ソードアート・オンライン 〜幻想を紡ぎし者〜 作:☆さくらもち♪
生活音すら聞こえない異様なほどの静けさの家。
そんな家で暮らす少年『天音』。
彼の目の前には大人ですらすっぽりと頭を包めるヘルメットのようなものがあった。
そう、これこそが茅場晶彦が生み出した仮想世界へと飛び立つキーアイテム。
その名も『ナーヴギア』。
「何も問題は、ないかな」
天音の住む家の環境はとても充実していると言えるだろう。
買い物に出なくてもいいように通販で頼めるようにされており、ネットワークや光熱に関しても高水準だった。
一人暮らしとして使うには天音の年齢からは手に余る程だろう。
「
誰に向けて放った言葉なのか誰にも理解されないだろう。
少なくとも天音には何となく呟いた一言だったから。
ナーヴギアを被り、仮想世界へとダイブする為の準備も整った頃。
目を閉じて仮想世界へ飛び立つキーを告げる。
「リンク・スタート」
その瞬間、現実世界から天音の意識は仮想世界へと移行されていく。
虹色のような光景とともに内部情報とデータサーバーとの情報を整合するウィンドウがどんどん現れては消えていく。
《あなたのアカウント情報を入力してください》
最後に出てきたウィンドウは
「まぁ……使っていいって言われたし、あれでいいかな」
元々持っていたアカウントがあるため、天音はそれを入力する。
《このアカウントでよろしいですか?》
《はい/いいえ》
迷いなく、はいを押す。
すると景色が変わっていく。
無機質な場所から段々と色付いた世界へと。
「久々」
そこは広大な空があり、周りは今の現代建築とは打って変わったファンタジーな建築。
魔法は一切存在せず、剣がメインで作られたファンタジー世界がこのSAOだった。
「さて……とりあえず動いてみよう」
「ねー!」
いざ動こうとすると天音に向かって声をかけてくる相手がいた。
見た目だけでいえば美少女と言える容姿だったが、SAOにおいてはそれは当てはまらない。
アバター制作で性別や容姿など幾らでも偽れる為に見た目が最も信用ならないのが天音の見解。
「……何」
だからこそ警戒心剥き出しで応対していた。
相手はそれを何事もなく受け流している辺り、慣れているのか気がついていないだけなのかが分からなかったが。
「君ってこのゲーム慣れてるかな?」
「一応は」
「なら戦い方とか教えて貰ってもいいかな?」
「ん……いいよ」
現実世界とは違い、見た目などで差別されるような世界ではない。
だからこそこうして誰かに手を差し伸べる事も出来るようになったが、だからといって天音自身が人の選り好みをしてしまう嫌いがあるため、目の前にいる少女に対しても本当に天音の気が向いただけに過ぎなかった。
「
「ボクは
何となく、現実世界にいる幼馴染を思い出させるような少女に。
アマネは少しホッとしていた。
ユウキを連れてアマネは初期街の《始まりの街》を出ると敵モンスターが現れるフィールドにいた。
「わわっ!」
ユウキが相対するのは最弱モンスターのボア。
しかし最弱とはいえ戦闘出来なければ自身のHPが減らされてやられてしまう為、ユウキは出来るだけ直撃を避けていた。
「攻撃するチャンスを得たいならまずは相手の攻撃をしっかり見極めて」
「うん!」
「ソードスキルは特定の構えを取ればシステムが勝手に発動してくれる。だけどそれに甘えずに自分自身で動くようにすると最も威力を出せるから」
「分かった!」
相手の隙が生まれた瞬間を見てユウキは片手剣のスキルを発動させるとボアを一瞬で倒す。
「やった!やったよアマネ!」
たった最弱モンスター1体。
しかしそれを初めて相対したモンスターならばその価値は幾らでも膨れ上がる。
「反射神経が良いのかな?」
アマネはボアと戦闘している姿を見てそう思った。
仮想世界へ初めてダイブしたにしては異常とも言える反射神経の持ち主だった。
仮想世界は万人が扱えるものでは無い。
扱う前に仮想世界にダイブする為の適性が存在しており、その適性が良いほど脳で動かす際に仮想世界とのラグがない。
アマネはトップクラスでの適性を出していたが、ユウキも同等レベルの適性者なのだろうと結論を出す。
「おめでとう、ユウキ」
「ソードスキルって凄いね!一瞬でこう……シュババって倒せるんだから」
「それは相手が最弱モンスターだからだよ。普通は一撃で倒せたりしないから」
「えへへ、そうだと分かってても嬉しいんだよ」
「んじゃそのまま戦闘に慣れよう」
「はーい!」
戦闘中に変な癖がつかないようにユウキの戦い方を見ながら危険に陥れば手助けをする。
そんな事を続けていれば現実世界内では18時を過ぎようとしていた。
「ユウキ、もう18時過ぎてるけど……時間大丈夫?」
「あ!もうすぐ晩御飯だ」
「なら落ちるといいよ。ここだと危ないからちゃんと街の宿内でね」
MMORPGと名を出しているだけあり、危険なプレイヤーも存在する。
ユウキにはその危険性を十分に説明しており、街の宿内という意味も理解していた。
システムによって宿の部屋内は基本的に安全なのでマイハウスを持っていないプレイヤーは宿を利用することになる。
「ねぇねぇ、アマネ」
「ん、何」
「ボク達フレンドにならない?」
「いいよ」
お互い初のフレンド故に1番上に表示されるがそんな事を気にする人物でもないので何事もなく申請し合う。
「まだまだ初心者だけどよろしくね!」
「こちらこそ」
そんな時、遠くの方から鐘が鳴る。
重く響く鐘の音が。
「何の音だろ?」
「……妙」
そしてアマネとユウキを包み込むような青白い光が突如現れる。
そしてこのエフェクトをアマネは知っていた。
「転移!?」
「アマネ!」
ユウキが手を伸ばそうとしていたがそれは届かず、どこかへ転移されて行った。
それはアマネも同じく。
「こんなの知らない」
転移された先は初めてこの世界へ来た場所である《始まりの街》の中心部。
先程転移されたユウキの姿が見えない辺りはぐれてしまったのだろう。
「おい!空見てみろ!」
誰かが空を見上げて伝えると転移されたプレイヤー達は空を見上げる。
空には赤く表示されたウィンドウが一つだけ明滅していた。
そしてそれは増殖するように広がっていき、空を覆い尽くすように真っ赤に広がった。
その隙間から垂れてくるように赤く粘性のある液体が流れてきて、空中で形作るように固まっていく。
やがて人の形を作ったそれは声を発した。
「ようこそ」
「私の名は『茅場晶彦』。この世界でゲームマスター権限を持ちうる者だ」
大層な登場の仕方にアマネは何を言うつもりなのかをずっと待っていた。
「本題に入ろう。既に君たちはメニューから《ログアウト》ボタンが消えている事に気づいているだろう」
「だが、これはバグなどではない」
「もう一度伝えよう」
「これはバグではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である」
アマネはそれが確かなのかメニューを開いて1番下にあるはずのログアウトボタンを探す。
「……ない」
それは空に浮かぶ茅場晶彦が確かに伝えていた。
「君たちは何故?と思うだろう。何故、天才物理学者『茅場晶彦』はこのような事をしたのかを」
「私の目的は既に達成されている。現実世界とは異なるもう1つの世界を作り出し、そこへ君たちを招いた時点で」
βテスター達を含めたSAOプレイヤー1万人を仮想世界へ監禁するようなこの行為に理解を示せる人間は正気ではないだろう。
しかしアマネはその行動理念に理解をしてしまった。
「子供が抱くような
アマネとて幻想を抱いたからこそ。
それを具現化させるまでの道のりぐらい理解出来るからこそ。
この場においては不相応にも共感が出来た。
「この世界において君たちの身体は現実世界の身体そのものだと言っておこう」
「戦いを行い、そして君たちのHPが0になった瞬間、システムによって君たちのアバターは即削除されナーヴギアによって現実世界の脳は破壊されるだろう」
ナーヴギアに内蔵されたバッテリーや部品から人間の脳を破壊するのはとても容易い。
人間の脳は凡そ42度が限界とされているため、ナーヴギアに内蔵されているバッテリーを使い頭そのものを42度以上にまで温めれば破壊出来てしまう。
言わば小型の電子レンジがナーヴギアに入っていた。
「なお、外部からの脱出も有り得ないだろう」
「報道やネットによって伝えられている情報によって外部の人間によるナーヴギアの取り外しは絶対にないと言っておこう」
「現に忠告を無視し、数百名がソードアート・オンライン及び現実世界から永久的に退場している」
茅場晶彦が映し出したのは現実世界にて報道されているSAOプレイヤー達の内容、またそれによる死亡者なとだった。
「さて、私から君たちにささやかながらもプレゼントを贈らせてもらおう。確認してみてほしい」
あの茅場晶彦が贈るプレゼントにアマネはわくわくとしていた。
メニュー画面からプレゼントの中を開くと《手鏡》と表示されていた。
それを取り出す前に周りのプレイヤーを観察すると例の手鏡から溢れんばかりの光が出てきている。
「な、なんだこれ!?」
「うわあああ!」
そうして光に飲まれたプレイヤーはたちまち姿が変わっていた。
「こ、これ!リアルの顔じゃねぇか!?」
「おまえ、男だったのかよ!?」
アマネは手鏡の効果がリアルの容姿にするものだと分かると取り出すのをやめた。
「それではソードアート・オンライン正式リリースのチュートリアルを終える。」
そうして茅場晶彦は空から消える。
それをキッカケにプレイヤー達は一斉に怒号を上げた。
聞くほどでもないアマネは興味を失ったかのようなその場を立ち去る。
「ユウキは……」
フレンドを開くとしっかりとオンラインと表示されている為、生きているのが分かった。
「……僕なりに戦い方と生き方は教えた」
だからこれ以上あの子に関わるのは止めようと。
アマネは決めると容姿を隠すためにフード付きのローブを手に入れると《始まりの街》を抜け出た。