アルヴヘイム・オンライン 紫と灰と銃   作:猫大好き好きくん

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出会い

「はあ…はぁ…はぁ……やっと、倒せた…」

 

ALOをやり始めて約1ヶ月。僕にはまったくセンスがないのか、それとも戦い方が合ってないのか、敵モンスターと全然戦えなかった。でも考えてみれば当たり前な気がする。現実世界(リアル)での僕は推薦で入学する高校の入試がちょうど終わったところだ。それまでの人生で、イノシシ型のモンスターとかゴブリン、コボルトやオークなんて戦ったことも遭遇したことも無いからだ。

 

そんな僕が、何故かポップした中ボス程度の敵エネミーを倒したのだ。回復ポーションと回復結晶、MPを回復させる魔力結晶を全て犠牲にして。その上まあまあ高かった片手剣も欠損した。要するにヒビがはいり使用不可になった。

 

「えっと…………わっ!めっちゃ熟練度上がってんじゃん!」

 

片手剣スキルはもちろん、回復魔法やバフ、デバフスキルが上がっていた。回復魔法なんて、戦いの前は240とかだったのに今は740だ。因みにマックスは1000。だから最後の方めちゃくちゃ発動早かったのね。

 

そしてパッシブスキルも幾つか獲得、発現していた。最大HPアップ中、最大MPアップ大、MP回復速度アップ、物理攻撃耐性大、魔法攻撃耐性中、物理攻撃力大、魔法攻撃力小などなどだ。

 

ステータス画面を覗けば、最大HPと最大MPがかなり増えていた。このゲームにはレベルというものがなく、超沢山あるパッシブスキルによってステータスが上昇する。噂によると、選ばれたプレイヤーにしか発現しないものもあるのだとか。

 

「うーん………やっぱ攻撃速度がめっちゃ高いんだよなぁ」

 

パッシブスキルや8つまで設定できるスキルスロットには攻撃速度上昇のものが沢山ある。僕が選んだ種族はレプラコーンというもので、もともと攻撃力は高くないものなのだ。しかしこのレプラコーンという種族、得意スキルは鍛治や鋳造であり器用値であるDEXが異常に高くなっている。僕はあまり鍛治というものに興味が湧かなかったので、そういうスキルは全部捨てて全てバトル系スキルを設定した。そしてDEX補正がある武器を使い手数で攻めるスタイルで敵と戦っていた。しかしこの戦いで気づいた。STR(筋力値)が足りな過ぎると。

 

だから今回発現したパッシブスキルはかなりありがたいのだ。これで少しはちゃんと戦えるかもしれない。そう思うと胸が踊る。

 

「あれ、ドロップアイテムもあるじゃん。『烈重の短剣』と『コテツ』か」

 

コテツは刀武器だ。STRの要求値が低く、それでいてスペックはそこまで低くなく使いやすいので人気がある武器である。しかし烈重の長剣なんて聞いたことがない。1度ストレージにしまい、ステータスを確認すると………絶句した。

 

「は!?なにこのSTR要求値!こんなん絶対届かんでしょ!」

 

恐らく1番STR値に補正が掛かるノームが更にアイテムやスキルを使って底上げして、敵撃破数によるボーナスポイントを全振りしても届くか分からんくらいだ。

 

しかもこれめちゃくちゃ重いからストレージの容量をかなり圧迫する。今はポーションや結晶などの回復アイテムがひとつも残ってないからギリギリ良かったものの、もう少し僕が上手く戦ってたらここで捨てる羽目になってたと思う。

 

「……まぁ、レアアイテムみたいだし持って帰るか。なんか高く売れそうだし」

 

ユルドもかなり落としてくれたし、これを売ればかなりの大金が入ってくるだろうし。取り敢えず今はポーションや結晶を買い足さないと行けないのだ。

 

◆◆◆◆

 

「…………?」

 

拠点としている宿屋に帰る為に空を飛んでいると、1人のプレイヤーが戦闘をしているのが見えた。普段なら無視をするのだが、今日は強敵と戦って大きくレベルアップしたばかり。強い人の動きを見てみないとこのステータスを最大限活用出来ないだろう。それに、あまり強くなさそうなら直ぐに立ち去ればいいだけだし。

 

静かに減速し、そのまま着地して木の影に隠れる。そしてその戦いをじっと見つめる。索敵スキルが自動で発動しズームされる。どうやら戦っているのは女の人のようだ。細めの片手剣を使い、鬼の様な速さで敵モンスターへ斬りつけている。はっきりいってめちゃくちゃ凄い。とても僕には出来ない。間違いなく、上級プレイヤーでありコアプレイヤーだろう。

 

「うわー………あ、なんかこっち来た」

 

敵モンスターの大っきいコボルトが、逃げるようにこっちへ走って来た。その後ろを笑顔を浮かべた先程の人が追いかけている。うわぁ大コボルトかわいそう。

 

「そこの人!そいつを止めてくれないかな!」

 

なんか話しかけてきた。止めてくれないかな?と言われたのだが、戦闘に参加するのは勘弁だ。死んだ時に持ち物の中の何か一つをランダムで落としてしまうし、スキルの熟練度も落ちてしまう。お金も取られるし。まあでも、デバフくらいなら……

 

「は、はい……!」

 

急いで移動速度低下のデバフを掛ける。先程の戦闘でパッシブスキルや熟練度が上がったのか、詠唱速度が上がりデバフの効果を受けるのが早くなった。

 

しかしそれと同時に、大コボルトのヘイトが僕に向いた。手に持つ大きな気の棍棒を振り上げ、叩きつけてきた。バク転をしてなんとか回避すると、地面をへこませる土属性魔法で時間を稼ぐ。

 

そしてもしもの為に先程ドロップした『コテツ』を装備する。刀スキルは取ってないし、鞘も無いので右手にそのまま現れる。だからそのままトドメを刺してくれるとありがたい。

 

「ありがとう、助かるよ!」

 

その少女はそう言うと、片手剣ソードスキル『ヴォーパルストライク』を発動した。ジェットエンジンの様な轟音を響かせ、炎を纏った剣は、大コボルトの腹に直撃、グガァァと断末魔を上げ大量のポリゴンと化した。

 

ふぅ、とため息をついて羽根を展開しスイルベーンに帰ろうとすると、その少女から声を掛けられた。

 

「助けてくれてありがとう!ボクの名前はユウキだよ。君は?」

 

「いえ、当たり前のことですから。それじゃ」

 

少しだけ無視してしまったが、聞こえなかったということにしておこう。まあ当たり前といっても、これくらいしか出来なかったのだし。

 

「ちょちょちょ!ちょっと待ってよ!」

 

なんか止められた。

 

「その、えっと………助けてもらったお礼に、何か奢りたいんだ。だから、名前教えてくれると、ありがたいんだけど………」

 

「…………。いえ、気にしないでください。名前はシルム、種族はレプラコーンです。ユウキさん」

 

なんかちょっと悪いことしちゃった気分。これでいきなりデュエルするよって言われたら終わりだ。ボコボコにされてなにかアイテムひとつ失ってやり直しだろう。あぁ、こんなことになるなら初めからちゃんとしてれば良かった。

 

僕がそう言うと彼女、ユウキはパァと明るくなって言った。

 

「うんっ!よろしくねシルム!ボクは見ての通りインプだよ!」

 

 

 


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