危機紀元205年。この日、地球ボーグ艦隊は三体文明の水滴ボーグによって壊滅した。
自然選択は幸運にも生き残ったボーグ戦艦の一つだった。
「長官!これはあなただけが責任を取るべきではない」
女性がガラスドームを叩いて叫ぶ。
「大丈夫だ東方、同じことなんだよ」
そしてガラスドームの内部は強い光に包まれる。
これが自然選択艦長の、章北海の最期だった。
(・・・ここは病院か?生き残ったのか?いや、もっと考えろ、章北海。なんか体が小さくなってるということを)
そして、彼は自分が乳幼児になっていることに気づく。
(・・・もしかして、生まれ変わりというやつか?)
この日、ミッドチルダに新しい子供が一人生まれた。
ザンクト・ヒルデ魔法学院。通称st.ヒルデ。章北海はこの学校に通うようになった。
別に彼の家は聖王教会の信者というわけではない。ただ、章北海に魔法の素質があったからである。ぶっちゃけ言うと、彼の両親はボーガー絡みの事件で死んでいた。
「・・・今日も平和だ」
章北海は屋上で一人、購買のサンドイッチをかじりながら呟いた。
「また人で弁当食べてる!一緒に食べようって約束したばかりでしょ!」
「そうだったか?」
「そうですよ!ベイったら忘れっぽいんだから!」
章北海の同級生であるカリム・グラシアが頬を膨らませていた。
ちなみに、章北海と親しい人間は彼をベイと呼ぶ。
「シャッハ、そうでしょ?」
「ええ、確かに昨日、そうした約束をしましたね」
シャッハはカリムの言葉に同意した。
「そういうわけで、また約束を破ったら聖王教会の前で裸踊りをしてもらいますよ!」
「それは嫌だな」
カリムは章北海の隣に座って、章北海のサンドイッチをぱくっとつまんだ。
「人のサンドイッチを取るのはどうかと思うぞ」
「約束を破った罰ですよ」
遠くのほうで爆発が起きる。
「あれはボーガー絡みの爆発だな」
「・・・よくわかりますね」
ミッドチルダは治安がいいとは言い難かった。だが、ボーグが絡んだ事件の数はひどいものだった。
何故なら、それを取り締まる組織も裁く組織も存在しなかったからだ。何故なら、ボーガーは『人間』ではないからだ。
「一応、過去にもボーガーと一度対面したことはあるからね」
嘘だった。彼もまたボーガーだからわかったのだ。
「・・・」
「すまんな。昼飯時にする話じゃなかったな」
「いえ・・・、大丈夫です」
気まずい空気が流れた。
「・・・ところで、カリムは卒業したら、やっぱり聖王教会のどっかのポストにでもつくのか?」
「まだ気が早すぎませんか?私達はまだ初等科ですよ」
少し空気が和む。
「・・・わかった!私とのコネで就職しようとしてますね!そうはいきませんよ!」
「そういうだろうと思っていたよ。だから、その道は諦めてるよ」
「へえ、じゃあどうするんですか?」
別の場所で爆発が起こる。そこでは管理局の空戦魔導士が戦っていた。
章北海はそれを指さした。
「・・・管理局員になるつもりなんですか?」
「ああ、ボーガーは何とかできなくても、ミッドチルダを守りたいんだ」
「そうなると地上本部に・・・?」
「いや、違う」
章北海は空を指し示す。
「本局ですか?でも、本局だと・・・」
「本局だからこそだ。地上だけでミッドチルダは守れない」
章北海の瞳には強い決意が宿っていた。
「ねえ、ベイ。あなたは一体何を考えているの?」
章北海は何も答えなかった。
「・・・夢か」
「こら、こんな非常事態に居眠りすんな。ベイ臨時艦長」
ギル・グレアムが呆れる。
「臨時艦長・・・?ああ、そうだったな」
近くにブルーシートに包まれた遺体があった。
レーダーには多数の敵艦隊が示されていた。
「さて、どうするんだベイ臨時艦長?前任者が自殺して、指揮官はとっくに逃げて、指令網がボロボロだ」
「どうするといわれても・・・こうするしかないだろ」
章北海は味方の艦隊に通信をつなげる。
「すべての責任は私が取る!目の前の、ミッドチルダに逆らった野蛮人どもを殲滅しろ!」
これが章北海の初陣だった。彼の指揮により、とある次元世界国家の艦隊は壊滅し、その世界は管理世界に組み込まれることになった。だが、上記の発言によりミッドチルダ主義者として知られることになってしまった。
「まったく散々だよ。査問会で無罪になったのはいいけど、マスコミには叩かれまくりだ」
「口は災いのもとですよ。・・・まあ、貴方のおかげでミッドチルダに迫っていた艦隊を壊滅することには成功できましたが」
第十二管理世界、章北海とカリムはどこかの庭園でティー・タイムを満喫していた。
「・・・あの時、貴方の言っていたことの意味がわかったような気がします」
「うん?」
その時、どこかで爆発が起きたのか、大きな振動と音が庭園に届いた。
「・・・いい加減、ボーガーを『人間』扱いしたらどうだ?そうすればボーガー絡みのテロは減るぞ」
「今のでどうしてわかるんですか?あと、それに関してはかなり難しいですね。教会の教義を変えるのはかなり難しいといえるんです」
時空管理局はボーガーを『人間』として扱おうとはしていた。だが、巨大宗教である聖王教会はそれを許さなかった。それだけの話だった。
「・・・ところでベイは聞いていますか?あの噂を」
「・・・聞いてはいるが、はっきり言って反対だな。あれはミッドチルダに必要なものだ」
「ふん、次元軌道エレベーターなぞ不要だ」
宇宙服を着た管理局高官が忌々しそうに言う。
「地上本部も、それに感化された奴も何を考えているのでしょうか」
「まったく、少将の言う通りですよ。こんなのに本局が労力をかけてなんていられません」
彼らは『海』の人間だった。
「地上と海をつないで協力体制を築く。馬鹿馬鹿しい、自分の尻くらい自分で拭え」
だが、急に高官のヘルメットのガラスに穴が開く。そして、血が吹き出る。
「な、なんだなんだ!ぎゃあああ!」
「しょ、小隕石の大群です!ぐわあああ!」
「な、鍋にして・・・!ひでぶ!」
彼らは全滅した!
このことは事故として扱われた・・・。
事件と同じころ、章北海はデブリ・スペースに隠れていた。
「こうやって固めて」
彼は大量のボーグを、大量の小隕石に一つ一つねじ込んでいた。
「これで良し」
そして、小隕石を一つ掴む。
「・・・チャージ・イン!」
これが事故の真相だった。何はともあれ次元軌道エレベーター計画は続行されることとなった。
完!
「・・・あれは貴様がやったのだろ?」
章北海は地上本部トップであるレジアス・ゲイツに呼び出された。
その場には地上最高戦力であるゼスト・グランガイツ率いるゼスト隊だけでなく、数千人もの地上本部局員が集まっていた。
「どうしてそう思われるのですか?」
その質問に対して、レジアスは一つの映像を章北海に見せた。それは宇宙服を着た何者かが小隕石の中にボーグをねじ込んでいる映像だった。
「・・・これが貴様だというのは分かっている。別にこの後の『事故』についてはどうするつもりもない。儂が聞きたいのは、どうして『海』の人間である貴様が同士討ちをしたのかということだ」
「・・・ミッドチルダのためです」
「・・・念のために聞くが、それは『地上』を意味しないのか?」
「ええ、私が守りたいのは『ミッドチルダ』ですから」
周囲が緊張に包まれる。
「レジアス中将、私の意見を述べさせてもらってもよろしいですか?」
「・・・構わん」
「まず、私が世間一般で言われているようにミッドチルダ主義者であるということは間違いです。彼らはミッドチルダが世界の中心だと思い込んでいる。しかし、ミッドチルダはただ力があるだけです」
「どういうことだ?」
「ミッドチルダは確かに軍事力も経済力も遥かに他の次元世界を超越しています。ですが、『力』だけでは人々はついてこないのです。たとえば中将も『カリスマ』があったからこそ、今の地位についていらっしゃる」
「・・・」
「聖王教会を例に挙げてみましょう。本来ならば他国を炎に包むような野蛮な女王が神格化されることはありえません。しかし、彼女にカリスマ性があったからこそ、今のような巨大宗教ができあがった」
どこからか野次が飛んでくる。
「・・・確かにな」
「ですが、ミッドチルダにはそんなカリスマ性など期待できようがありません。だから、ミッドチルダ主義者のようにミッドチルダによる次元世界の直接統治など不可能なのです」
「ふむ、一理あるな」
「ですが、『時空管理局』という組織も問題があります」
職員たちがざわめく。
「・・・ほう、聞かせてもらおう」
「まず、司法、行政、立法の全てを担っているのは間違いだったとしかいいようがありません。中将が日々言っておられるように、このシステムによって犯罪者が一夜にして公務員となってしまう。それに人員不足という問題が付きまとうことになる。たとえ、地上本部の待遇が一気に改善されたとしても、今度は本局の人員不足という問題が発生するのです」
「・・・まさか、貴様は管理局を解体するつもりなのか」
「ええ、そうです」
一部の職員たちが章北海に罵声を浴びせる。無理もない、章北海はある意味で『正義』を否定したのだ。
「ですが、代わりの組織は必要となります。そのためには、各管理世界には完全に完全な国家として独立してもらいます」
「貴様は・・・新暦以前の世界に戻すというのか」
「もちろん、策は考えています。第九十七管理外世界の地球という惑星のシステムを参考に、新しいシステムを創り上げようと思います」
「・・・聞かせろ」
「地球には国際連合というシステムが存在します。簡単に言えば、全ての国家が参加する連合です。それを次元世界にも当てはめればいいだけなのです。そのシステム内では最初の理事国さえ決めておけば、あとはどんな国でも戦争以外の方法で成り上がることができます。それだけで、平和はある程度維持できます」
「だが、それは国家間の平和だろう?国家内の治安はどうするのだ?」
「それもまた簡単な話ですよ。それは勝手にさせればいい。幸いにもミッドチルダ文明は管理世界に浸透しているので心配はありません」
その場にいた地上本部職員は誰もが沈黙していた。
「なるほど、貴様は次元世界国家の連合政府を創造すると言いたいのか」
「簡単に言えば、そういうことになりますね」
「儂は今までお前を勘違いしていたようだ。お前はミッドチルダという世界を盲信しているわけではない。お前は、ミッドチルダというこれから誕生する『国家』を愛するつもりなのだ。お前は『愛国者』だったのだ」
「そういうことです」
誰もが固唾を飲んだ。章北海は明らかに反逆者とも言えた。だが、彼の提案したシステムはあまりに合理的と言えた。誰も彼に罵声を浴びせなかった。
「・・・もういい」
「・・・わかりました」
章北海はその場を去った。
「・・・この中で章北海に賛成の者がいれば、あいつについていけ」
レジアスがそう言うと、半分くらいが去っていった。
これが愛国派という管理局内の一大派閥の誕生だった。
〔時間之外的往事〕
・・・彼らは異質な存在だった。
時空管理局の一員でありながら、時空管理局を否定しているのだ。
当然、この派閥の存在がマスコミに知られると、彼らは一斉に愛国派を否定した。
だが、そのような批判にも愛国派は耐えてきた。それは章北海の指導力のおかげだろう。
だがマスコミ以上の敵が存在した。聖王教会だ。
「ベイ、どういうことですか?」
カリムは険しい顔をしていた。アコースは数日前に逃げていた。
「ベルカ自治区はいつか廃止する。そう発言しただけですが」
「・・・それを聖王教会や旧ベルカ貴族が受け入れると?」
「受け入れてもらわないと困ります。第十二管理世界があるでしょう?そこに国家を築けばいいのでは?」
「ベイ、貴方、自分の言っていることがわかっているの?」
「貴方こそ、私の言いたいことが理解できてないのでは」
次の瞬間、平手打ちが飛んできた。
「・・・二度と私の前に姿を見せないで」
「・・・章北海提督、大丈夫ですか?」
彼の参謀ともいえるロイ・エンデルスは、章北海の右ほおについた手跡を見て、心配そうに尋ねた。
「大丈夫だ、ロイ。治癒魔法を使えば一発だ」
章北海は治癒魔法を使って、跡を消した。
二人の前に、巨大な戦艦が現れる。周りには愛国派に所属するものが集まっていた。
「提督、ロイ。遅いですよ。今日が進水式だっていうのに」
〔時間之外的往事〕
この日、彼らの『方舟』となる『自然選択』の進水式が行われた。
彼らは孤独といえた。だが、彼らは彼ら自身の団結力でそれを乗り越えた。
そして、ついに彼らは味方を得ることになる・・・。
続く・・・。
章北海率いる愛国派に味方が現れる。
それによって、彼らはますます勢いをつけた。
だが、闇の書事件が全てを変える・・・。
次回、次元の方舟 後編