一の鳥居を抜けた参道には多くの出店が立ち並ぶ。その中を香奈は一人出歩いていた。
神社の全体像としては南の一の鳥居を抜け北へ参道が伸びており、その脇にそれぞれ出店エリアがある。参道を抜けた先の二の鳥居までは階段があり、その両隣に竹林が広がっている。階段を上った先に拝殿があり、社務所横にはご神木が生えている。
出店は一の鳥居から焼きそばやラーメンなどを販売する食べ物関係の出店があり、そこから西側に抜けた先にはご当地ヒーローを呼び込んだヒーローショーの為の特設ステージが設けられている。東側にはお面屋や金魚すくい、的当てなどのアトラクション系のエリアと分けられて立ち並んでいた。
香奈はその内の最初のエリアで参道を歩く美しい青年に見惚れていた。
(ふむ、あのお兄さん凄くイケメンだけどこの辺では見ないわね。旅行か何かかな? 何はともあれ……アタック!)
ナンパ開始である。
記憶喪失でこの世界に落ちた後、孤児として育てられた香奈は立派な女子高生となり、大学も推薦で受かった事もあり浮かれていた。
そうでなくとも目の前の青年、アズレートは一目に付く。天上の美の持ち主である彼の前に日はかげり、月は雲間に隠れ、鼻は頭を垂れるだろう。どこかのモデルかな? カメラはどこかなと辺りを見回す人もいれば、カップルで来ているのにアズレートに見惚れてしまい嫉妬心を向けられる人もいた。
「参拝くらいはしておこうか……」
アズレートは最早慣れたもので、そんな人目も気にせず趣味であるカメラで周りの写真を撮っていた。勿論撮影禁止などのルールはきちんと守り撮影をしている。
写真を撮り終えたタイミングを見計らって香奈が近づいた。とびっきりの笑顔で話しかける。
「初めまして、お兄さん! ここへは旅行で?」
「そうですね、旅行です。……地元の方で?」
アズレートは突然話しかけられた事に驚くものの、自然に言葉を返した。
見ず知らずの、それでいてその美しさから人目に付くアズレートに実際声をかけるのは相当勇気がいる。
「ええ。せっかくだから案内しましょうか?」
「む……そうですね、まだこの辺りも把握してませんし、ご迷惑でなければ」
にっこりと笑いかける香奈。アズレートはこういった手合いに話しかけられる事も多いので普段は断る事が多いのだが、地理も把握していないこともあってその申し出を受ける事にした。
火口に逃げる子の案内とか不安しかないのだが、そうとは知らぬアズレートである。
「では行きましょうか! まずは参拝からですかね?」
「はい、お願いいたします。ところで、何とお呼びすれば?」
ケイローンと話していた時と違い丁寧な言葉遣いのアズレート。絶賛猫被りモードだ。
香奈は辛うじて失う事の無かった記憶の中の自分の名を名乗る。
「
「それでは……香奈さん、と。私のことはアズレート、で構いませんよ」
「アズレートさんね、よろしく!」
互いに名乗りあった二人。出店などに立ち寄るのは後に回し、参拝の為に拝殿へと向かう。
(な、いきなり下の名前で、だと……これはワンチャンあるわね!)
なんて香奈は考えていた為か、足取りが軽くスキップ気味になっていた。
「日本の友人が良く名前で呼んでくれと言うので名前で呼ばせて頂こうと思いますが……ご不快でしたらおっしゃってくださいね」
「い、いえいえ! お好きに呼んでください! とりあえず参拝行きましょ、参拝!」
香奈はその友人グッジョブと心の中でサムズアップする。
神社の鳥居脇には立派な桃の木があり、東側にはご神木がある。それなりに大きい神社で、神社の脇にはこの神社ができた伝承が書かれている。
「甘酒いかがですかー?」
と、神社前では巫女さんが甘酒を配っている。勿論有料だ。ご神木前の社務所ではおみくじやお札、地元のゆるキャラのグッズなんかも一緒に販売していた。
「おや、何やら色々あるな……」
アズレートは思ったよりも変わった物が売っていた事で目移りする。
どうやら社務所は迷子センターも兼ねているようで、迷子になった子の呼び出しを行っていた。
冬に手水って寒いよねとか、そんな会話をしながらお賽銭を投げて手を合わせ参拝。一連の動作はアズレートの方がきちんとしていて、やはりこういった物事は日本人よりも海外の人の方が正しく行うんだなと思う香奈。そんな香奈も異世界人なのだが、今は身も心もクールジャパン。
(素敵な男性……)
そんなジャパンでキュートな巫女はアズレートに心を奪われ煩悩に飲まれかけていた。
美の女神に愛され神の恩恵を授かって生まれたアズレートは何故か握手を求めてきた巫女を軽く躱しながら、御朱印貰ったりおみくじ買ったりしつつ香奈の案内で今度は先ほどスルーしてきた屋台の方を見に行く事となった。
時刻は午前の十一時。屋台の買い食いは妙に美味いので、割高なのについつい買ってしまう。
だけどもまだ買い食いするにはちょっと早いかなとまずはヒーローショーの会場の方を見に行った。
香奈はそこで誰かの声に気付く。
「ん? 今女の子の声が……ごめん、アズレートさん。ちょっと向こう見てく……大丈夫?」
「お気になさらず……声、か。見に行きましょうか」
石に躓きこけた所をしれっと立って靴紐を結びなおしていたアズレートはそう返すと香奈の後をついていく。香奈からどじっ子属性でも移ったのだろうか。
「あ、うん。とりあえず行きましょうか」
そうして二人、声のする裏方の方を覗きに行く。ヒーローショーは午後かららしく、辺りに人はいなかった。準備なんかもお昼を過ぎてからやるつもりだったのだろうか、他に人がいれば気付かれただろう少女の声は、しかし香奈にしか届かなかった。
そうして見に行ってみれば着物姿の小さな女の子がえぐえぐと泣いている。年は記憶喪失前の香奈と同じくらい。なんだか一瞬火口がちらついたが何故だろうかと香奈は首を傾げた。
「おや、迷子かな……どうしたの? 大丈夫?」
確かさっき社務所に迷子センターもあったなと、社務所で貰った地図を再確認。地図があるのだから香奈の案内はいらないが、まさかそこで断る流れにするのも変だなと未だ行動を共にするアズレートであった。
「うう、お母さんがどっかいっちゃったの……」
「ふむむ……お母さんがいなくなっちゃったか……よし、お姉さんたちが見つけてあげる!」
ちゃっかりアズレートも巻き込む香奈。まあ勿論手伝うつもりだったので、まずは迷子センターで呼び出しして貰おうとすぐに解決する方向に向けて動き出す。
すぐに女の子の母親は見つかるだろう。この時はそう思っていた。