デート・ア・ライブII 一宮スタート   作:綾風 零華

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この話は、第2話 「再来するかつての脅威」の次話となります。




第3話 「叛威霊装i1・バチカル」

「無神論のバチカル……対応する天使は悪魔(サタン)…」

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 琴里は息を呑んだ。何故なら、その名前は十香達、精霊が持つセフィラ(霊結晶)があるとされるセフィロトの樹の下側に存在し、セフィロトの樹とは全く逆の性質を持つとされる、クリフォトの樹に出てくる名前そのものだったからだ。

 

 「これなら、この観測不可能な霊力にも納得がいくわ。でも…十香の反転体でも強力な力を持っていたのに、顕現時から反転体となると話は別ね…」

 

そう。精霊は深い絶望に落ちた時、霊結晶の反転という現象が発生し、姿、人格、天使等のあらゆるものが変化する。記憶に関しては、反転前の記憶は全て忘れてしまう為、対処が難しい。

 

今までの反転現象は反転前の状態から、深い絶望に落ちてからのものだった為、比較的対処しやすかったが、今回は現界時から反転状態という極めて異例な状態での現界だった為、対処法が無いのが現実。

 

因みに、精霊は元々、反転している状態が普通だったらしいが、始原の精霊である崇宮澪が今の状態へと変化させたという。

 

琴里は観測結果や今までの自身の経験から一時的であれ、あの精霊から逃げる策を思案するが、必ず超えなければならないの大きな壁にぶつかってしまう。

 

 それが、「精霊化不可現象」と呼ばれるものだった。十香を含め10人の精霊達は、始原の精霊との決戦の後、全員が突如として精霊化出来なくなってしまっていた。それ以降の再検査で霊力もセフィラも一応、微量ながら残っている事が確認されたがセフィラ(霊結晶)は本来の機能を失っている状態だった。

 

 「こんな状態で反転精霊と出くわしたら、士道も十香達も為す術なくやられてしまうわ…何としてでも、失われた本来の機能を取り戻さないと。」

 

 琴里は唇を噛んでモニターに映る謎の反転精霊を見つめる。

 

 「本来の機能が失われているなら、それを思い出させればいいのでは?」

 

 エレンがコンソールを触りながらそう言葉を発する。確かに、「思い出させる」それが出来ればどれだけ良かったことだろうか、しかし、琴里は口調を少し強め反論する。

 

 「思い出させる……でもその為にはあの精霊と対峙する必要があるのよ!?タイミングを1歩でも間違えば死んでしまうかもしれない危険な行為なのに!!」

 

エレンはため息を付いてから、精霊化出来ない事への焦りが見え始めている琴里にほぼ答えとも言える言葉を発する。

 

 「私は別に"必ず対峙しなければならない"なんて言ってはいませんよ?その光景を見ればいい、貴方たちが散々みてきた最悪の現実と向き合えば良いだけです。それに……もう、五河士道と彼女達は気づいてるようですよ?五河琴里…。」

 

 エレンはとある場所の監視カメラを中央の大型モニターに映す。そこには、最悪な現実を突きつけられながらも力強く立つ士道と数名の精霊の姿が映っていた。

 

 「………士道、貴方は本当に変わらないわね…どんな状況でも精霊を助け出そうとするその意思、忘れていたわ。」

 

 琴里は息と気持ちを整え、髪留めに使っている黒リボンも結び直し、チュッパチャプスを口にくわえる。そこには、かつてフラクシナスと多くの仲間と共に精霊を救い続けた五河琴里の姿があった。

 

 「さぁ、"私達のデート(戦争)"を始めましょう!!」

 

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 どれほど時間がたっただろうか。ふと、自分の足場は酷く崩れ落ちていた。否、崩れ落ちたというより陥没と表現する方が正しいだろうか。

 

大きさとして直径二キロというところだった。周りには崩れた建造物等が多く見受けられた。少女は陥没した地面を歩きながら、広範囲に渡り更地と化した天宮市を見つめた。

 

 「ここが…人の住む世界…この酷く醜い、世界に取り込まれた精霊が…私の大切なものを奪い去った……。見つけ出して、私の手で葬り去ってやる!!」

 

少女は澄み切った青空を見上げながら絶望、怒り、憎悪と言ったあらゆる感情に心が塗り潰されていく。普通ならこんな快晴の空を見れば心が晴れていく筈だが、逆に心が塗りつぶされていく。

 

それだけ、私は怒っているのだ、私はあの精霊を憎んでいるのだ、と簡単な答えを導き出し、自身の心に言い聞かせる。

 

しかし、悪い気分には一向にならない。寧ろ、心が穏やかになっていく。何故なら"あの精霊"に「怒りに任せて力を振るえばいい」と言われてしまったからだ。そう言われてしまったら断る理由も少女には無かった。

 

"あの精霊にあの約束を守ってもらう為にも"

 

少女は自身の身長を優に超える大剣型の天使を顕現させ、左足を少し前に出し、大剣をもった両手と共に身体を大きく右に捻る。

 

そして、少女は数秒の瞑想の後、大剣を右から左に力強く薙ぎ払う。すると霊力が大きな衝撃波となり、ギリギリ空間震からの被害を免れた場所を直撃する。

 

衝撃波をモロにくらった場所は一瞬で更地と化し、つい数時間前まで人が住んでいたとは思えない程、悲惨な状況になってしまった。

 

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 「なんだよ。これ……これじゃまるで、生き地獄じゃないか。」

 

 士道は突然起きた出来事に理解が追いつかなかった。天宮市の半分が突然の空間震で更地になったと思いきや、中央には大きなクレーターと一人の少女が立っていたのだ。それを理解しろと言われても、すぐには理解できるわけがない。

 

「まるで平和ボケしたこの街への鉄槌ですわね。精霊という脅威が去ったことで警戒心が無くなり、薄れたこの街へ対する警告なのかもしれませんわね。"まだ驚異は存在する"…"現実から目を逸らすな"と言わんばかりではありませんか。」

 

狂三は謎の精霊から襲撃を受け続ける天宮市を見つめながらそう呟いた。確かに狂三の言うことも正しい、つい数年前まで精霊という驚異がこの街を襲っていた。それに対抗する為にASTの発足や都市開発の一環として避難用シェルターの設置が行われてきたが、あの日、士道と精霊たちは始原の精霊"崇宮澪"と激しい戦闘を繰り広げ、勝利した。

 

それから、精霊の出現やそれに伴う空間震の発生は無くなったが、それをいい事に政府は天宮市に整備された全避難用シェルターの廃止、ASTの解体を指示した。

当然ながら、一部の市民は反対をしたがその願いが叶うことは無かった。

 

その結果がこれだ。街は再び世界を殺すと恐れられた災厄に蹂躙され、人々に訪れた平和は一瞬で砕かれた。否、砕かれたと言うより"消し去られた"の方が正しいだろうか。暴虐な迄の一撃、それは街を破壊するどころか建物ひとつ残らない更地へと変えてしまったのだから。

 

「シドー、私達は何もできないのか…?」

 

十香が希望を消しさられ絶望した人々のような弱々しい声を出す。それもそのはず、つい先程までそこには街が確かにあった。だが、その見慣れた街がたった一人の少女に跡形もなく消し去られたのだ。

 

「一体どうすれば……あの精霊を止めようにも、十香達は精霊化出来ない状況にあるというのに…」

 

士道は尚も更地と化した街に佇む少女を見て拳を握った。しかし、士道は止める以外にももう1つの考えを持っていた。それが接吻(キス)による霊力の封印だった。士道の身体には、接吻(キス)をする事により精霊の持つ、霊力を封印できる力があった。

 

士道はこの最悪な状況でもあの精霊を救おうと考えていた。その考えを察知したのか狂三は口を開く

 

「ふふっ、こんな時でもあの精霊を倒すのではなく救おうとするその意思…実に素晴らしいですわ。なら、私から先陣を切らせてもらいますわね。八舞さんと折紙さんは私の後に続いてくださいまし。」

 

狂三はそう言うと手に持っていた荷物を士道に預けると目を瞑る。そして静かに右手を空高く伸ばし静止する。

 

「狂三……」

 

士道にはこの行動の全てが理解出来なかった。この最悪な状況の中、狂三は右手を上げ静かに迷走し続けている。

 

そして、次の瞬間。狂三の口から聞きなれたあの言葉が発せされる

 

「さぁさぁ!!おいでなさいまし!!再び貴方の力が必要となりましたわよ!!刻々帝!!(ザフキエル)」

 

刻々帝(ザフキエル)、それは狂三が顕現させる最凶最悪の天使。時間を操るその天使には幾度となく襲われ、そして助けられた。狂三はその強力無慈悲な天使を再び顕現させたのだった。

 

「きっひひひひひ。さぁさぁ、刻々帝(ザフキエル)!!私達のデート(戦争)を始めましょう!!一の弾!!(アレフ)」

 

狂三は背後に出現した大きな時計のIから霊力を取り出し短銃へ取り込ませ、自身のこめかみを撃ち抜いた。その刹那、狂三は一瞬にして未知の精霊の上空に瞬間移動し攻撃を仕掛けた。

 

「あの動き、一の弾(アレフ)か!?」

 

士道は驚きを隠せなかった。狂三は精霊化不可現象の中で天使を顕現させ本来の力で未知の精霊と対等に渡り合っていたからだ。

 

「貴様は…"旧型の精霊"か」

 

未知の精霊は口を開くと狂三の攻撃をいとも容易くはじき返す。

 

「きっひひひひひ、旧型の精霊?それは私たちの事ですの?もし、そうなら…あなた達は新型の精霊とでも呼べばいいでしょうか!!」

 

狂三と新型と呼ばれる精霊が戦っている中、折紙も狂三と同じ動作をしあの言葉を発する。

 

「士道や、精霊達の為にもう一度力を……お願い。神威霊装・一番(エヘイエー)!!」

 

すると、狂三と同じように折紙も精霊化し本来の姿を取り戻す。折紙の顕現する天使は絶滅天使(メタトロン)と呼ばれており、複数の形態を駆使しながら攻撃を行える万能型の天使である。

 

そして、折紙も戦闘に加わり戦局は有利になると思われたが、新型の精霊は今までと変わらず攻撃を避けつつ、強力な技を繰り出していた。

 

「折紙さん、わたくしが敵の動きを止めます。そのうちに冠砲(アーティリフ)の準備を!!」

 

「分かった…。後は任せる」

 

狂三が珍しく指揮を取りつつ新型精霊の動きを間一髪で交わし続ける。そして、ある程度距離を取ったところで刻々帝(ザフキエル)が登場する。

 

「刻々帝(ザフキエル)二の弾(ベート)」

 

狂三はIIの文字から霊力をを吸収し、短銃に込めて敵精霊に向けて発泡し、動きを止めた。

 

「今ですわよ!!折紙さん!!」

 

狂三は上空で待機する折紙に指示を送りその場から離脱する。これも全て狂三の作戦であり、互いに動いている状態では勝ち目は無いため、どうしても敵精霊を足止めする必要があった。

 

そしてその足止めしている最中に折紙の天使が持つ複数形態のうちの一つである冠砲(アーティリフ)で退散に追い込む作戦である。

 

「絶滅天使(メタトロン)…冠砲(アーティリフ)!!」

 

折紙が二の弾(ベート)を撃ち込まれ動きが制限されている敵精霊に向けて、冠砲(アーティリフ)を発射し直撃させる。そのほんのコンマ1秒前に、弾の効果が切れた為、強力無慈悲な攻撃をモロに食らった…はずたった。

 

しかし、敵精霊は強力無慈悲な攻撃を食らったのにも関わらず霊装に傷1つ付いていなかった。

 

「あらあら………タイミングもバッチリだったはずでしたのに」

 

「確かに直撃させたはず、どうして傷一つ付いていないの」

 

狂三と折紙は驚きを隠せずにいた。強力な力をものともせずに、敵精霊はその場にたち続けているのだ。

 

「颶風騎士(ラファエル)縛める者(エル・ナハシュ)!!」

 

するとその声に合わせてペンデュラム状の天使が敵精霊を拘束し、再度、敵精霊の動きを完全に止めてしまった。

 

「成功。何とか間に合いましたね。」

 

颶風騎士(ラファエル)締める者(エル・ナハシュ)。その天使は八舞夕弦が顕現させるペンデュラム状の天使であり、天を駆ける者(エル・カナフ)を発動する際は弦の役割を果たす。

 

「マスター折紙、時崎狂三…ご無事ですか?」

 

夕弦は2人を心配して声を掛ける。

 

「私は大丈夫。問題ない」

 

「私もですわ。でも、流石にもう避けきれませんわよ。」

 

2人は苦悶しながらも次の一手を考えていたその時、敵精霊が遂に動き出した。

 

「驚愕。夕弦の締める者(エル・ナハシュ)が通用しません…!!」

 

敵精霊はペンデュラムの先を掴み、士道の真横に居る耶倶矢を目掛けて夕弦を投擲し、2人を一撃で戦闘不能にさせる。

 

「くっ……うぅ……夕弦…」

「驚愕…力が通用…しま…せ……ん」

 

耶倶矢はぶっ飛ばされてきた夕弦を受け止めきれず、近くにある山の中腹に、夕弦は近くの集合住宅にまであの、たった一撃で飛ばされてしまった。

 

「耶倶矢!!夕弦!! くそっ!!」

 

士道は苦悶の表情を浮かべながらも目の前で起きている戦闘から顔を背けることはしなかった。

 

「さぁ…残りはお前たちだけだ。どうする。大人しく降参するか?」

 

敵精霊は狂三と折紙に少しづつ近づきながら、そう言葉を投げかける。

 

「降参…ですか。きっひひひひひ、この私が簡単に降参するとでも思っていますの?」

 

「降参なんてしない、士道や、精霊たちの為にも…!!」

 

敵精霊はその言葉を聞くと大剣を振り上げ、言葉を発する。

 

「私は叛威霊装i1・バチカルの使い手。そしてこの魔王こそ神絶魔王(イェツェールサタン)である。食らうがいい!!そして絶望と涙でこの世界へ贖罪しろ!!」

 

少女は神絶魔王(イェツェールサタン)を振り下ろし狂三達に強力な一撃を与えようとしたその瞬間。

 

"一人の女王(プリンセス)が大剣を持ってその一撃を相殺した"




第3話 如何でしたでしょうか?デート・ア・ライブ本編では裏方で少しづつ動いていた狂三ですが、今回の世界線では積極的に戦いに行くという狂三にしては珍しい動きを入れてみました。

いやぁ、しかし…あの精霊怖すぎでしょ…(笑)

夕弦の天使を掴んで投げ飛ばすなんて中々のぶっ壊れキャラを作ってしまったなぁと……でも、逆にそれに立ち向かっていく精霊達のカッコよさにも目を通して頂けたらと思います。

それでは、次回 第4話「眠りから覚める女王(プリンセス)」でお会いしましょう。

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