破壊神キッテル(キッテル回想記『空の王冠』三次創作) 作:ダス・ライヒ
それと機体を乗り換えます。
「畜生! クソッタレが! ボンボンが無茶苦茶な攻撃をしやがって!!」
統合連邦宇宙軍所属の航空母艦の艦内にて、自分のロッカーへ向けて八つ当たりを行うジェンソン・パーキンスの姿があった。
「おいおい、そう怒るなよ。奴は百機撃墜クラスのモンスターパイロットレベルだ。三十機も行ってねぇお前が敵う相手じゃねぇって。あれは必然だったんだよ」
「うるせぇ! 十機も行ってねぇ雑魚は黙ってろ!」
他のパイロット達はなだめに入ろうとするが、彼の振るわれる拳で吹き飛ばされる。
殴られたパイロットは十機も撃墜に至ってないことをジェンソンに言われたのか、殴り返そうとする。
「野郎! 腕が良いからって調子に乗りやがって!」*1
慰めてやってるのに八つ当たりで殴りつけたジェンソンに、パイロット達は気に入らなかったのか、殴り返し始める。
多勢に無勢だ。腕が良いからって自分等を見下すジェンソンに、パイロット達は堪っていた怒りを彼にぶつけた。彼らは懲らしめるつもりでやっているが、傍から見ればリンチである。
数分も経てば、ボコボコにされたジェイソンが、ロッカーの前に横たわっていた。
最初に殴られたパイロットは、床に唾を吐き捨ててから仲間たちと共に更衣室を後にする。
「ぺっ! 慰めてやってんのによ。まっ、良い気味だぜ」
「…畜生! 畜生…!」
味方のパイロット達の恨みを買い、リンチにされたジェンソンは、無残にも涙ながらニコラウス・アウグスト・フォン・キッテルに負けたことを悔しがる。
自分は十分にエースのはずだ。それもこの雑魚とも言える他のパイロット達のナンバーワンだと思っていた。奴は自分等とは違う次元のパイロットなのか?
床に這いつくばりながら、ジェンソンは引き千切られてそこらに捨てられたパイロットの証であるワッペンを強く握り締め、キッテルとの再戦を強く望んだ。
連邦軍の若き期待のエースが恥辱に塗れる中、生き返った英雄であるニコラウス・アウグスト・フォン・キッテルことニコは、宇宙に上がるための肉体訓練を受けていた。
いきなり無重力の世界である宇宙に上がれば、流石のキッテルでも身体がおかしくなってしまう。身体を宇宙に適応させるため、こうして訓練をしているのだ。*2
「生涯、宇宙に上がることなく終えてしまったが、まさか生き返って行けるとは」
生涯は宇宙に行くことなく生涯を終えてしまったキッテルであるが、*3英霊として現世に召喚され、こうして宇宙に行くための訓練をしている。彼にとっては実に奇妙な体験だ。
数時間にも渡る訓練を終えたキッテルは、次に水中に入って宇宙の疑似体験を行う。水中と宇宙は同じように見えるが、水中は重力があるので、無重力の宇宙とは違ってくるだろう。だが、呼吸ができない点は同じである。
宇宙服を着て水中に潜り、酸素の量を常に把握することを教官から耳に胼胝ができるくらい注意された。
その訓練も終われば、キッテルは機体を載せた宇宙用大型輸送艦に乗り込み、指定された座席に座って宇宙へと上がる。
「あんた、
「あぁ、初めてだ。宇宙はどんな場所なんだ?」
「暗闇と無重力が支配する世界さ。まぁ、人間そこに一週間くらい居れば慣れる」
自分の隣の席に座る佐官が喋り掛けて来たので、宇宙がどんな場所かを問えば、彼は自分が経験した感覚を思い出しながら答え、暫く宇宙に居れば慣れるとも答えた。
これにキッテルは慣れるつもりでいれば、輸送艦が大気圏を突破し、重力から解放されて無重力の世界へと入る。艦内の固定が甘いありとあらゆる物が重力の支配を失い、浮かび始める。
人の話で聞いた事や、映画でしか見たことが無い光景を生身の目で見たキッテルは、驚きの表情を浮かべる。
「おぉ! 本当に浮いたぞ!? 無重力は何度か体験したことがあったが、こんなに長いのは初めてだ!」*5
「餓鬼のように燥ぎなさんな、大佐殿。兵が見てる」
「済まない」
隣の男に言われ、キッテルは少し黙った。
それからは窓から人工物やデブリが所々見える宇宙を眺め、作戦地域に着くまで無重力の世界を楽しむ。輸送艦には重力区画があるが、キッテルは無重力を楽しみたいので敢えて行かなかった。
人生初の宇宙にキッテルは購入した菓子や飲料水を浮かべ、貴族らしくない行儀悪く手を使わずに食べる。この様子は、生前の彼が貴族であると聞かされていた宇宙軍の将校等は驚かせた。
「あれ、本当に貴族?」
一人の女将校が無重力の反動を利用して菓子を食べたり、飲料水を飲むキッテルに、隣の同僚に本当に貴族なのかと問えば、その同僚は両手を挙げて分からないと無言で答えた。
数時間後、輸送艦は作戦地域へと到着し、宇宙空母赤城とドッキングする。キッテルも直ぐに宇宙空母へ連絡路を使って移動し、これから戦う敵のことについて調べるべく、資料室に向かう。
地上でいつも着ていた
通路を無重力の反動を利用して進み、資料室に辿り着けば、そこからこれから戦う惑星同盟軍に対しての資料を取り出し、敵に対する研究を始める。
惑星同盟。
正式名称は自由惑星解放同盟であり、敵方である統合連邦と同じく巨大な同盟勢力である。主に連邦の植民地政策に対する反抗や独立を果たすべく、各勢力が合流して同盟を結んだ。当初は連邦に対する独立同盟であったが、次第に目標は連邦との覇権争いに代わり、終いには連邦と殆ど変わらぬ巨大勢力と化した。
連邦軍と同じく圧倒的な物量を誇るが、違う思想の巨大な連合体であるため、連携はお粗末で連邦軍とそう変わりない。
「ふむ。違いは異星人との連合体で、連邦と大して変わりないか」
資料を呼んで惑星同盟軍が連邦軍とそう変わりないと分かれば、その資料を元の棚に戻した。
艦内で同盟宇宙軍の艦隊の迎撃に対するブリーフィングを知らせるアナウンスが聞こえたので、キッテルは胸元にライセンス持ちであることを証明するバッチを付け、ブリーフィングルームへ向かう。この辺りは重力区画なのか、浮遊できなかった。*7
「おや、ライセンス持ちも参加されるので?」
「あぁ、自由だからな」
一人のパイロットがバッチを見て言えば、キッテルは答えてから壁にもたれ掛かり、ブリーフィングを聞く。
内容は同盟軍の宇宙艦隊の迎撃であるらしく、この機動艦隊のみで迎撃作戦を行うようだ。既に偵察が行われ、敵艦隊の数は把握されている。艦載機の方は不明のままだが。
対艦装備を施した攻撃機で待ち伏せをするべく、このブリーフィングルームに集まっているパイロット達は、敵艦隊の注意を攻撃機隊から注意を逸らすための戦闘機隊のようだ。
前世で対艦戦闘を行ったことがあるキッテルは、初の宇宙戦での艦隊戦はどうなのか知りたいと思い、この戦闘に参加した。
ブリーフィングを重要な部分だけ聞いて、ある程度を聞き流していく中、伝える事を全て言い終えたのか、作戦参謀はブリーフィングの終了を宣言する。
「では、ブリーフィングを終える。各員、出撃まで待機せよ」
ブリーフィングが終われば、敵艦隊の攻撃を引き付ける囮役のパイロット達は次々と出て行く。
キッテルもその隊列に加わり、出撃の準備を済ませるために自分のパイロットスーツを収めてあるアタッシュケースを取りに行き、それを受け取れば更衣室へと向かう。
更衣室へと着けば、パイロットスーツを身に着け、格納庫へと向かって機体を確認する。
「ライセンス持ち殿、機体は地上で乗っていた物ですか? それとも、宙戦用の機体で?」
「手際が良いな。宇宙戦用のはなんだ?」
「VF-25メサイアです。宙域戦ではVF-31よりは分があります。隊長機向けのS型のチューン機を用意しました」
整備長にどんな機体に乗るかどうかを問われれば、ニコはどれが宇宙用のバルキリーはどんな物かを問う。
これに整備長は、宇宙においてはVF-25メサイアを手をかざしながら勧める。
VF-25メサイアはVF-31ジークフリードより前のバルキリーであり、旧式の類に入るも、希少素材を使った事もあってか、水準はジークフリードよりも劣らない。火力面においては、VF-31のクロースカップルドデルタ翼のカイロスより劣るが。
ここワルキューレにおいては、別の素材を使って生産性の低さを解消したが、操作性は落ちてしまい、並のパイロットでは扱えぬ機体となった。*8
だが戦闘力は高いので、乗り易くなったVF-31AやC、VF-2を初めとする後継機が出ても、乗り慣れたパイロット達からの要望もあって現役である。
乗りこなせるパイロットが余り多くない事から、余分な機体は連邦軍や同盟軍に対するゲリラ活動を行う有効な抵抗組織に提供されている。
大気圏内においては地上攻撃機パックで高い空戦性能を殺されていたVF-25を見たことがあるキッテルだが、真価を発揮でき、なおかつ乗れることもあってか、迷わずVF-25Sに乗りたいと整備長に告げる。
「ほぅ。では、真価を肌で感じよう」
「了解しました。直ちに、ジークフリードのデータをあっちに移しますので。暫し待ってください」
VF-25Sに乗ると言えば、整備長はVF-31Sのパイロットデータを入れる為、直ちに整備に取り掛かった。整備は数分で終わり、後は慣れる様にVF-25の慣熟飛行を行うだけだ。
「では、試し乗りをする」
「はい、作戦開始までには帰ってきてください」
「時間通りには戻って来るさ」
慣熟飛行訓練の許可が管制官から降りれば、直ぐにニコはVF-25Sに乗り込んで赤城から発艦しようとした。その前に整備長から作戦開始前には戻ってくるように釘を刺されれば、必ず戻ると答えてキャノピーを閉め、真空の宇宙に出て慣熟飛行訓練を行う。
操作性はVF-31Sと違うが、英霊であり大戦期で祖国を勝利に導いたパイロットであるキッテルは、一時間ほどの慣熟飛行で無重力も含めてVF-25Sを物にしてしまった。
「おや、早いご帰還ですね。何か不備でも?」
「無いさ。これで初の宇宙戦闘も生き残れるな」
「満足いただけで光栄です。では、さっそく整備と補給に入ります!」
作戦開始よりも五十分も早く空母赤城に戻れば、整備長に乗り心地を問われれば、これなら宇宙における戦闘も十分にやれると満足げに答えた。答えを聞いた整備長は喜び、機体の整備と補給に勤しんだ。
『作戦開始! パイロットは直ちに機体に搭乗し、発艦せよ!』
それから五十分後、作戦開始時刻となればアナウンスが鳴り響き、パイロット達は一斉に自分の機体へと乗り込む。計器を操作して機体を起動させる。キッテルも機体に飛び乗り、計器を作動させてキャノピーを閉めれば、ヘルメットを被って機体が飛行甲板まで出るのを待つ。
飛行甲板まで上がると、甲板作業員が機体のランディングギアをカタパルトに固定しているのが見える。同型機やVF-31A、VF-2SSバルキリーⅡも同様だ。
他の甲板に上がった機体も同様にランディングギアをカタパルトに固定されており、ちゃんと固定が確認されれば、作業員は管制官に合図を送る。
『第一戦闘機隊、順次発艦』
合図を確認した管制官は、第一波の戦闘機隊に発艦の許可を出す。
これに合わせ、カタパルトに固定されていた各バルキリー隊は続々とエンジンを吹かせ、打ち出されたカタパルトの勢いで飛行甲板から宇宙へと飛んで行く。
次々とバルキリーが発艦していく中、戻って来たカタパルトには後続のバルキリーのランディングギアが固定される。キッテルの出番はまだのようだ。
待っている間に計器の確認を済ませ、出撃前に装着されたアーマードパックの兵装も問題ない事が確認されれば、遂に彼のVF-25Sの出番が来た。
「そう言えば、空母から飛ぶのは初めてだな」
生涯、航空母艦から一度も飛ぶことが無かったニコは、初の飛行甲板からの発艦に少々興奮した。
一時間ほど前にこの空母から出たことがあるが、飛行甲板は使わせて貰えず、アームで宇宙に出された。戻って来た時は機体をバトロイド形態に変形させ、元のハンガーへ戻ったのだ。
こうして正式に飛行甲板からカタパルトで打ち出されるのは、キッテルに取って初の経験である。
「凄まじいGが掛かりそうだな」
カタパルトで打ち出されるバルキリーを見て、ニコは凄い勢いが身体を襲うと思った。出番が来れば、無線機より管制官からの発艦許可が出る。
『クロウ〇一、進路クリア。発艦せよ!』
「了解! エンジンスタート! うぅっ!?」
発艦許可が出れば、一気にエンジンを吹かせて機体を前進させる。それと同時にカタパルトも勢いよく前進し、キッテルの身体を衝撃が襲う。
凄まじい衝撃が数秒ほど身体に掛かる中、機体のランディングギアはカタパルトから解放され、機体の制御が自由になる。直ぐにキッテルは操縦桿を操作して姿勢を安定させ、先に編隊を組んでいるスーパーアームドパックを装備したVF-2SSの大隊を見付け、後を追った。
機器を操作して自動操縦に切り替え、ヘルメットのバイザーを開いて大きく息を吐いた後、初の空母からの発艦に驚きの声を上げる。
「…凄い衝撃だな。海軍の艦上機のパイロットは、発艦する度に受けているのか」
艦上航空機のパイロット達が発艦する度に受ける負担に、海軍に転属しなくて良かったと思いながらシリアルバーを取り出して頬張る。
それからは迎撃ポイントに着くまで、キャノピー越しから見えるデブリか星しか見えない宇宙空間を楽しんだ。
メインとなる艦隊戦と言うか、キッテルによる同盟軍艦隊殲滅は、次回となります。