【ちょこっと短編】緋弾のアリアで推理戦【たぶん続かない】 作:上条信者
「ふむ、真に淑やかとは、想いを添える粋である、か」
「なんだそれ? 誰の言葉だ?」
「私の言葉さ」
武偵校にもそれぞれの専門教科以外にも一般教科が存在し、必然その為の学期試験やテストも存在する。
そんな訳で私は一般教科の勉強として、古典文学の『風姿花伝』を読んでいた。
“秘すれば花、秘せねば花なるべからず”という言葉を聞いたことはあるだろうか?
これは『秘密にするからこそ花なのであり、秘密にしなければ花になることはできない』という、世阿弥の説く能という芸道の根幹を指す言葉として有名だ。
『秘密にする』ことは即ち『嘘』であり、私のような職種を目指す人間は、どうしても好意的な解釈をするのが難しい。
そういう意味で一旦俗世の悪意から離れて、高名な著書を読んで心機一転するのにも役立つだろうという狙いもあった。
『風姿花伝』では、心の奥に潜む本音を現わす表現として“花”がよく登場する。ロマンチックな表現だ。年頃の女子としても非常に共感しやすい。
そして“秘”は昔“祕”と書いた。“示”とは神にまつわることを意味し、“必”とは呪術のことだ。だから神の前において呪術をすることが“秘”の真意だと言える。
神の御前で舞う儀式、そこに籠めた願いのことを、秘した花と呼んだ。
「だからこそ、奥ゆかしさは日本人の美徳だと思わないかな?」
「まぁ、そう言われると確かに……」
「残念なことに、大体の場合は欺瞞や中傷を隠す為の嘘であることが多いのだがね」
「さっきまでの話が台無しだ!」
「裏表がない態度とは、幼稚だけどもそれほど難しいということだよ、遠山」
さて、閑話休題。そろそろ現状の確認と行こうか。
ここは武偵高の生徒が寝泊まりする男子寮、その一室のベランダ、そして遠山の部屋だ。
何故女子生徒である私が男子寮、それも遠山の部屋に居るか? それはさっきからリビングで暴れている袴を来て刀を振り回す少女、星伽白雪にあった。
ルームメイトである彼女が、恐山での合宿を終えて帰ってきた際、私は彼女の顔を見てすぐさま冷や汗が流れた。
緊張に強張ってしわを作っている眉、見開かれた眼、キツく結ばれた僅かに口角の下がった唇。これらの表情をしている奴は、その後何かをやらかす可能性が高いことを私は知っていた。ぶっちゃけ犯罪者の一歩手前の顔だった。
荷物を自分の部屋へ投げ出し、何故か袴に着替えて飛び出して行った同僚を慌てて追いかけてみると、そこは男子寮の遠山の部屋だった。