ピーピーという電子音で目が覚めた。
少し狭いベッドから体を起こしてベッドの横をを見ると時刻は6:00、何時も起きる時間だ。
また新しい朝が来る。
日々鉄血やらと戦闘を繰り返している今のご時世では幸せな事なのだろう。
俺は現地での指揮しか殆んどしていないが。
そう言えば今日の副官は誰だっけ?
「まあいいや、どうせすぐに分かる」
今日は後方支援も無いので朝は比較的ゆっくりと出来る。
昨日こそ忙しかったものの、今日はそんなに立て込んだ予定が無いからだ。
だとしても就業規定の8:00までに執務室に居なくてはいけないが。
なら、まだ二度寝出来るだろうか?あと二時間あるのだから少しぐらい寝てもいいだろう。
ベッドに体を横になる……がおかしい事に気が付いた。
"少し狭い"なんて事はあり得ない。
何気に俺は少し横に広いサイズのベッドを普段仕様している。
狭い筈がないのだ。
良く辺りを見れば端が近い。
寝返りをすれば落ちてしまう。
恐る恐るその反対側を見れば大きな膨らみがある。
……ちょうど人一人分位の大きさの。
何で気づかなかった?
ROでは無いと思うし…。
心当たりが全く無い。
少し毛布を捲るとそこには綺麗な金髪がちらりと覗く。
ゆっくりと毛布を退かすとこちらに振り返ってきた。
そして瞼が開き翡翠の瞳と目が合う。
「んっ……指揮官、おはようございます」
「おはよう?」
……え??
な、何故。
何故ガーランドがここにいる?
取り敢えず起きようと上半身をまた起こす。
すると服の裾を軽く引っ張られた。
「もう少しだけ……ゆっくりしませんか?まだ時間は早いですし」
いつもとは違い甘えたような声で喋るガーランド。
いやただ、寝ぼけているだけなのかもしれない。
「そ、そうだな。まだ時間もあるし」
にしても何があった?
この子こんなだったっけ。
規律に厳しいイメージがある彼女がこんなことを言うとは思わなかった。まあ甘いところもあるけど行動事態を疎かにする性格じゃない。
だから今の行動には違和感を覚える。
そう言えば前の指輪騒動の時から少し様子が変だった気がするけど。
前の騒動について考えているとそっちに気を取られて体制について考えていなかったらしく向かい合わせでベッドに寝てしまった。
つまりガーランドが目の前にいる。
「どうしたんですか?何か悩んでることがあったら私に話してください」
「い、いや大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
いやいや内心全然大丈夫じゃない。
パニックである。
誓約したAK-12とAN-94は勿論の事、あんな事したROなんかに見つかったら血祭りにあげられそう。
「おはようございます、指揮官……あれ?いつもはもう居るのに」
噂をしたらなんとやら。
どうしようこの声は間違えなくROだ。
そうだよいつも朝が遅い時は一緒にご飯食べてたんだった。
まずいまずい、頼むからこっちに来ないでくれ!
…しかし願いとは裏腹に足跡がコツコツと近づいてくる。
そして自室の扉が開いた。
ROが部屋の中に入ってくる。
「おはようございます、しきか…ん……。これはどういうことですか?指揮官、説明してください」
ニコニコとした笑顔だけどそれが今となっては怖い。特に目が笑ってないところが怖い。
左目引き攣ってますよ?
左手薬指に付いている指輪がギラギラしている。
終わった……。
てか俺は昨日の夜一体何をしただっけ。
思い出せ、確か昨日は……。
※
「あーやっと終わったー!」
固まった肩を解すように腕を上げる。
「お疲れ様です、指揮官」
今週の副官であるROが確認済みの書類の束を持ち上げている。
「ごめんな、こんな時間まで付き合わせて」
時刻を見ると時計の針は11を指している。
「いえ、これが私の務めですから」
「そう言ってくれると助かるよ。これだけやってれば今週はあともう楽かな、明日は朝ゆっくりしよ」
「ゆっくりするのはいいですけど、ちゃんと時間通りに来てくださいね?」
「わかってるわかってる、大丈夫だって」
「本当に?前みたいに起きたら昼前とか無しにしてくださいね?」
ROが疑いの眼差しを向けてくる。
「ぜ、善処します」
「はぁ……ともあれ、お疲れ様です。時間も時間ですし私は部屋に戻りますね」
「了解、また明日」
「はい、明日もよろしくお願いします」
誓約しても、あんまりする前と関係は変わらない。
AN-94とAK-12の2人についてはAN-94と前と比べて少し打ち解けて来た気がするくらいだろうか。
AK-12はそのまま特に変わらない。
いや。ちょっとからかわれるようになった。
取り敢えず明日の準備だけして今日は風呂はいって寝ようかな。
ふとドアが少し開いているのに気が付いた。
「なんだ?ROの奴閉め忘れたのか?」
ドアを閉めようと近づいたが隙間から金髪がチラッと見えた。
「ん?誰か居るのか?」
「し、指揮官……」
開けて出てきたのはガーランドだった。
だが様子がおかしい。
最近は前よりも元気が無かったけど今はそれよりも酷い。
ガーランドは俯いて両腕を抱えていた。
「指揮官、私……」
震えるような声だ。
なるべくやさしい声で語りかけよう。
「どうした?何かあったのか?」
「なんだか寒いんです。とても、助けてください……指揮官」
風邪?でも人形って風邪引くのか?
それともメンタルのエラーなのだろうか?
確かにまだ寒い時期ではあるが見るからに度が過ぎている。
「コーヒーでも飲むか?取り敢えず部屋に入ろう」
「はい……」
部屋に入る時にふと目が見えたがその瞳が酷く濁っているように見えたのは気のせいなのだろう。
「大丈夫か?」
コーヒーを来客用の机に置いてガーランドの隣に座る。
するといきなり抱きついてきた。
突然の事にさっきから驚きっぱなしだ。
普段ならこんなことしないのに。
「……指揮官は暖かいですね」
「この前の誓約、本当は私断っていた訳じゃなかったんですよ?」 「いや、でも……そうだったのか」
実はROにも言っていないが大分前にM1ガーランドに誓約を申し込んだ事がある。
その時は断られていたと思っていたが。
だからあの次の日に無かったことにしてくれと彼女に頼んだ。
「ごめんなさい、あの時蔑ろにしてしまって……」
ちょっと締める力が強くない?
「私……指揮官の事が好きです。私と誓約しては頂けませんか?」
「すまない。俺はもう、ROと誓約をしている。AK-12とAN-94とも」
「何故、私は駄目なんですか?」
「それは……」
「あの時の仕返しですか?だとしたら意地悪ですよ?」
「違うよ、そんなポンポンするものじゃないだろ?誓約は。少なくても俺はそう思ってる」
違う、そんな事を言いたいんじゃないんだ。
もっと…なんでこういう時に限ってこんなことを言うんだ俺は。
「なら、私は……」
「違うな。──ごめん、さっきも言った通り俺はROが好きなんだ。あとの二人は複雑な理由がある」
「……」
「こんなことしてる俺が言うのはなんだが、ちゃんとお互いに確認してからだと思う。一方的な好意じゃ駄目なんだ」
「指揮官は私の事はもう好きでは無いと言うことですか?」
わからない。
俺は本当はどう思ってるのだろうか。
「…君とは良いパートナーでいたいと思ってる」
そう言っている自分のどこかでモヤがかかった感じがした。
本当にそうなのかと、その言葉で良いのかと。
自問自答を繰り返している。
「……」
このまま話していても気まずい。
……勘違いだったのだろうか、あの時はそう割りきった。
そうじゃなきゃ前に進めなかったから。
最初に出会った、一番長く過ごした人形に振られる事が怖かった。
あの関係が崩れるのが。
そのおかげと言っては悪いが俺にとってはROと今の関係が出来ているので否定してはいけない。
否定してしまうと今までの俺達を否定することになる。
だから何も言えない。
「俺は先に部屋に戻るよ。ここでもう少しゆっくりしていてもいいし、落ち着いたら部屋に戻るといい」
俺は彼女にどうなって欲しいのだろうか。
俺を嫌いになって欲しい?
─違う。
いいパートナー?
─そもそもいいパートナーとはなんだ?
昔は確かにこの関係が崩れるのが嫌だった。
でもそれは逃げていたんじゃないか?
「……」
さっきからガーランドずっと俯いたままだ。
俺が見たいのはなんだ?
少なくても今の様な悲しい表情ではない。
自室のドア開け、暗い部屋に入る。
ベッドに入いると疲れのせいか直ぐに寝てしまいそうになる。
その時、うっすらと誰かが部屋を開けた音が聞こえた気がした。
「指揮官……」
ガーランドが部屋に戻らずに俺の部屋に入ってきた。
すると寝ているベッドに上がってきて体を跨いで顔の横に手を置いた四つん這いの体制になる。
「指揮官……何でもします、夜のお世話でも何でもしますから私を側に置いて頂けないでしょうか?お願いです……誓約もしなくても大丈夫ですから……」
頬に涙が当たる、辛そうな表情をしていた。
ここまで不安にさせて本当に、俺は何をしてるんだろうか。
「…一度落ち着こう」
自分に言い聞かせるように言う。
自分が思っている事の本質を知るために。
「…指揮官」
隣に行くように促すとガーランドは隣に座った。
「…はい、取り乱してすいません…わかっています。わかってはいるんです」
最初に会った時からの事を思い出した。
最初は本当に手付かずでそれを横でずっと支えてくれた。
思い出しているとどんどん胸が暖かくなっていくのを感じる。
確かに彼女は俺を支えてくれたのだ。
今はROだが、一番長く、しんどい時や嬉しかった時、一緒に居てくれたのは彼女もそうだった。
──なんだ、ダメなのは俺の方じゃないか。
彼女にはずっと笑顔でいて欲しい。
もうわかりきっていたんだ。
だけど自分で無意識に蓋をしていた。
俺が見たかったのは──
さっきまでの頭のモヤが今ではスッキリしている。
「ガーランド…俺は指揮官、いや男失格だな」
ガーランドを優しく抱く。
「…指揮官?」
「君は一番最初の人形だった…一番長い間一緒に居てくれた。ずっと隣で支えてくれていた。それなのに俺は君に一方的に考えを押し付けていたんだ、これじゃあ本当にクズじゃないか」
「指揮官、自分を卑下するのはいけません」
「…なあガーランド」
「どうしました?」
「俺はROが好きだ。多分この基地で一番」
多分、この事実だけは変わらない。
「…はい」
でも…。
「君がそれでも誓約を結んでくれるのなら。それでも良いというのなら、俺は君と誓約をしたい」
「それは…」
「やっぱり俺はM1ガーランド、君が好きみたいだ」
「え?」
「自分の気持ちに気付かない振りをして蓋をしてたんだと思う。でもやっぱりこの気持ちは前から…あの時から変わらないって」
立ち上がって机の引き出しに入っている小さな箱を取り出して指輪を見せる。
リングの上には小さなダイヤモンドの様な宝石が輝いていた。
「それは…」
「俺と誓約してくれM1ガーランド」
「……指揮官は欲張りですね、ふふふ」
彼女は涙ながらにそう言うと左手をこちらに差し出してくる。
俺はそこに箱から指輪を取って薬指にゆっくりと通した。
「これからもよろしく頼む、ガーランド」
「はい、これからもずっと、指揮官の下で戦います!」
そう言った彼女の表情はさっきとは変わって今までの中でもトップクラスの笑顔だった。
やっぱりガーランドには笑顔が似合う。
そこには俺が見たかたった表情が写っていた。
※
「で、それから寝たと、2人仲良く?」
「その、もう結構眠くてさ」
「眠いから?眠いからそのまま2人で寝たんですか?」
2人を強調するようにROが捲し立てる。
「時間も時間だったしさ、ほら、夜道は危険っていうでしょ?」
結構苦しいがこう言うしか…。
「なら私はどうなるんです?」
「ROはほら…ちゃんとしてるから」
「ちゃんとしてなくても駄目ですよ!」
「仰る通りです…」
「指揮官、昨日は迷惑を掛けてすいません。私はもう大丈夫です」
「ガーランド…」
するといきなり近付いてきた。
朝で寝惚けていたということと、突然の事で反応が遅れてしまった。
唇に柔らかい感触がして初めてキスをされている事に気が付いた。
「え?」
「はい?」
「私はもう、寒くありませんから」
彼女がいつも通りの笑顔を浮かべる。
いやそれ以上の。
「そうか…良かったよ。本当に」
「これからもよろしくお願いします、指揮官」
「こちらこそ…これからもよろしく」
「いや何いい感じにはぐらかそうとしてるんですか!まだ終わってませんよ!?」
除け者にされていたROが怒鳴る。
時刻を見ると7時半。
これからまた新しい今日が始まる。
怒鳴るROとそれを宥めているガーランドを見ながらそんな事を考えていた。
当然の報いと言うか、その日ROは業務などの必要なこと以外話を聞いてくれなかった。
…まあ夜には元に戻っていたけど。