鬼子の剣士は夜明けを望む   作:安代圭

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18話「帰郷」の後書きに五行思想に関する解説を追記しました。
第2章最後に登場人物一覧とあらすじを追加しました。


第21話 未熟

 松田の首筋に木刀を突きつけた瞬間、音が消えた。──否、静寂が耳を貫いた。

 その瞬間、冷えた頭が今までの己の行動を理解して停止する。

 ──役目を逸脱した。

 燃えるように熱かった手足から、一気に血の気が引いていく。

 心臓が凍えたように痛い。

 ──馬鹿なことをした。

 怒りに任せて木刀を振るうとは。憎悪のままに、稽古相手を打ち据えた。稽古場の監督者としてどころか、一人の剣士としてもありえない。弁明のしようがなかった。

 ──未熟。

 彼は謝罪し、私は受け入れたはずだ。それで、私と彼の関係は終わったのに、今更彼を恨むだなんて。

 青ざめた顔の松田は、化け物を見るような眼差しで明を見つめていた。

 その視線を受け止めきれず、明は目を逸らした。

「…………すまなかった」

 乾いた喉に声が引っかかり、ようやく口に出せたのはその一言だけだった。後悔と狼狽で塗りつぶされた思考は、身体への指示を放棄した。

 肌を刺すような静寂。

 しかし、明が凍りついていたのは、時間にして数秒にも満たなかった。

 ──稽古に戻らせなくては。

 硬直していた明を動かしたのは、監督者としての立場だった。

 指針を得た瞬間、明の体は機械的に動き出した。釈然としない顔の隊士たちを稽古に戻し、再度、松田に向き直る。

 今なお青白い顔のままの松田に、今度こそ頭を下げて謝罪した。

 拒絶はされなかった。

 ──だが、もう、彼はここには来ないだろう。

 床へ向けた顔を沈痛に歪める。

 取り返しのつかないことをしたという諦念が手足に満ちていた。

 この場の隊士全員に悪印象を与えただろう。そして、松田はこれから、同僚としての私を認めることはないだろう。

 顔を上げ、立ち合いを仕切り直す。

 構えた木刀の先に、松田の顔がある。先の理不尽な明の剣を受け、警戒を強めた視線が明の体に注がれている。

 ────水の呼吸 参ノ型隻式 流流舞い

 ────炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天

 今度は明が先に動いた。

 水流を纏った剣撃を、松田の木刀が辛うじて捌く。

 ────炎の呼吸 伍ノ型 炎虎

 ────花の呼吸 弐ノ型隻式 御影梅

 余裕のない炎虎だった。

 明は足の運びを止める事なく、流れるように花の呼吸の連撃に移る。球を描く剣の軌道は、危なげなく松田の型を受け流し、逆に松田の手元を浮かせた。

 ────霞の呼吸 肆ノ型隻式 移流斬り

 隙が生まれた瞬間、明は松田の懐に潜り込んだ。滑るような動きで体勢を低くし、怪我をさせぬように隊服の表面だけを撫でるようにして斜めに斬り上げた。

 反応の遅れた松田は、踏み込んだ勢いのまま背後を取った明を視線で追い、

 ────風の呼吸 陸ノ型隻式 黒風烟嵐

 しかし、明の型に対応するには間に合わない。またも隊服を掠めた木刀を、甘んじて受け入れる。体そのものに直撃していないのは、明が狙いを誤っているのではなく、驚異的な技量によって体を避けているだけだというのは松田自身も理解していた。

 ────炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天

 ────水の呼吸 捌ノ型隻式 滝壺

 斬り上げようとした松田の剣先が腰の高さにすら達する前に、上段から振り下ろされた明の木刀によって叩き落とされる。

 初動から型の完成までが早い方である弐ノ型ですらも、易々と抑え込まれてしまった。

 ──圧倒的だ。

 ──まさに、怪物。

 力比べであれば、鍔迫り合いであれば、絶対に負けることはない。松田と明の間には、それだけの体格差がある。だが、筋力勝負に持ち込む事ができない。立ち合いは完全に明に支配されていた。

 明の千変万化の剣筋は予測を許さず、逆にこちらの動きは完全に見切られている。──否、動きが読まれている、どころではない。次に出す型を操られているのではないかと錯覚する程に、手も足も出ない試合が続いた。

 最初の一戦、鬼気迫る勢いで攻め立てられたあの試合では、まだ拮抗状態を保てていた。しかし、複数の呼吸を雑多に混ぜた剣術に切り替えられた途端、全く対応できなくなった。知らない型に対応する事の難しさもあったが、それ以上に、膨大な型の中から的確に最適な技を引き出し続けられる明の技術と判断力に舌を巻いた。

 ──これが本当の実力か。

 明の体に掠らせることすらできない己に歯噛みする。少女の力量は明らかに柱の域に達していた。何の感情も乗っていない、厳しく冷徹な剣が松田を追い詰める。

 いつしか、松田の呼吸は荒くなりかけていた。意識して大きく息を吸い込み、全集中の呼吸を深める。

 炎の呼吸が松田の肺を満たす。──それとは対照的に、最初の一戦の後、明は一度として炎の呼吸を使わなかった。

 

 

 試合に勝って、勝負に負けた。

 誰に負けたのか?

 ──己に。

 明は苦い顔で唇を引き結ぶ。

 憎悪のままに木刀を振るった未熟、己の炎の呼吸が本物には及ばないという敗北。

 どちらも耐え難いほどの恥として、稽古後の明を苛んでいた。

 特に、衝動を抑えきれず、我を忘れていたことへの羞恥は、稽古人と顔を合わせることすら苦痛に感じさせるほどのものであった。

 ──故に、夕刻、他の稽古人が立ち去った後、最後まで居残っていた松田が明に近付いて来た時は、無視をして立ち去りたい衝動に駆られた。

 しかし、それは許されることではない。これ以上の無礼を晒す事の方が恥だ。

「……稽古中は失礼致しました。ご迷惑をおかけしました」

 松田が口を開くより先に、明は頭を下げた。

 沈黙が痛い。

「……こちらこそ、無神経に稽古場に踏み入って、悪かった。君の怒りは当然のものだ」

 松田の声は苦渋に満ちていた。

「しかし、今日の稽古は非常に勉強になった。立ち合いをしてくれたこと、感謝している。……ありがとう」

「…………いえ。継子として仕事をしただけですので」

 予想外の謝辞に、反応が遅れた。

「──もし、都合のつく日がありましたら、また、稽古に来てください」

 自分の口から出てきた言葉に驚く。『もう、彼はここには来ないだろう』と、先ほど諦めたばかりだというのに。

 松田の顔を見上げる。彼の口から漏れる息は、炎の呼吸による常中。耳慣れた音は明の胸中をささくれだたせているが、恨みや怒りよりも、今は羞恥と困惑、そして罪悪感の方が大きかった。

「君が許してくれるなら、また来る」

 軽く頭を下げて去っていった松田の後ろ姿を、明は無言で見送った。

 

 

 

 ──隣接地区で負傷者多数。

 人手が足りないため、至急、(ひのえ)以上の隊士を求む。

 鎹鴉からの通達で、風柱の伊藤と小夜は勤務予定の調整に奔走していた。

 最近は隊士の総数が増加傾向にあるため、多少の余裕はあるものの、(ひのえ)以上の隊士となると人数は限られる。

 よって、負傷者が復帰するまで、明を含むこの地区の上級隊士が交代で出張することになった。明は継子であり柱代理の仕事もこなす都合上、あまり地区を離れるべきではないが、人員が不足しているならば仕方がない。

 風柱の管轄地区から出るのは久々だった。

 ──やはり、この反応になるか。

 鬼を斬り、任務を終えた後も、隊士たちの視線が体を刺す。気配に混じる疑念と敵意はあからさまだ。

 十二鬼月の上弦の鬼と接敵し、ただ一人生還した、鬼の形質を持つ剣士。

 初めて会う隊士にとって、明は疑わしい脅威でしかない。

 わかってはいても、居心地の悪さと腹立たしさは変わらなかった。

 ──かたわの鬼がいるものか。

 何度、その言葉を口にしかけて飲み込んできただろう。

 けれども、彼らに怒りを向けるのは、八つ当たりに近い事だ。隊士達の立場と状況を考えれば、その反応こそ正常なもの。加えて、怒りを(あらわ)にすれば、余計に事態が悪化するのも目に見えている。

 だから距離を置き、交わす言葉も最低限に、任務だけを淡々とこなした。

 鬼に同情する素振りは見せられない。

 肉を断つ嫌な感触に、顔を歪めることは許されない。もし干天の慈雨などを使ってしまえば、あらぬ疑いをかけられる。

 私は鬼殺隊の側の存在なのだと、証明し続けなければならないのだ。

 けれども、日が経つにつれ、苛立たしさを抑えられなくなっていた。

 ──未熟、未熟、未熟。

 仕草の端々が荒くなる。抑制できていない己に、また苛立ちが降り積もる。負の循環が完成していた。

 五日間の出張を終えて帰った風柱邸は、時間帯ゆえに人気が少なく、がらんとして寒々しい。

「────明、おかえり」

 物音で起きたらしい小夜は、寝巻のまま明を迎えた。

 あくびを噛み殺しながら近付き、明の気配の刺々しさに驚く。荒んだ空気は申し訳程度にしか抑えられておらず、隠す気がないのだと察せられた。

 これはそれだけ小夜に気を許していると言うことなのか、それとも軽んじられているのか、あるいは気を使う余裕すらないのか。

 ──間違いなく後者だろう。

 明との間に築いてきた信頼関係は柔なものではないし、明が礼儀正しい人間であることも知っている。

 出張先で何があったのかはわからないが、よい思いをしていないのは確かなようだ。

「お湯を沸かしてくるよ。着替えの用意をしておいて」

「……感謝する」

 答える声は低い。

「疲れているよね。寝る前に何か食べる? それともお茶だけにしておこうか」

「腹は減っていない」

「わかった」

 短く答え、小夜は湯の用意に向かう。歩きながら、小夜は頭の中で今日の予定を組み立てていた。これからやることが山積みなのだ。

 三日後には故郷から猟師を招く予定だった。それまでに取り寄せた報告書の全てに目を通し、資料を作成しなければならない。

 疲労が重なっているが、ここが踏ん張りどころである。思えば、初めて鬼殺隊本部を訪れて資料の解析を行った時も、このように気張っていた。あの時は切羽詰まっていたから、今回の方がまだ気分の上では楽だった。

 

 

 

 小夜から聞かされていた通り、三日後の朝、風柱邸に小夜の故郷の猟師が訪れた。

 隊内に猟師の技術を導入する企画の第一歩である。

 頑丈そうな手足をしたその男は、いくらか気後れした様子で屋敷の門を叩いていた。見た目はいかにもいかつかったが、小夜を目にとめた瞬間に浮かべた笑みは穏やかなものだったので、明は第一印象との違いに戸惑った。

 ──小夜が呼んだ相手だ。能力、人格ともに信頼できる人なのだろう。

 そう思えば、少しだけ肩の力を抜くことができた。

 並の人間を恐れることも、恐れる必要もないほどに、明の武力は抜きんでている。しかし、初対面の人間相手に緊張しないわけではない。特徴の多い見た目をしている分、一般人にもとやかく言われたり避けられたりしがちだったのもあり、明は相手が隊士でなくとも他人への警戒心が強い。

 男は明の異形の瞳孔や欠けた左腕を物珍し気に見はしたが、何も言わず、侮蔑の視線もよこさなかった。身分を把握されているおかげもあるだろうが、良識のある相手の態度に悪い気はしなかった。

 風柱の伊藤、企画者の小夜に並び、話し合いの末席に明も座らされた。これが伊藤と小夜のどちらの意図によるものかはわからないが、わざわざ明の任務のない日を指定したので、この企画の責任者の一人として扱われているのだろう。

 高尾と名乗ったその猟師の男は、伊藤と同年代のように見えた。今年で十七になる小夜は、多少若いきらいがあるが、企画の中心人物であるし、高尾と面識もある。その中で、十三の明は若すぎた。高尾から向けられる訝しげな視線がいたたまれず、視線を下げる。明が突出しているのは剣術だけだ。稽古場では(きのえ)の継子という立場相応に振舞うように心がけているが、隊の運営に関しては素人もよいところの未熟者である。小夜のように日夜隊内資料を読み漁っているわけでもない。

 互いの名前や肩書、仕事の紹介が終わると、話はすぐに具体的な計画へと進んだ。

 小夜、伊藤、高尾による話し合いの輪に入ることも難しく、明はほぼ聞き手として状況把握にのみ務めた。小夜の淀みなく簡潔な説明に感心すると共に、ただ聞くことしかできない自分が悔しく、情けない。

 この頃は小夜の話を聞くたびに、この人はただの剣士に収まる器ではないのだろうと思うようになった。小夜の適所は、明と違って戦場ではない。剣才とは異なる才を持った人だ。最近の小夜は忙しそうだったが、前よりも活力に満ちているように見えた。今の自分には、その姿が少し眩しい。

 故に、『小夜から技術の手ほどきを受けた隊士』として意見を求められたとき、やっと肩の荷を下ろせた心地になった。これから隊士に技術を仕込むにあたり、狩猟素人の隊士としての意見と、実際に指導を受けた時の所感は多少は有意義だったようで、三人からの好意的な反応に安堵する。

「なるほど。東出君の同席はこのためか。ありがとう。参考になる」

 納得した顔の高尾に対し、伊藤は首を振った。

「いや、それもあるが、少し異なる。東出は私の後継のようなものだ。加えて、隊に猟師の技術を導入したいと言い出したのも東出だったからな」

 ──後継。

 その言葉に、明は咄嗟に伊藤に視線を向けた。

 毎朝の稽古では木刀を交えており、名実ともに明を継子として扱っている。亡き野沢隊士と同じように、稽古場を任せられてもいる。それでも、はっきりと後継と口に出して言われると、別の重みが感じられた。ここでこう言うからには、『次期柱として』という立場も兼ねて同席させられていたらしい。それを理解できていなかった自分の鈍さが恨めしかった。

 ──未熟だ。

 会議を終えて、溜息をつきながら廊下を歩く。この頃は自分の力不足や未熟さを自覚させられる事が多い。

 私は甲で、継子だ。若さを言い訳にする事は許されない。私は子供である前に隊士であるのだから。模範的な隊士として振る舞わなければならない、のに。

「────明?」

 何も考えずに足を動かしていたが、無意識に小夜の部屋に来てしまったらしい。半開きの障子の隙間から声をかけられ、明は立ち止まった。

「……入っていいだろうか?」

「いいよ。少し散らかっているから、あまり触らないでね」

 許可を得たので、遠慮なく入室する。

 障子の裏で見えていなかったが、小夜は猟銃の手入れをしているようだった。傍らには彼女の愛用する山刀も置いてあった。

 いずれも、彼女の父の形見だということを知っていた。

「高尾さんと話してたら、懐かしくなっちゃってね」

 小夜の表情は暖かなもので、手にする銃の物騒さとはちぐはぐに見えた。けれども、刀は猟銃よりもよほど物騒だろうし、おそらくは刀を見る自分の表情もたいして変わるものではないだろうと思いなおす。

 その中に寂しさと孤独の色も見えた気がしたが、気がつかないふりをした。

「鬼殺に銃は使えると思うか?」

 明が問いかけると、小夜は銃口を拭う手を止めた。

「……この銃では首を切断できないから、猩々緋鉱石で銃弾を作っても無理だと思う。もっと口径の大きいものなら可能かもしれないけど、私の体格では扱うのが難しいだろうね」

 思案しながらゆっくりと言葉を紡ぐ小夜の声に、黙って聞き入る。

「鬼は生き物として妙だから……太陽か斬首でしか殺せないなんて、生き物よりも妖に近いように見える」

「……元は、人間だが」

「うん、それはわかってる。でも、生態自体は完全に理外のものに思えるんだ。最近、色々と本を読んでいるのだけど、知識を得るほどに、鬼という存在が理不尽の塊のように思えてくる。……そして、鬼に対して、私たちは無知にすぎるようにも思う」

 目を軽く伏せた小夜の視線は、手元の銃に注がれていたが、その実、何も映していないようにも見えた。

「そう……鬼の殺し方を、私達は二つしか知らないけれど、その条件自体、詳しく調べられているわけじゃない……」

 それきり黙りこくり、小夜はまた銃の手入れに戻った。

 部屋に沈黙が満ちる。

 しかし、先の会議で何も言えなかったときと異なり、今の無言の空間は、穏やかなものに感じられた。姿勢を崩し、小夜の手元に見入る。

 小夜といる間は、師と母を喪った悲嘆も、自分の未熟故に部隊を全滅させた悔恨も、炎の呼吸を極めきれない自分の肉体の限界も、忘れる事ができた。だから、今日もここに足を運んでしまったのだろう。銃を手入れする音だけが響くこの空間の穏やかさが、無力感と己の未熟さへの苛立ち、そして(はらわた)を焼く痛みを和らげてくれる。

 小夜が任務に復帰してからも資料整理と分析を続けていたため、以前より更に私的な時間が減っているようだった。明も任務に加えて稽古場と杏寿郎の指導の三足の草鞋状態のため、小夜と明が時間を共にする機会はごくわずかなものになっていた。今のような時間は貴重だ。ゆっくりと息を吐く。

「……ねえ、明は、平和になったらどう過ごしたい?」

 心地よい沈黙に浸っていると、小夜が口を開いた。

「私は、山に帰ろうかなと思っていて。やっぱり、狩人が性に合ってる気がしているんだ」

 猟銃を扱う手つきには、猟師という仕事、そして彼女の父への敬愛がうかがえた。

「でも、……最近は、勉強も、してみたいなって思っているんだ。鬼殺に使えるかもしれない情報を片っ端から調べているのだけど、これが結構楽しくてね。世の中、私の知らないことばかりのようだから。知らない事を知るのは、とても楽しい」

 小夜の部屋の棚に目を向ける。彼女の言の通り、収集された書籍の類は棚から溢れんばかりに並べられている。

 会合に向けて昨晩も遅くまで資料を作っていた小夜の顔は疲労の色が濃いが、声には希望と活力が滲んでいた。

「明は、何がしたい?」

「私、は────」

 口を開きかけて、言葉に詰まった。

 ──剣術。

 明の執着は、そこにしかない。

 鬼を滅する手段として剣術を磨き上げた隊士達の中で、明だけが剣そのものも目的にしていた。

 誇りも理想も憧れも、その全てを養父の炎の呼吸に向けていた。

 ──だから剣鬼なのだ。私は。

 世の安寧のためでなく、己の妄執のために刀を振るい続ける羅刹。

 私の強さは、この剣技は、人のためだけでなく、己のために磨き上げられたものでもあった。

 その点において、私は鬼なのだ。

 沈黙した明に対し、小夜は怪訝そうに首を傾ける。

「……隊士を辞めたあとのことについて、考えたことがなかったものだから。だが、そう、だな────」

 鮮やかな琥珀色の小夜の瞳を見つめる。

「もし迷惑でなければ、隊の解散後も、友人として仲良くしてもらえたら嬉しい」

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