やっとの事で防具を完成させて、着てみた。一旦ストレージにしまうと、サイズが自分のアバターに合わせて自動調節されるので、非常に楽だ。現実にもストレージっちゅうの欲しい。
「………どうなんこれ」
鏡の前に立ち自分を眺めてみると、よく分からんことになってる。上下灰色のコートとズボンを穿いてフードを被り、腰のベルトにカタナを差している。ただ、コートに着いてる胸当てのプレートは非常にカッコイイ。あとこの白い縦線も意外といいと思う。あ、これフード取ればいいんや。
フードを取ると、ややボサボサした薄い灰色のちょっとボサボサした髪の毛に、青色の瞳。顔は、現実の僕と同じように少し童顔だが、まぁブサイクではないと、信じたい。
「おぉ………めっちゃ軽いな」
寧ろ前の装備がちょっと重かったのかもしれん。このコート、レザーコートみたいなもんだが非常に軽く、余裕で走り回れる。しかとズボンにAGIの上昇付与があるので、めっちゃ足速いと思う。
これって思うんだけど、全裸で走った時とこれ着て走った時ってどっちが速いのかな。普通に考えたら全裸の方が速いけど、付与のお陰でこっちの方が速いのかもしれん。
「よーっし、じゃあ続きしよ」
ユウキさんから黒曜石の差し入れがあってつい防具とズボンを作ってしまったが、今は銀の加工中だった。850くらいまでは上げたいね。そしたら直ぐスキルを変えよう。あと採掘も要らんね。壁走りしてみたいし。
◆◆◆◆
「やっほー!また来たよーシルム!」
「あ、ユウキさん。黒曜石ありがとうございます。それを使ってこのコートとズボンを作ることが出来ました」
「おぉー!かっこいいじゃん!しかも強そう!」
かっこいいかはユウキさんの主観だから分からないけど、強いのは確かです。普通に強いですこれ。多分ずっと使えます。あ、強化してないやん。後でしとこ。
「ありがとうございます。これ、めっちゃ強いですよ」
「へぇー!あれ、このプレートのやつ、僕のコレと似てるね」
「え?ほ、ホントですね………いやぁ怖い偶然だ」
怖い偶然である。
「じゃあじゃあ、僕と戦ってみる?」
「……え?戦う?戦うってデュエルってことですか?」
「そうそう!あ、じゃあ戦った後にカタナのコツを教えてあげる!」
む、コツを教えてあげるだと?それはありがたいな………よし。ここは受けよう。どうせこの装備を作った時に50くらいあがっただろうし、加工くらいいつでも出来る。そんなことよりユウキさんだ。
「わ、分かりました……!」
「やった!じゃあどこ行く?アインクラッド?」
「いや……向こうの草原でいいんじゃないですか……?」
アインクラッドとか怖くて無理なんだけど。絶対敵強いじゃん。しかも脱出不可になるとかマジで勘弁だから。絶対行かん!
「分かった!それじゃあれっつごー!」
◆◆◆◆
ユウキさんはALO内で超有名な絶剣。多分何をやっても勝てないと思う。だからせめて………少しでも長く戦おう。
「いやー楽しみだなぁ!絶対に負けないよ、シルム!」
「ぼ、僕も……なんだろ、頑張ります……!」
多分絶対に勝てないんだよなぁ……それにしてもなんでこんなワクワクしてんの?しかも純粋で悪意がないから余計にタチ悪いんだよなぁ。
『デュエルスタート』
デュエル開始を告げるシステム音声が流れる。その音と同時に、ユウキさんはダッシュでこちらに突っ込んでくる。僕も恐さを押し止め、AGIを全開にして突っ込む。ユウキさんもどちらかと言うとアジリティ型の剣士。お互いが出せる最速と最速が衝突し、真ん中で斬り結んだ。
「……っく!ぐぐぐ……!」
「んーっ!いきなり突っ込んで来るとは思わなかったよー!」
なんで話しながらこんなに力を込められるんだよ。しかもこっちは両手だよ!?規格外だなこの人………末恐ろしいわ。
「でも……やぁぁ!」
いきなり押し込まれて後ろに下がる。追撃するユウキさん。高く素早く振り上げられた細い片手剣は、僕の頭へ向けて高速で振り下ろされる。
「……ッ!」
仕方ないと妥協した僕は、体を僅かに左へ倒す。それにより、ユウキさんの持つ剣は左肩にあるプロテクターに当たる。しかし
「わぁぁ………よく出来たねそんなこと」
「まぁ……避けきれないかなぁと思いまして」
アレで無理やり体を下げたりもっと倒したりしてたら左腕を肩ごと落とされていただろう。それじゃもうカタナは使えないので、何とか阻止しなくてはいけなかった。
「よし………ふっ!」
刀を左腰に構え、カタナソードスキルの『絶空』を発動する。モーションをとり、刀を強く振り抜く。ユウキさんも片手剣ソードスキルの『スラント』を発動させ迎撃する。刀と片手剣が衝突し、拮抗状態に陥ってしまう。ソードスキルはシステムのアシストを受けているので、剣があまりにも逸れてしまうと強制的に終了してしまう。そしたら押し負けて倒されてしまう。
「ぐっ……!」
「やるねーシルム!でもまだまだだよっ!」
ユウキさんは、一瞬で発動を止めて僕の右脇を通り後ろへ抜ける。慌てて振り向くと、ソードスキル『ホリゾンタル』を発動して剣が迫ってきていた。
「っ!ぐぅっ!」
後ろに体重を掛けて倒れ込んだお陰でクリティカルヒットは逃れたが、少なくないダメージが入る。約二割は削られてしまった。
「ふぅ………ッ!」
立ち上がり、『緋扇』を発動する。上下攻撃の後に突きの攻撃をする三連撃技だ。
「やぁぁぁあ!」
ユウキさんは剣で防ぐが、ダメージは入る。しかしまだダメージはグリーンゾーンだ。そして最後の突き攻撃。ユウキさんは、これを待っていたかのように、同じタイミングで『スラント』を発動。ダメージを喰らってよろけてしまい、ソードスキルが強制終了する。
(つ、強すぎるでしょ……!)
多分この人は、全ての武器のソードスキルについて知っている。だから完璧なタイミングで『スラント』を発動出来たんだ。やっぱりこの人、伊達じゃない!
「まだまだ行くよぉっ!」
突撃ソードスキル『レイジスパイク』。ギリギリ見える剣先を目で追い、刀を当てて無理やりずらす。しかし彼女は、そのまま一回転しその勢いのまま攻撃してきた。こんどはソードスキルではなく普通の攻撃だ。けど……
「くっぅぅ!」
速い。ソードスキル並に速く攻撃している。避けきれずに、胸当てに攻撃を受けてしまった。このALOというゲーム、ダメージ量が非常にシンプルに決まり、攻撃速度、武器の攻撃力、スキル、防具の性能だけで決められる。全てが揃っていないと高い攻撃は出にくいはずなのに、もう残りHPは半分で、イエローゾーンに入ってしまっていた。
「くそっ………」
レベルが違い過ぎる。ゲーム内の数字ではなく、数字に現れない経験値の方だ。積み重ねた時間も違いすぎる。しかも、僕は戦闘があまり得意ではない。
「だめだめ。そんなSTRを使った攻撃じゃ当たらないよ?シルムの高い所はDEXとAGIでしょ?それを生かさないでどうするのさ」
同じくらいの人にお説教された。しかもゲームないで。DEXやAGIを使うというのは、分かってはいるのだ。でも方法が分からない。僕がやってた剣道じゃ、DEXやAGIなんてものは………
「………ハッ!」
「お?気づいた〜?」
そうだ。考えれば当たり前のことなのに、僕はいつまで剣道やらの昔の記憶に引っ張られていたんだ。
(ここは、現実じゃない!人間が再現不可能な動きだってできる!さっきのユウキさんの様に!ここはALOの中で、仮想世界だ!現実の体を意識してどうする!?人間じゃ出来ないこともできるんだ!)
ならば、剣道のような動きじゃだめだ。もっとスムーズに、もっと速く、もっと強く!目の前のこいつを、殺すつもりでやる!
「ふぅ………っ」
「考えはまとまった?それじゃあ…………いくよっ!」