真夜の言った、奏、とは名前なのだろう。賢人が何度目かの苦笑い挟んで言った。
「栞ちゃんからは、こちらの行動中に彼を見付けたら、一任するって言われているから、奏もそう伝えれば大丈夫さ。それに、俊君には聞く権利がある」
「また奏さんを飛び越えて栞様に聞いたんですか?はぁ……奏さんにいろいろ言われても、アタシは知りませんからね?」
呆れなのか、気疲れなのか、どちらともとれない表情の真夜が、再び、文章を追い始めると同時に、賢人がニコリと微笑んだ。
「無事だった理由はね、俊君のご両親が関係しているんだ」
「僕の……両親、ですか?事故で亡くなったとは聞いていたんですが……」
記憶がない俊にとって、両親の話しとなれば、興味を抱かないはずもない。曇った声音の裏に、これまでとは明らかに違う色が混ざっている。それに気付き、取り繕ろうように俊は口元を締めた。
「俊君がそうなるのも無理はない。話しを続けると、罰の民は十五才を過ぎるまで、闇骸に見付からないように、特殊な術をかけられている。本来なら、その年齢に達するまで村を出られないのだけど、俊君のご両親は、より強力な術を施し、君を守る為に罰の民が住む村から逃げ出したんだ」
「僕を守る……?それは、あの……どうして……?」
「そうなるよね。君を守るのなら、いつものように十五才になるまで村から出さなければ良いだけだ。けど、そう出来なかった……その理由は……」
そこで、賢人の言葉を遮るように、甲高い音が室内に響いた。それが、インターホンだと気づいたときには、無遠慮に扉を叩く音と声が聞こえる。
「おーーい、しゅーーん!大丈夫かぁ?生きてるなら返事するっすーーおーーい!」
「ねぇ……声、大きいよ……もう少し、抑えたほうが……近所の人にも迷惑だし……」
妙に間延びした声の後に、まだ幼さが残る女性の声に、一度、壁時計を見上げた俊の顔に焦りの色が浮かんでいき、思わず、立ち上がろうとするが、二人を一瞥して動きを止めた。
真夜が本を床に置く。
「何よ、アタシ達だって、一応は客人でしょ、そう言ったら良いだけじゃない」
不機嫌そうな視線を玄関へ投げられても、交わしていた会話もあり、ここで迎え入れる訳にはいかない理由があるのだろう。しかし、俊の慌てようからして、なにか別の要素もありそうだ、と察した賢人が立ちあがり、迷いなく玄関へと歩き出す。
その様子を目で追っていた俊が短く叫んだ。
「ちょ!賢人さん!」