破壊神キッテル(キッテル回想記『空の王冠』三次創作) 作:ダス・ライヒ
ニコラウス・フォン・キッテルことニコが前線へと攻撃機部隊と共に向かう中、前線の様子を探るために無線機の周波数を弄っていると、敵軍の大攻勢によって押され気味のワルキューレ陸軍の将兵達の悲鳴が聞こえて来る。
『なんなのこの数!? こんなの倒しきれないって!』
『持ち堪えなさい! 直ぐにでも航空支援が!』
『無理よ、こんな数! 航空支援じゃなくて援軍はどうなってんの!?』
『もう持ちません! 後退します!』
『えっ!? 後退しないで!』
「本当に女ばかりだな。この悲鳴からして、敵軍はルーシー連邦軍以上のスチームローラー*1だな」
改めて自分を現世に召喚したワルキューレが、女性ばかりの軍事組織であると知れば、キッテルは前世の社会主義国家の軍隊の事を思い出し、敵軍の圧倒的な物量が前線に押し寄せるのがキャノピー越しから見る。上空も敵軍の航空機に埋め尽くされており、数えるのが馬鹿らしいくらいだ。思わずキッテルは生前に戦った共産軍より多い事にため息をついてしまう。
敵軍がどんな組織なのかを問うため、キッテルは増援として向かうVF-31Sの前進翼とは違うデルタ翼のVF-31Aイカロスに乗るパイロットに無線連絡をする。
「空もか…! まるでイナゴの大群だ。こちらクロウ〇一、加勢は必要か? それと敵軍はなんだ?」
『こちらフレイア1、是非とも加勢を! 敵軍は統合連邦軍です!』
「連邦軍…ルーシーと同じか。まさか社会主義か?」
『えーと、民主か軍事的?』
「あぁ、察するに両方だな」
敵が統合連邦軍と言う統一国家であると分かれば、思想は前世で戦ったルーシー社会主義連邦、即ち共産国家なのかを問えば、士官は民主か軍国主義と適当に答える。
この曖昧な答えに、キッテルは両方と判断し、ワルキューレの士官は政治思想教育は受けていないと思って聞いてみる。
「それより君たちは政治思想などの座学は?」
『えっ? そんなの受けてません』
「そうか。なら、空いた時間にその手の本を読んでおいた方が良い。士官であるならば、政治思想は一応理解しておいた方が良い。将来、政治家になりたいと思えば、是非とも学んだ方が良い」
『あぁ、はい。分かりました』
「今の将校は政治などに興味を示さんか。敵の戦略を理解するのに必要なのだがな」
聞いてみれば分かっていないような反応を見せたので、キッテルは現世の将校は政治に興味*2が無いと思い始める。
彼女らに政治の必要性を説くのは戦闘後にしておくことにして、今は押し寄せる敵部隊の迎撃に集中した。
「突破されるのは時間の問題だな」
キャノピーの目前からは、空を埋め尽くさんばかりの敵航空機や機動兵器が展開しているのが見える。それを迎え撃とうとワルキューレ空軍が決死の防衛戦を展開しているが、連邦軍の圧倒的な物量を前に押し潰されつつある。これ以上は持たないと判断してか、キッテルは増援部隊のVF-31Aの編隊より前に出て、防衛ラインを抜けて来た複数のスピアヘッドVTOL機*3を、機体に搭載されているマイクロミサイルを照準してから直ぐに撃ち込む。
放たれた無数のミサイルを前に、スピアヘッドは回避しきれず、数機が撃墜されれば、残りの生き残った機は味方の陣営へと退いて行く。
続けて防衛線を突破したB-2爆撃機に似たロングソード級戦闘機*4の編隊を捉え、上方を取ってから精密射撃ができる形態であるバトロイド形態に変形させ、ガンポッドを撃ち込んで全機撃墜する。
キッテルはこの初陣で、スピアヘッド八機とロングソード四機、合計で十二機を撃墜したのだ。
通常兵器である二種の航空機十二機を撃墜した赤いバルキリーに、小型MSのジェムズガン*5やバリエント*6、ジェットストライカーパックを付けたダガーL*7、量産型ヒュッケバインMkⅡ*8などの機動兵器に乗る連邦軍のパイロット達は驚愕する。
『な、なんだ!?』
『どうなってやがる! 奴は何者だ!?』
そんな同様の声が無線機より聞こえる中、キッテルは敵の連携を崩す為、機体をファイター形態へ戻し、敵部隊の前に出て自分の存在を全周波数で知らしめる。
『私の名はニコラウス・アウグスト・フォン・キッテル! ヴァルハラより来た男だ! ヴァルハラを聞けば、知っている者は居るはずだ! 諸君の中に、私を知っている者は居るか!?』
全周波数なので、この戦場に展開している連邦軍のパイロット達には聞こえている。地上を埋め尽くすばかりの部隊にも聞こえており、堂々と名乗りを上げる赤いバルキリーに乗ったパイロットが気になって、連邦軍は一時的に戦闘を中止する。自身の回想録も書いているので、自分を知る者が居ると思って聞いてみたが、連邦軍の将兵達*9の誰もがキッテルのことを知らないようだ。直ぐに罵声に近い下品な回答が返って来る。
『知るか! レッドバロンのパクリ野郎なんざ!*10』
『機体を真っ赤にするとは、的になりてぇようだな!』
『キャノピーを機体と同じく真っ赤に染めてやるよ!』
『機体から引きずり出して、テメェの面に小便を掛けてやる!』
無線機より聞こえて来る敵軍のパイロット達の下品な罵声に、キッテルはやや怒りを感じつつも、操縦桿を握る手を強める。
「なんと下品な…! まぁ、良い。私は既に勝ったつもりでいるような諸君らを教育しに来たのだからな! この一戦で生き延びた者は、上官に撃墜王キッテル現ると伝えておけ! 奴は常人では敵わぬと!」
だが、自分は戦いに来たのだ。敵軍が手袋を投げて来たのなら、貴族である自分はそれに答えるまでだ。品の無い連邦軍に、貴族である自分が教育を施す。
そう声に出さずとも心の中で思っているキッテルは、怒りよりも再び空戦が出来る喜びが勝って来る。今の彼は、空戦がしたいと言う気持ちでいっぱいなのだ!
この戦いで生き延びた者に、上官に自分の名を報告させ、エースを差し向けて来るように告げてから、無謀にも挑んで来る敵機と交戦との交戦を開始した。
『キャノピーを真っ赤に染めてやるぜ!』
「フン、見え見えだな」
ビームを撃ちながら接近して来るダガーLの動きは、キッテルからすれば見え見えであった。ビームの弾幕を避けつつ、当たる直前には、両足だけを展開させてギリギリで躱し、背面のマルチコンテナを展開させ、ビームガンポッドで撃ち返す。
敵機は一射目を避けたが、キッテルは二射目は敵機が向かう方向を予想して撃てば、敵機はそこへ吸い込まれるように向かい、勝手に被弾して地面へと落下していく。
味方機、それもモビルスーツが数秒足らずで撃墜されたことに、連邦軍のパイロット達は一斉にキッテルへ襲い掛かる。*11
『野郎、やりやがったな!』
『囲んでリンチしろ!』
「これで負担は下がるな」
大多数で向かって来る連邦軍機に、キッテルはワルキューレの迎撃部隊を押し潰さんとしていた連邦軍機も来たことで、注意は完全に自分に向けさせることに成功した。
「さて、感覚も大分戻って来たな。しかし、殆どが向かって来るとは。指揮官機は何をしている? まさか私の撃墜に参加してるんじゃないだろうな」
注意が完全に自分の方へ向いたが、余分な戦力まで集まって来た。どうやら連邦軍の練度は低いらしい。そう思っているキッテルは指揮官機まで参加しているのではと疑問に思う。
事実、キッテル討伐に向かう機動兵器部隊の中に、指揮官機が混じっている。乗っているVF-31Sで何かの御曹司とでも思い、撃墜すれば昇進できるかと思っているようだ。部下たちと共に、一斉にキッテルのVF-31Sに襲い掛かる。
雨あられの弾幕を躱しつつ、キッテルは敵機を照準に捉え次第にミニガンポッドやビームガンポッドを撃って次々と撃破する。
「ちっ、数が多いな。指揮官機の撃破を優先して指揮系統を乱すか。兵法の書では、敵の数が多い場合は隊長から叩けと言うしな」
流石のキッテルでも、有象無象の機動兵器の大群の対処は難しく、昇進に目が眩んで馬鹿の一つ覚えに突っ込んで来る指揮官機の撃破を優先した。
指揮官機は直ぐに分かった。指揮官機は通信機能を拡大させるためのブレードアンテナを装備しており、僚機との違いは直ぐに分かる。おそらく大隊長機で、傘下の中隊を盾のように展開させ、最後は自分でとどめを刺すつもりだ。
邪魔な敵機を撃破しつつ、大隊長機を正確にビームガンポッドで撃ち抜き、副大隊長機を続けて撃破して敵軍の指揮系統を乱す。
生前に中国に当たる国の兵法の書を読んだキッテルが、指揮官機を優先して撃破する戦法を取れば、敵部隊は混乱し、ただでさえお粗末な連携が更にお粗末となって、誤射まで発生し始める。
『撃つな! 味方だぞ!』
『くそっ、誰が指揮系統を継いでいるんだ!? 誰か、指示をくれ!』
「予想以上に混乱しているな。やはりあの兵法書は、士官学校において必読だな」
敵軍の混乱ぶりを見て、キッテルは孫子の兵法は士官学校において必読する書物と改めて思い、撃墜スコアを稼ぎ続ける。
一機、また一機とキッテルがトリガーを引く度に面白いように落ちて行き、もはや的撃ちのゲームのように思えて来る。これはキッテルが異常であり、他のVF-31Aや可変MSのムラサメ*12は余り撃墜できていない。そちらは指揮官機が居て、排除に手間取っているのだが。
ほぼ大隊長機と副隊長機を仕留め、後は中隊長機を仕留めて行くキッテルであるが、機動兵器の大隊を統轄する各連隊長が
「ちっ、まだ味方がいるんだぞ!」
直ぐにミサイルを交わす為のフレアをばら撒くが、全てのフレアをばら撒いてもまだ追尾ミサイルは残っている。ここは自力で躱しきるしかない。
後方を確認するためのサイドミラーやモニターの後方カメラを確認しつつ、キッテルは操縦桿を必死に動かして追尾して来るミサイルを躱す。その際に凄まじい
フレアでも躱しきれないミサイルを躱し続けたニコは、迎撃できるミサイルはマルチコンテナで何発か撃ち落としてから、一時的に機体をガウォーク形態に切り替え、足を前にしてすらスターで急ブレーキを掛けて最後のミサイルを躱した。目標に当たらずに失速したミサイルは、互いに命中して爆発を起こす。
「ブエッ…! ヴァルハラでは平気だったが、現世じゃ何度も出来んぞ、こんな荒業」
ミサイルを全て躱したキッテルはバイザーを開いて嘔吐した後、追尾して来る無数のミサイルを回避する方法、ミサイルサーカス*13は現世の自分、それと重力下で何度も試せば命に関わると口にする。死んでいる時だったヴァルハラでは大丈夫であったが、実際、この回避方法は並大抵の人間が行えば、ブラックアウトしかねない物だ。専用の装備か、あるいは身体を強化しなくてはならない。重力下なら特に。
無数のミサイルを躱したニコに、連邦軍は間髪入れずに仕掛けて来る。キッテルのバルキリーの背後からセイバーフィッシュ戦闘機*14が迫る。
『ケツにSAMをぶち込んでやるぜ!』
下品な言葉を吐きながらセイバーフィッシュのパイロットは、戦闘機用の対空ミサイルを放とうとした。
これにいち早く警告音より早く気付いたキッテルは、空中機動戦闘の一つであるインメルマンターン*15と言う縦Uターンを行い、背後へ回ろうとするセイバーフィッシュを撃ち落としながら、自機の背後を取った敵機の背後へ瞬く間に着いた。
このインメルマンターンは、第一世界大戦のマックス・インメルマンが世界で最初に行ったことからそう名付けられた。キッテルは生前にこれを何度も行っており、自然に出来るようになるまでに至っていた。敵にもインメルマンターンを行う者も居たが、それを知り尽くしているキッテルは打ち破ることに成功している。
『な、何っ!?』
「残念だが、生前でもヴァルハラでも何度も食らってるのでな!」
急に後ろを取られて動揺する敵機に対し、キッテルは経験済みであると告げてからガンポッドを撃ち込んで撃墜した。
『て、撤退だ! 撤退しろ!!』
『退け! これ以上は散り損だ!!』
たかが一機の赤いバルキリーに二個大隊の航空機と三個連隊もの機動兵器を撃破された連邦軍の空戦部隊は、指揮系統をズタズタにされたことや、防衛ラインを守るワルキューレ空軍に大損害を与えられた為に撤退を開始する。航空支援や防空戦力が撤退した所為か、地上の大群も撤退を始めた。
「地上は良い判断だな。空から襲われ続ければ、流石に対空装備をもってしても対処しきれんだろう」
敵軍の地上部隊の判断を褒めてから、次の戦いでは、連邦軍は自分にエースを差し向けてくると判断し、キッテルはようやく現世のエースと戦えることを楽しみにしてから基地へと帰投した。
この戦いでキッテルは、初陣にして八十機の機動兵器と二十機の戦闘機を撃墜し、連邦軍に撃墜王と恐れさせた。もっとも、キッテルが生前のエースパイロットであって、連邦軍の練度が低いだけなのだが、傍から見れば異常な戦果だ。
そんな彼は、現世のエースを戦えることを楽しみにしつつ、基地への帰路に着いた。