久しぶりの更新なのに全く本編に関係ない間話です。
読まなくても本編進行には差し障り多分無いです。
月面雨の海、そこに宇宙軍第11宇宙工廠は有った。もともとは建設が予定されていたものの三度の戦争で計画が完全に崩壊した月面完全環境都市の基礎に建てられたそれは月面でも最大の面積を誇る大工廠として空間騎兵隊の携帯火器から巡洋艦の建造までを受け持っていた。そしてその大工廠の一角、演習場にほど近いその場所に一機の重攻撃機が帰還してきた。
深紅の宇宙服に身を包んだ女性パイロットが機体を反転させ着地体制に入る。
月面の低い重力だけでは足りないのかスラスターをふかし地面にたたきつけるように着地に向かう。直前、一瞬噴射炎がちらつく、そのせいで崩れた姿勢を見事に立て直し機体は無事に着地する。格納庫にコンベアで運ばれる機体にシノハラの技術者たちがとりついていく。
駆け寄っていく技術人を押しのけてデブリーフィングに向かうパイロットに私は話しかける。
「お疲れ様です、山本二尉。調子どうでした?」
そう尋ねると顔を顰めながら、「まったくなってないね」と返してくる。
そこからくどくどと訓練相手の新米パイロットたちに対する愚痴が続く。曰く、威勢がいいだけとか口だけは一人前とか副教官のせいで軟派になっているとか。
「いやぁ、ひよっこ共の教官代理は楽じゃなさそうで。そこはいいんですが機体の方はどうでした?試作品のFCSを積み込んでいたはずですが。」
そう切り返せば一瞬顔に朱が混じり次いでごまかすかのように先ほど以上の不機嫌さで「なっていない」
と返すのだった。
「不具合の洗い出しがテストパイロットの仕事とはいえ、こんなんじゃ命がいくつあっても足りない!本当にシュミレートじゃ問題は見つからなかったの?機体制御機構にまで干渉してる。これだったら前のヴァージョンの方がましじゃない」
「それをマシと言えるのはさすがですね。とはいえ不具合については謝罪します。こっちも全力は尽くしているんですが、なかなかどうしてうまくいきませんね」
そう言い訳を述べたなら絶対零度の眼差しが返ってくるという事が短くない付き合いで分かっているものの言わないわけにもいかない。悲しき中間管理職のサガである。
「次のテストのときはフォーマットに戻しておいて。正直それが一番使いやすい。」
それだけ言い残すと山本玲中尉はブリーフィングルームに入って行ってしまった。
変わりに話しかけてくるのは委託を受けて攻撃機の改修を行っているシノハラの技術主任だった。
「坊ちゃん、機体のフライトデータ回収が終わりました。ご覧になりますか?」
かしこまった壮年の班長に下手に出られるのもなかなかに面映ゆいが今は仕事中。とりあえずは回収したデータを確認することにする。
幾つかのシステムエラーの項目そしてそれを上回る大量のアラートログ。
機体を限界まで使い込みその力を引き出すのはテストパイロットとして望ましい資質だ。とはいえ機体を用意する側としては多少手加減が欲しいところである。既に二度は重整備に回され今度は予備機を代替機にせざる負えない。
「フォーマット状態が使いやすいというのはさすが緋眼のエースと言う所ですかねぇ。最低限動かせるよう組んでいるとはいえ、補助の類が一切ないヤタガラスを乗りこなすんですから。」
そういいながら見やるのは三日前にロールアウトしたばかりの試作七号機だ。同じくロールアウトした四号機から七号機までの四機が駐機場に立ち並びさらに三日後にはもう四機も同じく並ぶだろう。
ヤタガラスと呼ばれたコスモタイガーⅠは旧四菱航空の実験機であった剣三をシャフトエンタープライズマーズが権利事購入したことからその歴史が始まった。空間戦闘機の性能調査用たる剣三は完成し必要なデータを取り終わった時点で四菱にとっては用済みであったし、枯れた技術のみを使い、現段階での性能限界を確かめると言うコンセプトから剣三の技術的価値もまた低くかったことはシャフトエンタープライズマーズにとって僥倖だった。
当時政府は火星内の企業に対して兵器の開発と発注を進めており、シャフトエンタープライズマーズもその中の一企業であった。かつて軌道往還シャトルの生産を担っていた事から地上から宇宙にまで上昇し戦う戦闘機の開発を依頼されていた。
しかし慣性制御と重力制御技術に伴い往還シャトルの需要が激減、宇宙事業から撤退しかけていた、シャフトマーズには少し荷が重すぎるのが現状だった。そこでシャフトマーズが目をつけた開発母体、それが剣三だった。
火星との戦争の機運を感じとり技術禁輸に乗り出す各国と距離を置く、日本政府は未だ禁輸措置が取られていなかったこと、そしてシャフトが多国籍企業であり、シャフトジャパンが直接の購入を行いシャフトマーズに提供するという形で規制を回避できたために剣三は火星へと渡った。
火星に渡った剣三はシャフトマーズで手直しがなされ戦争で使用する高高度迎撃機として開発される予定だった。
しかしここでシャフトマーズの技術不足が足を引っ張ってくる。シャフトマーズの製造したエンジンでは軌道上までの迎撃任務に対応しきれないことが露呈したのだ。当時の試作1号機は上昇中にエンジンが破損、墜落。2号機は軌道上での模擬戦闘中、エンジン破損部から燃料漏れを起こし、結果漂流することとなる。この結果を受けてシャフトマーズと火星独立の為の地方政府同盟は大きな方針転換を余儀なくされた。
当時新しい開発コードを与えられ剣三改め天虎は地上発進型の陸上攻撃機として軌道爆撃と揚陸を防ぐ要となるはずだった。しかし火星で一番技術力と経験のあるシャフトマーズをして満足いく性能が出せない。ならば出さなくて良いようにする、それが火星独立連合軍司令部の出した答えだった。
そもそも火星がなぜ迎撃機を配備したがっていたのか。これは火星の乏しい基盤では地球から遠征してきた艦隊に対抗できる艦隊戦力を用意できないと言うところから始まっていた。その為警備用のコルベットの他は地上発射型のレーザー砲や地表の基地から発進する軌道迎撃機で火星への降下を困難にするのが目的だった。
このプランの中で迎撃機はコルベットの誘導を受け降下体制に入った敵艦隊を撹乱する役目と地表からの砲撃回避のために艦列を乱した敵艦隊をその懐から食い破る役目を担っていた。
対艦の為にミサイルの他実弾砲まで装備する機体は必然的に重く、慣性制御技術で一歩先んじていた火星でも地表から宇宙までを往還させるには力不足だったからこその計画変更であった。地表から往還させることが叶わないのならば宇宙に配備すればいいと言うのが答案の正体だった。
大型の軌道衛星母艦を設置しそこから天虎を発進させる。この衛星基地を排除しなければ火星の降下することはできず決戦を地球艦隊に強いることで戦争のイニシアチブを取ると言うのが新たな火星の戦争計画として採用された。
この方針転換で天虎は迎撃機から艦載空間戦闘機へと大きな変化を遂げた。衛星軌道から降下し大気圏外で戦い水切りのように大気圏で機体を跳ね上げ、もう一度衛星軌道まで登り直す。その為の揚力確保と大量に兵装を積む為、大型の翼を追加し複葉化、水平尾翼を機体下面に移設し設地面を機体上面に変更する事で運用効率の向上を目指す。エンジンは警備艇用のサブエンジンを二基搭載し真空に適応し人類初の純粋な宇宙戦闘機としてSF/Aー01コスモタイガーは誕生した。
その後第2次内惑星戦争では有志連合艦隊を迎え撃ち第8次火星軌道海戦では旗艦ウォーリア以下6隻の敵艦を撃沈見事に役目を果たし火星の勝利に導いたコスモタイガーはもっぱら日系火星人が発案したヤタガラスと言う愛称で親しまれ逆に有志連合軍からはカラス或いは凶鳥と恐れられたという。
「坊ちゃん?どうされました?」
つらつらと機体の来歴に想いを馳せていた所を主任に引き戻される。
「いや、何でもないよじっちゃん。しかしエースしか乗りこなせないってのはやっぱり問題だよなぁ?」
そんな凶鳥がいまここにいるのは何故か。ガトランティスとの決戦、少なくとも軍部は確実なものとして、意識している。
戦闘機コンペディションは急足で装備を整える防衛軍にとって時間と手間がかかるだけの代物だった。既に開発が進んでいたアメリカ主導の統合戦闘機は嘗ての名機コスモタイガー の名を冠し新SF/A-01Aとして生産ライン構築に向け調整段階に入っていた。ここに待ったを掛けたのが現政権の財務大臣、ジェイムズ・マクナマラだ。彼の政治的意図は不明だがともかく議会にて次期汎用戦闘機調達の不透明性を問題視した彼は新戦闘機採用をコンペディションに切り替えた。それでも軍部としては早急な新型戦闘機の配備を熱心にアピールし結果として試作機同士による性能試験比較試験から増加試作機を先行導入して運用試験を行う形へと変更された。この交渉と並行して行われたのが競合機の開発受注先を探すことであるがこちらは極めて難航した。量産機の配備目前であったコスモタイガーⅡがある限りコンペディションでの勝利はなく開発費分損をすると及び腰になったのだ。結局軍需航空産業に属しており経営立て直しを図っていたシノハラに
意外だったのは近代化改修の結果きわめて強力な戦闘機に仕上がったことだろう。小型で発展余地の少ないコスモファルコンと比べ大型で機体強度も良好な本機は新型の彗星6型4号エンジンを二基搭載、その余りある余剰推力とエネルギー、機体強度にものを言わせ二門の重エネルギー兵器を装備その他大量のミサイルを装備でき戦闘攻撃機として極めて高い完成度を誇った。また小型の完成制御装置が組み込まれていることで機動性も高く関係者一同の期待度に反比例するように高い性能を見せつけ名機コスモタイガーはここに蘇った、かに思われた。
しかしその実態は継ぎ接ぎのキメラである。機体の制御システムは旧四菱時代のものをベースに火星軍のリンクシステムが無理やり連接されており、現行のリンクシステムこそ何とか連接することが出来たもの火器管制システムは上手く動作しているといい難い。
新型の機体制御システムと新型火器管制システムを搭載した今回の試験飛行兼教導飛行も動作不良を何とかするためであるが立ち上げを行った段階で機体制御系に干渉したようだ。新規で包括的なシステムの開発として進められているものの思わしくない。究極的に機体側の構成が半ばブラックボックス化してしまっているため十全な飛行制御システムが開発できないのだ。現状は火器管制システムを分離別系統に仕立て直し機体システムにリンクしない形で実装している。これならば稼動し、運用に耐える。しかし今度は火気使用による機体の制御をすべてパイロットが手動で行わざるを得ず、結局エースしか乗りこなせない代物にしかならないのなのだ。
「解析班の方はもう少し掛かるそうです。第一納入分はここで整備できましたから試作品でも構わなかったのですが次はタイタン基地行ですからねぇ。」
言わんとすることはわかる。第二次納入分は新型OSではなく現状のキメラ型OSで進めるしか無い。短期間で開発と配備を行うために、旧式機の改装で安く済ませ開発費を圧縮する。そのため予定もかなりタイトなスケジュールで組まれていた。が予想外の高性能ぶりに経営陣と軍部が欲を出したのがまずかった。エースが乗れば確実に戦果を出せるであろう機体ではある。そしてテストパイロットというのはすべからくエースなのだ。彼ら彼女らが乗ればそれは確かに一騎当千である。しかし一般兵に任せれば墜落とまではいかないまでもまともに乗りこなすことなど不可能に近いじゃじゃ馬でもある。
「こっちから何名か技術者を同行させてくれ。せめてデータだけでも集めなくちゃならない。向こうのテストパイロットにはくれぐれもよろしく言っといてくれ。」
せめてもの救いはテストパイロットに彼女がついており、あの加藤一尉もテストに参加してくれていることだろう。彼女たちが他のヤマトクルーの如く異動にならなければよいのだが。一開発者たる自分には、どうしようもできないことだった。
皆様、非常にお待たせ致して申し訳ありません。如何にもこうにも進まず現状に至っている次第です。
どうにかすすめて本話を投稿と相成りました。
完全に月一とか言ってらんねぇ案件です。はい。すこぶる遅い筆ではありますがもう暫しお待ちいだければ幸いです。はい。
以外読まなくてもいい設定後書き。
第11宇宙工廠
元は月の完全閉鎖都市の建設予定地として整備されていた要地。戦後防衛軍協力会参加企業複数が生産設備を設置、生産と試験を一挙に担う一大工廠となる。主な生産品は航宙戦闘機、軍艦、内火艇、無重力用実包、汎用土木機械、ミサイル、等
シノハラ シャフトマーズ等
はい、例のアレです。本編には多分もう関わりません。
CT1_及びCT2
思いっきりオリジナル設定マシマシで書いてます。火星の設定が出てるのでヤマトという時代が出る前に出したかったというのが本音。