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離島行きの船に乗って
ひと時の休日、奈落との戦いに疲れた体を癒す為、戦いの場から一度離れたクエスターたちは、それぞれの理由から南の離島、ラモス島行きの船へと乗り込んだ。
船内には複数の人影がある。とはいえ、そう多いものではない。同じクエスターである者同士、以前共闘した事のある者もいるだろう。また、クエスターとしての勘が、その者をクエスターだと知るかもしれない。
竜道ククリ、本名竜道
親から厳しい教育を受けた彼女はその影響から、嘗てはほとんど感情が無いような状態になっていた。
しかし、自身がダンピールと言う、吸血鬼と人間のハーフであることを自覚、さらにクエスターとして覚醒した事を切欠とし、今までの自分の生活って何だったのだろうと思うようになり始める。それから、親元を離れ、大学生になってからはなるべく好きに過ごそうと考えていた。今回の旅行もその一つだ。
「ママ! おうちに帰るの久しぶりだね!」
「そうね!」
船内には以前、知り合いであるアズレートから送られてきた写真に写っていた二人の家族の姿があった。晶子と琴音と言う二人の親子だ。偶然であるが、一方的に知っている相手がいると言うのは驚きである。
ククリのいる甲板では、キクタケと言うフリーのカメラマンが吹き抜ける潮風をその身で浴びつつ海の写真を撮っていた。
「いやあ、潮風が気持ち良いねえ」
まだ真新しい一眼レフカメラで次々と写真を撮影していく。ふと、横に人の気配を感じ其方を見れば、元気に駆けずり回る少女の姿が。
「海です! 海です! 潮風ですよ潮風!」
「元気な人だなあ」
ククリはそんな少女の姿を見て呟いた。
くる、くると回りながらはしゃぐ少女。名を
幼い頃から病弱で、長生きは難しいと言われていたこともあり、その反動が来ているのだろう。月野神社の巫女で、山育ちで世間知らずの穏やかでうっかりさんな少女は、このメンバーの中で唯一着物を着た状態で、はしゃぎにはしゃぎまくっていた。
福引で旅行のチケットを手に入れた
何だかんだ遭遇した事故で偶然覚醒した彼は二十二歳のフリーターだ。同じクエスターメンバーの中では背も一番高く百七十五センチ。キクタケも同じくらいの身長なので、なんだかんだ二人が保護者枠のような状態になっている。
「カランコロン、おめでとうございます。二等の旅行券です!」
「……たまには休んでも罰は当たらないだろう」
と、そんな感じに当たったラモス島行きの旅行。一等のハワイと違い国内旅行であるが、果たしてマナトの明日はどっちだ。頑張れマナト、負けるなマナト。何かと事件に巻き込まれる運命にある彼の明日はどっちだ。
「実家に文句は何一つありませんが、山しかないのはやはり問題! 海は大事!」
と、内陸部に住む六花がぷくぅと頬を膨らませて文句を垂れる。
キクタケはははは、と笑いながら、その場に偶然出て来た四人のクエスターへと話しかける。
「君たちも島に?」
島行きだから当たり前だ。今日は良い天気ですねレベルに会話の導入が下手クソなキクタケだった。
しかし会話の流れに乗るには丁度良い話題だったので、天気セットよりは有能だったかもしれない。
「はぁい、楽しみですー」
と六花。
「ああ、ちょっとした旅行かな」
と、何気に食事代なども一緒にチケットになっていたことで金銭的余裕ができ内心うきうきのマナト。
「四方八方壁っていうのも気が滅入るけど、山も確かにそうかも……はい、ボクもちょっとした旅行、ですかね」
家庭の闇を見せるククリ。
「……」
残念ながらその会話に乗らなかった満。一応、顔だけはキクタケの方に向けているので、話は聞いていたのだろうけど……放したくないのなら無理に聞く必要も無いかと諦める。
「ラモス島は自然も豊かだって聞いたし、美味しい料理もあるみたいだ。共に楽しもう!」
そう弾んだ声で言った後、
「折角だから写真を撮っても良いかな?」
と、カメラマンらしく、もとい買ったばかりのカメラで色々撮りたいらしくそんなことを言い出した。
「帰りに撮った写真は渡そう! 僕はキクタケ、フリーのカメラマンさ!」
「はい! ええと……あ、私は月野六花と申します」
「まあ、いいかな。俺は柏木マナトだ」
「竜道ククリ、です」
「……剣崎満」
「………………写真ですか……!」
六花は写真というものが良く分かっていないのか、皆して撮影の為に集まってからそんな事を言い出した。
「それはあれですよね? 魂が抜けるという……!」
とかいつの時代だむしろどこに住んでるんだレベルの事を言い出した六花である。
キクタケは一通り写真について六花について説明した後、撮った写真は後程現像して渡してくれると言う。勿論、その写真をどこかに公開する意図はなく、単純に個人のアルバムとして撮っておきたかっただけのようだ。
「すごいです、写真機、はいてくですね!」
「うーん、カメラマンに撮ってもらう機会なんてあんまりないし、折角だから撮ってもらおうかな」
「俺は別に構わないぜ」
カメラの存在に感動している六花。ククリとマナトは撮影に乗り気のようだ。
「抜けた魂が戻ってくるなら一度経験してみたいです写真!」
「た、魂は抜けない……よ? 《xsmall》多分……《xsmall》」
一度、六花が危惧した内容の奈落と出会ったことがあるだけに言いきれないククリ。
しかし最後の方は小声だったせいで、六花には聞こえなかったようだ。
「ほほう、抜けないならぜひ!」
と、元気よく挙手をする。
「まあまあ、旅は道連れ世は情けって言うじゃないか。これも折角の機会だ!」
そう言って満に迫るキクタケ。満は渋る様子も無く素直に従い、四人が並んだ。
パシャっ、とシャッター音が響き、キクタケは満足そうにサムズアップ。
どんな写真になっているかは後で教えてくれると言う。その時が楽しみだ。
「――間もなく、本船はラモス島へと上陸します――」
もうすぐ島に着くとのアナウンスが響いたので、それぞれ荷物の確認と整理をすべく室内へと戻っていく。
煌めく空、靡く風、透き通る青く美しい海に、島一杯に広がる大自然の緑。
日差しが暑く照り付ける中、夏の熱気を帯びた島、ラモス島に一同は上陸した。