今回は前々回の続きになります!
執務室の扉をそっと音を立てないように開ける。
その隙間から部屋の中を覗き誰もいない事を確認すると、後ろに居る2人へ振り向いた。
「どうですか?」
「大丈夫。誰もいないよ」
後ろに居る2人に向けて頷くと、小さい方から順に部屋へと入っていく。
扉が閉まるのを確認するとROが大きく息を吐いた。
「はぁ……何とかなりましたね」
「ああ、取りあえずはこれで大丈夫だろう」
いや全然大丈夫じゃないんだけど!?
執務室に子連れの家族が居るんだけどどうする?
外面は冷静を装っているが内面はこの未知の境遇にかつて無いほどパニック。
「と、取りあえず座ろうか」
「はい!」
「ええ、そうですね」
いつもカリーナや副官が作業している長机に小さいROを挟んで3人で座った。
いや座り方!
なんで並ぶんだ!
これじゃあますます家族に見えてしまう。
ヘリアンさんには決して見せられない光景だ。
この前の合コンで更に連敗記録を更新したと聞く。
「お、俺向かいの席に座るよ」
そう言って立ち上がろうとした瞬間、ふとズボンが引っ張られる。
「行っちゃうんですか?」
振り向くと寂しそうな表情で見上げてくる少女がそこにいた。
それは反則だろ……。
ぶつからないようにゆっくりと隣に腰を降ろす。
どっかに行かない事がわかったのかさっきの表情はどっかへ飛んで笑顔に変わっていく。
少女の頭を撫でていると、クスッと笑みをこぼしているROが視界に入った。
「なんだか本当に、家族みたいです……指揮官は子どもに弱いんですね」
「弱いって、そんな事無いと思うけど」
「いえいえ、絶対に弱いですよ、きっと指揮官は自分の子どもに甘々なお父さんになってしまいますね」
どうやら結構な評価をされているらしい。
だがそれは俺だけでは無いはず。
「そういうROはどうなんだ?君こそ押しに弱いじゃないか」
すると彼女は腕を組みドヤ顔で答えた。
「いえ、私こそそこら辺は確りしていると自負してますから。あなたの様にはなりませんよ」
「そんな事言っといて押しに負けて結局甘やかすんだよ君は」
SOP Ⅱが良い例ではないか。
こんなよく分からない会話をしていると、不意に頭が腕に当たった。
「どうした?眠い?」
「いいえ、まだ大丈夫です……」
口ではそう言ってはいるものの頭はもう船を漕いでる状態だ。
そこで俺はROにとある提案をする。
「なぁRO、膝枕してくれない?」
すると何を勘違いしたのかボンッと顔を赤くする。
「!?な、何を言って……この子も居るんですよ!」
「いや俺じゃなくてこの子だよ。俺はまだ大丈夫だから」
ROは少しズレた勘違いにより耳まで真っ赤に染めたあと、小さい自身を呼んで膝を枕にして寝かせる。
その姿は子どもをあやすお母さんにしか見えない。
寝ている顔を暖かい目で見守る光景はまさにそれを彷彿とさせた。
暖かい空気が執務室を包む。
だがそれも束の間。
来訪者によって無惨にも壊された。
「──あら、随分と面白い事になってるのね……指揮官?」
ノックもせずに入ってきたのは白髪とその閉じている瞳が印象的なウチの部隊のエース、AK12だった。
───最悪である。
白狼は面白い玩具を見つけたと言わんばかりの様子でこちらを観察していた。
その閉じた瞳の奥で何を考えているんだろう 。
「どうした12?今日は特に用事は無かっただろ」
俺の質問に彼女は腕を組んで答える。
「暇だったから寄っただけよ。そしたら見知った顔に良く似た子供が居たらつい」
「いやついって……」
何時ものように笑み浮かべると、気が済んだのか扉へと戻っていく。
だが、部屋を出る一歩手前で足を止めるとこちらへと振り向いた。
「そろそろ戻ってくる時間じゃない?」
それだけ言うと12は執務室を出ていく。
あれは彼女なりの忠告なのだろうか?
そのままストレートに言わないところが彼女らしいと言えば彼女らしい。
まあ、それが悩ましい種の1つなんだけど。
「いったい何が戻ってくるんでしょうか……」
顎に手を添えて考える仕草をするRO。
だが、特に心当たりが無いのが現状。
何だろうと考えていると、ROが「あっ」と声を漏らした。
「指揮官、AK12が指摘していたのは部隊が巡回任務からそろそろ戻ってくる時間ではないですか?」
巡回任務───つまりはパトロールか。
時間を見ると午後2時過ぎ。
そう言えば昨日の朝から行った部隊が戻ってくるのもこれぐらいの時間か。
……ん?
「いやそれ不味くない!?」
「しかもその部隊にはあのMDRがいますからね。見つかったら一貫の終わりです」
執務室の空気が重く張り詰めたものへと変わる。
だが、時既に遅し。
「しっきかーん!戻ったよ~」
噂をすればなんとやら。
MDR達の部隊がパトロールから帰ってきた。
そして当然彼女の視線はROの膝を枕にしている少女に釘付けになった。
「おっ、これは良いネタになりそう!」
「するなよ?絶対に。あとお疲れ様」
座っていた席から立ち上がりMDR達の元へと向かう。
すると目をキラキラ差せているMDRの脇からVectorが感情の読めない目で書類を手渡してきた。
「はい、これ。報告書」
「うん、ありがとう」
「MDR、気を付けた方が良いかもね」
「そうだな……」
依然として今にも飛び付きそうな姿をしているのを見てつい苦笑いになってしまう。
すると執務室が五月蝿くなりすぎたのか少女が起きてしまった。
「……指揮官?」
ROの膝から頭を上げるとボンヤリとした顔つきで辺りを見渡す。
まわされている視線が俺と合うと、小さいROはたちまち笑顔に代わりこちらへと歩いて来た。
先程までの雑音は何処かへ消え去りゆっくりと歩いてくる足音だけが、静かに耳に入ってくる。
その動きあわせて手を広げると、最後は少し駆け足になって飛び付いてきた。
その時だった。
パシャリと嫌な音が部屋に響く。
視線をその音がした方へ向けると、そこにはケータイを前に出しているMDRの姿が目に映る。
反射的にROに視線を向けると、同じ事を考えていたのか目が合うと頭を下げて頷く。
そのまま小さいROを抱き上げると扉へ向けて走り出した。
※
もうここからは地獄だった。
執務室を出てとにかくひたすらに走る。
廊下ではSOP Ⅱが興味津々に目をキラキラさせて出てきた。
きっと遊んでると思ったんだろう。
「指揮官?どうしたのそんなに走って」
正直答える余裕なんて今は無い。
適当な理由を言って場を後に使用としたその時。
SOPの赤い瞳が抱き抱えてる少女を捉える。
「それが──」
「その子ROに似てるね!まるで2人の子供みたい!」
「「ROと指揮官の……子供?」」
SOP Ⅱを追いかける形で鉢合わせたAR15とM4がこの世が終わった表情をしていたが、足を止める訳にもいか無いので放置してしまった。
そんなこんなでかれこれ20分ぐらい走り続け少しキツくなってきた時、司令部の扉からこちらを呼ぶ声が聞こえた。
「指揮官様!こっちです!」
聞き間違える筈はない。
これは紛れもなく頼もしい後方幕僚の声だ。
「指揮官、どうしますか?」
「カリーナなら問題ない。大丈夫だ」
ROの確認を取り、司令室へと進んでいった。
※
「いやー、助かったよ。ありがとうカリーナ」
小さいROを椅子に座らせて頭を撫でた後、机の前に立っているカリーナの元へと向かう。
「いえ、はい。力になれたのなら良かったです……」
「カリーナ?」
彼女はいつもの笑顔では無く、彼女は浮かない表情で答えた。
そして、少し溜めた後、覚悟を決めた表情で俺達の目を見た。
「指揮官様、実はもう、時間が無いんです」
「時間?」
「はい、そこに居るROさんは実はまだ完全な状態では無く悪魔でも試作段階なんです。そして最低限の動作の確認のみでしたので、最低限のバッテリーしか充電されていませんでした」
それがどういう意味か、指揮官をやって皆と日々を送っている俺にはすぐに理解することが出来た。
※
カリーナの案内に従いとある部屋に着く。
「この部屋で一旦待機して頂き、電源を落としてからデータのやり取りは行われるそうです」
部屋に入ると椅子が2つ並んでいた。
2人がそれぞれ自身の席に座っていく。
「すいません、指揮官。任せてしまって」
「いいよ、大丈夫。あとは任せて」
ROは目を閉じる際、小さい自身を一瞥して。
「……では、小さい私をよろしくお願いします」
力無げに笑うと、彼女は瞳を閉じた。
動かなくなるのを確認して、次は小さいROの元へ向かった。
少女は変わらず近づくとニコニコと笑顔を絶やさずにこちらを見つめる。
それがどうしてもやるせない気持ちを強くさせた。
「指揮官、また遊びましょう!」
「……うん、またたくさん……出来なかった色んな事をしよう……」
「はい、短い間でしたが、凄く楽しかったです」
「そうか……よかった」
「はい……そろそろ時間です。また会いましょう!指揮官!」
少女は最後に満面の笑みを浮かべるとゆっくりと瞳を閉じた。
「あ……」
手に触れてももう何も反応を返してはくれない。
「また、遊ぼうな……」
滲む視界で頭を優しく撫でた後、部屋を後にした。
※
あの出来事が終わった次の日、ふとROが呟く。
「私は人形ですから人間のように子供が出来ることはありません」
切なさを感じる表情で右手を見つめていた。
何か言葉をかけようか迷っていると、すぐに穏やかな顔つきに変わって「ですが」と続ける。
「もし……もし私が子供を身籠る事が出来たなら、きっとあの様な生活を過ごせていたんだと思います」
「そうかもな……きっと違いない」
彼女は俺を見て「ふふっ」と笑うと──。
「さて、今日もよろしくお願いしますね。指揮官」
いつものように日々の始まりを告げた。
「あと、あの子のマインドマップのデータは私と統合されているのでそんなに悲しまれるとちょっと恥ずかしいです……」
「そうなの?でもなんで?」
「ええ、だから、その……あの子の記憶も私の記憶として保存されているんです」
「はぇ…ん?」
今一しっくりこなくて中途半端な返事になってしまう。
「……あの子の視点での指揮官との記憶もあるわけで」
「え?」
「あはは……お世話になりました」
顔を真っ赤にしながらROが頭を下げる。
あー、そういう……。
「ど、どうも致しまして」
ここまで来て、言った事が理解出来てしまい妙に気まずくなる。
さよならして帰ってきちゃった感じに近いだろう。
さっきまでいい雰囲気だったのが何とも言えない空気に変わっていく。
何故いつもいい感じに閉まらないのか。
執務室の扉を誰かが開けてくれるのを願いながら1日が始まった。
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指揮官の自室の机には3人の笑っている写真が飾られている。
それは本当に親子の集合写真の様な見ていて見た人の心を暖かくさせる写真だった。