アクシデントは突発に   作:藤宮ぽぽ

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(前編)

 

 ……すーーっ。

  

「うーーーん……」

  

 穏やかな空気を肺の中へと導き入れ、俺はいちど身体全体を使って大きく伸びをした。

 霧散していく、気だるい感覚。

 凝り固まっていた全身の筋肉がゆっくりとほぐれていき、それとともに気分も爽快になっていく。

  

  

 ――時刻は、早朝というにはいささか遅く、昼というにはだいぶ早いタイミング。

 停滞ぎみだった脳細胞が重い腰を上げ、いよいよ本格的に活動をはじめようかという頃合いだ。

 さんさんと降りそそぐ陽光が、肌に心地よい。

  

「家でのんびり過ごす休日、ってのもいいけど……」

  

 本日の天気は、みごとなまでの快晴。

 無窮に遠くまで広がる、空。薄く刷いたようなマリンブルーは、どこまでも透明に見えた。

  

「たまにはこうして、朝っぱらから外にも出てみるもんだなあ」

  

 あてもなく、ただぼんやりと。晴れやかな陽気に誘われるように、散歩に出てみただけなのだが。

 どうやら、かぎりなく正解のようだった。

 なんだか自然と、身体も軽くなったような気がする。

 

 普段の休みの日にはたっぷりと惰眠を味わい、その後も家の中で昼寝などをしながら優雅に時間を空費している俺。

 朝寝を堪能し休憩を愛し、昼寝を満喫して仮眠を欠かさぬというのが、俺の休日におけるヘビーローテーションだ。

  

 ……が、しかし。

  

「今日の俺様は、一味違うぜ?」

  

 ふふん。

 他愛もないことで、ちょっぴり悦にひたる俺。

  

 

  

  

  

「……あれー?」

  

 と。

 

 ちょうど、そんな時。

 どこからか、聞きなれた声が聴覚をくすぐった。

  

「久住くんだー。どうしたの? 休みの日の、しかもこんな時間に会うなんて、珍しいねー」

  

 その声の主は、日々顔をつき合わせている、すっかり馴染みとなったクラスメートのひとり。

 鮮やかな赤い髪と、それを束ねる白いリボンがトレードマークの人物だ。

  

「おう、美琴かー」

  

 蓮華寮のある方向から、見知った影が近づいてくる。

 普段から通学路として、歩きなれている道。ここで彼女と遭遇しても、別におかしなことはない。

  

「ふふん……どうかね、天ヶ崎君。珍しかろう? 今日の俺様は、一段と輝いているであろう?」

  

 普通に考えれば、ごく当たり前のことなのかもしれない……とはいえ。

 それでも、あえて言おう。今日の俺は、たいそう上出来にあられる。

 つまりは、よくぞ早起きをしたものだ。

 ノリノリかつ高揚した気分のままに、俺は無駄に胸をそびやかし、おおいに威張ってみせた。

 もうこれからは、誰からも後ろ指なんてささせないぞう。

  

「……その目に焼きつけたまえ、日頃の休日に惰眠ばかりを貪っていた直樹くんから卒業した、この健康美あふれるこのお姿を。そして感涙にむせびつつ、おおいに珍しがりなさい」

  

 今日この日に限っては、限界突破(リミットブレイク)した行動力という点において俺を上回る人間など、そうそう存在するものではないだろう。

 日々ただルーチンワークを繰り返す方々の閉塞感に風穴を空ける、そんな俺はさながら一服の清涼剤。

 ふふん。かえすがえすも偉いね、俺。

  

 ……と、思ったんだけど。

  

「ま、参りました……」

  

 増長という名の山頂に達し、謙遜の美徳を川に流し去っていた俺は、目前の人物の菩薩のごとき姿にがっくりと地に膝をつけた。

  

「?」

「うをんっ!」

  

 首輪から伸びた長い紐を片手に巻き、一匹の犬と連れ立って歩く美琴。

 わ、ワンちゃん……だと!?

 毎日のように学園で顔を突き合わせている間柄。だからこそ、こうして動物と行動を共にしている美琴の姿が、ひどく新鮮に見えて。

 

 そう。俺のみならず、現在の彼女も、これまた確定レアものなのである。

 それもおそらく、ふたたびこんなシーンを拝める機会など、ワンチャンあるかどうかわからないくらいにだ。ワンちゃんだけに。

  

 …………。

 

 はい、言ってみたかっただけです。

 

「へへー。この子はね、ロータスっていうんだよ。寮で飼ってる犬なんだー」

「あー……そういや前にも、どっかで聞いたことがあるような気がするな」

「でね。寮のみんなの持ち回り制で、こうして散歩に連れてってあげてるの。そして、今日はわたしの当番というわけ」

「をんをんっ!」

  

 美琴の言葉尻に、ロータスのいかにも嬉しそうな吠え声が重なった。

 

 

  ◇  ◇  ◇  ◇

  

  

 俺たちの通う蓮美台学園には、遠郊の地に実家のある生徒たちのために、「蓮華寮」という学生寮を用意している。

 そして、その寮で飼われているロータスは、生来の人懐こさもあって、寮生たちにもずいぶん人気が高いという話だ。

 ついでに「わんわん」といったようなお決まりの鳴き方をしないところが、珍しいっちゃ珍しい。

 

 ……ま、なんにせよ。

 この陽気ならば、たしかに絶好の散歩日和といえるだろう。

  

「いや、やっぱりさ……」

  

 美琴と並ぶようにして歩きながら、しかし俺はいまだに精神的な敗北感をぬぐえずにいた。

  

「休日のうららかな朝日の下に躍りでた俺の行動も、珍重されるべきだと思う。けどさ……美琴がこうしてペットを連れて散歩に出るというのも、えらく珍しい話だよな」

  

 正直言って、美琴のこんな姿なぞ、今まで一度も見かけたことはない。

 ゆえに希少さでいえば、朝の散歩に興じていた俺と同レベルと思われる。

 あ、いや。以前……ごくわずかに、一回くらいだけ、こうして彼女が犬を連れた光景に出くわしたことがあったような気もするけど。

 ともあれ、意外性という観点においては、なかなかの高ポイントといえるのではないだろうか。

 美琴ながらあっぱれ。

  

「そんなことないよ。ちゃんとわたしの当番の時は、いつもこうして散歩に連れてってあげてるよー」

  

 ……そ、そうなんだ?

  

「にしては、俺、美琴がロータスを連れて散歩してるのって、ほとんど見たことがないような気がする」

「むー。それは久住くんが、こんな時間からあんまり散歩に出たりしてないからでしょ」

  

 ……言われてみれば。

 冷静な美琴の指摘が、俺をさらなる負け犬の泥沼へと引きずり込んだ。

  

「でも、ね。実はちょっぴり……嬉しいんだ」

「ん? 何がだ?」

  

 縄を引っ張るようにしてひたすら先へと進もうとするロータスへ、美琴は視線を落とす。

  

「ほら、わたしってこの街に来たばっかりだから。こうしてロータスに案内してもらいながら、街の様子も知ることができるしね。一挙両得っていうんだよね、こういうの?」

  

 たしかに、言われてみればロータスが勝手に、自分の行きたい場所へ美琴を引っ張っていっているようにも見える。

 引率する寮生たちにとっては、それはなかなか難儀なことかもしれない……が。

 けれども、美琴にしてみれば。つられてあちこちと周るうちに、自然とこの街のことを覚えていってるんだろう。

  

「……にしたって、もし道に迷ったりなんかした時は、どうするんだ?」

「あはは、大丈夫だよー。もしそうなっても、ロータスがちゃんと寮まで連れてってくれるから」

「って、カーナビかよ」

「うをんっ!」

  

 カーナビもどきが、さも誇らしそうに一声吠えた。

  

  

  

 

  

 そんなこんなで。

 最初から特に予定などなかった俺は、美琴とロータスの散歩に付き合うことにした。

 ま、たまにはこういうのもいいかな。

  

「こらー、ロータス! そんなに急いじゃ駄目でしょー」

  

 ずりずりずりりり……。

 おお、美琴が引きずられとる。

 わりと大きな、しっかりとした体格の犬なので、その力は存外バカにできないものがある。

 ふむ。これはこれで、見物するのもなかなかに愉快だ。

  

「……って、久住くんもそんなに爽やかな笑顔してないで、少しはなんとかしてよー」

「って言われたところで……俺、犬の言葉なんか分からないし」

「誰だってそんなの分からないよ。そうじゃなくて、少しくらい手伝ってよぉ」

  

 そんなことを言いつつも、リードを強く引いてロータスの動きを封じるのもかわいそう、などと考えているのだろう。

 適度にあしらい、適度に小走りぎみにロータスを追いかける美琴と並走しつつ、そんな彼女から非難される俺。

  

「いや、これも立派な犬使いになるためには、避けて通れぬ道だ。俺が横で監督していてやるから、しっかりブリーディング術を学び取ってくれ」

「そんな訓練、必要ないよー」

  

 手伝ってやりたい気はそれこそ旺盛なほどにあるんだが。ここは心を鬼にして、せめて生暖かい目で見守っていてやろう。

  

「……ねえ、久住くん。ニヤけちゃって、なんだか気持ち悪いよ」

  

 めちゃめちゃ傷つきましたよ?

 ……とかなんとかやっているうちに、今度はあれだけ元気だったロータスが、ぴたりと制止した。

  

「ん? どした?」

「をんをんっ!」

  

 ようやく止まったと安堵する美琴を横目に、俺はロータスのそばへ近寄った。

  

「お、100円玉か」

「うをんっ!」

  

 ロータスが、勢いよくうなずき返す。

  

「……っていうか、微妙にセコいぞ、この犬?」

  

 とりあえず地面に落ちていた100円玉を拾い上げると、俺はちょっと哀れむような目線を美琴へと送った。

  

「ち、ちち、違うよー!」

  

 あわてた仕草で、リードを握っていないほうの手を左右にぶんぶんと振る美琴。

  

「ロータスってさ、うっかり寮のなかでアクセサリーとかを落っことしちゃった時に、見つけるのが得意なんだよー」

「……へえ」

「めったにある事じゃないんだけどね。それでも寮内には女の子も多いから、偶然にって時があったりしてね」

  

 まあ、ロータスにしてみれば、単純に道に何かが落ちているのに気がついただけなんだろうけど。妙に狼狽する美琴の姿が、なんだかおかしかった。

 それにしても、光り物に敏感に反応する犬って、けっこう貴重かもしれん。

 ……ま、何はともあれ。

  

「100円、ゲットだぜ!」

  

 古人は「早起きは三文の得」などと、いいことを言いますな。

 うむ、実感いたしましたよ、今。

  

「……まあ、100円ぐらいならいいかな。うん、いいよね……」

  

 って……おおう!

 今度は俺が、美琴から哀れむような視線を受けとる。

  

  

  ◇  ◇  ◇  ◇

  

  

 ――そんなことがあってからも、なおも俺と美琴はロータスの散歩を続けて。

 適当にとりとめのない雑談などを美琴と交わしながら、ロータスの赴くままに任せて進路を決定していく。

  

 

  

「……あれ?」

  

 不意に美琴の視線が、あらぬ方へと転じた。

  

「ん、どした?」

  

 つられて俺も、そちらに振り向く。

 するとそこにあるのは、一台のジュースの自動販売機と……。

 その前にはひとりの小さな子供が、一枚の硬貨を投入口へ投じたあと、しきりに何度もボタンをプッシュしつづけていた。

 近づいていく俺たちにも気がつかないぐらいに繰り返しボタンを押しつづけ、そして何かに気がついたあと、その顔が見る間にどんどんと崩れていく。

  

「……どうしたのかな、あの子?」

「あー。きっとアレは……アレだ」

  

 俺には五年ほど前からそれ以前の記憶がいっさい無いから、実体験としてそんなことがあったのかは分からないけど……。

  

「ほら……よく子供のころの話として聞くだろ。今回は自販機が相手だけどさ、たとえば駄菓子屋なんかに小遣い銭を持っていって……」

  

 ……なにがしかの商品を買おうと思ったんだけど、いざ店の人に手渡してみると、いくらか足りなくて。

 で、けっきょく、泣く泣く買うのを諦めてさ――

  

 そんな俺の説明に、しばらく美琴はきょとんとしたあと。

  

「あ、ああ……なるほどねー。そっか、そういうことかぁ」

「……ひょっとして、お前がいたところってさ。駄菓子屋とか、そういうたぐいの店とかってなかったのか?」

「あ、ううん。えっと、そ、そんなことはないんだけどねー。あははは」

  

 ……変な奴。

 と、俺が思ううちにも、美琴はその子供のそばへと近づいていく。

  

「……仕方ねえな」

  

 やれやれと内心で小さく息をついたあと、俺もそれに従った。

 うわ、っていうかすでに半泣きじゃん、あの子供。

 ビビった俺は、ちょっと腰が砕けた。

  

「よしよし。お金が足りなくなっちゃったんだね。だから困っちゃったんだよね」

  

 そんな俺にはおかまいなく、美琴はその子供の横にしゃがみ込むと、目線を同じ高さに合わせてなにやら優しく語りかけていた。

 ロータスは、そんな美琴の姿をじっと見守っている。

 

 うーん……。

 おだやかに、子供に話しかける美琴。その姿は、いつもの彼女とはどこか違ったように見えて。

 柔らかな笑みを浮かべるその横顔に、不覚にもドキリと心がわずかに疼いた。

  

「……それじゃ今回だけ、お姉ちゃんがなんとかしてあげるから。今度はちゃんと、お金が足りなくならないように気をつけるんだよ」

  

 ぐずつく子供の頭を、軽くひとなでしたあと。

  

「そんなわけで……久住くん」

「……やだ」

  

 俺は美琴の意図するところをそれとなく察し、腕を背の後ろへと引っ込めた。

 と、平穏そのものだった空気が一転し、双方の間で火花が散りはじめる。

  

 あやつの胸のうちなど、言わずもがなだ。狙いは俺の拳のなかに眠る、一枚の硬貨であろう。

 しかし、唯々諾々と彼女の意向に従うのが、はたしてよいものなのだろうか?

 否、否! そうは問屋が決して下ろしはしない。

 俺は立派な日本人。NOとためらいなく言える、そんな大人に俺はなりたい。

 守銭奴とでも、なんとでも呼ぶがいいさ。ただ俺は、無益な施しはしない主義なのだ。今決めたのだ。

 今日は勝者の側に立っていたとしても、明日は敗残の身に落ちぶれる可能性もなきにしもあらず。そうなった時に、この100円玉はどれだけ俺を助けてくれることだろう。

  

「うう……久住くん……」

「い、いや、なんていうかさ……この子の将来のためにも、金銭の尊さはちゃんと肌身として実感させておいとかないといけないと思うわけよ? そう、先人が次代を担う若者に、教えを遺しておくみたいな?」

  

 力説するわりには語尾に疑問符をつけまくりな俺。

 って、なんかこれじゃ、俺が悪者みたいではないか。

 いや、まあ……。実際のところ100円ぐらい、別にどうということもないんだけどさ。

  

「……う、う……うわぁぁぁんー!」

  

 が、そんな俺の真心をこめた説得(?)もむなしく、ついに泣きマネまでしてみせる美琴。

  

「久住くんが、久住くんが、わたしの代わりにロータスの縄すらも持ってくれないなんてーっ!」

  

 ……へ?

 って、み、美琴さん?

  

「あの……というよりも、たったそれだけの事でいいんですか……?」

「……うん」

  

 この次はマネじゃなく本気で泣き出してみせますよといった表情で、こくりとうなずく美琴。

 そんな彼女につられて、子供も今にもぐずついた火山を噴火させてしまいそうだった。

  

 うーん。

 ……美琴はこれからひとり急いで蓮華寮へ馳せ帰って、財布でも引っつかんで戻ってくるつもりでいるのだろうか。

 よりいっそう、俺の罪悪感が深まってきた。

  

「……分かったよ。それじゃ、俺はここで待ってるからさ」

  

 背の後ろに回していた腕を解き、拳の力もゆるめてロータスとつながったリードの先端へと手を伸ばす。

 しぶしぶながらも、俺は美琴から手渡される縄をつかもうとし――。

  

 たところで。

  

「……ごめん久住くん! 悪く思わないでねっ!!」

  

 瞬時にして、美琴の手がひるがえる。

 ――神をすら欺かんばかりの早業、まさに電光石火のごとし。

 わずかに開かれた俺の拳の中から100円玉が消えたのは、その一瞬ですら目視できなかったほどの刹那の間だった。

  

「……って、お、お前っっ!?」

  

 驚愕しつつ、俺が奪還を試みようと伸ばした腕もあえなく空を切る。

 そして流れるような美琴の動きが、躊躇なく硬貨を投入口へと放り込んだ。

 パパパパパっ。

 とたんに各プッシュボタンに、赤い灯が点灯する。

  

「ほら、なんでも好きなものを選んでいいからねー」

  

 …………。

 ……なんで美琴さんは、俺に対する仕打ちと子供に対する仕打ちとが、こんなにも違いますか?

 すっかり別人となったかのごとくな優しい笑みとともに、美琴は子供に語りかけた。

  

「う、うん……。そ、それじゃ……」

  

 おずおずと伸びる子供の指先が、やがてひとつのボタンに触れ……。

 ……ガシャン。 

 万事休す。

 軽快な音をたてて、受け取り口に一本の缶が転がり出た。

  

「……はい。このジュースは、ボクのだからね。いじわるなお兄ちゃんが取り上げちゃう前に、ちゃんとおうちへ持って帰るんだよ」

  

 いや。もう、そんなことしないって。

  

「あ、ありがとう……お姉ちゃん」

  

 チャリチャリチャリン。

 それだけでなく、おつりの払い戻し口に落下してきた数枚の硬貨も、美琴はその子供の小さな手にそっと握らせる。その硬貨こそ、先にあの子供が投入していたものなんだろう。

  

「こっちも、しっかりと持ってね。ちゃんと転ばないように、気をつけて帰るんだよー」

  

 まあ……いいか。

 子供はこちらに向かって精一杯の礼をすると、小走りぎみに帰っていった。

  

「うん。よかったよかったー」

  

 その子供の背にひとしきり手を振り、美琴は満足そうに息をついて。

 ……あとに残ったのは、少しばかり気まずい沈黙。

 さぞや俺が憤怒の思いを心のうちに溜め込んでいるとでも考えたのか、やがておずおずとこちらを窺うように切り出してくる美琴。

  

「えへへ……。ごめんね、久住くん」

「いや……別にいいって、もう」

  

 俺は、努めて穏やかに返す。

 どうせ、もともと最初から持っていた金なわけでもないしな。子供と美琴の二人が喜んだのなら、それでいいと割り切ろうではないか。

  

「それにしても、さ」

  

 普段はなかなかお目にかかる機会もなさそうな、友の思いがけない一面を垣間見たような気分で、俺は素直に現在の心境を言葉に変えた。

  

「……美琴って、意外と子供好きだったんだな」

「意外とって、なによぅ」

  

 正直な賛辞のつもりだったが、どうやら当の本人にはあまり喜ばれていない様子だ。

  

「別に好きだとか嫌いだとか、そういうのじゃなくて。ああいう子を見たら、誰だってかまってあげたくなっちゃうよ」

  

 ……うーん?

  

「……そういうもんか?」

「そういうもんです」

  

 俺にはあんまり理解できなかったが、美琴はさも当然ですといったふうに首を縦に振った――そんな時。

  

 ピピピピピ……ピンピラリ~ロロロ~♪

 すでに誰からも見向きされなくなった自動販売機が、にわかに軽快なメロディを奏ではじめた。

  

「……ん?」

「……ほえ?」

  

 そして、メロディが鳴り止むと同時に……。

 一度は消えたプッシュボタンが、ふたたび一斉に赤く点灯する。

  

「久住くん、これって……?」

「いまどき珍しい気もするが……。当たっちゃったよ、もう一本」

  

 …………。

  

 俺と美琴は、顔を見合わせた。

  

  

 

 

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