「泳げたりするんですかね? わくわくしますね!」
「ふぅ、俺たちの休日はこれからだ、って感じか」
六花とマナトが順に降りてくる。そこのマナトは何故打ち切りフラグを立てたのか。今から嫌な予感しかしない。
ククリは夏だと言うのにフード付きのパーカーのフードを被ったまま、物珍し気にきょろきょろしている。薄手のパーカーなので暑くは無いのだろうけど、見た目が暑いので実質暑いです。
満は無言でバッグを担いで降りる。見れば迎えが来ているらしく、きれいな着物姿の、おそらく三十代前半か? 物腰の柔らかそうな笑みを浮かべる女性が船客たちを出迎えてくれる。
「ようこそお越しくださいました。島民一同、皆様を歓迎致します」
「あ、ごれはどうも」
マナトが礼を返す。見れば出迎え用なのか、数十人は乗れるバスが控えていた。同じく着物の女性陣と男性陣がおり、手荷物なんかを運んでくれる。どうやらもう一台、スタッフが乗ってきたらしい車があり、随分手厚い歓迎をしてくれるなと感激した。
「これはご丁寧に、よろしくお願いしますー」
「宿の送迎ってとこかな」
六花とククリが手荷物をスタッフに渡してバスに乗り込んでいく。満も無言ではあるが、会釈をして荷物を渡しバスに乗った。
このクエスターの四人以外にも船には十人弱の客がいた。彼らもまた、同じ宿に泊まるのだろう。
しかし晶子と琴音だけは帰省という名目で船に乗っていたらしく、他の客とは別行動に移るらしい。そもそも船自体があまり行き来していないと言う事もあって、本当に離島に来たんだなと改めて実感する。
同じく着物姿のスタッフを見てむしろリラックスした六花は、船旅で疲れていると言うのに、そんな疲れも忘れるくらいに元気な笑顔で車中でわくわくしながら喋っている。
「どんな宿でしょうね? 海が見えたらいいですねー?」
道中は自然豊かな光景を目にしながらの移動となった。建物全体が日本の原風景を思わせる和風建築であり、時折変わった
宿は町から離れた位置にあるらしく、賑わいを見せる町を通り過ぎてまた自然の光景が目に入った時には元の道に戻ってしまったのかと思ったほどだ。
「皆さん長旅でお疲れでしょう? お時間も良い所ですし、まずは宿でお食事になさいますか?」
マナトが時計を確認すると、時刻はおよそ正午。確かにお腹も空いてきた。
「そうだな、そういえばもうこんな時間か」
「あ、いただきますー」
「うん、丁度お腹が空いたところだしね」
「……じゃ、食事で」
食べたら泳ぎに行きたいですねーと、疲れを見せない六花に呆れつつ大広間へと案内される。
「食べてすぐ泳ぎに行くのはオススメしないですけどね……」
「そうなんですか? 良くお昼を食べた後、川遊びに行くんですけど、お腹がこなれていいですよー?」
「少し休憩してからの方がいいと思う、ちょっと危険だって、前に何かで読んだかな」
本の受け売りをそう語る。それと実体験。食べた後にすぐ動くのは体を壊す。実際壊した。
生まれも育ちも違うからか、六花はククリより頑丈なのだろう。ほへと首を傾げている。田舎娘怖い。
そんな風に話していると、次々と料理が運ばれてくる。
「おお、これは中々」
出された料理を前にマナトは舌鼓。地元の野菜や海の幸などを使った、高級料亭のような豪勢さとはまた違った、離島だからこそ味わえる品々は、泊まりに来た客たちを満足させるには十分過ぎる内容だった。
「やばー、ちょーイケテルー」
「すごい! 携帯電話で写真を撮っています!?」
インスタ映えしそうなのでと、同じ宿に泊まる普通人の女性が写真を撮ってはSNSにアップロードしている。それを見て六花は、携帯電話の存在は知っているようで、電話しかできないと思っていた機械がカメラと同じ機能を持っていると知り驚いていた。
「うん、記念の写真はこれでよしっと」
「これは中々のものだね」
ククリもまた、SNSに上げる訳ではないのだが、記念にと許可を得てから写真を撮った。キクタケもそれにならい、さらに皆が食べている姿も思い出にと撮っていく。
わいわいと食べ勧める面々。満は黙々と、やはり読み取れない表情で食べているのだが、その箸の進み具合を見るに美味しいのだろう。
「うん、美味い。中々のものだ」
「おいひいですー」
マナトと六花もそれを食べながら笑顔を浮かべる。
魚も海が近いだけあって新鮮だ。捌いている人の腕も良いのだろう。これがタダの旅行なのだから、マナトは財布が浮いた以上に良い思い出になるぞと喜ぶ。
食事を終えた面々はどこに行こうゆっくりしようかと、一人で来ている人はあまりいないらしく、相方とも言うべき相手と話し合っていた。
クエスターである四人やキクタケはそんな客と違い一人で来ている。キクタケは早々に写真を撮りに行くと出て行ったので、残ったのはこの四人。だからだろうか、自然と次に行く場所はこの面々で話し合う流れが出来ていた。
六花がはい! はい! 海に行きたいですと言うので、それならば車を出しましょうかとスタッフの人が声をかける。
流石に島の内陸部に旅館があるので海までは遠いとのこと。本当ならば海岸近くに旅館を建てるべきなのだけど、この旅館自体が結構な老舗らしく、ある意味秘境のような場所らしい。海が見えないのは残念だけど、森の緑も綺麗だよねと自然に返せば喜ぶスタッフ。
「ぜひお願いします! 皆さんはどうしますか?」
三泊四日の長い旅。一日目は始まったばかりだ。
六花の問いに考えるクエスターたち。まさか自分たちが同じクエスターだとはまだ気づいていない事もあり、今はまだ、旅先で出来た気の良い友人レベルの間柄だ。
「移動の間に休めるだろうし、ボクも行こうかな」
「俺は部屋でのんびり休むとするか」
狭い場所から解放を求めてやって来ているだけあって乗り気なククリ。対しマナトは日頃の疲れと移動の疲れに食事で満たされた事もあり、そのまま部屋で休む事に。
満は六花が自分に話しかけていると思っていなかったらしく、どうしますかと再度訊ねられてようやく顔を見た。
「……それは俺にも聞いているのか?」
「はい! 旅は道連れよはこともなし! と言いますしー」
「そうか」
「ま、近くにいたし、ね」
隣にいたククリも満の事を誘う。
満は無言で立ち上がるとこの場を去ろうとする。駄目だったのだろうか。
「水着を取ってくる」
「一緒に写真を撮った仲ですしね!」
満が乗ってくれたので笑顔の六花。
「旅先で人と仲良くなるのはいいことだって、前に友達が言ってたからね」
アズレートの受け売りの言葉を胸に、同じくククリも水着を取りに行く。
同じように海に行く他の客も混じって、少し大きめのワゴン車で移動する事となった。