「闇骸っていうのは、元々、人だったのよ。あの世にいけず、意識も定まらず、気付いたときにはなっているって感じかな。そこには、四感の骸の影響もあるみたいだけどね」
四感の骸、と眉を寄せた俊に関わらず、少しは暇を潰せそうな本を見付けたのか、本棚から一冊抜くと、俊が座るベッドを睨みつけた。
「ところで、どうして賢人さんが床に座っているのに、アンタはそこにいるの?いつになったら、そこから降りるの?」
「あ、いや……その……ごめん……」
見るからに狼狽した俊が、腰をあげようとしたが、賢人が右手を伸ばし掌を広げる。
「いや、大丈夫だよ、こちらは気にしていないからね。それに、一方的に難しい話しをしているのだから、少しでも楽なほうが良い。真夜ちゃん、気遣ってくれるのはありがたいけど、そういうことだから、目付きを戻してくれないかな。どうにも俊君は集中できなくなってしまうみたいだから」
自分の部屋に、整った顔の可愛らしい女の子がいれば、それだけで集中できない、その凶悪な三白眼さえなければ、の話しなんだけど、とは言えず、俊はあげていた腰を落として訊いた。
「あの、さっきの闇骸についてなんですけど、簡単にまとめれば、悪霊みたいなものってことですか?」
「まあ、その認識でも今の所は大丈夫だよ。こちら側が罰の民、なんて呼ばれているのも、久我貞光が罪深い者達へ罰を、なんて残したことが由来しているらしいし、悪霊が残しそうな言葉だと思わないかい?」
はぁ、と曖昧な返事をした俊は、刺さるような視線を肌に覚えた。膝を立てて、広げた本の上から、真夜の両目が覗いている。
まとわりつくような重圧を払うように、俊が言った。
「さっき、罰の民は闇骸に狙われやすいって言っていましたよね?なら、どうして、僕は今まで無事だったんですか?」
「うーーん……それはちょっと、こちらからは伝えにくいんだよねぇ……」
途端、これまで澱みなく話していた賢人の歯切れが悪くなる。
どうにも、違和感の正体も掴みきれない。罰の民、その言葉を耳にする時、口にした時、やはり胸に例えきれない感情が押し寄せてくる。
伝えにくいと濁されたことと、関係があるのかもしれない、と俊は続ける。
「これまでの話しで、僕が一番気になるのはそこなんです。教えてもらえませんか?」
腕を組み、散々、唸り声を出しながら逡巡した賢人は、一度、頷いて口を開く。
「そうだね……君には伝えておくべきだかもしれない」
本に注いでいた視線をあげた真夜は、ぱっ、と賢人の顔を不安そうに見た。
「……良いんですか?奏さんは、ひとまず、連れて来るようにとしか言っていませんけど」