釣りで1匹も釣れないことを坊主というのだっけか。
祖父が、「今日は坊主だったなぁ」といささか薄くなった頭を撫でていた記憶がある。
そういえば、楽郎くんは釣りにも詳しいのだったっけ?
以前うちにきたときに、祖父と釣り具の話をしていたようなきが….気が………..
…………..
心頭滅却。
釣りはどこか座禅に通じるところがある。
空っぽになって、思考から手を離して。
離れて。
戻ってこないで。あの時の空回りした私。いえ、決して見栄を張った訳ではないのです。
たまには…たまには家でも着物を着ることも!あり!ます!
と、誰に言い訳をしているのか、私、斎賀玲、いや、サイガ-0の脳内では結局滅却できていない思考が火を吹きながら暴れまわっている。
その横では、茜ちゃんがまた1匹、また1匹と魚を釣り上げている。
今日は、新大陸の外れに足を伸ばして、岩場に腰掛け投げ釣りと洒落込んでいる。
特段目的があったわけじゃない。
とはいえ、何につけても理由がなければ何かを始めちゃいけないなんてことはない。
きっと楽郎くんなら、まぁやってみようよ。と、気軽に最初の一歩を踏み出すんだろう。と、そんな妙な信頼がある。
「いっぱいです!大量ですよ、玲先輩!!」
ピチピチと跳ねる魚(モンスターじゃないし、普通のアイテムなんだろうか?)をインベントリに格納しながら、跳ねるように茜ちゃんが笑う。
「すごい…ですね」
自分の手元には餌となる消耗アイテムが噛みちぎられた針先。
茜ちゃんはこういう、運が絡む時にめっぽう強いな。と、最近一緒に行動していて気がついた。
本人が望んでいるわけじゃなくて、あくまでも自然体で過ごしているのに、自然と結果が付いてきている。
自分はあまり経験したことがない。
当然に努力して、それは当然の訓練で、だから当然に結果もついてくる。
きっと家という環境にも恵まれていたのだろう。
努力できる環境にあって、そしてたまたま自分がそれを十全に活用できただけ。
そんな土台がない。ということが、どれだけ大きな差になるかということは、ここ数年で身をもって知っている。
私では到底クリアにまでは至らなかったゲームの数々。
楽郎くんは、そんなゲームの数々をクリアして、トロフィーもコンプリートしていると、岩巻さん伝手に聞いている。
私が1年のんびりと過ごしていたシャングリラ・フロンティアの世界。その1年は言うなればアドバンテージだ。
一年かけて稼いだそのアドバンテージも、あっという間に追いついて、そして追い越されて。
『玲さんもすごいよ。アタックホルダーの称号なんて、そう簡単に取れるものじゃない』
と、混じり気のない言葉で言われて照れたりもしたものだけれど、それに半年とかからず追いついてきた彼は、やっぱりすごいのだ。
そして、それとほとんど変わらない道を、同じようなスピードで駆け抜けてきた女の子が、一人。
「うん…すごいですね、茜ちゃん」
「ん?何がですか?」
キョトン。と、一体今の自分のどこかに褒められるところがあっただろうか?
と、混じり気のない疑問符が頭の上にみえるよう。
こてっと傾けた顔は、例えるならやんちゃな大型犬、だろうか。
「そういう、ところ。ですかね….」
「????」
苦笑まじり、だろうか。屈託無く笑えているだろうか。
「サンラクくんのことを、思い出してました。すごく純粋に、ゲームを楽しんでいて。すごいなぁ。って。それと、茜ちゃんが被って見えて、あぁすごいなぁ。って。ただそれだけなんです」
「私と、サンラクさんがですか?」
「はい」
「….なんだか、恥ずかしいです」
少しだけ赤みが乗った頬を隠すように、釣果をインベントリにしまいおえた彼女は、再び竿を構えて岩場に向かう。
「隣、いいですか?」
「…! もちろん!」
きっと、彼女が犬なら、尻尾がパタパタ揺れていただろう。はらりと揺れるポニーテールがそんな幻想に重なって見えて、私は彼女の隣に腰を下ろして竿を構えた。
◇
すごいね。
レイ先輩は、私のことをそう褒めた。
どうして。という気持ちはある。
何か褒められることをしただろうか。
私はいつも通り、もしかしたら、考えなしに振舞っているかもしれなくて。
….
部活のことを思い出す。
私に優しくしてくれなかった先輩。
きっと、何か、あの人が嫌がることをしてしまったのだろう。
もともと最初は、体調が落ち着くかわからないから、個人競技で始めたのもある。
そのままずっと、短距離走とか、徐々に中距離にも伸ばしていったけど、ずっと、ずっと、個人競技を続けてきた。
自分の結果は、自分の努力の結果。
いつか、挑戦を続けていればいつか、きっと、絶対に、実を結ぶ自分の努力。
優勝という結果に結びつけばもちろん嬉しいし、家族はよく頑張ったね。と声をかけてくれる。
それが、そんなはずはないのに、昔の、病弱な自分の姿との違いから出てきた言葉なんじゃないか。って。誰にもいえなく思いを抱いたことが、ある。
だから、どうしてか、手放しの賞賛の言葉には慣れていなくて、同級生が、クラスメートがかけてくれるそれとは全然違っていて。
もともと見ず知らずの誰かが、ちゃんと、私を見てくれているという実感が、きっと、きっと、心地よかった。
のかもしれない。
違いが互いに、過大評価しあってる状態すき。
それはそれとして、オルケストラ編がいよいよ盛り上がってきてテンションおっつかないんですが。
偽物と本物の相対構造大好き侍。