時刻は午後の七時。夏という事もあり日はまだ完全には沈みきっておらず、空は赤銅色に染まっている。
大広間での揃っての夕食の席では昼よりも豪勢な食事に舌鼓を打っていた。
その中でマナトと近くの席になったクエスター三人。
六花とククリが海では満が溺れた子を助けた事や、撫兎富様の逸話を聞けた事などを話す。今日の思い出という形での情報共有だ。
マナトはそれに対し不思議な少女に出会った事を話した。
満は黙々と周囲の会話を聞きながら食事を済ませる。
キクタケが近くへとやって来ると、今朝方船の中で撮影した写真の他、昼に町で撮影したと言う写真も渡してくれる。
「いやあ、町の方も中々だったよ!」
「おお……これが写真!」
「おっ、上手く撮れてますね」
「……」
「言い伝えとその盲目の子の話がなんか被るなあ、偶然、かな。お、ありがとうございます。って、他にもいろいろあるなあ」
思い思いの感想を口にする面々。その中でククリは撫兎富様の話とマナトの話した女の子に共通点がある事が何故だか気になって仕方なかった。
撫兎富様の話をキクタケにもしたところ、どうやらその神様を祀った神社が街中にある事を教えてくれる。
「とても神秘的な力を感じたよ。パワースポットって言うのかな。流石に撮影禁止だったから、写真は無いけどね」
「神話は過去にあった事例の象徴だったりします。もしかしたら本当にそんな不思議な力を持った神様がいたのかもですよ?」
「なるほど、実話に基づいた神話か」
もしかするとその裏には自分と同じように不思議な力……クエスターとして戦ってきた者たちの物語もあるのかもしれないとマナトは思う。
「癒しの神の社、か」
「神社、見に行きたいですねぇ」
満は何か思うところがあるのか、小さく呟いた。
それを神社に興味ありと見たか、六花も同じく呟く。どうやら明日の行く場所が決定したようだ。
「明日、行ってみようかな? その神社に」
「じゃあ、みんなで行ってみましょう! おー!」
ククリも神社に行こうと思ったので、他三人の思いも一致団結。一同揃って神社に向かう事となった。
「……」
満はもしかすると、これで自分の呪いが解けるかもと淡い期待を抱く。奈落により掛けられた感情を封じる呪い、今回の旅で解けなくとも、そのカギくらいは手に入るかもしれない。
一同が寝静まった夜。
虫の鳴き声が日本人には心地良い、そんな静かな夜だった。
都会と違う離島の、しかも町から離れた場所である宿での夜は、思いのほか真っ暗だ。そんな暗い夜の中、蠢く何かの影がある。
そんな不穏な気配を感じて、目を覚ます者たちがいた。クエスターたちだ。
「むにゃむにゃ……海って楽しいけど疲れますー……すぴー……」
六花だけ疲れ切ってて駄目だった。
「……っは! 敵……!?」
自室にその気配が近づいた事で目覚めたマナト。今まで戦ってきたその気配は、間違いなく奈落のものだ。
「……」
満は静かに部屋を出て気配のする方へ。どうやらマナトの部屋にそれらは向かっているらしい。
「……何だ、何か馴染みがあるような気配……」
そろそろーっと廊下に立つククリもまた、それに気付いて起きていた。
全員集合、とまではいかないものの、神秘に満ちた世界における戦い、それが始まろうとしている。
六花よ、はよ起きろ。
ぞろぞろとやって来たのはアビズマルディゾナンス――ダークレイスによって操られている、宿の宿泊客や、そのスタッフたちだ。
それらは皆、マナトを害する為に今、戸を――。
「……このままでは不味い、結界を使う」
シールエリアを発動し、マナトは結界を展開。戦うための場が作り出される。
「っは!」
その結界の発動を感じようやく六花が目を覚ました。
がばっと起きて寝巻のまま急いでマナトの部屋へと向かう。
「来い! ルーンメタル!」
マナトがそう叫ぶと、ルーンメタルと呼ばれる謎の古代遺物――レリクスの鎧を身に纏い、銀の戦士が誕生した。
ルーンメタルに見いだされた者だけが使える力、ルーンナイトと呼ばれるクラスは、そのレリクスに秘められた様々な力を使う事が出来る。しかし、それをどこまで引き出せるかはルーンナイトの力量によるのだ。
その力はアイギスと言う組織の戦士が使う物。表ではオリタ財団と言う、世界の貧困問題の解決や、教育水準の上昇、文化財や遺跡の保護を目的とする社会福祉団体であるその組織に、名目上マナトも所属している。
まさか休暇で来た場所で、早速仕事になるとは思わなかったが、これもまた運命の悪戯か。
「せいせいせ~~~い!」
ずっこんばっこん連続飛び蹴りでアビズマルディゾナンスたちを蹴り飛ばしていく。その姿での蹴りとか相手死にそうだけど大丈夫かと心配になるが、ちゃんと手加減しているので死なないきっと大丈夫。
「……」
満の指輪が輝くと
「吸血鬼に夜は関係無いよ」
ククリは銃を取り出し、撃つと下手すりゃ殺してしまう可能性があるので満を見倣い殴り倒していく。
「あわわ……あまり暴れ過ぎないようにー!?」
六花はそうやって倒された人たちを診ながら命に別状がない事を確かめた。
ものの数分足らずで奈落に支配された人たちを倒しきる。
「これは……奈落の影響……ですかね?」
「奈落だな。しかもクエスターを狙ってきた」
六花の問いにマナトはそう返した。寝込みを襲われるとは思わなかったが、こういう場合も想定していつでも起きられるよう訓練を受けている。
「なんだろう、何か違和感があるんだけど……とりあえず、この人たちを元の所に戻しておかないとね」
ククリの言葉に全員が頷き宿の人を元居た場所へと帰していく。
流石に詳細な場所までは分からないので、宿泊客ならその人の名前のかかった部屋の中、スタッフはある程度纏まった場所へ。後は結界が上手く作用し、何でこんなところにいるんだっけ? と曖昧なまま元の場所へ帰ってく事だろう。
「ううん、奈落が関わっているなら早々に解決したいです。無辜の人に危害が及ぶのはよろしくありません」
「後に回すと何があるか分からないからね」
「そうだな。このままだとゆっくり眠れない」
「なので調べましょう」
「人目に付き難いのも好都合だ」
六花の提案に皆が頷く。
マナトはこのままだと動き辛いとのことで、一度変身を解除、他の者たちもそれぞれの武器を収納した。
さてどこから手を付けようと考えた所で、六花の体がガクリと落ちる。
何だどうしたと言っていると、六花は起き上がった。立ち眩みかと心配すると、目の光がすぅっと消える。
それからいつもの六花とは違う厳かな語調で話し始める。
「クエスターよ、神社へ向かいなさい。その先に奈落がいます。クエスター、この世界を守ってください」
「神社か、よし行くか」
「……おお? 神がかりのような」
「……ガイア、か」
「ほえ? 六花です!」
六花は満に対し良く分からない顔で返事をする。目にも光が戻っており、いつも通りの六花がいた。
ククリは一応、宿をぐるっと見て回って、他に大きい異常が起きていないかだけ確認する。
それから先行するクエスターたちと合流し、撫兎富神社へ向かった。
※
「これは、スクープだ……良い写真が撮れるぞ……!」
そう言って、クエスターたちの一部始終を写真に収めていたキクタケ。どうやら結界の効果があまり効いていなかったようで、上手く隠れてククリから見つかる事も無かったようだ。
幾ら神秘と言えど全てを隠し通せる訳ではない。キクタケはこのスクープ写真をどうしたものかと、撮ったものを見ながら不気味な笑みを浮かべている。
キクタケは急ぎ神社に向かわねばと走り出そうとして、背後から近づいてきた何者かに叩かれた。
何だと振り向くと、鎌を持った少女がおり、にこりとほほ笑むと、その武器を振るった。