つまり、闇骸と呼ばれる異形を産み出したのは芦屋道満ということなのだろう、と口を覆って目線を下げた俊の胸中を見透かすようなタイミングで、真夜の呆れた声がする。
「言っておくけど、闇骸を産み出したのは、芦屋道満じゃないわよ。はぁ、最後まで訊かずに自分だけで結論をだそうとするんだから……ねぇ、男の子ってみんなそうなの?」
半目になった真夜の唐突な質問に、俊は苦笑を返すだけにした。
「真夜ちゃんの言うように、闇骸を産み出したのは、久我貞光という人物だと言われているんだ。この人に関しては、謎が多すぎて、こちら側も全てを把握していなくてね。そもそも、弟子としていた事実も曖昧なんだよ」
「あの、さっき一族って言っていましたよね?なら、歴史書として残されていないんですか?」
「それが、明確には残されていないんだよ。まあ、歴史っていうのは、得てして、都合の悪いことは残さないものなのかもしれないね」
肩をすくねて言った賢人が、続けて良いかい、と俊に確認をとれば、黙然としたまま頷いた。
「さて、それでは、こちら側についての本題といこうか。俊君、闇骸が平安の末期に現れたと話しはしておいたけど、もっと時期を正確にすると、安倍晴明の死後になる。都に、突如として現れた久我貞光は、四人の闇骸を従えていた。対抗した宮廷の陰陽師が次々と敗れていく中、安倍晴明の高弟と謳われた四人が、事態を収束させたらしい。こちらはね、その高弟達の末裔なんだよ、彼女も含めてね」
真夜は、鼻を鳴らすだけで口を挟む気はないようだった。それどころか、フローリングに両手と両膝をついた態勢でお尻を突きだし、着物の裾をヒラつかせながら、娯楽要素が少ないとまで言っていた本棚を眺めだしている。
腰から下のラインが浮かぶ着物を着用しているのに、その無防備な姿は女の子としてどうなのか、と思うも、人と接することに慣れていない、との賢人の言葉を思いだし、真夜から目を切った俊は、賢人へ向き直る。
「あの……その久我貞光っていう人は、どうなったんですか?」
賢人が質問への返答とばかりに、自身の首を手刀で叩く。俊は末路を物語るジェスチャーに、喉を鳴らした。
「その後、闇骸となった久我貞光を封印したのだけど、彼が産み出した四人の闇骸と自身の力は残って漂い続けているんだ。大きな未練を持ったまま亡くなった人間を闇骸へと堕としながらね」
「闇骸に……堕とす?」
俊の疑問に対しては、さきほどの態勢のまま、本棚に目を向けている真夜が答える。