サボり癖のある指揮官の話   作:鰯くん

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噂のアイツ

仕事も一段落した落ち着いた夜。

 

 司令部のバーにて。

 

 手に持ったグラスをテーブルに置くと、隣に居る副官の方に顔を向けた。

 「ねぇ、一つ聞きたい事があるんだけど……」

 「なんですか?」

 黄色いジャケットが特徴の戦術人形、RO635に気になっていた事を持ちかける。

 「───ジャック・ダニエルって誰?」

 「……はい?」

 質問の内容がおかしかったのだろうか?

 話を聞いた彼女はポカンと間の抜けた表情をしている。

 「いやほら、M16がいつも言ってるだろ?ジャック・ダニエルって」

 「それはそうですが…」

 「話によるとM16はそのジャック・ダニエルさんの事が大好きらしくてな。1度で良いから合ってみたんだよ」

 「会えるといいですね、あはは……」

 熱心に語る俺を見て苦笑いをこぼすRO。

 なんでそんな乾いた笑いをするのか。

「会うのはやっぱり難しいよな、なんせM16が惚れた男だし、多忙で当たり前だろう」

 やっぱり会ってみたい。

 ジャック・ダニエルさんに。

 だが尊敬や憧れと言った印象を持っている俺とは対照的にROは引きつった表情をしている。

 ROはジャック・ダニエルの事が好きでは無いのだろうか?

 「ジャック・ダニエルかぁ…どんなんだろうな」

 俺の中ではもうそれは鰻登りに期待度が高まっていた。

そんな様子を見ていた彼女は呆れた顔で大きなため息をする。

 「指揮官、恐らくそのジャック・ダニ───」

 「そう、ジャック・ダニエルは人間よ。しかもあなたと同じでグリフィンの指揮官をやっている。しかも能力はお墨付き」

 何かを話そうとしていた時、言葉を遮るようにして、何処から来たのか12が、俺が注文したお酒のグラスをすこし覗くように見たあと、ROとは反対側の隣に座った。

 「そ、そうなの!?」

 衝撃の事実である。まさかそんなカリスマ性の高い指揮官が居るとは。

 「AR小隊は勿論、他の人形は皆ジャック・ダニエルの虜よ」

 マジか、本当に尊敬できる人なんだろうな。

 しかもAR15とM4が好きになるって相当だぞ?

 でも良かったぁ、指輪渡してなくて。

 あの2人に振られるのはちょっとキツイ。

 変なことになる前に気づいてよなった。

 あれ?AR小隊は勿論って…ROも?

 酔いが回って来たのか考え方がおかしな方向へと向かっていくのを自覚しているが止まらない。

 はぁ…こんなんならあんなカッコつけなきゃ良かったなぁ。(※誓約騒動参照)

 気がついたら今俺の指揮下に居てくれてる人形もそっちへ行ってしまうかも…。

 俺が現実逃避していると、ROが12に反発する。

 「何言ってるのですかAK-12!」

 だが、それに対する12は余裕な物腰で答えた。

 「どうしたの?」

 「指揮官に変なこと吹き込まないで下さい!今の酔いが回っている指揮官にそんなことを言ったら…」

 「なぁ、ROもそのジャック・ダニエルが好きなのか?」

 返答次第では明日動けなくなりそうだ。

 ……やけ酒で。

 「いや特別嫌いなわけではないですが」

 「マジか……」

 ※指揮官は酔っており、普段とは別の思考回路をしています。

 

 これはあれか、ダニエルに対するツンデレとかそう言うやつか。

 『~なんだからねっ!』

 見たいなやつ。

 好きだけど素直になれなくてツンツンしちゃうの。

 でも、WA2000よりもデレの割合が大きいかなぁ。

 ……いやいやそんなことはどうでもいい。

 「12もダニエル派?」

 「ダニエル派って何ですか…」

 収集がつかないと言わんばかりにROが頭を抱える。

 「いえ、私は指揮官の味方よ」

 「12!!」

 12は清々しいドヤ顔で答えた。

 普段は煽ったりバカにしかしてこない12が今は女神に見える。

 俺は嬉しさのあまり笑顔になると、12へ抱き付いた。

 AN-94、君の相棒は完璧だ。

 今ならわかるよ。

 「指揮官!?ちょっと!」

 無理矢理にでも剥がそうと引っ張ってくるROにそうはさせまいと抱き締める力を強める。

 「指揮官……大丈夫よ、私がついているわ」

 「何が大丈夫ですか!大丈夫じゃないですよ、指揮官ほとんど再起不能じゃないですかこれ!」

 「駄目よ、指揮官の傷付いた心を安らげないと」

 「いいえ結構です、私がやるので指揮官を返してくれませんか?」

 「あなたはジャック・ダニエルさんと仲良くしないと」

 「誰ですかジャック・ダニエル」

 「グリフィンの超ベテラン指揮官で、あなたちの好きな人」

「そんな人この基地にはいませんし!……指揮官もそろそろ帰って来て!」

 相変わらずROは力を弱めずに引っ張り続ける。

 帰るって何処に?

 考えても思い付かない。

 俺の居場所はここだろうに。

「AK-12、早くこの状況をどうにかしなさい!あなたが蒔いた種なんですから!」

 「……ROは指輪外すの?」

 「外しませんから。ほらもう、お酒の飲み過ぎですよ指揮官。AK-12も悪ノリしないで」

 結局引っ張られて元の椅子に戻された。

 それと同時に、バーにAR15とM4がやって来た。

 あまり酒を飲む印象が無かったからこういった場所で見るのは意外な光景で新鮮だった。

 2人はこちらを見ると驚いた表情をしていたが、そんな事はお構い無しに聞き込みを敢行する。

 「2人共…ジャック・ダニエルって知ってる?」

  「ジャック・ダニエル、ですか?」

 M4が口にして、お互いに顔を見合わせたあと、AR15が答えてくれた。

 「はい、少し前にM16と一緒に……」

 「私もその時に、少しだけ……」

 まさかの4P!?

 いやいや、え?

 二人とも俺の知らないところでそんな事をしてたのか!?

 想像以上のダメージに力が抜けて机に項垂れる。

 M16はともかくとして、M4とAR15がそんな爛れていたとは…。

 一対一ではまだしも皆揃ってって。

 正直ここから今すぐにでも抜け出して部屋に戻りたい。

 でも聞かなきゃいけない事がある。

 そう、RO、M16、M4、AR15はもうジャック・ダニエルにやられてしまった。

 でもあと一人残っている!

 「SOPは…SOP Ⅱはジャック・ダニエルをどう思ってる?」

 「SOP Ⅱはまだですね、あまり好きでは無さそうなので」

 よし、明日の副官はSOP Ⅱにしよう。

 そろそろ部屋に戻ろうか。

 なんか色々聞いたなぁ。

 いや本当に心に効いた。

 まさかAR小隊がジャック・ダニエルの事を好きだったとは。

 きっとAR小隊は俺よりも先にジャック・ダニエルと出会っていたんだ。

 だから何だかんだ言ってROもこんな俺を哀れんで誓約してくれたのかもしれない。

 彼女には悪いことした。

 俺は何にもわかっていなかったのか。 

 「俺はそろそろ部屋に戻る。皆お疲れ様、明日もよろしく」

 「えっ?あっはい、お疲れ様です指揮官」

 AR15とM4からの挨拶を聞いて席を立つとフラつきながら部屋に戻ろうとする。

 立ち上がって歩こうとした時、カウンターが視界に入る。

 どうやら酔い潰れたのか12は突っ伏していた。

 覚束ない足取りで部屋へと向かおうと歩き始める。

 自分でもちゃんと自室に戻れるのか不安になる。

 すると誰かに支えられて歩くのがいくらか楽になった。

 「指揮官、大丈夫ですか?私が支えるので早く戻りましょう」

 「ああ、すまない。……本当に」

 「いえいえ、何時もの事ですから」

 ROに支えられる形で、自室に繋がる廊下をゆっくり歩く。

 「……今度から別に付き合わなくても良いよ」

 「え?」

 「もう、これ以上迷惑をかける訳にはいかないから」

 「何言ってるのですか指揮官。別に迷惑だなんて思っていませんが」

 謙遜をするROの頭に手を置いて言い聞かせるようにしみじみと話す。

 「いいんだよ、無理しなくても。何時もごめんな?朝とか起こしてくれたり、でも明日からは大丈夫だから」

 「いえ、ですから…」

 きっと彼女は最後まで俺の事を気遣ってくれてくれる。

 だからそれを絶ちきるためにも。

 「明日からは自分で起きるし、今みたいにならないようにお酒も気を付ける。なっても極力君に迷惑をかけないように頑張るから、応援しててくれ」

 「……はい」

渋々、と言うよりも意気消沈に近い声でROが返事をする。

 それと同時に目的地である自室に到着した。

 「……今日はお疲れ様でした」

 「ありがとう…あと」

 「?まだ何か?」

 彼女の手にはめてある指輪を見る。

 「──その指輪はもし邪魔なら外しても良いから」

 「はい?」

 「何かしらするのに支障をきたすなら外しても良いよ」

 好きな人が居るのにそれを嵌めさせるのは酷いだろう。

 ジャック・ダニエルにも失礼だし。

 だが帰って来たのは予想外の返事だった。

 「は?」

 その声に怯んで進んでいた足が止まる。

 おっとどうした。

 ちょっと今の声怖かったぞ。

 「さっきからなんですか?そろそろ面倒ですから喋らないでください」

 「あ、はい」

 いつもの声よりも低い声で言われて反射的に返す。

 返事を聞くとROがドアを開けてくれたので流れるように部屋に入る。

 ベッドへ向かいダイブを決め込もうとした時。

 『カチッ』と部屋中に音が響く。

 きっと彼女が持ってるカードキーでロックを掛けてくれたんだろう。

 勢いが死んだので今度はゆっくりとベットに倒れた。

 「ジャック・ダニエルか……」

 M4やM16達の好きな"俺じゃない指揮官"かぁ。

 悔しい気持ちもあるがそれ以上に優しくて強い人なんだろうなと尊敬してしまう。

 そりゃあ、仕事のできる人の方がモテるだろう。

 それに、ここでモテるのは多分良くあるアニメの主人公ではなくてシュワちゃん見たいなムキムキ大柄高身長なんだろうな。

 俺もそれなりにしっかりとした体つきをしているが別に高身長でもないし顔も平凡。

 性格は知っての通りだろう。

 「敵わない、か」  

  もう寝てしまおう。

 そして早く朝になって、SOP Ⅱに癒してもらうのだ。

 嫌なことは忘れるに限る。

 そう割りきって目を閉じる。

 良い感じに酔いが回っているのかもう、直ぐに寝れそうだ……。

 意識が遠退いていくのを感じた。

 「何が敵わないんですか?」

 「うぉわ!?」

 ここにいないはずのROの声が聞こえ慌てて飛び起きた。

 「そんなに驚かなくても良いじゃないですか」

 「帰ったんじゃないの?てっきりまだM4達と飲んでるのかと」

 「いえ、きっとM4とAR15は今頃宿舎にもどっていますよ」

 「そうなの?」

 ついさっき来たばかりなのに。

 ROは呆れたとでも言いたげな目でこちらを見ている。

 「じゃあ寝るか」

 「そうですね、もう時間です」

 もう一度ベッドに入る。

 風呂は明日でいいか。

 「明日は早めに起こしますね?」

 「ああ、頼むよ」

 枕元にあるスイッチで部屋を暗くした。

 ………………。

 ………………。

 ………………。

 ………………。

 「いやなんで?」

 違和感に気づいて再び飛び起きる。

 「どうしたんですか指揮官」

 さもいつもこうしているだろと言った雰囲気を醸し出しているがおかしいだろ。

 「なんでROがここで寝る?」

 「もう消灯時間は過ぎていますから」

 時計を見ると『00:13』と表記してある。

 「まあそうだけども」

 「それに一緒に寝るのは今回が初めてではないのですからそんなに騒がなくてもいいじゃないですか」

 「お、俺は君とは性行為してないぞ!」

 「誰もそんな事行ってません!普通に寝てましたから!」

 ボンッと顔を真っ赤にさせながら今度はROが騒ぎだした。

 「なら良かった?のか?」

 「もう酔っ払うと変に話がズレるんですから……」

 「それでも駄目だろう、ジャック・ダニエルさんに失礼だ」

 「それもです。AK-12が言っていたジャック・ダニエルという人物はこの基地には居ませんよ」

 「……はい?」

 「そもそもそれはお酒の銘柄の名前ですから」

 「???」

 「AK-12が言っていたジャック・ダニエルはいつもM16が飲んでいるお酒なんです」

 まさかお酒の名前だったのか。

 確かにそれならM16が好きなのも頷ける。

 「なるほどな……なんで気づかなかったんだろう」

 とんでもない勘違いをしていたことに項垂れる。

 「ですから、別に何ともありませんから」

 何ともない?

 顔を上げて目の前にいるROの顔を見ると忙しない感じで落ち着かない。

 「?」

 「たがらその……指輪を外しても良いとかもう言わないでくださいね」

 その寂しさと悲しさが混じった声を聞いたとき、頭をガツンと鈍器で殴られたような衝撃を受ける。

 そして反射的にROを強く抱き締めた。

 「ごめん、もう言わない」

 「っ……はい」

 答えるようにゆっくりと背中に腕が回される。

 「いつもありがとう。こんなどうしようもない俺と一緒に居てくれて」

 「ふふ、そんな事無いですよ。指揮官はいつも私達を信頼してくれますから。それに答えることが私達の使命であり、役目ですから」

 「ありがとう」

 「指揮官が居る限り私達はずっと一緒に居ますから、安心して下さい」

 彼女は16Lab特製のエリート部隊であるAR小隊のメンバーだ。

 それはこの時間が有限だという事を示している。

 いつかは離ればなれになるのかもしれない。

 でも……今だけは。

 この優しく暖かいぬるま湯に浸かっていたい。  

 最後にもう一度強く抱きしめると、それに答えるように背中に回された腕の力が強くなった気がした。

 その感覚がスッと気持ちを安心させてくれる。

 「おやすみ、RO」

 「……おやすみなさい、指揮官」

 

ちょっとした後日談。

 

司令部の執務室にて。

 

 「まあROはともかくとしてM4達は好きな人がいるんだろうな」

 

 「まだその話ですか!?」

 

 「ジャック・ダニエルなんて言っていたがあれは隠語できっと『私にはもう好きな人が居ます』って言ってるんだなって……どう?」

 

 「どうってなんです?」

 

 「いや、M4達って好きな人いるのかなぁって」

 

 「乙女ですか」

 

 「気になっちゃうでしょ?」

 

 「これを私の口からいうのはちょっと……」

 

 「あ、居るんだ」

 

 「い、いえ」

 

 「いないの?」

 

 「これはズルくありませんか!?」

 

 「居んのかぁ……」

 

 「何でガッカリしてるんですか!指揮官には私がいるでしょう?」

 

 「いやそうなんだけど、居るのかぁ」

 

 「はぁ、指揮官は節操が無いですね」

 

 「そりゃどうも」

 

 「褒めてませんよ。そろそろ仕事を再開しましょうか」

 

 「そうだな……やっぱり好きな人居るのかぁ」

 

 「だから乙女ですか!」

 

 




実はこの話、少し実話で、私自身がジャック・ダニエルを人の名前と勘違いしていたのを元にしました!

居そうですよね?ジャック・ダニエル
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