その踵の名は   作:時雨。

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追伸、皆さんの感想全て眼球にこすりつけて刻み込まれるほどに目を通させていただいています。ドキがムネムネ。大変励みになります。ちなみに今日の晩御飯は煮干しラーメンです。


嘗ての思い出は今

ファミコン顔……もとい通形ミリオと並んで歩くこと暫く。

ようやく見知った建造物や道を発見し、見覚えのある地形が視界に映るようになってきた。

 

「この辺は、一年生も授業やなんかでよく使うよね」

「ええ、少し前から見覚えのあるものがあちこちに見えているわ。ここまで来たら私一人でも帰れる。手間を取らせて悪かったわね」

「いいよいいよ!気にしないで!ヒーローとしても、先輩としても当然のことをしたまでさ!」

「そう……」

 

声を掛けてきた時と同じ人好きのする笑みを浮かべる彼は、胸に拳を当てて得意げに笑った。

それがどことなく誰かに似ている気がして、はてと立ち止まる。

急に立ち止まった私を見て何事かと彼も同じように道端で立ち止まり、こちらを見た。

この無駄に眩しくて暑い感じというか、無駄に白い歯の輝き。どこかで見覚えがある気がする。

とはいえ、彼とは先程が初対面だし、更に以前で言えば私の経歴を鑑みて顔をあわせている確率は余程のものだ。

恐らくそれも無いものと思われる。

今一度彼の顔面を確認する。

金髪で、ファミコン顔。

私の顔を不思議そうにぽかんと見返して、私の顔の前で手を振り始めた。

このやけに馴れ馴れしくて天然っぽいところ、誰かに……。

おい、今考え中なのだから私の視界を遮るように手をブンブン振るのはやめろ。

そう思い眼前の手を振り払おうとしたところで、私の頭上に豆電球が光る。

 

「ああ、なるほどね。そういうこと。道理であの堅物な眼鏡が学生のインターンなんて受け付けるわけね」

「え?!いきなりどうしたの!?というか、堅物な眼鏡ってもしかしてサーのこと!?」

 

驚愕する彼を置き去りに、一人納得する。

こういう無駄に慌てる様子や仕草を含めて、彼はどことなく養父さん、オールマイトに似ているのだ。

そうでもないとあの眼鏡が学生の育成なんぞに手を出す訳もない。

いや、過去に接した私の独断と偏見が大いに入っていることは間違いないが、それを抜きにしても目の前の成年が彼好みであることは間違いないだろう。

 

「個人的な考え事がたった今解決したの。貴方には関係のないことよ。忘れて頂戴」

「あ、ああ、そう?なら良いんだけど」

「次にあの人にあったら、宜しく言っておいて頂戴。それじゃあ、ここまで送ってくれて助かったわ。この御礼はまだ今度ね」

「別に気にしなくて良いのに。サーには君が元気だったって伝えておくよ。八木霞ちゃん」

 

その言葉に思わず前のめりに停止する。

霞ちゃん、霞ちゃんだって?

勢いよく振り返り、私は口を開いた。

 

「ちょっと、ちゃんはやめて頂戴。見ての通り私はもう高校一年生なのだけれど。女児のような扱いは御免よ」

「あ、ご、ごめんごめん!偶然サーの事務所で見た時の写真が、君が子供の頃のものだったから、つい!」

 

両手を合わせ、謝罪の意を示す通形ミリオ。

それにため息を一つつき、口を歪ませる。

写真、写真だと?

彼がサー・ナイトアイの事務所で目撃した写真。それはどうやら私が幼い頃の物だという。

ふと私は口元に手をやって首を傾げた。

一体いつのものだろう。少なくとも、彼がこうして気さくに話しかけてきたところや、ついうっかりといった形で漏らした以上、写っている内容が凄惨な事件現場や、近寄る人間全てを憎み敵視するような野生の獣のようなものでは無いのだろう。

それこそ件の事件の救出直後のような。

となると、一体いつ私は写真を撮られたのだろうか?

別に彼も私の一保護者のような立ち位置であった時期もあるので、別にあって不思議はないし構わないのだが、自分の知らないところで自分の幼少期の写真が存在しているということになんだか腹の内側が痒くなるような羞恥心を覚える。

視線を彷徨わせながら数秒考え、再度通形ミリオの方に向き直る。

 

「やっぱりさっきの言伝は必要ないわ。直接言うから」

「直接、ってサーに?」

「ええ。今度の休み、お邪魔することにしたわ」

「そっか!なら、俺の方からも伝えておくよ」

「それはどうも。じゃあ、今度こそ私は帰るから」

「うん!またね」

「改めて今日は助かったわ。それじゃあ、また」

 

彼に背を向けて歩き出す。

見知った道を歩くというのは良いものだ。

精神的にも、ちゃんと地面に足の裏を付けて歩けているという安心感がある。不安にざわめいていた心が凪いでいくのを感じながら、早足で進む。

ようやく校門近くまで戻ってこれたのは、もう完全に夜になった頃だった。

空には先程よりはっきりくっきりと夜空が映え、星が瞬いている。

緩やかな下り坂に足を踏み出した時、背後から声がかかった。

 

「霞?」

 

若干の驚きを含んだ声に、振り返れば、そこには帰宅の支度を済ませたオールマイト、私の養父が立っていた。

パチクリと両目を開く彼の表情からは、なぜ私がこんな時間まで校内に残っているのかという疑問がありありと察せられた。

どうしよう。ついさっきまで迷子だったなんて言いたくない。

唇を横一線に結び、視線を出来得る限りの端まで移動させれば、再び驚いた様子の養父さんは、後頭部を数度擦った後にぎこちない笑いをこちらへ向ける。

 

「あー、なんだ、せっかくこんなところで出会ったし、一緒に帰ろうか」

「そ、そう、そうね。ええ、良いわ。そうしましょう」

「なんだ、やけに素直だね。何かあったのかい?」

「何もなかった。何もなかったわ」

「え、あ、そう?」

 

念を押す様に二度強い口調で繰り返せば、養父さんは驚きながらも空気を読んでそれ以上この話題には追求してこなかった。

それから私達は二人横に並んで駅まで歩き、他愛もない雑談に興じる。

養父さん以外の担当している授業はどうだとか、職員室では最近どんな話題が流行っているだとか、友達とはどうだとか、体の調子はどうだとか。

ここ暫くヒーロー活動から教職へのシフトがうまくいかず、唯でさえ時間の少ない養父さんは更に時間を削られ、私と会話する時間も少なくなっていた。

本来あったであろう親子の時間を取り戻すように下らない話をしながら駅に到着し、電車に乗る。

数駅過ぎた後、現在自宅としている高層マンションへと辿り着いた。

その入口を通過し、ホールへと入ったところでふと思い出す。

 

「そう言えばなのだけれど、今度眼鏡……じゃなくて、サー・ナイトアイの元へ行ってくるわ」

「ああ、そうかい。それは宜しく――え?だ、誰の元へ行くって?」

「だから、サー・ナイトアイよ。養父さんの元サイドキック。雄英高校ヒーロー科三年の通形ミリオ先輩がインターンをしている先の事務所の」

「エッ?!?ちょ、ちょっと、なんで?!何かあったのかい?!」

「別にそう大した要件では無いのだけれど……。どうにも私の幼少期の写真が彼の手元にあるらしいのよ。そう通形先輩から聞いたわ。私は写真を撮られた覚えなんてないから、いつの写真なのか気になったのよ。だから、久々の挨拶も兼ねて少し今度の休みは遠出してくるわ。……あの人も、私のことを助けてくれた恩人に他ならないのだし。気は……少し、というか多分合わないけれど」

「あぁー、そ、そうかぁ。いや、それなら私の分まで宜しく伝えておいてくれ。彼が今どんな活動をしているのかさえ具体的には知らないが、きっと良くない頼りが届いていないということは元気なのだろう」

「殺しても死ななそうな眼鏡だものね」

「こらこら、あまりそういう風に言うものではないよ」

「むぅ」

 

真っ当な養父さんの指摘と咎める視線に気まずくなり、視線を逸らす。

養父さんの視線から逃げるようにエレベータに乗り込んだ。

まぁ、そのエレベーターに養父さんも乗るわけなのだが……。

今の会話で悪かったのは百パーセント私だという自覚があるが、どうにも改められない。

彼の生真面目で細かくネチッとした性格が、なぜだかどうにも反りが合わないのだ。

これは初めて出会った時から変わらない犬猿の仲である。

いじめがいのない彼を好けない私なのか、或いは中身の薄っぺらさを見透かされている様でなつけないのか、自分の中でも結局の所納得の行く答えは出ていない。

 

「それで、そういう養父さんは来ないのね」

「そう、だね。私は遠慮しておこう」

「あの時拒絶したの、未だに引きずってるの?情けない。ナンバーワンの名が泣くわよ。中学生女子じゃあるまいし」

「私自身もそう思うよ。けれど、彼の手を払った私が今更平気な顔して彼に会いに行くのも違うだろう。君も、私はそう答えると分かっていたから"一緒に行くか"じゃなくてただ行くことだけを私に報告したのだろう」

 

肩を竦めて穏やかに笑う養父さんは、何かを諦めた様に脱力していた。

それを見て、少しだけ寂しく思う。

私と相性が悪く、仲が悪く、そして致命的に価値観が合わない彼は、それでも養父さんの相棒だったのだ。

すれ違ったままではなんというか、後味が悪い。

お互い無言になったままエレベーターは目的地へと到着する。

家の扉を開けて中に入れば、鞄を所定の位置に丁寧に放り投げてソファに寝転んだ。

 

「ひとまず、養父さんが女子中学生のように貴方のことを想っていたとだけはナイトアイに伝えておくわ」

「その言い方はお願いだからヤメてね?!」

 

私のジョークにツッコミを入れる養父さんは、着替えの為か自室に消える。

その背中がどうにもいつも以上に小さく見えて、私はこの感情を『後味』などにさせてたまるかと小さく鼻を鳴らしたのだった。

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