アルシャードセイヴァー†選ばれし者たち†   作:椎名真白

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その願いは……

 ダークレイスはさらに、香織をその幹の中、体内へ吸収してしまう。

 

「不味いな」

 

 このままだと香織の身が持たないだろう。早々にケリを着けねば。

 とか考えていたら足元から悍ましい程大量の闇。存在を溶かすような黒き炎はダークレイスのニョルドによる加護攻撃だ。

 その絶対的力を前に満は死を予感した。シャードが輝き絶対絶命を回避すべく満を守るが、これでブレイク。もう一度受ければ今度こそ死を迎えるだろう。

 

「クエスター……シャード……奪ウ……」

「ぐっ、が……やってみろ、俺はまだ生きてるぞ」

 

 最奥の木を見据えて挑発するように言うと、ダークレイスは蔦から二度目の荷電粒子砲を発射。満……ではなく、今度こそ当ててやると対象はまたマナトだ。

 その花が開いた段階で、またこれ俺に来るんじゃねと思ったマナトは直感を信じ回避行動に出ていた。そのお陰で攻撃を受けなかったようだ。

 

 本体を狙い撃ちしようと思っていたククリだが、敵の回復が厄介だし、何より虫を倒して前線を押し上げた方が良いだろう。ドットサイトと言う照準器を着け直し、ライフルの精度を上げると、虫を次々と撃ち落としていく。この照準器、中々に扱いが厄介な分、その精度はかなり高いので重宝している。

 勝利の風は吹いてきた。マナトは続くとばかりにルーンウェポンによる超音速のラッシュ攻撃、ブレイブラッシュを繰り出す。流れるような高速の連続攻撃を見切れる者などまず存在しない。これで虫も全滅だ!

 とか思っていた時期がマナトにもあった。残念ながら見切れはしなかったようだが、浅かったようで攻撃を受けた虫が虫の息で生きていた。

 

「えい!」

 

 大きく声を出しながら、その反動で目を瞑ってしまいながらも火の魔法を放つ六花。目を瞑りながらとか仲間に当たったらどうするんだと言いたいところだが、上手く虫に直撃したようで、マナトが倒し損ねた虫をこんがり焼く。

 虫はさらに増援を寄越すが、明らかに数が減っている。あと一息か。

 

「剣崎さんお願いします!」

「消し飛べ」

 

 神木刀から発生した衝撃波を叩き付ける。虹色の衝撃は増援を悉く撃ち落とし、さらなる増援が来る事は無かった。

 

 ダークレイスが再び周囲のマナを変質させていく。クエスターたちの命が少しずつではあるが、奪われていった。

 虫がいないとはいえ、厄介極まりない敵だ。しかも状況はさらに悪化し、さっきまで呻き声をあげていた香織の意識が途絶えたではないか。

 ダークレイスの蔦の先がまた花開き、荷電粒子砲を発射する。先ほどまでよりも威力が増幅しており、対象にされたマナトは躱しきれない。そこにトールの加護も加わり、シャードが死の危機を回避するべくブレイク状態に陥った。

 そしてどこに隠れていたのか、地面からも虫が出て来てマナトを殺そうと襲い来る。

 マナトは間一髪でこれを避け、その虫をククリが撃ち抜いた。流石にもう来ないだろう、そう思いたい。

 

「さ、邪魔は居なくなった。後はアイツだけだ」

「……」

 

 満はゆらり、神木刀を構え直し。

 

「……精神集中」

 

 マナトはダークレイスを撃つべく、精神を研ぎ澄ます。

 マナを極限まで高めて繰り出す必殺の一撃、フィニッシュアーツ。マナトの拳に纏わりついた雷のマナがダークレイスを砕くべく迸る。

 地面から生えていたダークレイスに変化が起きる。その体が根元から浮かび上がると、目にもとまらぬ速さで飛行し旋回し始めるではないか。

 マナトも負けじとブレイブラッシュによる高速攻撃。空中での鬼ごっこが始まる。それに待ったを掛けたのはククリだった。

 海の神エーギルの加護を使い、ダークレイスの動きを鈍らせる。マナトの拳がダークレイスへ追いつくと、その体に重い衝撃を与えた。

 さっきのお返しだとさらにマナトはトールを使い攻撃の威力を上げる。しかしダークレイスもただではやられてくれない。雷神タケミカヅチの剛力が受けた分のダメージを反射する。

 

「せいせいせいせ~~~い!!」

 

 マナトは一度、事切れたが、自らのイドゥンを使い死んだ状態から生き返った。

 魂を燃やした拳は木の幹を打ち砕く。さらに幹の中に捕らえられている香織へと手を伸ばし救い出そうとするが、一歩届かない。

 

「マナト、おにぃ、さん?」

 

 香織が目を覚ます。空中から落下するダークレイスは体を再生させると空で態勢を立て直した。さらに体は修復していき、香織がまた、幹の中へと隠れてしまう。

 

「香織ちゃん! お兄さんのところに帰りましょう! きっとあなたを助けてくれます!」

 

 六花の叫びが届く。

 その声には神秘的な力が宿っており、ダークレイスの体内で奈落と同化しようとしている香織の意識を覚醒させた。

 

 それは懐かしい声だった。

 

「さあ、こっちですよ」

「誰? どこにいくの……?」

 

 香織に呼びかける女性の声。それが誰かは分からないが、ぽかぽかする、温かい声の女性だ。

 

「さあ、こっちですよ」

「待って……あっ……」

 

 ダークレイスの幹が光り輝いたかと思うと、そこから香織が排出される。

 それを取り返そうと蔦を伸ばすダークレイス。ククリのライフルがその蔦を阻害し、マナトが香織を空中でキャッチ。香織はルーンメタル超しではあるが、マナトの確かな温もりを感じ取り、目が見えないながらもマナトの顔を見て言った。

 

「ただい、ま?」

「ああ、お帰り」

 「ブォオオオオオウ!!」

 

 ダークレイスが奇声を上げる。それはまるで、悲鳴のようにも聞こえた。

 香織がその声を聞いて、マナトへと言う。

 

「お願い、ぶうとむを、助けて」

 

 既に限界だったのだろう。香織の意識はそこで途切れる。気を失ったようだ。

 

「剣崎さん! あとは攻めておっけーです!」

「……ああ」

 

 香織を抱いて降りてくるマナトと入れ替わるように、満が前に出た。

 

「解放してやろう、お前をその呪いから」

 

 ダークレイス――撫兎富を奈落から解放すべく、剣を振るう。しかし空を飛びながらその全てを躱されてしまった。

 

「月野さん、彼女をお願いします」

 

 マナトは六花に香織を預けると、また前線へ出ていく。

 撫兎富は香織を解放してしまった為か、徐々に動きが鈍くなっていく。

 荷電粒子砲はもう撃てないようだが、蔦を使った範囲攻撃を、加護であるヘイムダルを込みで行ってくる。

 さらにヘルの加護を使い神の属性を付与した波状攻撃だ。撫兎富の近くにいた満とマナトがこれに直撃、死亡する。

 

「だめです!」

 

 六花がイドゥン、さらにブラギしイドゥンを使い二人を蘇生。破壊された肉体が再構築され、現世で分離した魂が再び宿った。

 

「うおぉぉぉぉぉ~~~~!! まだ! まだだ! まだ倒れる訳にはいかない!」

 

 何度倒れ、何度死のうとも、不屈の闘志で蘇る。

 

「……」

 

 二回も殺されたマナト、そして満も、自分が死んだ事に動じず、奈落を撃つべく武器を振るう。

 血まみれで尚も戦いの意志を見せる二人に撫兎富を支配している奈落は怯えるように後ずさる。

 だが、目の前の二人さえどうにかすれば、後はどうとでもなる。

 そんな事を考えていたせいか、背後に迫る影に気付けなかった。

 気付いた時には既に遅し。ククリのトールを乗せた弾丸が背後から迫る。既に必中圏内、躱すことはできない。

 ならば、その加護の力を消し去り威力を抑えるまで! オーディンを使いトールを消し去るが……。

 

「やれ、竜道」

「ああ、任せて……もう、眠りなさい」

  

 満の神木刀が輝き、ククリの弾丸にトールを再度付与。聖なる弾丸は逃げようとする撫兎富を追いかけ、その体に風穴を開ける。

 

「……よし、もう一押しだ。任せた!」

「……精神集中……! 雷神よ、俺達に勇気と希望と力を下さい!」

「任せたぞ、柏木」

 

 満の神木刀がまた輝く。マナトの自前のトールに、満の持つトールが加わった。

 マナトが拳を天高く上げる。雷はその手を包むように巨大な拳となる。

 

「必殺!」

 

 拳を振り被る。風をも焦がし空間を焼きながら、神なる雷は敵を貫く光となる。

 

 「ライジングメテオ!!!」

 

 パァン――ッ、裂ける音と共に撫兎富の中に宿る奈落の力が霧散する。

 撫兎富の目が見開いたかと思うと、穏やかな表情へと変わっていき――。

 

「……俺達の、勝ちだ」

「……安らかに」

 

 撫兎富が燃えていく。

 奈落に支配された者が辿る末路。根深く張られたその闇は、種子を取り除いただけでは消えなかった。

 

「ありがとう、人の子よ――」

 

 撫兎富の声を聞いたその瞬間、クエスターたちはある光景を見る事となる。

 

 別の惑星、遥か宇宙の彼方よりこの星に渡来した神、ヴルトゥーム。

 しかし傷つき死の危機に瀕した神は、一人の少女に助けられる。

 盲目の少女、神は少女に恩返しする為、ありとあらゆる力を行使するが、その目が治る事は無かった。

 そして神は、自らに絶望し、この地にその身を封じる事となる。

 いつしか伝説は捻じ曲げられ、少女を救えなかった神は、それを救えたものと伝えられるようになった。

 そして現代、似た境遇の少女がこの地に生まれた事により、神は目覚める。

 奈落は目覚めたばかりの神を冒すと、その身を操り、少女を害なそうとした。

 結局のところ、神は最後まで、少女を救えなかった。

 

 これは一つの物語、その終着点。

 

 ハッピーエンドはありえない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいえ」

 

 絶望は希望へと転じる。

 

「ああ、遠き星の神よ。あなたの望んだ願いは叶うでしょう」

 

 今、その願いはエントロピーを凌駕した。 

 

「あなたの信じた奇跡は起きるでしょう」

「あぁ……あ……」

 

 六花のガイアの加護は、かつて叶える事の出来なかったその願いを成就させる。

 

「あ……」

 

 六花――否、ガイアのアバターが香織の目にそっと触れると、その瞳に光を宿す。

 目覚めた香織は突然の光とその景色に戸惑いながらも、消えゆく光に気付き、その名を呼んだ。

 

「ぶうとむ」

「あなたは……決して初めから、歪んではいなかったのです」

 

 神話は現代を以って、本物となる。

 

「蒼き星の女神よ……ありがとう……」

 

 ――その日、蒼き星に、新たなる奇跡が起きた。

 

 

 

 戦いは終わり、夜明けが来る。 

 離島での休日は始まったばかり。クエスターたちは思い思いの日々を過ごす事だろう。

 その中に、ダークレジェンドが潜んでいることなど知らずに……。




エンディングのシーン書こうとしたらセッション長時間やってた関係で実は描写無かったので3行追加でこの章終わりです。次はマギレコ編です。
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