古代進にとって宇宙戦艦ヤマトとはなにか。言い表せないものがそこに詰まっているのは確実だろう。
現場復帰前に無理を言って上官の谷提督に時間を作ってもらいヤマトについて聞くことにした古代だったが結果は空振りに終わる。
谷もそして周りの同僚たちも何も知らなかったのである。第二艦隊は月に駐留しており多少地球の政治について疎い。それを持ってしても艦隊司令であり、防衛軍の意思決定事項に関与できる立場の谷ですら初耳なのは異常と言ってよかった。
その後、短い間だけだが持てるコネをフルに使っても真実を見出すことができなかった。
結果として真田と共に安全保障会議の席で、話を聞く他なかった。
艦隊司令部を含む多くの部署でヤマトについての決定が寝耳に水と言う風に伝えられる中、安全保障会議の者達だけは違った。救援信号についての報告を行った後会議は続くが、真田を含むオブザーバーは退出する。ヤマトについて真意を直接尋ねられるのはこの機会のみだった。
奇襲ともいえる質問に対して、しかし首相を含む閣僚たちは驚きも見せず、余裕を持って迎えた。
「人類の希望ともいえる船が沈んでしまった場合その絶望は計り知れない。」
そう口にするチェスター・V・ブラウンは口調こそ穏やかなものの、むしろであるがゆえに幼子をあやすような有無を言わさぬ意思が現れていた。
「人類の節目ともいえる航海を乗り切った船はすでに人類の宝である。」
そう言い切った外務長官のユーリィ・コロリョフは明らかな侮蔑を含んだ目でそう切り込んできた。
「数少ないイスカンダル純正コアを他の艦に充てることが一番である。」
前置きを抜いてそう言い放ったアーサー・ロイド・ジョージ軍需局長はそれ以外一言も語らず
唯一苦虫を嚙み潰したような顔を見せる藤堂含む極東管区出身者たちを除き他の閣僚たちも口元に微笑を浮かべあざ笑うかのような態度で質問への返答を締め切った。
だからこそ真田と古代はあっさりと引き下がり、防衛軍本部庁舎を後にした。なぜならばヤマトの廃艦は地球の総意、その代行者たちが決定し譲らぬと理解できたからだ。
憤りを隠せない古代と一見冷静ながらも落胆を隠せない真田、何も回答が得られず、ヤマトを救う手立てはまったく見当もつかない。
「すくなくとも」
しばらくうつむき続けてた真田が切り出す。
「そう、少なくとも彼らは何か狙ってヤマトの廃艦を企んでいるんじゃないか?」
「ヤマトの廃艦自体が目的ではない。そう感じました」
答える古代にも何かしらの違和感を感じていた。顔の暗い極東管区の顔なじみ達。まるで些事のように救難信号の事を扱う閣僚たち。そして極めつけは、無遠慮なそれでいてまるで勝利したと言わんばかりの大統領の顔が藤堂をとらえていたこと。
何かあると邪推するには十分な材料がそろっている。まったくもってなにが起きているか分からないのが辛いところであるが。あれこれと悩み議論を交わすものの一向に答えは見つからない。やはりヤマトを救うことは出来ないのか、諦めが二人の心に巣くい始める。結局の所何の進展もなく、解決の糸口だけを見つけてその日は分かれることとなった。
真田と別れた古代は一人、英雄の丘に向かう。夕日に沈む沖田提督の像の元には命日が近いからかいくつかの花束が添えられていた。
茜に染まった世界の中で一人、悲嘆にくれる。あの日赤茶の大地の中に夕日で照らされた戦艦を見つけてから決して楽ではない道のりを乗り越えて地球を青い星に戻すことができた。しかし復興を叫び、2年前に首相となったブラウンを含め、多くの政治家が今なお主導権争いを続けている。それは各管区も同じだった、郡内にさえそういう風潮が持ち込喪まれている。目と鼻の先のガトランティスでなく同じ身内たる地球人同士で争う。はたして、これが守りたかった地球の姿なのだろうか。沖田の像に問いかけるが、答えは返っては来ない。頭に浮かぶのは救援メッセージを受け取った時の白昼夢。ヤマトに乗れと強く語り掛ける幻影の姿だった。もし、艦長が生きていれば、或いは兄が生きていればどうしたろうか。その答えは一つしか思いつかなかった。
日が沈み切り一人丘を去ろうする古代に近づく人影が一人。
夜間の駐車場、人目につかないその場所で男は接触してきた。
「キーマン、とだけ名乗っておこう。古代進二佐、ヤマトを救うことに興味はないか?」と
男を不審に思いながらしかし付いていったのは、真実を、そして希望を見つけられるかもしれないという可能性にすがってのことだった。
よくよく考えれば不審な男であることに違いなく
旧式の軍用バンに揺られながら思わず訪ねたのはしょうがないことだろう。
「それで、いい加減何か聞かせてくれないか?」
「何か。とは何だ?」
「それは、君が誰か、とかどこへ向かうか、かな」
それに対する返答は微笑、そして
「誰か分からずついて来ているとは、なかなかにヤマトの戦術長は向こう見ずなようだな」
そう言って笑うとキーマンと名のった男はハンドルを片手で保持しながら手首をまくる。その下から見える肌は青い。
「ガミラスの駐在武官をしている、クラウスキーマンと言うものだ。階級は中尉。さてどこに向かっているかと言う話だが、答えはどこにも向かっていない、だ」
ハイウェイは同じ景色が延々と続く。復興途中の地球において代わり映えのする景色と言うものは極めて珍しい。しかしよく注意しなければわからないが、確かに同じ場所を回り続けているようだ。
「それは、いったい…?」
「ガミラスではな、走っている車というのは密談に向いている。地球でもそれは変わらないと思うが?」
そう言って視線をやるバックミラーを覗くと、一台のSUVがピタリと付いてきていた。
「聞きたいのだろう?なぜヤマトが廃艦になるのか、そしてどうすればそれを阻止できるのか。」
「確かにそれを知りたくはある。だが、ガミラス人のキミが何故?」
「簡単な話だ。俺がメッセンジャーとしてお前に接触したからだ。そこそこ事情通というのもあるがな。さて、どこから話したものか。まあ、ヤマトの廃艦決定はそう複雑な話じゃない。地球政府は既にガトランティスを脅威とみなしてないからだ。八番浮遊大陸でガトランティスの尖兵は排除できたと考えいている。後は近傍の残敵を相当すればいい、そう考えているのさ。それに地球復活の象徴たるヤマトを態々沈む危険のある軍艦にせず、地球で記念艦にでもしてしまった方が都合がいいというのもある。お前たちの人事異動についてもそうだ。前線勤務者はほとんどいなくなっただろう?英雄を死なせたくない、だから後方勤務に当たらせるのさ。」
それは何とも呑気な話だった。ガトランティスは排除できた?いいや、すぐそこまで迫ってるのが実情だ。ガトランティス側は未だその全力を見せていない。八番浮遊大陸で撃破した艦隊は前衛どころか、偵察部隊でしかないのかもしれない。だというのに、政府首脳部はガトランティス戦役が終わりつつあると認識しているらしい。
「そう怖い顔をするな、話はここからだ。さっき言った通り俺はメッセンジャーだ。地球防衛軍もガミラスもこれで終わりだなんてこれっぽっちも思ってない。だからヤマトの廃艦決定に反対するしお前に話をしている。」
フロントガラスと窓についた雪がゆっくりと溶け出してきている。地下都市の区画に入ったのだろう。
ループは終わりどこか目的地を定めたという事か。
「今、ガミラスで一つの計画が持ち上がっている。そして、それは地球との共同作戦でもある。ルーフの中を確認してみろ。面白いものが入ってる。」
助手席のダッシュボードの中に入っていたのは部外秘のハンコが押されている、茶封筒。そしてそこに詰められている書類の中には、
「シリウス計画?」
そう記されている、防衛軍の計画書だ。
読み進めるうちにその手はだんだんと震えて来る。
「我々はガトランティスのことをあまりに知らない。どこに首都があり、どこに物流ハブがあり、どこが経済拠点か。我々は全く知らない。だから知らなければならない。奴らの根拠地を見つけ出し、殲滅する。端的に言えばそういう計画だ。」
そこの記されているのはガミラス主力の先駆けとしてガミラス艦隊と共にガトランティス支配星系へ潜入、偵察を行うための計画が記されていた。今現在、天の川銀河外縁部から侵攻してきているガトランティス。その支配領域に侵入し、艦隊を気づかれることなく留めおく場所を確保するのが第一フェーズ、そこから偵察の為の最小戦力を投入し敵の天の川銀河での根拠地を探るのが第二フェーズ、そして最終フェーズでは地球、ガミラス合同艦隊により敵根拠地と主戦力を撃滅しガトランティスの侵攻戦力を削ぎ落とす。その為のプロキオン作戦概要が記されていた。
「読み終わったのなら元に戻しておいてくれ。さて感想を聞かせてくれるか?」
そう告げるキーマンの顔には不適としか評せない笑顔が現れていた。
「感想、と言われてもな、言いたいことは確かに色々ある。だがこれを聞かなければ判断は下せない。これを見せて一体何をさせようと言うんだ?俺とヤマトに」
その言葉にクラウスはさらに笑みを深める。
「さすが、話が速くて助かる。古代、ヤマトは確かに廃艦寸前だ。だが十分に航海と戦闘に耐えうるのはこの間の超大型戦艦の件で承知しているな?軍はすでにヤマトの修理と改装を終えている。武装や予備兵装、弾薬、資材に内火艇も積み込み終わっている。いくら艤装中に廃艦が決まったとはいえ物資がそろいすぎているとは思わないか?。それにいまだ物資の補充は続いている。足りないのは艦載機とクルーだけだ」
その言葉に古代の疑念は深まる。そこまで進めるには、極秘裏なんて言葉では済まないほどの予算と資材が動いているはず。少なくとも軍内部の一派が独自に、なんてことは不可能のはずだ。
「そう、想像している通りだ。この計画は藤堂長官も把握している。ヤマトの修理には探査局の16号を部品取りに使ってまで計画を進めたのも彼だ。話がそれたな、二日後にはヤマトクルーのほとんどが英雄の丘に集まるそのはずだな?」
そういわれて気づかない古代ではない
「ヤマトを動かせ、と?」
「違うな、古代。ヤマトを奪い、タイタンまで行く。二月以内にシリウス計画は始動する。そしてヤマト廃艦派はそれまでにヤマトを記念艦か何かにしてしまうだろう。逆に言えばそれまでに奴らの手の届かない場所にヤマトを持っていけばヤマトは助かるわけだ。」
反乱、その言葉が古代の頭をよぎる。
「もし、無事にヤマトがタイタンにたどり着けば一連の反乱行為は有事対策の抜き打ち訓練として処理される。心配はいらない」
まさしく悪魔に囁きだろう。ヤマトを救う事が出来るのだから。しかしそれは...
「成功したとしてその後は?クルーたちを連れてガトランティスへ殴り込みをかけるのか?いや、そもそも失敗した時だ。その時俺たちはどうなる?」
そう尋ねずにはいられない。一度は艦の指揮を任され今も巡洋艦一隻の艦長として部下に責任を持つ古代としては、もしもの時彼らの命を預かるものとして知れねばならない。
「お前たちに任せるのはタイタンまでの回航だ。そこで足りない人員は補充される予定であるし、タイタンで降りることも可能だ。タイタンまでの道行きには地球の制空隊と戦闘衛星、月の第二艦隊、そしてパトロールがいるはずだが心配はいらない、とだけ言っておこう。失敗した時の話だが...心配するだけ野暮ってものだ。...そう怖い顔をしないでくれ、厳罰となることはない、とだけ言っておこう。さすがに首謀者までは何ともしがたいがな。」
つまるところ人身御供は必要だという事だろう。
「その話を受けなかった場合は?」
「その時は次席に話を通すさ、無理強いはしない。ただ、君が声をかける方が成功率は高いと思うがね」
さらに言えば他の人間が人身御供にされたくなければ従え、と言う事だろう。
「どうする?」
、
その顔は今決めろと、決断を求めている。軽薄な笑みは鳴りを潜め、鋭い眼差しは前を見ながらもこちらを視界に収めている。
「やろう」
そう言い切った古代の瞳は、しかし疑念も、悩みも吹っ切れていた。この男は極めて怪しい。嘘を言ってはいないだろうが真実も告げていない。だがそれで十分ではないか。ヤマトを救えるのなら本望であるしリスクもさほど大きくはない。なによりも、古代の信じた男たちならきっと同じことをするだろうから。
改めましてお待たせしました。二話になる予定が何の因果か一話になってしまいました。
これからもできる限り月一投稿を行えるよう頑張りますのでどうかお待ちいただけると幸いです。
昨日公開されたPVにやっべぇと思いながらネタ帳を確認する大猫がお送りしました。
以下読まなくてもいい設定解説
安全保障会議
地球国家連合の閣僚と防衛軍背広組が基本メンバー。必要に応じて制服組がオブザーバーや正規メンバーとして追加される。今回制服組は古代たちの他、宇宙軍トップの芹沢が参加しています。宇宙艦隊司令は現在土星にいるため不参加、陸海空軍トップもおらず少し異例な形です。
チェスター・フォン・ブラウン 67歳
元北米管区議会議長 現地球国家連合国家元首 アメリカ合衆国出身
カリスマ的手腕で北米管区の崩壊を防ぎ戦後の復興レースにて極東管区に次ぐ二位につけることで旧アメリカ合衆国としての影響力を連合内に気付き上げその勢いで国家元首へと上り詰めた。
ユーリィ・コロリョフ 63歳
元ロシア管区副代表 暴動で倒れた代表に変わりロシア管区をまとめ上げた。戦前はロシア連邦外務事務次官だった。愛犬家
アーサー・ロイド・ジョージ
統合ヨーロッパ管区軍需局長
イギリス貴族として統合ヨーロッパ管区の設立に尽力。戦中はあらゆる場所から物資を集めることで軍の活動を十全に支え結果として初期にイギリス管区軍は壊滅すこととなった。しかし生き残りをよく温存し連合内では2番目に多く軍高官を輩出するという成果を上げている。
地球国家連合
原作の地球連邦と言う言葉を使いたくない作者が作り出した造語。基本的に変わらないはずだが合衆国並みに各州の自治権が強い。
地球連合国家元首
自治権が非常に強く国家が未だ残っている為各国君主の調停役兼地球の代表として存在している。具体的な名称はなくただ元首と公文書には記録されるが首相か大統領と呼ばれることが多い。権力は比較的強く、アメリカ大統領くらいは有る。
シリウス計画 プロキオン作戦
要するに長距離偵察作戦。計画名は旧作のガトランティス根拠地惑星から。ヤマトを長距離航行させる理由づけに使用。発案はガミラス 、計画作成は地球が行なっている。
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