鰯なので。
「し、指揮官……あたいが言うのもなんだけどさ、お化けっているのかな?」
レイニーが身震いをしながら聞いてくる。
幽霊よりも幽霊してた奴が何を言うのか。
「どうだろう、まあそれを確かめる為の調査だからな」
グリーンエリアの某所。
郊外にある、一件の廃墟に私達はやってきていた。
建物は比較的大きな屋敷で中々年季が経っている。玄関へと伸びる道とその両脇にある草花の手入れの行き届きのなさから何年も人が出入りしてないだろう。
依頼主の話によると、誰も住んでいないこの屋敷に不振な人影が窓から見えるとの事らしい。
人員が割と今かつかつだったこと。
それと今回は戦闘がメイン出はなく、どちらかと言えば電子戦に特化したメンバーの方が良いだろうと言うことで……。
「ん?どうしたの指揮官、あたいの顔に何かついてる?」
厳正な選定を行った結果、最近エルモ号に帰ってきたレイニーと一緒にこうして行動を共にしている。
「いいや、何でもないよ」
「?ならいいんだけど……さっ調査を早速始めようよ!」
ただまあ、レイニーは久しぶりのデートだとはしゃいで浮わついており、今も玄関付近をハイテンションで、脇に咲いている花に顔を近付けている。
「レイニー、あくまでも今回は依頼だからあまり気を抜くなよ?」
「大丈夫だよ指揮官!これでもちゃんと辺りには気を配ってる。ペルシカの所から帰ってきて早々にカッコ悪いところ指揮官に見せられないからね!」
グーを突き出してきたレイニーに私も拳をあわせてコツンとぶつける。
とてもこれから調査に向かうとはお世辞にも言えない。
浮わついてるなぁと思いつつも私もレイニーの後を追い古びた屋敷の中へと足を踏み入れた。
※
「本当に年季がはいってるねーここ。ほら見てよ指揮官!木材が朽ちかけてるよ」
「あんまり物に振れないようにな。何かあった時に大変だから」
入って辺りを探索していると、レイニーが建物の柱を指差をさす。
見れば本当にボロボロで、今にも崩れそうだった。ここの屋敷は外観から抱く印象よりも、相当年数が経過しているのかもしれない。
「レイニー、建物が思ったよりも老朽化してる。念のため私の側から離れないでくれ」
念には念を。おおよそ大丈夫だと思うが満身はダメだ。
そんな過去数十年で培ったノウハウの元伝えたが、何故かレイニーにはどうやら確りと伝わらなかったのか様子がおかしい。
「え!?そ、そんな、し、しし指揮官!?」
私の声かけにやけに動揺するレイニー。
何かおかしなことを言っただろうか?
レイニーの反応を内心疑問を抱きつつ怪訝な目を向けると、彼女は私の肩を叩いてきた。
「……いいの?」
どうしてそんなに真剣な眼差しなのだろう。
いや考えている事はおおよそわかるが……。
変に断って離れているよりもできるだけ近くに居てくれる事に越したことは無いか。
「何が良いのか分からないが……まあいいんじゃないか?」
「やった!」
黄色い返事に身体のぐらつく程の衝撃。
早速レイニーが勢い良く腕に抱きついてきた。
いや確かに近くに来てくれとはいったが……。
「そこまで近付く必要はないんじゃないか?」
「そもそも、この依頼を指揮官が受けたからデートが無くなったんだけど?」
ムスっと頬を膨らませたレイニーがこちらへ視線を向ける。
……事実だけに何も言えない。
彼女の言うとおり本来今日はレイニーと一緒に過ごす予定の日だった。
それを私はすっかり忘れてしまい、この依頼を今日に入れてしまった。
私は彼女から向けられる講義の視線から目を逸らす。
すると抱きつかれている腕の締め付けがすこしだけ強くなった。
「大丈夫!ちゃんと周辺は警戒してるし何かが来てもあたいがハッキングして返り討ちにしちゃうからさ!」
「だからこのままで居ようよ!」とレイニーは弾んだ声で言うと、今度は加えて頭を腕に擦りつけてくる。
……まあ久しく会ってなかったし今回は多めに見るか。
こっちにも落ち度がある。
入って早々にいろいろ思う事はありつつも、二人で行う調査の幕が上がった。
屋敷の中は2階建てで何世紀以上前の時間が止まった様なアンティーク調な家具類が多かった。
とてもじゃないが今のこのご時世にこんな内装の屋敷が建っているのが少し気味悪く感じる。
それもやけに家具類だけ汚れがついていないのもおかしい。
「指揮官、これはなに?」
1階の玄関から程近い部屋に入るとレイニーが何かを指差す。
先に目を向ければ、埃被った大きめな箱が部屋のソファ近くにおいてあった。
どうやら彼女はこれが気になるらしい。
最初こそ小物入れかなんかかと思ったが、側面にあるつまみを見てそれが誤りだとすぐに分かった。
「これはレコードプレーヤーだな。スオミが良く集めてるレコードを使うと音楽が流れるやつだ」
「レコードプレーヤー?あの黒いディスクの?」
「そうだな。あれをセットして針をディスクに落とすと音楽が再生される」
「でも、これにはあの黒い円盤はついて無いよ?」
「おそらくディスクは他の場所に仕舞ってあるんだろ。湿度と気温に弱いから保管もちゃんとしなくちゃいけないだ」
「そうなんだ。もしあったら聞いて見たかったけど、見た感じディスクっぽいもの見当たらないね」
「まあ今回は物色に来てる訳じゃないからな。今は本題に戻ろう」
「わかったよー、じゃあまた何か気になる物があったら指揮官に言うね?」
「ああ、頼む」
レイニーは返事を聞くとあくまでも私の側からは離れずに周囲を物色していく。
時折腕が引っ張られてバランスを崩しそうになって正直歩きづらい。
やりづらくないか?っと声をかけようとしたが、察したレイニーからムッと再度睨まれたので喉元で呑み込んだ。
そこから再度調査を始めたのだが……。
「指揮官!このマグカッブ凄い装飾だね!」
「指揮官!この電話見たこと無い形してる!」
「指揮官!あの絵画すごく大きいよ!」
3分か、はたまた1分か。
結構な頻度でレイニーがこちらに話題を振ってくる。
今に始まった事じゃない。
元々約束を破ったのはこっちだし、今のところ対した危険も無さそうだから今のうちに機嫌を治して貰おう。
私はレイニーの声に対して適当に相槌を打ちつつ調査を進めていく。
それから一時間弱経った時、ふと先ほどまでやや興奮気味だったレイニーの調子が一転。
何故か足を止めて一歩も動かなくなってしまう。
既に1階の調査を終えて2階も殆んど巡回した。
残っているのは玄関から伸びる階段に一番近い部屋のみ。
その部屋をいざ確認しようと入ろうとした所で、レイニーが足を止めてしまった、
「どうした?何かあったのか?」
今から確認しようとした部屋は他の部屋に比べて大きく、そとから入ってくる日差しも間取り的にそこまで入ってこない為、ドアを開けると真っ暗と言うわけではないが、若干目を凝らさないと奥が見えない。
心なしか肌を撫でる風が心なしか気持ちひんやりと冷たく感じる。
「し、指揮官……いい今そこの部屋の中を何か通り過ぎなかった?」
ブルブルと震えながらレイニーは部屋の奥を指さす。
「いや、暗くて何もわからなかったな」
「あれ?気のせいだったかな……?」
「いや、それもどうか分からない。だが万が一に備えて警戒して行った方がよさそうだ」
薄汚れた部屋を突入する前に、各々の携帯した銃のチェックを行いセーフティを外す。
「「……」」
隣に並ぶレイニーに視線を向けて「行こう」とアイコンタクトを送ると、お互いに頷いて銃を構えた。
部屋の入り口から慎重に確認を行い中を見る。
一見普通の物置部屋らいく、特に誰かが居た痕跡は見当たらない。
「あれ?あたいの見間違えだった?」
「いや、もしかしたら何処かに隠れている可能性もある。気を抜かない方がいい」
「それにしては人が居た痕跡が無い。埃についた足跡もあたい達の足跡だけみたい」
足元を持ってきたライトで照らすと、確かに足跡は二人分しか無い。
それ以外に何かが通った痕跡は無かった。
「……不振な点が多いな」
部屋に入り、お互い離れないよう意識をしながらも部屋の中を探索する。
この状況では流石のレイニーもしっかりと警戒を強めているからかちゃんと両手で銃を構えている。
もう使われなくなったであろうソファに、小物類がしまってあるであろう箱が部屋の左右あちこちにどっさりと積まれていた。
ここ以外の部屋は客間だったりとしていたが、どうらやここの部屋は見た限り物置部屋として利用していたんだろう。
「見間違いじゃないと思うんだどなぁ。確かに人影見たいのが通りすぎたんだけど」
レイニーはうーんと唸りながら首をかしげる。
まあ人形だからというのもあるが流石に見間違いは無いだろうと思う。
だがしかし、そうすると不振な点が幾つか上がる。
何故足音がしなかったのか。
いくら私達が会話をしていたとしても足音がかき消されるほど五月蝿くしている訳ではない。
むしろこの屋敷自体落ち着いているのもあって良く響くくらいだ。
なのにまるで音が聞こえなかった。
気を引き締めて行かなければ。
足跡の無い床を見ながら私達は警戒心をより一層高めて調査を再開した。
だがしかし、これを皮切りに事態は急変する。
「あれ?今物音が?」
「!?指揮官、今度は足音が聞こえた!」
「物の配置が変わってるよ!?」
まるで先ほどまで成りを潜めていたかの様に異変が多発し始めた。
足音やら人影が視界の隅を幾度も通りすぎていく。
「あれは……本当に幽霊なのか?」
「ちょ、いきなり非科学的な事言わないでよ指揮官!?怖いんだから!」
今も尚屋敷のどこかで聞こえる足音に、最早戦意は損失していた。
流石に幽霊に銃弾は通用しないだろう。
「……?」
部屋を後にしようと廊下に出た時、ふと床を見て足を止めた。
そこには小さな足跡がポツポツと連なっており、その間隔にランダムで足跡とは別の形の痕跡が床に残っていた。
確実にさっき通った時は無かったものだ。
お互いの靴の形に合わないことから、これは私やレイニーが残した痕跡ではないことがはっきりとわかる。
つまりこの痕跡は私達では無い第三者の物だ。
さらに足跡の付近には何かの液体がポタポタと垂れている。
「これは……オイル?」
床に垂れていた液体を調べているとゴトリといままでの中でも一際大きな音が1階の方から聞こえた。
「指揮官!」
「ああ、行こう!」
急いで階段を下り、1階の玄関から一番近い部屋──レコードプレーヤーがあった部屋の方へと向かう。
「……指揮官、これって」
「ああ……」
レコードがあった部屋の中央。
先ほどまでは何もなかった空間に白い人形が一人、うつ伏せに倒れていた。
レイニーが先に近付いて調べると目を伏せて首を左右に数回振る。
「ダメみたい……」
既に事切れているか。
人形ではあるがレイニーやグローザ達の物よりもモデルはもっと古く、関節部分は相当磨耗しているのか塗装が剥がれ落ちている。
きっもロクな整備もされていなかったに違いない。
顔もセンサーが丸出しで目や口は人間に寄せた物じゃなかった。
頭部の額になるセンサー部分は今も尚点滅を繰り返している。
どこかに信号でもおくっているのだろうか。
「レイニー。この人形から何かしらの信号を傍受出来たりするか?」
「出来なくはないけど……物凄く微少だよ。今にも消えちゃいそう」
レイニーは目をつぶり消え入りそうな信号を手繰り寄せる。
「……そっか。そうだったんだ」
暫くしてレイニーは誰に言うわけでもなくボソリと呟くと再び目を開いた。
倒れた人形とその後に部屋全体を一瞥すると、落ち着いた様子でゆっくりと深呼吸をした。
「指揮官、あのレコードプレーヤーはレコードプレーヤーじゃなくて──似せてデザインされたプロジェクターモジュールの母機だったんだ」
「プロジェクター?それにしてはあまりにも違和感が無さすぎないか?」
「映像を出力してたのは子機で、この母機はその映像のデータを送信してたみたい。出力してたのは部屋全体じゃなくて所々にあったあのアンティーク家具だよ」
レイニーがそう言ったと同時にまるで照らし合わせるかの様に部屋中の家具が次々と姿を消していく。
「母機もデータの中継点で、その本体はこの人形だったんだ。この人形があの家具とかを母機を通して投写してたみたい。配置が変わってたのは時間が経過したことによるメモリの悪化だと思う」
そうか、だから最初に入った時と後に入った時で家具の位置が変わっていたんだ。
レイニーが見かけた人影は当時ここに住んでいた主人を投写機が投影した姿だったのだろう。
「だから足音と足跡が無かったのか」
「うん、そうだと思う。実際あたい達が回った部屋全部に子機と母機があったよ。今はもう信号待ちで待機モードに入っちゃったけど」
レイニー家具の消えた寂れた部屋の中を進んでいくと球体の機器を一つの拾ってこちらに見せてきた。
「きっと主人が帰ってきてくれるのをずっと待ってたんだよ。
でもあまりにも待ち過ぎて、気がついたら主人が居るって潜在的に思い込んで自分で主人を出力し始めちゃったんじゃないかな」
「所謂幻覚?みたいなやつか」
「うん、指揮官が言うように人間で例えるのなら幻覚が一番近いのかも知れない」
レイニーの言葉を聞き、改めて部屋を一瞥する。
「これは……」
さっきまで無かった。いや厳密に言えば隠れていた。
レコードプレーヤーがあった場所に、1枚の写真立てが飾られていた。
埃や汚れが付着していて中の写真が良く見えない。
手で写真の部分を擦る。
すると一人の老爺の姿と隣に寄り添う様に立っている人形の姿が色が褪せていた写真に写っていた。
老爺は朗らかな笑みを浮かべていて、心なしか人形の方も幸せそうに見える。
写真の状態だけでどれほどの時間が経過しているのかを考えずには居られなかった。
それほど長い時間、この人形は主人をここで待っていたんだろう。
自分が狂ってしまうほど長く。
自分も同じような事をしているだけに他人事じゃないようにも感じる分、いつまでも帰ってこない主人を待っていたと言う事実に胸が痛む。
部屋は最早全く別の部屋に様変わりしていた。
ボロボロの机に、朽ちて壊れた椅子。
散らばった写真に穴だらけの絨毯。
とてもじゃないが最初に入ってきた部屋と同じところだとは思えなかった。
「指揮官、この人形はどうするの?」
「どうすると言われても。今回の原因はこの人形だからな。依頼主にはちゃんと報告をしないといけない」
「きっと寂しかったと思うんだ。この人形。遂に会うことは出来なかったけどそれでも帰ってくるのをずっと待ちわびてたと思うの……だからさ、ちゃんと終わらせてあげよう」
意外だった。
てっきりここに残しておこうとか言うのかと思っていた。
レイニーはだらりと垂れる人形を持ち上げて力無い笑みを浮かべる。
「もうこんなに頑張ったんだから。ゴールテープはあたいたちが作ってあげようよ」
それから私とレイニーの二人で改めて屋敷をぐるりと巡り、最終確認をした後に依頼主と合流して話をした。
依頼主は何か知っている素振りで相槌を打ちながら人形を一瞥した後、後日引き取ると言う話で今回はの話は落ち着いた。
「あたいはUMP40の姿をした別人で、それでいてUMP40の姿をして記憶を保持してる。でも姿形は別人で……きっと、オリジナルのあたいはあの時死んでるんだと思う。だからあたいはあたいとして指揮官と接することができる」
帰る間際、レイニー見て物憂げな表情で屋敷に視線を送る。
「これはリヴァやレナ、404小隊も一緒。あたいはどこまでも似ている他人なんだと思う」
誰かに見つけて欲しかったんだ、きっと。
遠い目をしながら言うレイニーに私は何も言わずに空を見上げる。
空には雲一つ無い快晴が広がっていた。
「指揮官、絶対に行こう。海に」
「……そうだな。きっと行こう」
人はいずれ死ぬ。人形もいつか朽ちる。
来るべき別れまでに私達は一体どれほど自分の隙間を埋められるのだろう。
エルモ号に帰る道のり、レイニーと他愛の無い話をしながらふとそんな事を考えていた。
気がついたらドルフロ1終わってた!
スマホがダメになって長らくやっておらず気がついたらドルフロ2がサービス始まっててびっくり。
2はぼちぼちとやってて殆んどログイン勢だったんですけど久し振りに好感度のストーリー見たら懐かしくなりました……