ーー大丈夫ですか?ーー
しとしとという雨音とともに目が覚めた。
日はまだ、空に残ってそう。
雲に隠れて見えないけど、窓越しに外の景色が見えるぐらいだから、まだ落ちてはいないのだろう。
認識したのは、まだ薄暗いということだけ。そんな私を置いて、窓の外ではしとしとと雨が鳴っている。
雨は、好きじゃない。
気もそぞろに、布団を被りなおす。自分を隠すように。外を見ないように。
サラサラサラという音が少し遠のいたけれど、それでもしっとりとした音が耳に届いてくる。
こんな日ばかりは、早く夜になってしまえばいいと、思ってしまう。
明日になれば、朝日が登れば、太陽がきっと、雨雲を押し返してくれるから。
そんな不確かな信頼を勝手に抱いて掛け布団をぎゅうと握り直す。
ビィ。
ブルっと震える携帯端末が、誰かからの着信を告げる。
友達だろうか。
放課後といっても遅い時間のはずだ。
そういえば、部活を休むって連絡は、母が入れてくれてたのだろうか?
と、枕元のそれを手に取る。
『大丈夫ですか?』
嫌いな雨のせいで、もしかしたら心細くなっていたのかもしれない。
ありふれていて、ただ普遍的な、そっけない一文が、どうしてか自分の中にジワリと降りてくる。
それはきっと、特別な気遣いとかじゃなくて、きっとそう聞けば誰にも同じように返すような、それだけのもの。
特別な意味を持たないはずの、ただの返事。
そうだ、体を動かすのは辛くても、ゲームの中なら自由に動けるじゃないか。
そう思えば、体の気だるさはひとまず感じなくなっていた。
会えませんか?
いつの間にか送っていた一文。
答えを待たずに、ベッドを起きて水分補給に向かう。
もう大丈夫?と聞く母に、寝てたら退いたみたいと手早く返して。
部屋に戻れば、「いいですよ」と肯定の返事がやってきていて、はやる気持ちを抑えつつ、待ち合わせ場所を送信する。
ヘッドセットを手早く準備して、私は夢の中へとダイブした。
「ありがとうございます!」
頭の気だるさはほとんどなくて、体の熱っぽさも、横なっていれば気にならない。
何よりゲームの中では体が思うように動くのが本当に嬉しくて、楽しくて。
そして、駆けつけた待ち合わせ場所で、一人佇んでいた先輩に声をかける。
「それより、体調は大丈夫何ですか?」
「一日休んだので、もう全快です!!!」
無理しちゃダメよ。と母は言ったけれど、寝転がっている分には頭痛もない。
思えば、寝てる間にもこっちにきていればよかったのかもしれない。
でも、注意書きには、体調が悪い時にはプレイしちゃだめって書いてあったっけ。
「それで、今日はどこに行きましょうか」
自分と対して視線の高さが変わらないアバターの先輩は、さてどうしようかな。と所在無さげだ。
なんだか、ぼうっとしていた。
もしかしたら、自分の頭はまだ重たいままなのかもしれない。
くるくると回る、レイ先輩の頭装備の目玉が、キュッと止まって、ジィっとこっちをみている。
レイ先輩に、茜ちゃん?と声をかけられるまで、その目玉とずっとにらめっこをしていた。
◇
病み上がりなのにゲームをプレイするのはどうだろう?
と、少しぽうっと呆けた彼女をみながら考える。
そういえば楽郎くんと一緒に言ったJGE。あの帰り…に…
色々あった。
色々あった、そういえば。
ぐちゃぐちゃになったアレコレソレを落ち着けようとサウナと水風呂を行ったり来たりして、案の定揃いも揃って風邪を引いてしまったこともあったけど、そんな時でも楽郎くんはゲームをプレイしていたって言ってたっけ。
そう、確か、あんまりパフォーマンスが上がらない。
楽郎くんをしてそう言っていた。
だから、茜ちゃんを誘うなら、また別の、静かに遊べるところがいい。少しばかり意識を向けながら、どこがいいだろうかと考える。
リヴァイアサン…騒々しい。
というか一般フィールドをぶらつくのは、何かと遭遇してしまいそうな気がする。
そういえば、楽郎くんに聞いてみたら、最初のレベリングは釣りで経験値を稼いだと言っていた。
ところで、祖父と釣りの話に少し花を咲かせていた気もするけれど、楽郎くんは釣りも嗜むのだろうか?
「釣り…なんてどうですか?」
「?」
ぽうっと、少し頬に赤みがかったままの彼女に提案してみると、茜ちゃんはしばらく首を傾げたままだった。
週末に続き投稿予定。
雨の日の紅音chang かわ.........