憶の島は全て沈没したのか、はたまた忽然と失せたのか。すっからかんになった鳴渡の頭と、檀商店街の光景が似ているように思われた。

 

 仮面ライダーを倒さなければ、世界の破滅が待っている。卍は確かにそう言った。

 

「……とはいってもなあ」自分も仮面ライダーである。いずれ、自らの未来を絶たねばならぬ時が来るのだろうか。

 

 その瞬間だった。彼の神経に電流が走る。初めての感覚。

 

「仮面ライダー……?」確信はなかった。だが、自分の第六感が何かを感じ取ったのは事実。仮に正しいとすれば、急がないと離れられてしまうかもしれない。

 

 交差点を左折し、全速力で走る。勘だが、恐らくこっちだ。相も変わらず、道沿いの木々はカサカサと空しく響くばかり。

 

 

 

 道の先の開けた広場で彼が遭遇したのは仮面ライダー……ではなく、10歳ほどと見える少年だった。こちらの存在に気がつくと、一瞬驚きを見せながらも、鳴渡を――仮面ライダーオーズをねめつける。

 

 明確な憎悪。あの夢で、自分が無数のライダーから向けられたその感情を、鳴渡は彼の震える拳と敵意に塗れた瞳から感じ取った。ライダーを知らないか、などと言おうものなら、殴り飛ばされるに違いない。

 

 少年はこちらに向き直り、強い眼差しで鳴渡を見据える。

 

「……仮面ライダー。珍しいなぁ、こんな時間にぶらついてるなんて」

 

 つい先刻この世界にやって来たばかりだというのに、鳴渡は憎しみをもって迎えられていた。

 

「――その余裕が、許せない。絶対に、許さない……!」

 

 羽織っていたジャンパーを投げ捨てた少年の腰には、サスペンダーと連結したバックル。3つのボタンが光る。

 

 彼の足元は、かすかに震えていた。

 

「……装着!」

 

《1,2,3! basic(ベーシック)!》

 

 向かって左から順にボタンが押されると、サスペンダーから左右に、バックルの付いたベルトから上下にスーツが伸び、全身を覆ってぴっちりと固定される。オフホワイトのボディに、サスペンダーの黒いラインが浮かび上がっていた。

 

「この間のようにはいかない。父さんの……母さんの仇、ここで討ってやる!」言うや否や、少年はディリートオーズに突撃する。

 

 鳴渡は困惑していた。まったく、身に覚えがない。人違いではないのか。だが、記憶がなくなる以前に、彼の家族を手にかけたのかもしれない。でも、何も分からないのだ。

 

 戦意を察知してか、手元の爪が起き上がった。

 

 魂をすり減らすかの如き叫びをあげながら殴り掛かる少年。オーラとして視認できるほどの殺意が、ヒトの姿をもってディリートに牙をむくかのようだ。

 

 だが、彼の動きはあまりに直線的だ。仮面ライダーを殺す、という気ばかりが先走っている故か。少年には申し訳ないが、あしらうことは容易だった。

 

 続けざまに繰り出される拳をクローで受け止めつつ、緑の脚で大ジャンプ。「逃げるな!」と憤る少年の真後ろに着地、無防備な背中を切り裂く。

 

「ぐはッ……!?」膝を折り、石畳の上に転がる少年。よろめきながらも立ち上がるが、背のスーツの向こうには赤黒いものが滲んでいる。「クソッ、だったら……!」

 

《1,3,2! sky high(スカイハイ)!》スーツが独りでに変化し、簡易的なエンジンの付いた翼が現れた。

 

 痛みに呻く中、彼はふらふらと飛び上がる。上空で、すべてのボタンを同時に押した。「……死ね、仮面ライダーっ!」

 

full switch(フル・スイッチ)!》エンジンが逆方向を向き、キックの構えを取った少年が鳴渡に特攻する。

 

 しかし、彼の必殺技には隙が多すぎた。ディリートオーズのバッタレッグが地を蹴り、決死の特攻はあえなく回避されてしまったのである。少年は勢いそのまま大地に激突し、倒れ込んだ。

 

 鳴渡は変身を解くと、彼のもとに歩み寄る。が、またしても、

 

「……!」身体に電撃が走る感覚に襲われた。第六感である。

 

 辺りを見回した鳴渡は、さっき自分が走ってきた道をこちらに駆ける、ロングヘアーの女に気付いた。

 

「その子に触れないで!」彼女もまた、鳴渡を鋭く睨み付ける。「この世界に仮面ライダーはいない。この子は何も関係ないわ。だから、離れなさい」

 

 この世界について、彼女は何か知っているのだろうか。訊こうかとも思ったが、彼女の眼がそれを許さなかった。

 

「応急処置くらいなら、私がする」どこからともなく包帯を取り出した彼女は、少年の身体から強引にバックルを外すと、爪に裂かれた背の傷を覆うように包帯を巻きつける。バックルの制御を解かれ、身体を覆うスーツは収納された。どうやら他に、目立った怪我はないようだ。

 

 少年を仰向けに寝かせると、彼女は鳴渡を正面から見つめる。

 

「まず……あなた、仮面ライダーディリートよね? どうして、仮面ライダーオーズの姿で戦っていたの?」

 

「ああ、俺はディリート、らしい。オーズ? のことは……分からない」

 

 彼の言葉を聞き、女は首をかしげた。それ以前に、何故この女が自分のことを知っているのか。鳴渡の疑問は尽きなかった。

 

「――まさか、忘れてる?」ビンゴ、だと思う。

 

 彼女は半ば呆れた表情をしたが、気を取り直して語り出した。

 

「ディリート、聞いて。あなたはいくつもの世界のライダーを葬ってきた。仮面ライダーがいなくなると、その世界の滅びが加速する。あなたが、世界を滅ぼそうとしているの」

 

 これまでに聞いた話と矛盾する。彼女の話が正しいなら、卍は自分が記憶を失ったのをいいことに、誤った事実を吹聴したことになる。一方、卍の話が正しいとするなら、彼女は何かと理由をつけて、世界の崩壊を防ぐ自分を止めようとしていることになる。どちらにせよ、確証は薄かった。何より、そうする理由が鳴渡には分からない。

 

「私もあなたと同じ。仮面ライダーの気配がわかるし、世界を渡ることもできる。似たような人は他にもいるみたいだけど。あ、改めて言うわね。私は宿屋 満葉(やどや みちは)

 

 よろしく、の一言を彼女が言わなかったことを、鳴渡は訝しんだ。

 

「……あの子はあなたに預けるわ。私があなたを信じる証ね」

 

「待ってくれ! どうすれば――」鳴渡は言葉を止めた。路地から、何かの足音が聞こえる。

 

 見れば、ミイラのような怪人が5体ほど、覚束ない足取りで迫っていた。目らしいものは見えないが、彼らの視線は一点に向かっている。

 

「――まさか」鳴渡が唾を飲み込んだ。

 

 その、まさかだ。5体とも、横たわった少年のもとへと一直線である。

 

「……2人で行くわよ」「えっ?」満葉が懐から何やら取り出す。

 

《メゾンドライバー!》彼女が取り出したモノ――マンションを模したバックルから、陽気な男の声がした。

 

「そういうことか」満葉の言葉の意味を理解した鳴渡も、ライダーカードを1枚、胸の前に掲げる。腰の周りが光り、ディリードライバーが出現した。カードに、ディリートの姿が見え隠れる。

 

 彼女は平たい鍵をポケットから出すと、顔の前でちらつかせた。

 

「変身」「変身!」

 

《KAMEN RIDE:DELETE(ディリート)!》

 

COME ON(カモン)RIDER-MAISON(ライダー・メゾン)!》

 

 ディリードライバーのバックル中央に映し出されたライダーズクレストから9枚のプレートが飛び出し、ディリートの顔面に突き刺さる。

 

 鍵を90°回すと満葉の前方に扉が現れた。迫るそれを抜けた先には、メゾンドライバー内部に映ったのと同じ、金色のラインが斜めに通ったライダーの姿がある。

 

 2人の仮面ライダーが、ミイラ怪人たちを力強く見据えた。

 

「何をすればいいかくらい、わかるわね?」

 

「もちろんだ。わざわざ言うまでもないだろ」

 

 鈍重な足取りで、欲望のままに少年を狙う怪人。だが先陣を切った1体は、メゾンの鋭敏な足技に翻弄される。残るうちの2体はディリートに纏わり付くが、一方が頭突きに怯んだ隙を突かれて、まとめて木の幹に叩き付けられた。

 

「はっ!」「やぁっ!」腕にうなりをつけ、2体の怪人にパンチを食らわす。自然と、2人の動きはぴったり合致していた。

 

 見てくれ通りに打たれ強いミイラ怪人だが、次の一撃は耐えられまい。

 

 カードを裏返し、ライダーズクレストが現れたところでディリードライバーに通す。

 

《FINAL ATTACK RIDE:DE・DE・DE・DELETE(ディ・ディ・ディ・ディリート)!》

 

 変身に用いる鍵、「ライドロック」を挿した直後の向きに戻し、すぐさま元に戻す。

 

MAISON(メゾン)RIDE PARADISE(ライド・パラダイス)!》

 

 顕現した、20枚以上のカードの一部と鍵とが、怪人を磔にし、突き刺し、静止させた。

 

 カードに縛られた3体が、ディリートにじりじりと引き寄せられていく。「おらッ!」右拳の痛快な打撃が、一纏めに怪人らを粉砕した。

 

「とりゃあっ!」メゾンの一蹴りに、刺さった鍵はより深く沈み込み、終いには怪人の胴を貫いた。

 

 銀のメダルを撒き散らし、ゾンビの如き怪人らは消え去ったのである。

 

 満葉が慌てて振り返るが、少年は変わらぬ格好で尚も身を横たえていた。「――ええ、きっと」

 

 メゾンが光のカーテンを展開する。その奥にある世界は、オーロラのような膜越しではどうにも観測しにくかった。

 

「じゃあ、私はこれで。この世界には、もう用はないから。その子、よろしくね」

 

 あ、ちょっ、おい。変身を解除した鳴渡が呼び止めようとするも、彼女は構わずに、不明瞭な世界へと足を踏み入れていった。

 

 よろしく、と言われても。オーロラは消え失せ、もう1人の異界からの訪問者は途方に暮れる。この少年が目を開いたとき、仮面ライダーそのものを憎悪しているように見える彼に、自分はどう接すれば良いのか。また、殺意と怒りに満ちた拳をぶつけられるのではないか。広場の石畳に座り込み、改めて彼の幼い顔立ちを眺める。

 

 風が、ぴゅうと吹きつけた。少年の瞼がゆっくりと上がる。

 

 彼は、先刻自分が敗れた仮面ライダーを探していた。起き上がろうとするが、鳴渡は肩を押さえて制止する。

 

「……誰?」

 

 鳴渡はしばし考えを巡らしたが、はっきりと応えた。あるじゃないか、彼と自分に共通することが、ひとつ。

 

「俺は、鳴渡。……仮面ライダーを、ディリート(消去)するために旅をしてる」

 

 仮面ライダーを倒す。そのワードに、少年は予想通り敏感に反応した。

 

「えっ……!?」少年は即座に身を起こさんとするが、背骨付近の猛烈な痛みに悶える。彼の身体をゆっくりと起こし、鳴渡は少しだけ外へ視線を逸らしてから提案した。

 

「他の世界にも、ライダーがいるらしい。だから俺はすぐここを発つつもりだ。でも、お前も俺と同じで、仮面ライダーを倒したいなら、どうだ? 俺と一緒に来る……なんてのは」

 

 記憶のリセットを経て、人を誘うこと自体初めてのこと。上手くいったかどうか、自信はなかった。

 

 少年はきょとんとしている。「なんで、僕のこと知ってるの?」

 

「んっ?! それは、その、さっきの戦いを見てたというか」

 

 苦し紛れに言い逃れをしたが、一応信じては貰えたらしい。このくらいの歳なら敵意の向け方も単純だが、とっさの言い訳を信じてくれるのもその単純さ故である。これが自分と同年代――自分が何歳なのかは分からないが、声や動きから考えるにティーンエイジャーか少し上か、といった年齢を相手にしていたら。同一人物であることなど、瞬く間に見破られていただろう。

 

 そっか、と純粋に納得した表情を見せた少年は、数年ぶりに見せたかのような、ぎこちなくも子どもらしい笑顔で誘いに応じた。

 

「いいよ。鳴渡と行きたい。もっと強くなって帰ってこられるよね?」

 

 いかんせん、この少年には何もかもが足りない。パワーも、テクニックも、戦略も。自分についてくることで、そのどれかでもいい、身につけられれば。もしや満葉は「そういうつもり」で、彼を自分に預けたのだろうか。

 

「ああ。でも来るなら覚悟しとけ。長い旅になるぞ?」

 

「できてる、って言ったらどうする?」ようやく、彼の「子供らしさ」が見え始めた気がした。

 

 鳴渡はラフに接しようと、慣れない口調で話しかける。「なら、決まりだな! ち、ちゃんとこの街にお別れしろよ、また帰ってくるまで、ってな」

 

 少年は鳴渡の肩を借りながら立ち上がり、ゴーストタウンと化した檀商店街を見渡した。生まれ、育った街。仮面ライダーが全てを奪い去った抜け殻に、痛む背中を丸めて一礼した。

 

「いってきます。父さん、母さん、みんな」彼の声の震えを、鳴渡は間近でひしと感じた。

 

 身体を起こそうとよろめいた少年を両腕で支え、鳴渡が一心に念ずる。世界を渡る、その決意はとうに出来ている。この少年だって、きっと。

 

 2人の前方に、揺らめく壁が現れた。ここを抜けた先は、新しい世界。

 

「あ、ちょっと待て。この世界を出る前に教えてくれ。その、お前の名前」

 

「僕? 武石 創我(たけし そうが)。よろしく、鳴渡」

 

 行き先は、通ってみなければ分からない。けれど、出来れば創我の身体の傷を癒せるほど平穏な世界がいい、鳴渡はそう思った。彼が知らなくとも、あの傷は、自分の責任でもあるのだ。

 

 準備は整った。恐れることは何もない。2人は足を揃え、カーテンにゆっくりと侵入した。彼らがこれから訪れる世界には、何が待っているのだろうか。

 

 

 

 2人が、これから向かう世界での出来事。

 

「はい、今回の授業はここまで!」

 

 ありがとうございました、と教室の空気を揺らす生徒たちの声に、ひとりの塾講師が、えもいわれぬ充足感を覚えていた。

 

 ――いや、正確には、「彼」は塾講師ではない。

 

 受験田花丸(じゅけんだはなまる)。株式会社アダムテクノロジーが開発した人工知能搭載ヒト型ロボット、俗にいうヒューマギアなのである。青いランプの光るヘッドホン型モジュールが目印だ。業種ごとに異なる特性を見せ、あらゆる職業の現場に遍く導入されているヒューマギアは、今や人間社会の歯車として欠かすことの出来ない存在なのだ。

 

 その中の1つである塾講師型ヒューマギア・受験田花丸は、ここ飛翔学習塾で、人間の講師と一緒に働いていた。搭載された人工知能が、生徒それぞれの得意・不得意な分野を分析、正確に記憶して、個々の生徒に合った言葉や方法での指導を可能にする。加えて、教卓から教室全体を見渡すだけで、生徒全員の進捗を瞬く間に把握できるため、室内を回覧する手間が省け、時間のロスも少ない。生徒からも、同僚の人々からも、彼の仕事ぶりは称賛されていた。

 

「花丸先生、質問なんですけど」女子生徒が一人、彼のもとにノートを持ってやって来た。高校受験まであと2か月を切っている。

 

「いいよ。どこだい?」彼女が見せた難解そうな図形の問題を、青く輝いた彼の眼は瞬時にスキャン。「この問題はだね、大きさの等しい角を見つけること! ――」プログラムされたであろう微笑みを見せながら生徒に教える受験田花丸を、扉の陰に隠れた純白の悪意が覗いていた。

 

 そんなことには気づかぬまま、「君は飲み込みが早い。このまま努力を続ければ、79.5%受かる!」彼は、微妙な数値に不安を抱く女子生徒の肩を叩く。「先生は応援するぞ! 飛び立とう、夢に向かって!」

 

 笑顔を浮かべて生徒を見送った彼のモジュールの輝きが、わずか増したように思われた。




「ヒューマギア?」人型ロボットが生活に溶け込んだ世界で、彼らが出逢う仮面ライダーは。

次回、「仮面ライダーディリート」!

「カレは社長で仮面ライダー」
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