撫兎富を祀る神社。キクタケから場所だけは聞いていたクエスターたちは、六花の持つ能力も相まってその正確な位置を割り出した。
夜であるにも関わらず、その領域に足を踏み入れた瞬間、夕焼け空のような光景が広がり、奥からは眩く、燃えるような光が見えた。
「結界、か」
マナトが呟く。
階段のその先、木々に囲まれた道を通った先に神社はある。奈落がそこにいるのはまず間違いないだろう。
「……」
満は神木刀を装備すると周囲を伺う。がさり、何かが動いた音がして、警戒を強めた。
木の間から出て来たのは一匹の黒猫だ。その首には札のようなものが着いている。
「……どうして君がここに」
「にゃにゃーん」
その猫を唯一知るマナトがそう訊ねると、猫は昼の時と同じく、着いて来いと言う様に奥の光の方へ向かって行く。
「……答えは自分で確かめろ、か」
「……? 追ってみましょう」
「行くぞ」
「追ってみるしかなさそうだね」
猫とマナトの関係が良く分かっていない三人だが、どちらにせよそこに奈落がいるのだから向かわない訳には行かない。
マナトを先頭に奥へと進む。程なくして、神社の敷地が見えてくる。
そこには少女がいた。盲目の少女だ。少女、香織は樹木のようなものに捕らわれており、意識を失っているようだ。その周りでは木々が騒めき、複数の昆虫が呼び出される。それは奈落によりアビスシードを埋め込まれ、変異したクリーチャーたちだ。
「……」
満は目を細め少女を見る。少女自体が奈落の宿主かと疑ったが、どうやらそういう訳ではないらしい。
「……やるしかないか。来い! ルーンメタル!」
マナトがルーンメタルを装着し、ルーンナイトとしての姿になる。
「あの子がマナトさんの言ってた……助けましょう!」
「うん。それに……奈落の跋扈を許すわけには行かない」
今度は本気で行かせて貰うと、ククリはライフルを腕輪状の時空鞘から取り出す。
目の前の樹木には花の蕾があった。その蕾が開き、花を咲かせると、花柱の先に目玉のようなものを覗かせる。
花柱を伸ばしその目でクエスターたちを見つめるダークレイス。さらにその周囲には無数の虫、アビスインセクトたちが現れる。
香織が苦し気な表情を見せたかと思うと、蔦を伝いマナがダークレイスへと流れていくのが分かった。どうやら香織のマナを吸い取り力へと変えているらしい。・
「……大丈夫……できます!」
緊張しながら六花は自分の頬を強く叩く。その音を合図にするように、両者一斉に動き出した。
先制したのは奈落側だ。ダークレイスが花粉を散らすと、それを浴びた虫たちの動きが良くなった。マナを分け与えられた事で強化され、より厄介なクリーチャーへと姿を変える。
その禍々しさは今まで戦ってきたどの奈落よりも圧倒的。ティターン十二神かもしれないと言う緊張感が走る。
ダークレイスが蔦を向ける。その目は六花を見ているが、その射程である二十メートルより離れているせいか、別のクエスターへと対象を変える。その対象はマナトだ。蔦の先が割れそこに花が咲いたかと思うと、体内のマナを変換させ作り出した荷電粒子を高速で解き放つ。
「うおっ! 危ない!」
マナトのすぐ横を駆け抜けていく光線。食らったら一たまりも無いと冷や汗をかく。
ダークレイスばかりに注意を向ける訳にも行かない。虫たちが嫌な羽音を立てながら迫り来る。
「いっぱい来ますー!」
山で見慣れた虫でもこれだけ大きいと気持ち悪い。虫の大群は前衛に出ていたマナトと満を秒の間に取り囲んだ。
「多いな」
満は虫だらけで目の前が見えなくなった事に嘆息する。
ククリの持つライフルの射程は五十メートル。後衛から無理なくダークレイスを撃てるが、虫を狙うべきか……いや、ここは本体を狙おうとダークレイスへ照準を合わせる。しかし虫も邪魔には邪魔だと、本気を出すべく夜の血を活性化させる。
ククリの体内を流れる奈落の力を解放し、トリッキーな動きで虫たちを攪乱しつつ、本体へ銃撃を浴びせる。
「これでも……喰らえ!」
「ブォオオオオオオ!!」
ダークレイスから呻き声のようなものが漏れると同時、香織の顔も歪む。
「せいせいせいせい!」
マナトはルーンウェポンである自らの拳、ルーンナックルに体内のマナを通す。得意とする雷の力を纏った拳で、取り囲む虫たちを殴り飛ばした。これにより半数の虫が倒されたのだが、どこからともなく虫の増援がやって来てキリがない。
六花は得意の魔法を使い満周辺のマナを変質させ、攻性化させる。これにより満の持つ神木刀はその豊富なマナを取り込んで、神秘的な輝きを放つ。
「頼もしい」
聖剣ボクトーの誕生である。
言うなれば神神木刀。別に神の属性を持ってはいないが。
「虹の橋の番人の加護を──さあ、当ててくれ!」
ついでだとククリがヘイムダルの加護を使い満の攻撃が必ず成功するように導く。神木刀は虹色に輝いた!
ここまでお膳立てすれば全滅間違いなし。一閃、虫たちを薙ぎ払う。
「的が細かい」
マナトが倒した分と合わせてほぼほぼ全滅させることが出来たものの、少しだけ虫が残ってしまった。
「オオォオ……」
ゆらゆらとダークレイスの花柱が揺れる。目を閉じたかと思うと、カッ、と開きなおした。するとクエスターたちの体からマナが抜ける感触がする。どうやら六花が変質させたように、クエスター周辺のマナを変質させその力を奪い取っているようだ。
しかも厄介な事に残った虫たちの分もダークレイスはマナを吸っていく。どうやら与えた以上に回収出来るよう循環システムが構築されているらしい。このまま虫を残しておくのは厄介だ。先にほとんど倒していなければ、ダークレイスをより強化していた事だろう。残り僅かとは言え、残っている虫を優先して倒すべきか。
「うぁ、ぁ、あ、ぁあああああ!!」
香織が悲鳴を上げる。ダークレイスは捕らえている香織のマナも、相変わらず吸っているようだった。