迷子センターへ向けて迷子の女の子、琴音を連れて歩く二人。こうしているとまるで親子のようだねとこのまま結婚ゴールインありなんじゃないかと黒い笑いを浮かべる香奈。一方琴音は女の子なだけあってイケメンには弱いのか、アズレートと手を繋いで涙も消えて可愛い笑顔が浮かんでいる。香奈はその隣の手は私が握っても良いよね、やっぱりだめ? と掴みに行くかどうかで迷う。普通に横に伸びて歩くのは迷惑なのでやめておくべきと詰め込まれた日本の常識が邪魔をしてきた。
丁度時刻もお昼時。さっきまではそうでもなかったお腹の虫もそろそろ目を覚ます頃。一人ひっそり泣いていたからか、琴音の虫はとても元気に鳴き始めた。折角泣き止んだと思ったら今度はそっちが鳴いちゃったかーと同じ目線で気分は母親な香奈は琴音へと語りかける。
「んー、お腹空いちゃった? 何か食べる?」
「……何か買ってきましょうか?」
このまま迷子を届ける方を優先すべきなのだろうけれど、こうも隣で鳴かれてはさっきまで泣いていた子という事もあってそっちも何とかしてあげたい。
これがそこらのおっさんだったら通報ものだけどイケメンならば問題にならないのはちょっと世の中世知辛い。香奈がいるから迷子を送り届けていたって言い訳は十分通じるかもしれないけど、そもそもおっさんが相手なら香奈もこうしてついてこない。むしろ通報する側に回っていただろう。そもそも琴音もすんなりついてきてくれないだろうし現実ってとっても悲しい。
「お腹空いたけれど、私、お金持ってない」
琴音は俯きながらそう呟く。もし持っていたとしてもこの年齢だ。大した額は持っていないだろうし、駄菓子屋ならいざ知れず、屋台の食べ物を買うにはちょっと小遣いが心もとない。
そこは流石に自分の金で買って来いよ何て言わない二人。香奈が頭をまるで母親のように優しく撫でると財布を取り出す。
「大丈夫、買ってあげるわ。何が欲しい?」
そう言われて軽く回りを見渡して、最初に目に入ったのはにしこ焼きなるご当地料理。とあるゆるキャラの顔を模した押し印で焦げ目のついた今川焼だ。呼び名で揉める事も多々ある今川焼だが本作では今川焼としている。許せ。
自分たちもお腹空いてきたし一緒に買って食べちゃおうと何個か一緒に買う。一個百円の今川焼はお祭りの良心的存在だ。フードコートで買っても同じくらいの値段だし、何よりお腹に溜まるから満足感もある。お祭り感と満足感、そして財布への打撃も少なく素人が作っていても一定の美味しさは保証される。
某語尾にブーンをつけるゆるキャラのお面を着けた上半身裸のマッチョな男性からにしこ焼きを受け取って端の方に寄って食べる。ふと屋台の合間に葡萄の棚があるのが目に入った。
どうやら独特の風習でもあるのか、この棚に葡萄を積むのがお祭り客の間で流行りらしい。スーパーで売ってるさんきゅっぱくらいの種無し葡萄が多い気がする。あれは偶に種があると当たりなのか外れなのかちょっと考え込んでしまう品だ。
葡萄を次々と棚へ積む人々。ちょっとした葡萄タワーが出来上がっている。この積まれた葡萄はまた回収して売るのかなとふと気になるけど、流石にそんな事はしないだろう。色々と問題になる。
しかし変わった風習だな、何だろうなーと見つめるアズレート。同じく香奈もなんだろなーとそれを見つめる。地元民でも知らない事はあるのだ。
一粒だけしか置かない人もいれば一気に一房置いていく人もいたりと大小様々な葡萄タワー。ちょっとバランスが悪くなって来たなと置き方を気を付ける人たち。そうしてありがたやとそれを拝む。ちょっと趣旨が変わってきているのは気のせいだろうか。
しかし葡萄、何かあったなと辛うじて葡萄に関する伝承について香奈は思い出した。だが深く考えたことがなかったのでどんな内容かは忘れている。
葡萄、美味しい。桃、美味しい。
「……何だか変わった感じのする風習? ですね」
アズレートは首を傾げながら地元民の香奈に聞く。当の香奈も内容を忘れちゃっているので一緒に変わってますねーと首を傾げた。
「んー、何かこの辺の伝承であった気がするんだけども忘れちゃったなあ……」
そう言えば神社の方に伝承について書かれた立札があった気がする。迷子を送り届けたら読み直しておこうかなと考えながら、香奈は餡子味のにしこ焼きを頬張る。
「納豆、美味しい?」
「へ? んー、私はそんなに好きじゃないかなあ……」
琴音に対し突然何の事だろうとキョトンとする香奈。アズレートと香奈は餡子味だが、何故か琴音のは納豆味だった。割と美味しいので気にせず食べる。きっと店主が間違えて渡してしまったのだろう。チョイスがちょっとおかしいが。
その様子をこっそりと見る小さな影。アズレートが気配に気付き振り返った時には既に消えていた。今何かいたような……。
さて食べ終えたと近くにあったゴミ箱ににしこ焼きを包んでいた紙を捨てて迷子センターを目指す三人。
さっき行ったばかりの拝殿へ向け戻っていると、何かを見つけたらしい琴音が階段横の竹林の方へ入って行ってそれを拾い戻ってきた。
「綺麗な櫛見つけた! はいっ、あげる!」
「あっ、ほんとだね! ありがとう!」
ゴミ拾ってきて渡しているようなものだけど、中々に立派な櫛だったので香奈はそのまま預かった。
どうやら竹で出来ているらしい上品な櫛だ。誰か落としていったのか、まあ渡されたしポケットにでも仕舞っておこうとそのまま忘れそうなコースへ突入。後で洗濯が終わってから何か入ってると思い出すパターンである。