【ちょこっと短編】緋弾のアリアで推理戦【たぶん続かない】   作:上条信者

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【ちょこっと短編】緋弾のアリアで推理戦【たぶん続かない】

 「なんだって尋問科(ダキュラ)の私がこんなことをせねばならんのだ……」

 「言ってる場合か! くるぞ!!」

 

 武藤の言葉通り、バスの窓から雨のように降り注ぐガラスの破片と細かく続く発砲音。

 ああ、まったく、いつもと違って今日は厄日だ。

 懐からベレッタ90―Twoを取り出しながら愚痴った。

 90―TwoはM92FSの内部構造をそのままに、時代に合わせたカスタマイズを施したベレッタの発展系だ。装弾数もマガジンの改良で17+1発にまで増えている。外観もM92に比べて個人的に好みな現代風のアレンジが施されていた。

 趣味と実用を兼ね合わせた我が相棒には悪いが、私の腕前は精々装弾数の多さに任せて撃ちまくる以外の使用法が無い。

 私にできることはこうして伏せながら打開策を待つことくらいなので、後は荒事専門の彼等に任せるしかなかった。

 だがこうして座っているだけでは暇だ、打開策を模索する武藤に向けて現状を嘆いてみた。

 

 「相手の顔さえ解ればこちらとしてもありがたいんだが」

 「電子音声を使ってる以上、相手は高みの見物でも決め込んでんだろうよ!」

 「ふむ、確かにこのままでは手詰まりだな。中に爆弾が見つからなかった以上車外にくっついているようだ。あのオープンカーをなんとかしない限り探すのは難しい」

 「冷静な解説どーも!」

 「余裕を持て武藤、いい男の条件は余裕と冷静さと情熱だ」

 「お前は余裕在り過ぎだろ!?」

 「戦闘しなくていいなら気楽なものだ。現状打つ手無しだが、奴はどうやら何かを待っている(・・・・・・・)ようだし、それまでは爆破は無かろうよ」

 「はっ!? どういうことだ!?」

 「どいうこともなにも、言ったとおりだよ。バスジャックの犯人が仕込んだ爆弾とやらは随分面倒な造りををしているようだ、速度を落としたら爆発するなんて随分昔の手法だよ。今時解体し辛い爆弾なんてマニアしか使わない、電波を送って遠隔で爆破できる手頃で簡単な爆弾があることだしね。そういう計画性のあって手間を掛けるタイプは一つの強い目的で動いてる」

 「その目的ってのはなんだ!!」

 「私が知るわけ無いだろう、直接本人に聞きたまえ」

 「ここに来てそれかよ!?」

 「だからまぁ……その目的を果たすまで我々は無事さ」

 「……そうだな」

 

 武藤が私の顔を見て挑戦的に笑った。横目で見ると他の生徒達も若干落ち着きを取り戻したらしい。

 おや、測らずも私の暇潰しが役立ったようだ。

 

 「それでは諸君、無しのつぶてだが頑張ってくれたまえ。私は若い身空でバラバラの肉片になるのはごめんだ」

 「お前一言余計だぞ……」

 

 武藤の呆れた声にクツクツと笑いながら私はサイドミラーに映ったオープンカーを見据えた。

 しばらくそちらを観察していたが、座席の方から声を上ったのでそちらを見ると、銃を持った数人が厳しく顔を引き締めていた。

 

 「おい不知火、手伝ってくれ。あの外車を黙らせる!」

 「おやおや、頭の冷えていないのがまだ居たか」

 「俺達は武偵だぞ、このまま引き下がってられるか!」

 「ふむ、それでは具体策は?」

 「この先にはトンネルがある、リモートコントロールも若干のラグが出るはずだ。的もでかい、これなら行ける!」

 

 そう言った生徒の一人の診せた反応から、私は彼がどのような感情を抱いているのか見極めた。ついでに固まっている他の生徒達の様子もすぐさま理解する。

 

 「やめておけ、そんなに自信がないならな」

 「……何?」

 「今右肩を竦めただろ、自信の無い証拠だ。それからそこの2人も、一見冷静に状況を判断しているように見えるが非常に感情的になってる。さっきから鼻息が荒いぞ」

 

 生徒達は顔を顰めて私を見ている。図星を突かれたようだ。

 私は動じた様子を見せずに素気無く自分の考えを伝える。

 

 「警告では奴は私たちに邪魔して欲しくないらしい、何かを待ってるからだ。君ら戦闘職は怪我なんて日常茶判事だろうが、ここには私のようにか弱い女性も多数居る。リスクがでかい状況ではあまり他を危険にさらして欲しくないな」

 「くっ……! わかった……」

 「お利口さん」

 

 ニッコリと笑って見せたが、かの生徒達はさらに顔を歪めた。失礼な奴らめ。

 そうこうしている内にバスはトンネルへと入った。オープンカーは依然としてUZIをこちらに向けたままだ。

 さて、口出しした手前、このまま偉そうに踏ん反り返っているだけというのは体勢が悪い。

 何か討つ手を考えなければな……って、オープンカーがいきなりスピンしながら爆散した。

 一体何だ?故障か?

 腰を上げて車外の様子を確認すると、バスの後ろに一台のバンが走っているのが見えた。増援が来たらしい。

 ……ほう、あの髪の色に小柄な体格、ロンドンに居た神埼・H・アリアか。Sランク武偵の増援とはありがたい。

 内心安堵したものの、バスには依然と爆弾がくっ付いたままだ。こちらの負傷者は抵抗せずに素直に大人しくしていた為少ないが、いつ何時バスごと吹き飛ぶか解ったもんじゃない。

 バスへと乗り移って来た2人組に、手早くこちらの状況を知らせた。

 

 「最初の乱射で軽傷者数名。後は自ら銃弾に向かって行こうとしたのが数名いたが、そこで大人しくしてるよ」

 「解ったわ、キンジ! 私は車外下を調べる、あんたは車内を調べて。もし見つからなくても車外には出ないで」

 「解った」

 

 こちらの報告を聞き素早く行動に移ろうとする彼等に、私はまだ伝えていないことを知り合いのクラスメートの腕を掴んで伝えた。

 

 「遠山、バスの中は全て探したが見つからなかった。奴がこのまま何もしないとも限らない、警戒を頼んで良いかい?」

 「八津貝……お前も居たのか!」

 「君の相談を聞いた次の日にバスジャックとは……私に何か恨みでもあるのか?」

 「俺がそんなこと知るか!」

 「おい! 漫才してる場合か! バスのガソリンが漏れてる! しかもこの先はレインボーブリッジだ、下手すりゃ都心で俺達ドカンだぞ!」

 「なっ!?」

 

 やれやれ、日頃の行いが良いとは言わないが、これはもう何かの呪いとしか思えないな。武偵の宿命かね?私の悪運も打ち止めだな。

 

 「キンジ! あったわ! 火塵式β型のプラスチック爆弾ね、炸薬の容積はパッと見3200㎤くらいある!」

 

 何を目的にしてるか解らんが、犯人は派手な花火がお好みらしい。

 最も、花火は炭酸ストロンチウムなどで色が付くが、こちらは我々の肉片でコーディネートされるようだ。そのまえにバス自体が残っているかどうか微妙だが。

 

 「でも大丈夫! これなら解体できるわ!」

 「本当か! よかった……」

 

 あっという間だな、迅速に自体は改善に向かって行く。

 ……だが、そろそろ奴が何か手を打ってきてもいい頃合いだ。

 どんな手で来る?次善策としてすぐさま用意できるのは、解体される前にリモートで爆発させることだが、その様子は全くない。とすると、犯人は何処か特別な場所で爆破したいのか、元々リモート操作機能が付いていないか……。どちらにせよ、このままの状態で放置することはないはずだ。

 なら、私が考えられる方法は一つ。

 ちょうどその答えも後方から迫って来た。

 

 「遠山、後方からまたオープンカーだ、迎撃を……遠山?」

 

 ふと見回すと遠山が車内に見当たらない。彼の腕前なら問題無く落とせると思ったのだが、何処へ行った?

 ……ふむ、集中すると周りが見えなくなる癖は直して置かないとな。武偵になるなら今日のような状況に陥らないとも限らない。ボーッとしてたら死ぬ。

 

 「この馬鹿! 外に出るなって言ったでしょ! そんな初歩的なことも解らないの!?」

 「なっ……! 何だよその言い方、俺はお前が爆弾を解体している間にこっちを!」

 

 車外から神埼の怒声とキンジの声が聞こえてきた。

 ……ッ!まずい……!後10秒もしない内にこっちに来るぞ!

 窓から屋根へと昇っていく途中の神崎が視界を覆うが、その後方から猛スピードで近づいてくるオープンカーを捉えた。

 

 「神埼、後ろだ!」

 「ッ!?」

 

 私の声に反応し、神崎もオープンカーを認識した。だがこのままでは昇り切ると同時に銃弾がバラ撒かれる。

 ……全く、尋問科(ダキュラ)の仕事じゃなかろうに。一つ貸しだぞ、遠山。

 私は神崎が叫びながら屋根に昇っていくと同時に、手に持っていたP90―Twoを構えた。

 オープンカーの座席からUZIが現れ、照準が上へと向けられる。おそらく標的は遠山か。

 とにかく当たればいい、注意を逸らすことができれば……。

 

 「こっち向け、不格好なドロップヘッド」

 

 引き鉄を引いた。

 掠ってばかりで当たった気がしないが、気にせず銃弾を撃ち続けた。

 UZIの銃口がこちらを向く。それでも銃は構えたまま相対する。

 いくら防弾制服はあっても頭は剥き出しだ、この距離ならサブマシンガンでも十分殺傷範囲内(キルゾーン)の中、凄惨な銃殺死体の出来上がりだ。

 ……ふむ、仲間を庇って殉職……いや、この場合殺害か、まぁ武偵らしい死に方だろうな。まだ私は学生だが、それなりに良い人生だったと思う。

 心残りがあるとすれば……子供、欲しかったかな。

 

 「……ッ!」

 

 静かに眼を瞑った。後から来るだろう痛みを覚悟しながら。

 銃声。思わず恐怖に身を震わせる。

 ……だが、予想した痛みは来なかった。

 

 「……?」

 

 薄目を開けると、オープンカーがスリップしながら爆発するところだった。

 助かった、その事実だけは理解できたので、私は大きく息を吐き出してその場にへたり込んだ。

 トンネルを抜けると、激しい騒音が響いてくる。目を向けるとヘリがバスと水平に飛んでおり、全開になったドアからは、寝そべった誰かがこちらに銃口を向けている。

 

 「あれは……ロボット・レキか」

 

 またもSランク武偵、それも狙撃率99%という嘘のような記録を持った東京武偵校内では最強の狙撃手(スナイパー)だ。

 大判振る舞いだな、これは。Sランクとは何かと縁があるが、こうして実際の事件現場で行動を共にしたことはなかった。ああ、くそっ。もっと良く観察しとけばよかった。

 やがて一発の銃声の後、レインボーブリッジの下から凄まじい水柱が上がった。

 一撃必中(ブルズアイ)……呆れた狙撃技術だな。何だ、彼女は巫女か何か?神様でも宿ってるのか?

 

 ※あながち間違いではない。

 

 何にしても、今回は命を拾ったらしい。

 これで無事今日もベッドで眠れる。夕飯は奮発してカロリーを気にせずマヨネーズカツカレーにしようそうしよう。

 バスが脇に停車し、生徒達から安堵の声が聞こえてきた。

 生徒の群れの中から顔立ちの整ったクラスメートが現れた。

 

 「八津貝さん、大丈夫?」

 「不知火、君は相変わらず女性に優しいな。どうだ?私は料理もできるし掃除も得意だぞ、代わりに君の全てを曝け出して貰うが」

 「遠慮しとくよ、僕には荷が重そうだ」

 「ふん、甲斐性無しめ」

 

 苦笑いで私の軽口を受け流す不知火は、どうやら心配無いと判断したのか他の生徒の様子を見に行った。

 ……バレなかったか、どうしたものかな、この状態は。

 会話の途中で気付いた容態に、私は頭を悩ませた。あまりバレて欲しくない、恥ずかしいし、私のキャラではないだろう。

 

 「八津貝!」

 

 突然大声で呼ばれた。しかもかなり焦っているのか、ドスドスと大きな足音が聞こえてくる。

 遠山だった。それに神崎も一緒だ。ふむ、どうやら無事だったらしい。私の乱射も無駄ではなかったな。

 

 「この馬鹿! 一体何やってんだ!」

 「おいおい、フォローしたのにそれはないだろう? 警戒もせずに車外に飛び出した誰かさんから気を逸らす為に態々……」

 「お前に何かあったらどうするんだ!」

 「その時は一生責任取って貰うさ、乙女の傷はそれほど重いぞ」

 「えっ……お前どこか怪我したのか!?」

 「は? あ、いや、別にそういう訳ではないんだが……」

 

 まずい、からかおうと思ったら藪蛇を突いたようだ。遠山がさらにこちらに近付いてくる。

 む、さっきは誤魔化せたが遠山の注意は私一人に向いてる、そうそう諦めてくれそうにない。

 

 「ちょっと診せてみろ」

 「お、おい、やめろ、私は大丈夫だ」

 

 触診しようとする遠山の手を必死に制するが、そんな私に焦れたのかグッと身体ごとを寄せてきた。

 私はバスの壁を背にして遠山に挟まれ、彼の真剣な顔が目前へと迫って来た。

 

 「本当に大丈夫なのか?」

 「うっ……いや、その……」

 「八津貝」

 「…………が……けた」

 「なんだって?」

 「……腰が抜けた」

 

 しぶしぶ顔を背けながらそう呟くと、遠山は口角を少し上げた。

 くっ……満足したな、こいつ。女を手玉にとって喜ぶとは、流石は天然ジゴロというべきか。

 

 「それならとっとと行くぞ」

 「うわっ!?」

 

 抵抗することもできずに膝裏と肩甲骨辺りに手を差し込み抱きかかえられた。端的に言えばお姫様だっこだ。確かにこの方が安定して運べるが、もう少しTPOを考えて欲しい。

 

 「おい、遠山。恥ずかしいぞ」

 「我慢しろよ、自業自得だろ?」

 「む……命の恩人に対して何たる言い草だ。私が気を引かなければお前か神崎のどちらかが無事では済まなかったぞ」

 「あー……そういや、そうだったな」

 「それなのにお前と言う奴は……」

 「八津貝」

 

 先程からの扱いに不満のあった私がさらにそのことを責めようとすると、遠山が立ち止ってこちらを覗きこみながら言った。

 

 「ありがとう」

 「………………ふん」

 

 結局私は何も言えず、そのまま遠山に救急車まで運ばれた。

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