海側ではお昼過ぎと言う事もあって同じように泳ぎに来ている者たちの姿がある。海の家もあり、さらにアイスクリーム屋もあった。ワゴン車三台にわけて移動したのに加え、大型バスの時と移動経路が違う為か、時間も二十分ほどで海に着いた。
着替える為の場所も別にあるとの事で、クエスターたちはそれぞれ水着を持って思い思いの装いに着替えて来た。
六花は学校指定の水着しか持っていないのか、名前の書かれたワッペンの付いた藍色の水着、球体状の青色のシャードはネックレスのように首から掛けて水着の中に入れていた。
満は海パン姿になったかと思うと、海に飛び込み遠泳している。その表情はやはり無表情であるが、泳ぎ方からして楽しんでいるようだった。
ククリは日焼け止めを塗ってからラッシュガードを着て、その他諸々の二幸対策をしてから浅瀬でぱちゃぱちゃ足をばたつかせている。実は泳げないので泳がないのだ。
「海ですよ海! おお! 行ったり来たり!」
波打ち際で海の様子を観察する六花。学校のプールと違い波が出ているのを見て、感じて、大はしゃぎだ。
「海がそんなに珍しいのか」
遠泳していた満も六花の事が気になったのか、戻って来てそう声をかけた。
六花はぺろりと海水を手に取ると口に含み、梅干しを食べた時のような顔をしながら笑顔を見せる。
「おお! 本当にしょっぱいですよー!」
「海水は塩分濃度が高い。多量に摂取すると水分不足になるかr止めておけ」
多分呆れているのだろう。そう言ってさらに飲み込もうとする六花を静止した。
「わーい! 海だー!」
見れば近くに島民らしき子供がおり、六花と同じようにはしゃいでいる。よく見ればその子は同じ船に乗っていた帰省組の子のようだ。
近くには保護者らしき母親の姿もあり、大胆なビキニ姿で満の事を獣のような眼光で見据えると近づいてくる。
アズレートから晶子の事を伺っていたククリが、あっ、あの人満に目を付けたなと、やばかったら止めるかーと集合して来た。
「あら、其方の肩は先ほど船でご一緒でした? ふふ、海を楽しんでいるようですね」
何だか見覚えもあるんだよなーと思っていた晶子は三人の顔を見てそう思い出す。
「はい! 私山育ちなので海を見るのはこの旅行が初めてでして!」
「ボクも実際に海に来るのは初めてかも。前は遊びに行くなんて言ったら怒られたからね」
「そうか」
満はそのククリの言葉に何かを察したのか、そう相槌を打つ。
まあ初めてと言っても、船に乗る際にも海には来た事になっているのだが、それは言わないのがお約束ってものだろう。
「海は良いわよ。こんな格好をしても不思議に思われないもの!」
「ママ……」
この人何言ってんだろうって顔をする。まさか前情報も無しに正月のお祭りで水着でいた人物だとは思うまい。
うずうずとまた海を舐めようとしている六花を見て、ククリも満と同じく海舐めてっと腹壊すからやめておけーと再度注意をした。
「はぁい! じゃあ味見はこれくらいにして泳ぎます!」
海に入ってばしゃばしゃ、満もまた、少し遠くへ行ってみるかと泳ぎに戻っていった。
そんな様子を浅瀬から眺めつつ、ボクも泳ぐ練習をしてみようかとククリは思うのであった。
※
宿で休んでいるマナトは一階の風情のある部屋で敷いてもらった布団の上で横になっていた。
すると、てってって、と、誰かが走る音が聞こえて来る。
「ネコか、喧嘩か?」
扉を開き外に出て見ると、再び猫の鳴き声がする。
「にゃー、にゃー」
「しょうがないな。構ってほしいのか? 君は野良か飼いネコどっちだろうな」
中庭の方に一匹の黒猫がいた。黒猫はマナトの方をじっと見つめ、にゃーとまた鳴く。
まるで自分を呼んでいるようだ。猫はそんまま中庭を超えて、木々の立ち並ぶ林の方へ消えていく。ちらりと此方を振り向くので、ついてこいと言う事か。
「って、ちょっと待ってくれ」
追いながら猫を観察すると、猫の首元に札のようなものが着いている事に気付いた。
「この宿の飼い猫かな?」
マナトは猫に誘われるまま、その後を着いていく。
黒猫と言ったらこのフォントだと思うんだ……