コケコッコーとグロスの号令に従い動き出すインプたち。
晶子が鶏が沢山ね焼き鳥が食べたいわとか言うのを見て背筋が冷たくなる。腹を突き破る普通人とか何だお前とクエスターと奈落との神聖な戦いを邪魔するなと結界の中に結界を張る。流石に普通人らしく無い普通人とはいえクエスターでない普通人であるからして、これでようやく大人しく気を失った。
クエスター側もこれで心置きなく戦えるとそれぞれ仕舞っていた武器を構える。
決戦なので勿論加護も出し惜しみしない。クエスターが持つシャードの中には加護と呼ばれる特別な力が三つ宿っている。一度使えば暫くは使えないが、その分強力な力だ。
しかしその力は奈落側も行使する事が出来る。
「加護が貴様らクエスターだけの特権だと思って貰っては困るな! ニョルドォッ!!」
最初から全力、それはグロスも同じ思いであったようで、火と風と水を司るニョルド神の加護を得て、神の怒りでクエスターたちを灼き尽くさんとする。
回避不可能の攻撃は黒い闇の炎となりクエスターたちを襲う。これを受ければその時点で死に至る一撃、しかし加護は奈落だけの特権ではない。クエスター側も同じく加護で対抗する。
「オーディン」
アズレートのブレスレットに輝く六角柱の
「ほう、流石にタダでは倒れぬか」
ニョルドの一撃で倒せるとは思っていなかったグロスは続けて詩と雄弁の神ブラギの加護を以って他の神の加護を回復する。つまりニョルドが再び使えるようになったのだ。しかしここで使う事はせず、自身の特技マインドリッパーを使って影から精神を切り裂く刃を薙ぎ払うように二人に放つ。
二人は刃の隙間を伝いそれを躱していく。流石にこうも連続で攻撃を躱されると焦りも出てくる。
「ええい、行け! 我が眷属たち!」
「コケッコココ!」
進化の代償として飛ぶ事を失ったグロスは飛び回る配下たちを羨ましいなあと思う。地面に影が固定されているせいで真面に動けないのだ。第三形態になったら俺は飛ぶぞ!!
タイプインプのリーダー鳥グローニカはグロスの命に従いそれぞれ九の配下、合計三十のインプたちは二〇メートルまで届く炎の魔法弾を口から放つ。
それぞれA群、B群、C群と呼称するとして、A群はクエスターに混じって一緒にいる狐に、B群は香奈に、C群はアズレート……に見せかけてこっちも狐に火弾を放つ。
マインドリッパーを躱したばかりだと言うのにこうも追撃されては全て躱すことは難しい……と言いつつも躱す狐。悲しきかな、マインドリッパーを放った範囲が丁度狐のいる場所に被らなかったせいで火弾のみに対処すれば良かったのだ。良し完璧と思ったら別のグループがアズレートじゃなくて狐を狙ってきた。あれれこっちに来るのと油断してた狐、回避が間に合わないので仕方なく特技であるマジックシールドで魔法障壁を張って耐えた。
香奈も華麗に躱せれば良かったのだが、グロスの集団統率で士気が上がっているインプたちは中々に厄介。連携の取れた火弾を香奈にお見舞いする。
この感じ、どこかで覚えがある。そうだ火口だ! 思い出したくないものを思い出しちゃったなあと嫌な顔をする香奈。しかし直撃することは無かった。
「しゃがんで左に三回転がれ!」
と、アズレートの声がしたものだから思わずそれに従ったけれど、良く考えたら別方向から声がしたし、アズレートの声だったと思うのだけれど、何だか別の人の声だったような……と、もしかしたら気の迷いが生んだ幻聴かなと転がり終えて思う香奈。しかしその助言があったおかげで、食らうはずだった攻撃を何とか回避成功した。
アズレートはインプが散会する前に纏めて始末するべく取っておいた魔法弾を二発代償としスフィアマジックを発動する。マナクリスタルを改造し作られた魔法弾は、その代償に応じた強力な魔法を使う為に利用できる。スフィアマジックは単体への魔法を拡大する効果を持ち、これに加え精神力注入強化のブーストマジック、周囲のマナを集める強力な攻撃魔法であるマナブレイクのいつものコンボを使用。持ってけ魔力、食らえよ全力。
「邪魔だ、消え去れ奈落ども!!」
「ぴぃ!?」
「おわわっ!? 危ないでんがな!」
「ぴぃお腹痛いんだった……助けて……?」
氷の冷気がその場を急激に冷やしていった。疑似的な夏場は一気に現実と同じ気温まで下がる。
アズレートの魔法により必死に避けた一匹を残しインプは全滅、これにはグロスも顔が固まる。
「我が
「あらやだ素敵……」
「ヒッッ……」
何だか聞こえてはならない声が聞こえたけど気のせいだよね? 普通人は気を失っているんだから気のせいだよ。昌子の声がトラウマになっているグロスは自分にそう言い聞かせた。寝言かもしれない。
ついでにブラギっとこうとアズレートもオーディンの加護を回復する。これでニョルド対策は万全だ。
「ウォオオオオオオッ!!」
「なななんや!?」
香奈が吼えた。必死に回避し生き残ったB群リーダーグローニカは突然の叫びに威圧される。そこを狙い香奈が剣の女帝で斬りかかる。
「ピイィイイイ!?」
斬撃を受けたグローニカだが、悪運が強いのかギリギリの所で持ち堪えている。あと一歩、動き出すのが遅れていれば死んでいた。
安心していると今度は狐からアイスブリッドが。冷気はもうコリゴリだとこれも何とか回避した。
「ニョルド」
「オーディン」
「オーディン!」
「っ、ブラギ」
残ったグローニカ一匹が頑張って回避している横でグロスが再びニョルドを撃とうとしたところ、アズレートのオーディンでまた打ち消されそうになった。そこをすかさずオーディンしニョルドを行使しようとしたのだが……狐のブラギで回復されたアズレートのオーディンによりオーディンがオーディンされた結果ニョルドがオーディンされてしまった。オーディン同士の殴り合い、人はこれをおでん合戦と呼ぶ。
「猪口才な!」
「簡単に貰うと思うなよ」
ならばと、ノシリ、重い腰を上げて一歩前に進んだグロスは影を使いグローニカとやりあっていた香奈へ殴り掛かった。
香奈はそんな攻撃食らわないよと軽やかに躱そうとして、何かに当たりバランスが崩れる。
「バルドル」
「っ!?」
光の神バルドルの加護は味方の働きを素晴らしいものとする。グロスの攻撃に当てられた加護はその攻撃の性能を伸ばすのではなく、グロスが生み出し倒されたインプたち、それを倒すのに使われ残っていた氷の塊に香奈が偶然当たりバランスを崩し攻撃が命中するという結果を以って終結した。
香奈は殴り飛ばされ致命傷にも近いダメージを負ってしまうが、辛うじてまだ息があった。
「わいの怒りに世界が泣いた!」
今が好機と追いかけられていたグローニカが反撃の火弾を放つが……流石にこれを受けたら死ぬと香奈も必死にそれを回避。アズレートがそのグローニカに対しアイスブリッドを放つも、一手足りずそのまま躱され、追加の火弾が香奈を屠った。
「だめ……っ!!」
繕う因果――。
狐はその因果を紐解き、己の望む形へ紡ぎなおす。
グローニカを逆に屠るのは無理だが、アズレートの攻撃がグローニカに当たり、追撃ができない状況を作り出すくらいなら何とか紡ぎなおせる。
狐の働きにより香奈の死は覆され、世界は再び動き出す。
「ぴぃお腹痛いから帰るね……」
「馬鹿な! 我が眷属が全滅、だと!? あああありえぬ! ありえぬぞおおおおお!!」
「よし、雑魚どもの始末は完了……」
「さて、いよいよ残りはあんただけね!」
「あれ……?」
グローニカはどうやら逃げ出したようだが……何故か狐以外、皆してそれが倒されたものだと思ってしまっている。
おかしな風に因果を繕ってしまった気がしたが、まあ問題ないだろうと、グロスとの決戦を継続する。
香奈は剣の女帝を杖替わりにし立ち上がる。かと思うと再び吼えた後、グロスへ向け一気に駆け出す。
グロスが配下全滅により怯んでいる今が好機。この一撃に、全てを掛ける。
「トールッ!!」
振り被った一撃は雷神トールの加護により全てを粉砕する神の雷と化す。雷鳴纏いし一撃はグロスの影を確かに切り裂いた――が、まだ浅い。
「グッ……まだだ!」
正直勝てるヴィジョンが見えない。そりゃそうだよね得意の精神攻撃全部見事に外れてるんだもの意気消沈。冷気のせいで心は冷え切る。神の一撃で体は消えてく。
それでも因縁あるこの小娘だけは道連れにと、確実に香奈を仕留める為に自らを貫く香奈へ影を伸ばす。
「コーン!!」
そうはさせないと狐がアイスブリッドをグロスの目玉にぶつける。流石に痛く香奈への攻撃が一瞬遅れた。その一瞬があったからこそ、香奈は何とか足でグロスの体を蹴飛ばし後方へと退避、何度目かの死を回避できた。
「狐さんありがと! そろそろこれで終わりね!」
「まだ私には加護が一つ残っている。さあ来い、かかって来い人間共……ククク、クハハハハハハ!!」
今、グロスは高揚していた。
百年の長い年月を掛け自らを進化させて来たグロスだが、それでも尚、クエスターたちを前に手が出せないでいる。
しかし、一手足りていればクエスターたちを全滅できるだけの力が自分にはある。その確信がグロスにはあった。まあ、最も、その一手が足りないから負けそうなのだが。
最初は小さな魔獣から始まったグロスの人生、今では疑似的ではあるものの神としての性質を得るまでに至った。所詮は
生贄を差し出され崇められる日々は最初の内は満足できた。しかし、いつしか神としての自分の在り方、そして魔獣として暴れていたあの頃を思い出し、何故自分はこんなことをしているのかと自問自答をする日々がこの頃は続いていた。百年の節目と共にその悩みからも解放され、好きなように暴れられると思ったらこれだ。
甘えていた、としか言いようがない。ここで二人、と一匹か。それに勝てないのならば、外の世界に出ても自分なぞすぐに倒されてしまうだろう。それこそ、そこらの奈落と同じ。何が神だ馬鹿馬鹿しい。
つまりはこれは試練なのだ。この試練を乗り越えてこそ、ようやくグロスは新たな人生、奈落生を歩みだすことが出来る。
ここで勝てずして、何が神か!
アズレートのマジックコンボがグロスへ向け放たれるが、グロスもまた、反撃の態勢に出ている。この一撃さえ何とか出来れば、あとは……。
「ヘイムダル!!」
勝った……! グロスはそう、信じて疑わなかった。しかし、アイスブリッドの魔法はグロスに被弾、美しい氷がはらはらと舞い散り、そこへ立つアズレートはどこかの王子様のように美しく、だからこそ理解できない。何故自分は攻撃を受けているのか。
それはヘイムダルの性質に起因していた。あくまでヘイムダルは何かを為そうとする行いを成功へ導く加護。その行為は主導的でなければならず、受け身であったグロスの行為をヘイムダルは加護の対象と認めなかった。
もしこれがグロスの反撃に使われていれば違った結果になっていたであろう。アズレートの攻撃を受けて尚、グロスは立っていた。その状態での反撃、ヘイムダルによる絶対命中はクエスターを死へ至らしめられたはずなのだ。
「グッ、ゲホッゴホッ……ク……う……」
空へ飛び立つ羽を失った鳥の下半身は、毛がもげ赤い血肉が露出した無様な姿で、見るに堪えない。
「ぐ、ぐぞ……私はまだ……負けていない……」
「では止めと行きましょうか。闇から出でし者よ、闇へと帰りなさい!」
香奈は高く、高く、飛び上がる。
「い、いやだ、来るな……我はまだ消えたくない……!」
「終わりよ。消えなさい!」
「もう一息で、我は、私はあああああ……ッ!!」
真上からの両断。
グロスの体はそのまま消え去り、張られていた結界も消滅する。しかし、この空間自体は別物なのか、未だ維持され続けていた。
「……始末完了、か」
アズレートは杖を時空鞘に仕舞うと、目覚めた琴音と昌子の下へ向かう。
香奈もまた、剣を元の異空間へ戻すと皆の下へ合流した。