それからリズベットさんとユウキさんは少し話した後、この烈重の短剣をどうするかの話になった。
「売却してお金にするって手段もあるし、頑張って使うってのもある。STR要求値は高すぎるけど、それに届いてなくても使うことが出来ないことは無いからね。でも、オススメはしないかな」
まあそうだろう。重すぎてロクに戦えないだろうし。というか僕短剣使わないんだよなぁ。短剣スキルを1から育てるのもアレだし。しかし片手剣スキルもそこまで育ってはない。可能かどうかならば十分可能だ。
「確かにそうだね。それで倒されてロストする方がやだし」
「そうね。そして、金属の延べ棒にして他の武器に使うって選択肢もある。これは短剣だから、そこまで沢山の金属を使っている訳じゃないから、他の金属と混ぜて合金にすれは、十分他の武器に出来ると思う」
ふーむ………まぁそれが一番いいだろう。となれば軽くて丈夫で、粘り気がある金属じゃないといけない。
「「「ミスリル」」」
3人の声が重なった。ミスリルしかないだろうと思ったからだ。しかしミスリルも、鍛治師からするとレアアイテムであり加工も決して簡単では無いものだ。でも僕が欲しいのは……
「この短剣をオリハルコンの延べ棒に戻して、ミスリルを混ぜてミスリル合金にする。それを僕が鋳造、細工して武器にする………ってところ?」
そう言うと、2人はうんうんと頷いた。合格のようだ。
「自己制作武器ボーナスね………確かに欲しいわね。でもシルムくん、鍛治スキル上げてる?」
リズさんはユウキさんと話す間にめちゃくちゃ仲良くなり、僕のことをシルムくんと呼ぶ。そして僕にもリズと呼べと言った。まあいいのだけど。
「いえ、スロットにも入れてません」
「なっ!」
リズさんは何かを食らったかのように後ろにグワッとなった。別に鍛冶をしないレプラコーンがいてもいいじゃないか。
「………分かったわ。じゃああたしが手伝ってあげる。オリハルコンとミスリルを合金にするのに、スキルレベルは大体750にしたら出来るはずよ。そこからは成功率上昇くらいだから」
鍛治スキルは、1000まで上げるとマスタースミスとなり大きな肩書きになる。とは言っても、成功率100%ではない。もちろん失敗率は少ないが、絶対ではない。メンテナンスでミスることはあるし、武器制作でへんてこりんなものが出来ることもある。
「でも、どんな武器にするの?このまま片手剣でいく?それとも
あぁ、たしかになぁ。でも僕的に、弓みたいな遠距離武器は苦手なイメージがあるんだよなぁ。どっちかというと、片手剣とか刀とかの近距離斬撃武器を使いたい感じがする。
「うーん………まぁ、これまで使ってた片手剣がちょうど壊れたので、ドロップした『コテツ』を使って見ようと思います」
「あら、刀にするの?あれは色々とプレイヤースキルが必要な武器だけど……まぁ、物は試しね。コテツ用の鞘、作ってあげるわ」
「ほ、本当ですか?でもわざわざそこまでは……」
「そこまでっていっても、これから鍛治スキルを一緒に育てていくのよ?どうせ長い付き合いになるんだし、いいでしょう?」
「そ、そうですかね………」
「ん〜……あ!じゃあボクは刀のことを教えてあげるよ!」
ジャンボパフェを食べながら静かに聞いていたユウキさんがいきなり言った。少しだけ耳が痛かったりする。
「え、でもユウキさんは片手剣じゃ……?」
「だーいじょうぶ、一応使えるから。近々裁縫スキルと入れ替える予定だったけど、こっちの方が大事っぽいしね」
「そ、そんな。裁縫スキル入れていいですよ?今日ご飯奢って頂いてるのに、そんなことまで頼めませんし……」
「いやいや!ボクもこの烈重の短剣がどうなるか見たいし、
その使い手がどんなプレイヤーになるのかも気になるし!」
「………じゃあ、お願いしてもいいですか?」
「うんっ!ビシバシ厳しくいくからね!」
ユウキさんはそう言っているが、顔は笑顔で溢れていた。
◆◆◆◆
ユウキさんとは一旦別れて、リズベット武具店に行くことにした。そして取り敢えず、両手剣スキルをスロットから外して鍛治スキルを設定した。もちろん、レベル1からのスタートだ。
「ここが、あたしが経営してるリズベット武具店よ。シルムくんも、武器や防具のメンテが必要なら頼ってね?もちろんお金は貰うけど」
笑いながらそういうリズさん。こっちもタダでやってもらおうなんて思ってないですよ?商売なんですし。
僕達はリズさんの案内に従って武器の工房に入った。中は広々としており、作られた剣が沢山飾られている。中には、とても売れないような性能のものもあるみたいだが、まぁ思い出かなにかだろう。
「じゃあ、早速やっていきましょうか」
「は、はい。よろしくおねがいします……!」
「あははっ、そんなに固くならなくていいわよ。鍛治は料理と同じく積み重ねが大切なの。訓練用の鉱石をあげるから、レベル300くらいまではこれを繰り返して慣れるわよ」
と言ってリズさんは台に沢山の訓練用鉱石を実体化させた。おおよそ洞窟の壁に使われてるやつだろう。でもこれ普通にお金かかってるからなぁ。後で払お。
「まず、これを炉にいれて熱するの。真っ赤になってこれ以上赤くならなければもう大丈夫よ。でも、早すぎたら上手くできないから気をつけて」
手渡しされた炭ばさみみたいなもので鉱石を掴み炉に入れた。赤く熱されて行くのを眺めながら、その時を待つ。
〜〜〜〜〜〜約十分後〜〜〜〜〜〜
表面が全て赤くなったのを確認して、大っきいはさみでつかみ金床へ置く。そしてまた渡された初級ハンマーを、真っ赤な鉱石へ力いっぱい打ち付けた。
「お、おぉ……!」
打ち付けられた鉱石は、ハンマーの形に沿って薄く伸びた。それに感動し、何度も夢中でハンマーを打ち付ける。
ALO内の鍛治はかなり単純化されており、設定された回数を適切なハンマーで叩けば形が形成される。それが良い性能になるか悪い性能になるかは完全にランダムだが、強く気持ちを込めて叩けば、何かが変わるような気がする。
そして規定の回数を叩き終わると、鉱石は形を変えて片手剣の形になる。頑丈そうな形だが、硬いだけでとても脆い。石などの固いものに打ち付けたら粉々になるだろう。タップしてステータスを確認すると、やはり耐久値はとても低い。
「うん!初めてにしては上出来よ!あとはこれを何十回も繰り返すのよ。鍛治で大切なのは根気!忘れないでよ!」
そう言ってリズさんは店の方に行った。なにやら納品の仕事があるようだ。忙しそう。
「………意外と楽しいんだよねこれ。もっかいやろ」
〜〜〜〜〜数時間後〜〜〜〜〜
「ごめんごめん!遅くなっちゃっ………って、えぇ!?」
リズさんの目の前には、大量の片手剣がある。全て酷い出来だが、手を抜いた剣は1本もないはずだ。全て気を抜かず真剣にやったのだから。
「ちょ、シルムくん!この短時間でこんなに打ったの?」
「え、えぇまあ。鍛治スキルの高速燃焼とハンマーを打つやつをDEX全開でやりました。それとスキルが早く上がるのは、獲得経験値増大スキルをかなり上げてるからです」
「え、あれって職人スキルにも適用されるんだ……」