その踵の名は   作:時雨。

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皆さんお久しぶりです。
といってもTwitterは普通に生きてたので、違う創作にあちこり手を出してたのはモロバレなんですが…。
ヒロアカ、やっぱりいつ見ても面白いですよね。
ザ・少年漫画という熱い展開が胸を躍らせてくれます。
そんな作品の創作界隈に、少しでも華を添えられたらな~と思いつつ思い出した頃にそっと投稿しておきます。


くすんだ花火はいつか大火に

夕暮れの朱が巨大な校舎を背に輝き、地面に暗い影が落とされる。

そんな下校時を私は爆豪勝己と二人、人気の無い方へと向かって歩き続けていた。

あいも変わらずだだっ広い校舎で、どこまで言っても施設やら設備やらが並んでいる。

そしてそれらを使用している生徒達も。

視線を彼の背中に突き刺してみるものの、ガサツな為に気がついていないのか、それともあえて無視されているのか返答はない。

黙ってついてこいということか。

私は早くもこの無駄にひりついた空気に帰宅の足を止めたことを後悔し始めていた。

夕日が照らす中を二人して黙って歩くこと更に数分。

ちょうど施設同士に挟まれるようにして配置された、小さな通路スペースへと辿り着く。

その影がどうやら彼の目的地だったらしく、鋭い三白眼をこちらに向けながら背を壁に預けて止まった。

両手をポケットに突っ込んでこちらが語るのを黙ってみるその姿は、さながら田舎のヤンキーそのものであるが、これは口にしないのが良いと私でも分かった。

 

「……はぁ、そんなに睨まれても話せる内容は増えたりしないわよ」

「るせェ、さっさと帰りてぇならさっさと答えろ」

「人に物を頼む態度というものを一度覚え直したほうが良いと思うわ。それこそ、貴方のお母さんのお腹の中から。……分かったわよ、今日はそういうのはナシにしましょう。お互いに時間の無駄だわ」

「分かってんじゃねェか。テメェが回答を引っ張るたびにテメェが家に帰る時間が伸びてくだけだ」

 

普段より更にもう少しピリついた感情をこちらに向ける彼の聞きたい事とは何だろうか。

顔をしかめた彼が口を開く。

 

「あの敵どもがお前にごちゃごちゃ言ってた時、言い返してただろ」

「言い返した?」

 

言い返した。確かにあれこれ言った気がする。

メンタルとフィジカル共に限界だった上、頭に血が登っていたのであまり詳細に覚えていない。

唇に指を添えて思い返す私の表情を見てか、更に彼が続ける。

 

「オールマイトの娘って、マジなんか」

「――なるほど、聞きたいことってその事だったのね」

 

一通りの彼の不自然さに得心がいった。

詰め方を躊躇うような聞き方や、普段無駄なところで器用なくせに不器用な誘い方。

彼らしくなさは、彼を彼たらしめる要素がこの話題の中核を担っていたからだった。

 

「ええ、ほんとのことよ。とは言え、見て分かる通り血は繋がっていないわ。養父さんは私の身元引受人で、義理の父なの。昔ちょっとあったのよ。子供の頃に彼に保護されて、それ以来一緒の家で暮らしてきたわ。それだけよ」

「……そうかよ」

 

それだけ聞き終えると、彼は納得がいったようないってないような顔で背を壁から離す。

私から視線を外して、すれ違うように元来た道を引き返し始めた。

 

「あら、この程度で良かったの?」

「今はこれで良い」

「まだ気になるって顔に書いてるけれど」

「引っかかったモン全部人に聞くほどガキじゃねェ」

「そう」

 

私の返事を聞いたか分からないが、彼はそのままこちらを振り返ることなく歩みを進める。

というか、さっきの一問だけの為に態々ここまで連れてこられたのか。

それなら小声で校門前で会話しても良かっただろうに。それだけデリケートな話題だと思ってくれたのか、はたまた私の思い当たらない理由があったのだろうか。

しかし、その背中を追いかける気にもならず、暫くその場で空を見上げて時が経つのを待った。

夕暮れは徐々に藍が混じり、朱から紫へとグラデーションを走らせていく。

そろそろ良いかと肩に書けた鞄を背負い直し、舗装された道に足を踏み出した。

革靴が綺麗に舗装された道を踏んで心地よい音を立てる。

コツリ、コツリ、コツリ。

その足音は確かに私が前へと進めていることを確信させてくれる。

そう、前へ進まなくてはいけないのだ。

私はこの鋼鉄の足で、前へと進まねばならない。

爆豪には始めああ言ったが、本当は今日は家に帰って海外ヒーローの活動の一部始終を収められた映像を動画サイトで確認する予定だったのだ。

彼及び彼女らは、私の個性の一部と似通った個性を所持しており、それらの使い方を学ぶことで自身の技として取り込もうとしていた。

模倣は学習の第一歩。

赤ん坊は親の言葉を真似ることで言葉を覚える。故に、私も先達に習おうというわけだった。

実際に本人に技を見せてもらう訳でもなし、動画サイトは逃げはしないのだから、今から帰っても十分に時間は取れる。

そそくさと足早に帰宅を急ぐが、ここで問題が発生した。

 

「この道、さっきも通らなかったかしら」

 

不意に口をついて言葉が出た。

よく考えてみれば、全く微塵も欠片も一ミクロンもそんな気はしないが少しだけ嫌な予感がある。

来た道とこれから向かう道をきょろきょろと前後に見回してみた。

似たような道が前後に伸びているということが分かった。

大きく深呼吸する。

横を向けば巨大な校舎。

先程と変わらないその姿がそこにはそびえ立っていた。

夕暮れ時を過ぎた空は、夜の闇と影とを溶け込ませていく。

一度まぶたを下ろして、再度深呼吸。

意を決して瞳を開き、周囲を勢いよく観察する。

道。

施設。

道。

街灯。

校舎。

 

「なるほどね」

 

全て分かりきったような表情でひとつ頷く。

何事も行動は形から。

気持ちの入り方が大切なのだ。

こめかみをひらりと小さな汗の粒が流れ落ちる。

そしては私は確かな確信を持って言葉を吐いた。

 

「迷ったわ」

 

周囲を見渡すも、時間がそれなりに経ってしまい、時刻も遅くなった為か人気が完全に失せている。

誰かその辺を徘徊する上級生に助けを求めるという選択肢その1が潰えた。

ちなみに選択肢その2は存在しない。

選択肢その2は養父さんに態々この学校の敷地内で電話をかけて「迷ってしまったので助けてくださいお願いします」と口にする必要があるからだ。

先程部屋のインテリアについて盛大に喧嘩……あれを喧嘩と呼ぶべきかは個々人の価値観によるところが大きいと考えるが、少なくとも私はあれを経た後に半泣きで電話をかける程ヤワなプライドをしていない。

私の中に聳え立つプライドは本家本元の彼女程でないにせよカチカチなのだ。

とはいえ選択肢その3はそもそも思いつきもしない。

GPSを頼りに道を進むというのも手だが、最近スマートフォンの調子が悪く、現在位置が瞬間移動を繰り返すという悪症状を悪化させていた。

そんな状態でマップなど開こうものなら、出口に向かって歩いているつもりで更に奥地へと向かわせられかねない。

自分が所属する学校の敷地内で、私を探すための捜索隊が結成されるなどという大変な不名誉は、この人生に於いて全く何をおいても耐え難い苦痛だ。

 

「そんなことになろうものなら、舌を噛み切って死のうかしら」

 

そんな巨大な恥を晒して生き延びるくらいなら、潔く死にたい。

下らない冗談に一人ぼっちの現状で回答が帰ってくるわけもなく、私の言葉は虚しくも初夏の夕空へと消えていった。

薄っすらと星が見え始めたそれはとても綺麗ではあるが私を自宅までは導いてはくれない。

星はいつだって見守ってくれているなどという歌詞があった気がするが、所詮見守っているだけでなんだというのか。

見ているだけで何もしないのであれば、私だって出来る。

なんならちゃんと困っている人がいれば手伝う私の方が偉い。

それを養父さんに言ったら、『そういうことじゃ無いような……』と微妙な顔をされたのを覚えている。

確か、テレビで天体観測の特番をやっていた時だ。

実際一人にされると、結局見守ってしかいてくれない星のやくたたずさを一層に強く感じられる。

 

「私ここで死ぬのかしら……」

「やぁ!君、迷子?一年生??」

 

徐に声が聞こえた足元に目をやれば、地面から人間の顔が生えていた。

すわ心細くなった自身の見える幻覚かと思い、その顔面を個性で生成した踵の刃で切り裂こうとしたが、しかしその直後脳内のデータベースでその顔に見覚えがあることに気がついた。

 

「貴方、確か3年生だったかしら。いきなり出てくるのはやめて頂戴。危うくそのファミコンみたいな顔が真っ二つになるところだったわよ」

「そりゃ失敬!てかすごいこと言うね君!」

 

ぬるりとでも効果音が聞こえてきそうな動きで地面から生え出た彼は、その体躯を晒した。

緊張感の無い顔の造形には不釣りあいな程鍛え上げられた肉体は、その修練の厚みを感じさせる。

 

「私に何か用?悪いけれど今とても忙しいの」

「うん、まさにそれなんだよね。君、迷子なんじゃない?いや、学校内で生徒の君に迷子って表現が正しいかどうかは分かんないんだけどさ。困ってそうだったから」

「そうね、もしかしたら客観的に見たらそういった表現も出来るかもしれないわ」

「君面白い言い方するね!サーはユーモアに欠けるって言ってたけど、そんなこと無いじゃないか!」

「――サー?」

 

聞き覚えのある名前に反射的に顔がヒクリと反応してしまう。

私の言葉に目の前の彼は人好きのする笑みを浮かべて笑った。

 

「俺の名前は通形ミリオ!サーのところでインターンをやってるんだ。よろしく」

 

そう言って彼、通形ミリオは私に向けて握手を求めた。

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