この後お時間あったら、一緒に冒険しませんか?
珍しい誘いは、彼女の方からやってきた。
同じクラン、一緒に戦ったこともある、きっと自分より少し年下の女の子。
狐の仮面で隠したその素顔は、もしかしたらリアルの顔をそのまま使っているのかもしれない。
かくいう自分も、随分と願望が入りじまったとはいえリアル寄りのアバター造形だ。別にそれをとやかくいう気気もない。
断る理由はない、はずだ。今日は特段予定もない。
楽郎君は今日は別のゲームするつもりと、下校途中で聞いた。
だから自分はなにをしようか。また彼と一緒に冒険するときの準備として、いつも通りレベリングか、素材集めか、あるいは新規マップの開拓にしようか、と、いつもの喧騒と比べたら少し落ち着いているラビッツで黄昏ていただけだ。
「そう、ですね。…どこかいってみようという場所はあるんですか?」
肯定の意を返す。
「えっと、まだあまり探索してないところなんですけれど…」
そうして提案されたのは、千紫万紅の樹海窟だった。
___
ラビッツからサードレマに転移して、二人で夜道を散策する。
そういえば、サンラク、楽郎くんのアバターと、この世界で初めて出会ったのはサードレマだった。
「どうしたんですか?」
「いえ、思い出していただけです」

自分にできないことをできる人。
最初は、楽郎君がやっているゲームとそれ以外のゲームの2種類しか知らなかった。
けど今では、いろんなジャンルのゲームがあって、その中でも彼は特段難易度の高いゲームを好んでプレイしているということを知っている。
彼が買ったゲームを、話の話題になればと考えて自分もあれこれ買ってはみたものの、その難易度に、あるいは環境に、結局慣れることができずに、いつのまにかプレイしなくなっていた。
結論から言ってしまえば、モチベーションが続かなかったのだ。と、思う。
ゲームはあくまで彼との話題作りという手段で先にリアル側で接点ができていたら、もしかしたら結果は違っていたかもしれない。けれど、ゲーム内で出会うところまでに、彼はまた別のゲームに手を出したりしていたし、自分がそれを話題に話しかけられるほど成熟することもなかった。
岩巻さんの勧めで、まずゲームという楽しさを覚えるところから。と勧められたこの世界は、その人気もあって、自分でも十分に達成感を得ることができた。
いつかのゲームのように、ひたすら他のプレイヤーを害しあうだけのものでもなければ、手がけた収穫を頻繁に無にされることもなく。
ユニークモンスターという試練こそあれ、手軽に挑めるものから、力試しという難易度のものまで、門戸は大きく開かれていた。
なんの縁か、姉もこのゲームをプレイしていて、クランに誘われてからは、あれよあれよという間に、ゲーム内での存在価値を高めていって、後はここに彼がいてくれたらなぁ。と思っていたところ、巡り巡って、彼と同じクランに所属するところまでこれた。
そうして、彼と共通の話題を作るという手段だったゲームは、彼と一緒に楽しむものという目的になった。
そのおかげもあって、先日はリアルにでー...逢び...
....
リアルでも一緒に遊ぶというこれまでにない体験につなげることができた。
来ている。
ポロロッカ。
加えて言えば、今隣に歩いている彼女のおかげで、彼と同じ拠点に至ることができたのだった。
リュカオーン戦を共にしたときには、後輩と聞いて、なんとも言えない危機感をいただきこそしたものの、もしかしたら幸運を運ぶ青い鳥のような何かだったのかもしれない。
ふと、すたすたと隣を歩いている彼女を見る。
光る苔が朧に照らし出す彼女の横顔は、綺麗な一つの絵のように、自分の視界に収まっていた。
「? どうしたんですか?」
ふと立ち止まってしまっていた自分を疑問に思ったのか、彼女が訪ねてくる。
「...いえ なんでも...なんでもないんです」
そう言えば、JGEの時に買ったタペストリーも、綺麗な一枚絵として完成されていたなぁ。とか、あの時自分は彼とツーショットを作ってしまってしまっ
「と、ところで、今日はどんな目的でここに?」
危ない。
飛びそうになった思考をなんとかつなぎとめて、話題を変えようとしたらそんな質問が口から出てきていた。
そういえば、一緒に冒険に。ということで誘われたが、マップ開拓だろうか。あるいは素材集めだろうか。
「え...と...」
と、彼女はやや気恥ずかしそうに頬を掻く。
「?」
「ただ、歩きたかっただけなんですけれど、迷惑だったでしょうか...」
「いえ、そんな!ことは!」
あまりにも多彩な景色を見ることができるこの世界だ。
ちょっとした小物のグラフィック描写の一つ一つにまで、細にまで凝らされた造詣が素晴らしいという話も聞いたことがある。
そう言った、自分だけの美しい景色を集めてキャプチャーを撮ることを目的としたクランまで存在するくらいだ。
そういう楽しみ方もあるし、というか以前そんなことを別の場所でしてしまったこともあるようなないようなゴニョゴニョ
と、少し落ち込むようなそぶりを見せた彼女に、そんなことはないと言葉を重ねる。
「普段は駆けてばかりですし、こうやってゆっくり、リアリティのあるグラフィックを楽しむのもいいかと」
と、言いかけて思い出す。
"楽しむ"
それが何にも増して重要なことだ。
彼も、私も、彼女も、他の誰であっても。
楽しいから、この世界に遊びに来ていて。そして私が惹かれたのも、そんな彼の姿がきっかけだったはずだ。
「楽しみましょう。今日はゆったりと」
そうして笑いかけた私に対し、彼女は一瞬きょとんとした表情をしたものの、ほっこりと破顔した笑みを返してくれた。
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