本小説の元となったセッションで使用したシナリオはなうあー様のCoCシナリオ「豊穣神社」を改変して使用しております。その為、シナリオの内容のネタバレが含まれていることをご理解の上でご一読下さいますようお願い申し上げます。
シナリオ引用元:
「豊穣神社」
http://naunaunau.web.fc2.com/CoChoujouzinja.html
また、本小説の元となったセッションのリプレイを小説家になろう様の方で掲載しております。
https://ncode.syosetu.com/n7711ev/
ようこそクエスター
ルライハ平原より南には恐るべき龍を封じたと言うサイスマウンテンが聳え立ち、その隣には龍が生まれたというデス火山があった。二つの山の登山口には奈落の手により堕とされた王都から移住してきた民により作られた小さな町がある。
奈落――世界を形作る力“マナ”を貪り、浪費し、世界を腐らせ、無に帰してしまう一種の自然災害のように見えるソレによって、この世界は滅亡の危機に瀕していた。
奈落そのものは意志や自我は持たないとされている。だが、奈落の神となったティターン十二神や、奈落の意を受けたと称する“
奈落に堕とされた王都には近年異常なマナの蓄積が確認されている。現在、この世界におけるクエスターが命を投げ捨て張り巡らした結界により
ダークレイスたちと戦う戦士クエスター。神の欠片と呼ばれる純粋なマナの結晶、シャードを使いこなすことができる選ばれし者、理想郷求める探究者。
そんな戦士――これより戦士となる少女が一人、村から山へ向かい逃げていた。
少女の家は鶏を育てその卵や肉を売ることで生計を立てており、今日もその鳴き声と共に若干の頭痛を覚えつつも目を覚ました。
紺の髪、同じく紺の瞳の少女は日課である餌やりを終えた後、木でできた少しばかり不格好な扉を開き外に出る。
するとどこかからか飛んできた鳥のようなものが目に入った。それは自分目掛け一直線に下降してくる。
ああ、大きな鳥がいるなあ……呑気に考えていると、段々とその姿が明らかになっていく。
確かに鳥は大きかった。齢八歳の香奈の二倍、いや、三倍はある体躯。どう見てもただの鳥ではない。化け物だ。しかもあろうことかその鳥は香奈と目が合うとにたにたと人間のように豊かな表情を浮かべたではないか。
「どういうことなの」
困惑。周りの村人は逃げろと口にしつつも香奈を助ける素振りもなく、その火の粉が自分たちに降りかからぬよう家屋へ逃げ込み姿を消す。
どうやら自分を助けようと言う勇気ある人はこの村にはいないらしい。手に下げた鞄を落とし考える間もなく逃げ出す。それがいけなかったのだろう。香奈は何故か山の方へ逃げてしまった。登山開始である。
鳥は態々体力消耗の激しそうな山へ逃げた獲物を追ってゆっくり、しかし確実に香奈を追い詰めて行く。
いつでも殺せる少女が逃げ惑う姿は見ていて愉快なものだ。時折躓きながらも振り返っては恐怖に怯える。その姿がとてもそそる。
(山神様どうかわたしを助けてください!)
サイスマウンテンには龍を封じた神、山神様が眠るという逸話があった。
香奈はその神様に助けを求め山を登ったのである。
しかし悲しきかな。少女が登ったのはサイスマウンテンではなく、その隣のデス火山の方だった。
ドジを踏んだのに気付いたのは火口付近に近づいてからである。妙に暑いなあと思ったら火口が近かったからとか冗談にも程がある。
前には火口、後ろには化け物。
「コッコケヤキニクパーティー」
「し、しまった、追い詰められた!?」
最早絶対絶命。目の前にいる化け物は口から涎を垂らし、香奈へ飛びかかろうとする。
ああ、短い人生だったなと香奈は思う。けれど充実した人生であった。願わくば、あの化け物が村人を襲うことなく、去ってくれることを祈るばかり。
目を瞑り、死を覚悟し――。
「して……目を……」
「ああ……幻聴かな……女の人の声がするや……」
「目を覚まして……香奈……」
とても綺麗な声がする。
もしかして、自分を迎えに来てくれた天使の声だろうか。
「ここはあの世かな……私、食べられて死んじゃったのかな……」
「いいえ……あなたは生きています……」
自分の耳を疑った。そして目を開いてみれば、巨大な樹木を背に泉の上に立つトーガを身に着けた美しい少女……少女と言っても自分よりは年上だろう十代後半くらいの姿の、蒼の綺麗な瞳が特徴的な、そんな女が立っている。そんな女神のような人がいることで、さらに疑惑は深まった。
「えっ、そんな馬鹿な。あの状況から助かる訳ないじゃないですか。ましてやこんな変な場所。どう考えてもあの世でしょ?」
「ここは……凄い空間……」
「大雑把過ぎる!?」
「死の直前にあったなたは……私が……誘拐しました……しました……」
「しかも誘拐された!?」
無駄にエコーのかかった声でそんな事を言うものだから、思わずツッコミを入れてしまう。
さっきまで死を覚悟していたシリアスな空気はどこへやら。もしや自分はまだ眠っており、夢を見ているのではないかとすら思えてくる。
目の前の女神は混乱している香奈に近づき優しく微笑むと、そっと抱きしめて言った。
「ごめんなさい。でも、これしかなかったのです。勇敢にも火山に逃げたあなた。思わず見ていて噴き出しそうになりましたが、慌ててここに連れ去ったのです」
「いや、間違えただけですけどね……って酷い!? まあ確かに助かりましたけども……」
「あなたは生きています。ですが、元の世界に戻すことはできません」
「ええっ!? 何故ですか!!」
女神は香奈から手を離すと、遠い目をして申し訳なさそうに言う。
「何故なら私が、あなたの世界の管轄ではないからです……あの世界であなたは火口に落ちて死んだことになっています。クリーチャー……あなたの世界で魔獣と呼ばれる者ともども、火口に落ちた伝説が残されました」
「管轄じゃなくても攫うことはできるんですね……うわー、私変なドジ踏んで死んじゃったことになるのか、なんかヤダなあ……否定できないけども!」
「死の瞬間にあったあなたの叫びが私を呼び覚まし、助けることに成功しました。クエスターとは……フッ」
再び遠い目をして話を終える女神。
「なんなんですかくえすたーって!?」
香奈は説明しろよと服を掴んで文句を言う。
女神はちょっと待ってくださいねと言うと、手を宙に翳し一冊の本を掴み、それを開いた。
「かつて、機械神の右座に侍った天使、輝けるもの、ルシファー。それが砕け、光の面を受け継いだシャヘルと闇の面を受け継いだシャレムというシャードに分かれた。このうちシャヘルのシャードは、力持つ欠片が多く散り、それを手にしたものは、クエスターとして、特別な力を授かった。あなたはその欠片を偶然にも手にした、選ばれし者なのです」
棒読みで所々つっかえながら本の内容を読む女神。この人大丈夫なんだろうかと一抹の不安が過る。いや、最初から怪しいことこの上ない天使だか女神だか良く分からない人だったけれど。
「よ、よくわかんないけど、本の中に出てくる選ばれた勇者みたいなのに私が選ばれちゃった、ってことですかね?」
「そういうことになります。そして、あなたを追いかけていた魔獣はまだ生きており、ブルースフィアという世界に逃亡してしまいました。あなたにはそれを追いかけて貰いたいのです」
「あれを追いかけて私が倒す、ってことですか!? で、できるかなあ……」
「あなたならばできます。その道を、開きましょう……」
世界に突然穴が開いた!!
「……ほ?」
しかし女神は宙に浮かんでいる!!
「……勇敢なる者よ」
「えっ、ちょ」
慌てて目の前にいる女の服を掴もうとするが、ひらり背後へ飛びのいたかと思うと笑顔で手を振って言葉を紡ぐ。
「現へと帰るがいい!!」
ふわり、香奈の履いていたスカートが舞い上がり――、
「う、うわあああああああああああああ!?」
慌ててスカートを必死に抑えるも、それで落下が止まるはずもなく――。
「わあああああああああああ!?」
そのまま落下。そこにあったナニカに頭を打って、香奈は記憶を失ってしまった……。
しかし残念なことに、その使命を覚えているはずもなく……香奈が記憶を失い、十年の月日が流れた。