ときどき夢をみる。
一国の王である1人の男が幾億もの国を己の力だけで葬っていく、まるで異世界ファンタジーでチート転生した俺つえー系の主人公のように。富も名誉も力も誰よりも持ち合わせている。けれどその男の心はどこか虚だった。
空想の世界の王様にも何か求めるものがあるなら、それはなんなのか……夢を見続けるうちにいつしかそんなことを考えるようになった。
ん〜〜〜…。
朝目が覚めるとそんなことありえないといつも思う。けど、実体験したかのように鮮明に目に焼き付いている。
けど今日のが多分漫画でいうところの最終回。彼は自分の魔法で巫女服を着た女の子を道連れにした。正確には封印みたいな感じだったが……まぁ夢の話なのでぶっちゃけどうでもいい。
んなもの考えるだけ無駄であり、今この瞬間をひたむきに生きる、というのがこの俺、黒野蓮のモットーだ。
ただでさえ高校2年生で青春真っ只中なのだ。そんなこと考えてる暇あるなら俺は今しかない青春を謳歌する。
我々高校生はリアルを充実させなければ意味がないのだ。
俺は玄関にある鞄を取り出し家を出る。
そして学校へ行く途中に友人であるタクとユウに出くわした。
俺を見かけると真っ直ぐにこちらへ向かってきた。
「聞いたぜレン!お前フルランブルで準優勝したんだって!?」
「俺も行ったが決勝戦すごい歓声だったな!
闇使いと光のハンドガン使いとの一騎打ちの激戦!今日のゲーマーズMAXまとめサイトはその話題で持ちきりだぜ!」
俺の友人のタクとユウは目を輝かせながら熱量のある感想を述べてくれた。
フルランブル。
これは3年前から始まった近未来型ARスポーツの競技のことだ。
総合格闘技や剣道に武器の制限をなくしたような競技といえば分かりやすいだろうか。
単に運動神経の良し悪しだけでは実力は測れず、多彩な戦術や無数に等しいプレイスタイルで競技を楽しめる。その自由度の高さと斬新な競技故に稼働初期から人気は凄まじかった。
その人気ぶりは3年経っても伸びていき、今年で国際競技として認められるまでとなっている。最近はアップデートでスキルや魔法なども使用可能になった。その競技で俺は全国大会で2位の成績を収めたってわけだ。
「決勝戦までどのプレイヤーも瞬殺だったからどんな化け物が出てくるかと思っていたが、まさか光属性極振りのプレイヤーだったなんてなぁ…。」
「ああ。かなり特殊な上に熟練のプレイヤーだったな。純度100%の光属性のユニークスキルにも驚いたが、何よりワンハンドガン(一丁拳銃)マンだったことだな。」
「そうだね。ハンドガン一丁だけじゃ全ての戦闘に順応できるプレイヤースキルってだけでも只者じゃない。」
「でもそんな手をあと一歩のところまで追い詰めた蓮も普通じゃないけどな。」
「それはユニークスキルのおかげだな。」
「カース・オブ・ダークネスか。光度0%、純度100%、彩度0%の超激レア時限強化型スキル。 生時のお前でさえ激強なのにその時限強化スキルも使われたらお前に勝てるやついないよな普通笑」
ユニークスキル、それは各プレイヤーに与えられた唯一無二のスキルだ。それぞれに得られるスキルは違うのでそれをいかに活かして戦うかも重要な要素になってくる。特にリセマラできない上に似てるスキルは存在しても全く同じスキルは存在し得ない。何故なら同一のスキルでも光度や純度、彩度などが設定されており、それらにより若干性質が異なるからだ。千差万別、ある意味このリアルな世界の住人を暗示してるといってもいいかもしれない。
話を戻すと、俺のユニークスキルは純度100%の闇属性。彩度・光度が0%なので他の属性たとえば炎や風属性のような武器や魔法が使えない。ユニークスキルが時限強化型で強化時には一度見たものならあらゆる武器・魔法・ユニークスキルを純度100%の闇属性にしてしまうチートスキル。
しかし…、
「バカ。このゲームはそれだけで勝てるほど単純じゃねーよ。あのスキルはなぁ…、」
「そうだよ!!蓮くんは凄く努力したからあんなに強くなったんだよ!」
話に割って入ってきた女の子は坂井華。俺の師匠とも呼べる一つ上の幼馴染みだ。
「おはよ、華。お前のおかげで俺ここまで強くなれたよ。」
「うん!よく頑張ったね!だけど、私からみたらまだまだなところもたくさんあったよ!」
「厳しいなぁ〜…。けどそうだな。まだまだ強くなれるように頑張るよ。」
「丸君…!うん!じゃあ今日は蓮君のためにいっぱいお姉ちゃんがたくさんご褒美と稽古をしてあげちゃうんだから!」
華は満面の笑みで頷いた。
「なんだ朝っぱらからこのリア充め。」「爆ぜろ!」なんて声がするが気にしない。言わせとけばいいのだ。なんたって自慢のスタイル抜群の美人幼馴染みの先輩なのだから。しかも巨乳でゲーマー!ほら羨ましかろう。はっはっは。
しかし華が来る前に話してたタクとユウには途中から蚊帳の外状態だったので悪いことをしてしまった。あとで謝っておこう。
「じゃあまた放課後にね!」
華と昇降口で分かれた後俺は教室に向かった。
教室に着くと自分の席に腰をかけ、昨日のフルランブルの疲れが残っているせいか机に伏した。
(そういえば今日の夢……。あの王様は何を求めていたのだろう…。こういう何気ない日常だろうか、それとも刺激のある冒険の毎日か…。)
そんなことを考えてうとうとしているとHRのチャイムが鳴り、いつものように担任の教師が教壇の前にたった。
いつもの日常が退屈で、変わらない毎日を捨てて冒険に出たい!なんてことを思う人は多いと思う。
「はい、おはようございます!HRの前に今日は新しい転入生を紹介します。雪下さん、入っておいで。」
けど不思議なことに、リアルの冒険はいつもランダムに、そして唐突に訪れる。
「おい。あれまさかこないだの…」
転入生をしょうかいします。
「雪下零奈です。」
この出会いが冒険の始まりだということをこの時の俺には知る由もなかった。