女勇者と蟹工船   作:邪骨

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文字数制限回避のため、三分割だった話を一つにしました。


女勇者の過去話① ② ③

 ユウシ・ユーギリィ、私がその名前になったのは五つになったばかりの頃だった。

 

 この世界、『ムブジュゲン』では、全ての子供は五歳になると教会で神より真名を授かるのが通例になっている。私もその例にもれず、協会に連れられ、真名を授かったのだ。

 

 真名は元名の後ろに付く、私の場合はユウシが元名で、ユーギリィが真名だ。

 私の授かったこの真名、ユーギリィというのは、神の苗字である。この名を授かったものは神に英雄と認められたものとして、魔王を屠る使命をも同時に授かってしまう。

 

「すごいじゃないかユウシ!英雄として神に認められるなんて!」

 

「お祝いの準備をしなくちゃいけないわね!」

 

「「お前は家族の誉れだ!」」

 

 平民の家から英雄が生まれたというのは、両親にとっては非常にうれしいことだったのかもしれない。

 だけれど私はそうでもなかった。

 毎日のように教会内で行われる戦闘訓練に参加させられ、女らしい趣味なんてのは一切禁止にされて、それでも世界のため、人間のためと自分の心を殺してきた私の気持ちが分かるか!嫌だったに決まっているだろう!何度逃げ出そうと思ったことか!しかし親からのあの、期待と羨望のこもった瞳を見てしまうと逃げだせなかった、裏切れなかった!

 

 十才になった日、私は旅立たされた。世界を救う旅に。仲間はいない、装備は聖剣一振りに腰当だけ。こんなものでどう世界を救えというのだろう。

 

 両親は見送りには来てくれなかった。

 

 ただ村を出るとき、母親らしき人が私によく似た、赤毛の女の子を抱いていたのを見て、私はひどく悲しくなった。

 きっと私の事なんて忘れてしまっているのだろうな。

 

 

♦♦♦

 

 

「・・・これで、最後だ」

 私は聖剣を怪物の脳天に叩きこむ。

 グチャリという鈍い音と共に、生温かい液体が私の頬にへばり付く。

 

 ブリュゲルヒェ大森林、そこに立ち入ったものは決して生きては出られないといわれる魔境である。

 この森には魔王を倒すカギがあるという噂があり、私はそれを信じてここにやって来たというわけだ。

 

 私は先ほど倒した異形の怪物―――、ギュブルグゾゥの腹部に聖剣の刃を突き立てる。ズニュリとした感触が実に気味が悪いが、気にせずそいつの腹を縦に掻っ捌く。

 そして私はギュブルグゾゥの開いた腹に両手を突っ込むと、鋤骨あたりまで一気に掻き分ける。肉のぬめった感じがまた気持ち悪いが、続ける。すると心臓あたりだろうか、硬いものを触った。形的には骨ではなく、カットされた宝石のようなものだった。私はそいつをつかむとまた一気に引っこ抜く。

 引き抜いた手の内を見ると、緑色に輝く石があった。

 これが魔王にたどり着くためのカギだ。

 ギュブルグゾゥはこの森のボスだったのである。

 (どうりで強かったわけだ)

 

 私はすっと立ち上がる。早くこの忌まわしい森から抜け出さなくてはな。

 

 ユウシ十二歳の頃の事だった。

 

 

♦♦♦

 

 

「ユウシってすっごく強いのね!」

 

 先程から私に引っ付いて離れぬこの少女は何者だろうか。

 

「私の名前はジュルギュガンテ!ジュルって呼んで!」

 

 少女は頭から牡牛の様な角を生やしていて、尾骶骨辺りからは先のとがった尻尾が揺れている。

 それは所謂魔族と呼ばれる種族の特徴と一致していた。

 魔族というのは魔王と共に世界を破壊すると伝えられている、魔王の眷属の事を指している。つまりは人類の敵だ。見つけ次第殺すことが推奨されている存在なのだ。

 しかし私は殺せなかった。初めて見る魔族は、あまりにも人間に似すぎていた。私の目には、その魔族の少女は異形の化け物ではなく、ただの可愛らしい、汚れを知らぬ無垢な少女にしか映らなかったのだ。故に私はこの少女を放っておくことにした。ついてきたいのならば勝手にすればいいと思った。

 それが悲劇を生むことも知らずに。

 

 

♦♦♦

 

 

 ジュルギュガンテが私の旅に同行するようになってから一年と数か月が過ぎた。

 この頃になると私にとってジュルは居なくてはならない、かけがえのない存在になっていた。幼少の頃より使命を背負い孤独に生きてきた私の、唯一の心の拠り所になっていたのだ。

 ジュルと生活を共にするうちに、私は魔族っていうのは人間と同じなんだと思うようになった。

 普通に意思の疎通が可能で、同じ釜の飯を食いあえて、笑いあえる。彼らに人間との差など角と尻尾程度でしかないのだと、思い知らされた。

 

 ある日、いつものように野宿をするため食材を取りに森の深くに足を踏み入れた。森の中は危険な怪物がわんさか出るから、ひ弱なジュルはテントを張った場所で待たせることにしていた。

 

「ジュル―、今日はグブブズギョンが獲れたよ、鍋にしよう」

 

 私はグブブズギョン、百の触腕を持つ四十センチ程の軟体生物を手に、キャンプ地に帰ってきた。

 

 が、肝心のジュルはどこにも居ない。いつもだったら「お帰りユウシ!寂しかったんだから」と抱き着いてくるはずなのに、居ない。

 

「ジュル!どこだ、どこに居る!」

 大声で叫ぶも、返事は返らない。自分の叫び声が空しく木霊するだけだった。

 

 胸騒ぎがした。

 

「ジュル、ご飯にしよう?お前、鍋が好きだったろう?・・・出てきてって!」

 

 いやな予想が頭をよぎる。

 馬鹿な、そんなことありえない!

 

 私は気づけば森を抜けだして、名もない村落の入り口まで来ていた。

 深夜だというのに、人々の嗤う声と灯りが絶えない。祭りの時期でもないというのに!

 

 人ごみを掻き分ける。

 

 その喧騒の中心へ!

 

 私は立ち尽くしていた。こんなことがあっていいのだろうか、そんなはずない。

 

 見よ!その明々と照らされた見慣れた者を!成れの果てを!

 

 えぐられた臓腑が木々に吊るされ、首は槍に突き刺されている。

 

 太鼓の音がうるさい。

 心臓の鼓動も喧しい。

 

 嘘だと言ってくれ!

 

 バラバラにされた二十本ばかりの枯れ枝のようなものが、散らかっている。

 

 串刺しにされた緋色の双子が火に照らされてキラキラと光っていた。

 

 細長く先のとがったものが紐替わりに使われている。吊られていたのは拳大はある二本の角!

 

「嫌だ、嫌、あ、あああ」

 

 そう、全てはジュルギュガンテの成れの果て!彼女が愛した魔族の少女!

 

「全く、こんなところに魔族が湧くなんて、とうとうここも魔境に飲まれるか?」

「でも魔族ったて、結構楽勝だったじゃん?」

「ああ、二、三度殴ってやったら泣き出したからな、あれは痛快だった!」

「『助けて、ユウシ助けてェ!』『痛いよ、怖いよォ』ってなあ!グヒャハハハ!」

「だがユウシってのは何者なんだろうな?」

「さあ?魔族の仲間かなんかじゃねえか?」

「だけど心配はいらねえぜ!魔族の仲間だか何だか知らねえが、このブギーキ様にかかれば瞬殺よォ!」

 

 ブギーキが爆ぜた。

 

「・・やる・・・してやる、殺してやる」

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」

 

「ブギーキ?!畜生、ナンダてめぶくぷぴゅ」

「やめ、やめてくれええええええええ!」

 

 ユウシ十四歳の頃の事だった。

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